「シャーロック・ホームズの冒険」感想と考察。いくつか初期の傑作

最初の短編集

 小説家コナン・ドイルの、まさに代表シリーズである、シャーロック・ホームズものの、最初の短編集。
この短編集以前のものとしては、二つの長編、「緋色の研究」と「四つの署名」がある。
そういうわけだから、この短編集を1つの作品として考えると、シリーズの3作目にあたる。

 ちなみに僕の所持している翻訳版は、原本から二話少ない。
とりあえずは収められている全10編に関して語りたいと思う。

ボヘミアの醜聞

 普通にこの話にしか登場しないのだけど、なぜかやたらと、ホームズシリーズの重要キャラみたいな感じに扱われたりすることもある、 人気キャラクター、アイリーン・アドラーが出てくる話。

 これまたなぜか、ホームズが唯一愛した女性かのように語られたりすることもあるし、場合によっては二人のロマンスが想定されたりすることもあるが、個人的にはそういう感じのキャラでもないと思う。

 この話の冒頭で、語り部であるワトソンも「それは別に恋愛感情というわけではないだろう」としっかり書いてもいる。
まあワトソンが、親友の真の気持ちを見抜けていなかったというように考える人もいるのかもしれないが、後の作品でホームズ自身が、ワトソン君はむしろ大げさに語る傾向があるというようなことを語っていたりもするから、むしろこれは逆に考えるべきではなかろうか。

 ただ確かに、報酬としてアイリーンの写真を要求したのは、ちょっと思わせぶりか。

 このアイリーン・アドラーというキャラだが、 多くの人にとって、なかなか魅力的なキャラクターであることは間違いないだろう。
彼女はようするに、容姿の美しさに加え、一国の王を平気で脅すようなしたたかな女なのだが、結局ホームズにしてやられそうになりながら、しかしただではやられず、一矢報いるわけである。

 ちょっと興味深いのが、あらゆる人物に関しての、ある程度の概要を記録した、自作の人物百科事典であろうか。
今は、普通に個人が頑張ってこしらえた人物事典などより、普通にネットの方がよっぽど役に立つだろうが、しかし今でも、信頼性の高い情報のみを自分の情報としてオフラインで持っておくという戦法は、結構ありなのでなかろうか。

 それと、ちょっとした犯罪まがいの行為に関して、理由が立派なものなら別に構わんというホームズとワトスン君のスタイルから、作者であるコナン・ドイル自身の道徳感がなんとなく見えるかもしれない。

赤髪組合

 とりあえず依頼人がフリーメーソン会員。
しかし特にそれが物語に関係してくるわけでもなく、フリーメイソンの陰謀論的な話とかは一切語られはしない。
この辺り、当時のイギリスにおいて、フリーメイソンというのがそれほど怪しげな組織でなかったことを思わせる。
そしてワトソン君も別に、フリーメイソンってなにかとか聞いたりしていないから、多分、結構当時は普通に名前が知られていたのだろう。
フリーメーソンのイギリス「フリーメイソン」秘密結社じゃない?職人達から魔術師達となった友愛団体  依頼人から、いろいろと奇妙なその赤髪の組合の話を一通り聞いた後、ホームズとワトソンの二人ともに、話のおかしさに大笑いするシーンなんかは、やっぱり仲良さそうで結構微笑ましい。

 そして、コメディ的な話かと思いきや、事件の全容自体はなかなか真面目なもので、終盤はかなりシリアスな雰囲気。
この緩急がなかなかいい。

花婿失踪事件

 動機は重要だなと思える話。

 犯人は結構な悪党なのだが、しかしちゃんと犯罪人として捕まえれるようなことをしたわけではないため、残念がるホームズが結構印象的。
結構本気で怒った感じで脅かしてやったりした後に、「ああいうのは、悪事の悪事を重ねた上で、最後には取り返しのつかないような、死刑ものの行為に走るようなやつだ」と述べたりしている。

 この短編集は結構、ホームズが哀れな動機の犯人に同情したりする 話があるのだが、この話は全くの逆といえよう。

 もしかしたらドイル自身、法律の不完全性と言うか、社会における放置された悪という問題に、結構悩んでいたりしたのかもしれない。

ボスコム谷の惨劇

 個人的には結構好きな話。
個人的に好きなキャラでもあるレストレード警部も出てくる。

 このレストレードは、毎回無能ぶりを晒して、ホームズにバカにされる道化的な役割なのだが、なんだかんだ結構正義感は強い人。
例えば、この話でもそうであるように、助けを求める人を(結局動かぬ証拠と思われるもののために疑いはするんだけど)しっかり助けようとしたり、いい人なんだよね。
なんだかんだ自分の手には負えないとホームズに助けを求めたのも彼だし。

 ただ、自分で応援を求めておいて、ホームズの傲慢な態度に対抗心を抱いたりする、ちょっとばかり大人になりきれない感じのところが、彼の魅力である。
しかし「いよいよ十八番の推理が始まりましたぜ」などと言って、ワトソンにウィンクするシーンとかは、お前ほんとはホームズのこと好きだろ、とツッコみたくなる。

 犯人の事情を知って、ホームズはその気持ちを汲もうとするが、どんな事情があろうと殺しはダメなのかどうか。
ちょっと考えさせられたりするかもしれない。

オレンジの種五つ

 とりあえず「僕は君の他に友達は一人もいない」というワトソンのセリフになんか笑う。

 いろいろ興味深くで面白い話と思う。
怪奇的な演出で、ちょっと、物語に入り込みやすい人にとっては、真剣に怖い話になるかもしれない。

 初めて読んだ時、KKKてクー・クラックス・クランなのかな、と思ってたら、まさにそうだった。
どうもフリーメーソンに比べたらマイナーかつ、ちゃんと秘密結社的に描かれている感じである。

 依頼人の結末に、怒りもそうだが、とても悔しさをあらわにする ホームズが印象深い。

 それと、有名な古生物学者であるジョルジュ・キュヴィエ(1769~1832)の名が会話に出てくる。
彼は古生物の歴史好きな人の間では、骨の一部分からその生物を特定することができる人として知られているのだけど、ドイルも知っていたらしい。

唇のねじれた男

 ちょっとトンデモレベルが大きいような気がしないでもない。
ファンからの人気は高いようだけど、個人的にはイマイチな話。

 ホームズの得意技である変装を、特に活かした話でもある。
ホームズがちょっと自嘲的に、医学的見地から自分の弱点だらけというようなことを言ったりしていて、自覚のあることがかなりはっきりする。

青いガーネット

 ホームズが巨大な帽子を見て、脳の容積がでかいだろうから賢い、みたいな感じの推理をするシーンがあるが、これはちょっと興味深いかもしれない。

 話というより、事件自体はまあまあ面白いと思う。

 なんとなく、クリスマスの話が書きたかったのかなって感じ。

まだらの紐

 最初に、70くらいに及ぶ、8年間の記録があるみたいなこと書いてあるが、この70という数は短編長編合わせた、ドイルが書いたホームズの話の数よりも多いので、この時点で、ワトソンが記録した全ての事件が、物語として世に出ているわけではないことがわかる。

 これもファンから人気が高い話で、個人的にも面白いと思う。
コナン・ドイルは専業作家になる前は医者だったというのは有名だけど、その彼だからこそ、医者が殺人鬼になってしまった時の恐怖は結構真に迫ってるかもしれない

花嫁失踪事件

 花婿失踪事件が次になっている。
とかそういうわけではない。

 とりあえずまたレストレードが登場する。
そしてボスコム谷の事件の時以上に対抗心バリバリ。
「努力主義を尊重する」という彼はやっぱいいキャラしてると思う。

 ワトソン君が例えとして、アラビアンナイト(千夜一夜物語?)の魔神(ジン?)を持ち出すが、 当時のイギリスでも結構知名度だったんだろうか。

 また、いつか英国旗と米国旗の混ざった旗を掲げる一大国家が完成するだろうと信じている者がけっこういるかのように書かれているが、いたのだろうか(それとも今もいるのか?)。
ホームズがそういうふうに信じる一人だと、自分で言うのはちょっと興味深い。

ぶな屋敷

 ホームズにとって特別な女性といえば、やっぱりアイリーン・アドラーのイメージだけど、この話に登場するバイオレット・ハンターも、なかなかいい感じの女性キャラだと思う。
ただ、最後は何の関心も持たれてないとはっきり書かれてたりもするわけだけど。

 どことなく、「バスカヴィル家の犬」の前進的な話かな。
微妙だが。

 これもまたちょっと興味深いのが、序盤に、ホームズ自身が、ワトスンが書いている(という設定の)伝記の批判をしているシーンがあったりする。

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