「蒼海に舵をとれ」トマス・キッドシリーズ二作目。紹介と感想

未開の地

海戦シーンでの幕開け

 開始からすぐに、新たに主人公キッドと、親友レンジが新しく乗る事になったフリゲート艦、アルテミス号と、フランスの船との海戦が勃発。
 敵も味方も、少しのことであっさりと死んでいく戦場。
しかし、キッドはまた、 戦いに勝利するという、喜びを学ぶ。
同時に、自分の中にも潜むような、恐ろしいものに怯えもする。

 とはいえ特に今作、前回に比べ戦闘シーン増量とか、そういう事はない。
派手な海戦シーンは序盤のみである。

国王陛下と王女

 キッドが初めて国王陛下と会ったシーン。
緊張しすぎて何も話せない彼だったが、しかし彼は満足し、幸せいっぱいになる。
何せ、身分も何も関係なく、陸者だった頃の知り合いに、国王陛下に直に自己紹介できた人間なんて、ひとりもいないのだ。

 そしてソフィアという王女とのちょっとしたやりとりにドギマギし、それをレンジに自慢して、からかわれるシーン、けっこう好き。

 その後、王女の名を出され、商売女になびかないよう我慢したけど、あえてそれを伝えないのも、わりと微笑ましい感じ。

妹シシリアとの再会

 悲しいもとても良かった。
停泊していた船に、 突然商売女とも思えぬような女の子が、キッドを訪ねてきて、 好奇の視線を浴びながらも会うと、それは妹だったのである。

 そして家族の近況のこと。
最近、キッドが移った船が、激しい戦闘を行ったと聞いて、心配していることを告げる。
キッドがいなくなってから、戦争の影響もあって、店がうまくいってないことも。

望んでいたはずの帰郷

 苦悩の末に、いったん故郷へと戻った。
そこで訪ねてきたレンジや、元船乗りの男、社交界の貴族達と、紆余曲折あり、また船乗りへと戻る事になったキッド。
いつかきっと、また必要になるかもしれないからと、海兵服を隠し持っていたシシリア。

 その後、妹への手紙の内容がなかなか思いつかないキッド。
「アドバイスしていいかい?」
というレンジに、
「もちろんだとも、アドバイスの一斉射撃を頼む」
と返すキッドが、その後、あまりに詩的な文章のせいで、自分が実は書いてない事がバレるのではないかと、心配するのも含めて、なんか笑える。

シーサーペントとクラーケン。海の怪物

 シーサーペントやクラーケンの噂話が出てくる。
海の怪物シーサーペントの目撃談。正体。クラーケンの能力『海の二大怪物』 そういう海の怪物達の話を、船員仲間達から聞き、真剣にビビるキッド。
クラーケンの方が、より恐ろしい怪物というふうに説明されている。
 その後、なんか普通に海神やら、その奥方やらが出てきて、ファンタジー化したのかと思って、若干ニヤけてしまったし。
まあ夢オチだろうな、と思ってたけど、実は……。
 

インドと中国。哲学者が夢見た理想の文明

 インドに中国が登場するが、レンジが、中国こそ地球上で最大の文明国だと力説するシーンが、結構印象的。
彼曰く、中国という国は、古くから歴史があり、その歴史が今の時代にまで、ちゃんと残って、伝えられてきている。
特に面白いのが、仲間の一人が発した、「そんなすごい国なら、なんで中国は世界を征服しないのか」という質問への答。
レンジは答える。
「彼らは真の文明国として、卑しい行動などは全て軽蔑している。だから世界の政府などから身を引いている。そんなつまらないことに手柄をあげる必要、彼らにはない。むしろ外国人というのは、彼らの文明から隔離されてる状態にあると言ってもいい。真に大切な文明を保つためだ」

 「そんな頭のおかしい奴らくそっくらえだ」
と怒るキッド。
レンジはさらに言う。
「僕は、竜の尻尾を踏むような人間にはなりたくないな」

 レンジは、明らかに中国を勝手に、理想の文明のように考えている。
そんなものがあると信じているわけである。
この時代の知識人には、そういうものがあると信じてた人が、まだ大勢いただろう。

ついに下士官に

 中国はマカオで出会った女性サーラと、短い恋愛劇の後に、 しかし自分は、陸では決して幸せになれないとも感じ、別れたキッド。
 彼は自分の問題に気がいってたので、実はマカオで、11人も船を降りたことに気づかずにいた。
そして人手不足ということもあり、操舵長助手に、つまりはついに下士官に昇進、という不意打ちを受ける。

恋愛と、個々人の思想

 しかしこの話は陸地で、 女性と出会い残るか残らないかという話が続く。
中国を出発してから、今度はフィリピン諸島の方で、原住民の女性と結婚し、自然と暮らしていくんだと、言い出したレンジ。

 さてどうなるかと思いきや、まさかの、である。
そしてヒビがはいってしまった友情。
あまりドロドロしないで、すぐに修復されるのがよかった。
個人的には。本当に仲いいなら、そういうものだと思うし。

海との戦い、自然の脅威がよく描かれた2作目

 とにかくこの第ニ巻は、全編にわたって、生き方や、文明やらの哲学的な面が、一作目よりも強くなっている。
そして、ほぼ終始、船の上での生活ばかり描かれていた一作目に比べ、陸での休暇、それにアジアの様々な国々が、 西洋人の考えていたイメージと共に描かれる。

 また、一作目に比べたら、ちょっとした陰謀めいた話とか、船員同士のイザコザとか、そういう話は薄くなっている。
かわりに、海との戦いというか、自然の脅威というのがよく描かれている。
特に 終盤の急展開。

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