「三体2-暗黒森林」フェルミのパラドックスへの解答。心に隠された計画

戦争の時迫る二つの文明の駆け引き描く第二部

 地球文明と三重連星の星系で生まれた三体文明との関わりを描いた、SF三部作の二部目。

内容的には、前作でその存在が明らかとなった、地球に迫る三体文明と、地球人との駆け引き戦が主に描かれている。
「三体」11次元と三重連星の世界観。粒子コンピューター智子 また、その過程で重要な要素ともなる、フェルミのパラドックス(なぜ銀河の中にたくさんいてもおかしくないような素敵文明が互いをなかなか見つけられないのかの謎)に対する解答例とも言うべき『暗黒森林』の理論などが、物語全体をよく盛り上げる形になっている。
「地球外生物の探査研究」環境依存か、奇跡の技か。生命体の最大の謎  前作から明らかとなっている、 地球の科学発展を止めるための極小コンピューター『智子(ソフォン)』の機能のために、 常に地球のあちこちが監視されている中、唯一の希望が、思考と言葉という概念。
三体人は、脳の思考をそのまま外界に表示するシステムを有しているのである。だから最初は、考えたことを言葉にしてという地球人のコミュニケーションシステム自体が理解しにくかった、というようにも描かれる。
それが鍵となる。智子は、心を読み取ることができないのだ。

 そうして、面壁者と呼ばれる、特別な権限を与えられ、とにかく何らかの方法で三体危機を切り抜ける計画を孤独に巻かせられた者たちを使う、『面壁計画(ウォールフェイサー・プロジェクト)』なるものが発動。
一方で、地球文明を憎み、三体文明を招こうと考えて、それの協力者にもなっている地球三体協会(ETO)は、面壁者の計画を見破り無効化させる、破壁人なる者たちを用意する。

 その四人の面壁者のそれぞれの計画も、重要なガジェットとなる。

暗黒森林とは何か

 ETOの指導者、前作の重要人物でもあるイエ・ウェンジエ(葉文潔)が、 今作の主人公的な存在である天文学者で、面壁者のルオ・ジー(羅輯)に、かつて意味深に伝えていたある情報。しかしその真意が結局最後まで明かされないことは興味深い。
宇宙の星々の文明群、超社会の性質を研究する『宇宙社会学』、その基本的な2つの公理。すなわち「生存は文明の第一欲求である」という第一、「文明は絶えず成長して拡張するが、宇宙における物質の総量は常に一定」という第二。

 基本的な2つの公理は、ほとんどそのまま答に直結していると、最終的には明かされる。
そしてそれを利用した呪文と表現した方法が、ルオ・ジーの対抗策。

 重要なことは、フェルミのパラドックスに対する、この作品なりの答である、暗黒森林の宇宙空間という考え方。
離れたいくつもの星系にいくつもの文明があるとする。しかし(例えば地球のような)いくつもの近しい生態環境が存在するような領域とは違って、離れた星系同士の文明の生物は、文明的思想や基準などが大きく異なっているのが普通となる。
しかも科学技術というのは、時々急激に進歩するから、力関係もその時々で(宇宙的な時間からするとごく短い期間で)簡単に変わりうる。
ようするに、離れた星系文明同士の間では、互いに信用できない状況が必ず形成されてしまう。しかしそうなると、まだ自分が発見されていない状態で、別の三体文明を発見した者たちは、自分たちを確実に守るために、まだ自分たちを発見していない相手を破壊するしかない。
なぜなら、それをほっておくと、今度は自分が見つけられる場合があり、その時に相手の科学技術の方が上である可能性もあるからだ。
そのことを多くの文明はわかっていて、とにかく自分たちの痕跡、明らかに文面の根拠に考えられる強いエネルギーの放出とかを、どの文明もあまり行いたがらない。
そういう理由で、宇宙にはいくつもの知的文明があっても、文明の痕跡はなかなか広まらない。それを発信しないからである。
そして暗黒森林状態が形成されるわけだ。
また、そういうことだから、知的文明の痕跡が見つかると、どこかの高度な知的文明がそれを破壊することは、普通にある。
それが対抗策にもなるわけである。そして地球人類がそのことに気づくことこそ、三体文明の唯一の危惧でもあった。
つまり、自分たちの場所を知らせる準備。宇宙空間の中の自分たちの星系。つまり太陽系の場所を教えることで、そこに迫る三体文明もろとも、他の暗黒森林に潜む狩人文明たちの的になる、ということをしてほしくなければ、交渉に応じろと脅す作戦。
三体人は暗黒森林に気づいていたのだが、地球人は全然気づくことがなかったのは、人類には愛があるからだと作中で推測がある。
それに三体文明のある重要なキャラが、自分たちにも愛がある、と答えるのはとてもいい展開に思う。そう、前作で、地球に危機を伝えた、博愛主義な三体人である。

自爆テロ。太陽系の破壊。精神操作

 ルオ・ジー以外の面壁者たちの計画は、実際のところ失敗するから、本編とはそこまで関係がないのだが、どれもなかなか、SF的に興味深い話である。

 太陽系の水を大量に集めて、それを献上することで、なるべく好条件で降伏する。と思いきや自爆テロ。
太陽系「太陽と太陽系の惑星」特徴。現象。地球との関わり。生命体の可能性  水爆をうまく使い、水星の公転を止め、太陽へと取り込ませ、そこから崩壊の連鎖により、太陽系自体を破滅させる可能性を示唆して、三体文明を脅迫。

 人類の知能レベルを強化する目的で研究していると見せかけて、実は強烈な逃亡主義を生み出す。

 3人全員、地球人が三体文明には勝てないと考えているのが、また面白いところであろう。

言葉を使わないコミュニケーションに関して

 智子に決して理解できないコミュニケーション方法が見つかるなら 、もちろんそれはその監視を逃れるための方法になる。
そういうものがあるのかどうかという話の場面で、 視線や微笑み、表情を使ったコミュニケーション能力を高めることができたら、という発想も出される。

 実際問題、表情のみで完全なコミュニケーションをとるなど、ほとんど不可能なようにも思える。しかし、原始人が初めて言葉を話し始めたときは単純な意味を伝えることしかできなかったはず。鳥の鳴き声よりもシンプルだったかもしれない。だが言語は徐々に複雑さを増していった。
表情によるコミュニケーションも、もっと複雑さを増して、使いやすいものになる可能性も十分に考えられる。加えてそれは、人工知能にも理解させるのが特に難しい領域であるから、その概念の初心者である三体人にも、理解はできないはず、などの理屈は、なかなか説得力がある。
人工知能の基礎「人工知能の基礎知識」ロボットとの違い。基礎理論。思考プロセスの問題点まで機械学習「機械学習とは何か」 簡単に人工知能は作れないのか。学ぶ事の意味

かなり増えた近未来的描写

 前作に比べると近未来の話なので当然であるが、より近未来SF的な描写も多くなっている。

宇宙軍が戦う戦場

 宇宙軍の結成において、海軍の者が多めに集められた理由もなかなか興味深い。
宇宙空間での戦闘は、空中戦というよりも、むしろ海の戦場を、二次元から三次元へ拡張したものに近い。よって海軍を核として宇宙軍が形成される。という訳である。
四次元「四次元空間」イメージ不可能、認識不可能、でも近くにある  また、科学力の発展が制御されてしまっている現状、400年後の戦いにおいても、実際勝利できる見込みなど薄いから、それよりは今の技術でも何とか作れるだろう、逃亡用の宇宙船で逃げたほうがいいという逃亡主義の考え方も広まっている。
三体人もそれに関しては警戒するが、結局のところ倫理の問題などが足かせとなり、すぐには実行されないだろうとETOが伝えたりするのも、面白い流れと思う。

冬眠技術と200年後の世界での戦い

 これは数百年という長いスパンでの、登場人物の再利用を行うためのガジェットであろうが、冬眠技術はすでにかなり実用的になっている。
それと、宇宙船内部に完全に閉鎖された生活環境を作る技術などの実用化も、夢物語ではないはずというように描かれている。
「クライオニクス」冷凍保存された死体は生き返ることができるか  メインキャラ何人かが冬眠技術による眠りから目覚めた、200年後の地球社会に関しては、また相当に夢がある感じである。
現在の情報化社会が、そのままものすごく強化されたみたいな感じになっている。
軍事技術もかなり強化されて、むしろ迫る戦争には普通に勝てるんじゃないか、という楽観主義すら広がっている。
そういう状況で、強力と考えられる宇宙艦隊が、水滴の形をした探査機1つにボコボコにやられてしまう場面などは、なかなかに上手く絶望感が描かれている。
その水滴探査機は、質量的にはそれほど驚愕的なものではないのに、異常なまでに分子群がきっちりとくっつきあっている。ようするに究極的に滑らかの状態で、何より硬いと言えるような物質構造という設定。その原理に関する仮説としては、本来は原子核内でしか効果を発揮しないはずの、強い相互作用のコントロールが推測されている。
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