エレガントな宇宙。時間と空間の正体。隠れていた宇宙「グリーン著作」

ブライアン・グリーンについて

 『超ひも理論(超弦理論)』や『マルチバース(多元宇宙論)』といった、最先端科学の世界観や要素に直に触れる物理学者であり、そうした内容を一般向けに解説するポピュラーサイエンスの語り手としても有名な人。

 難しい内容を丁寧にやさしく解説する人というイメージは特に強いが、そうした解説の後に残っている謎に関して、言葉で哲学的に捉えやすくするのも上手いと思う。彼の本を読んだなら、どこか、深く考えると不気味な宇宙の謎とか、脳裏にこびりついてるかもしれない。

エレガントな宇宙

 超ヒモ理論をテーマにした本。というか、超ヒモ理論とは何か、それがなぜ物理学界に大きな興奮を呼び起こしているのか、今のところの重要な問題点、それが正しいとしたらありえる宇宙の姿。というように、完全に超ヒモ理論関連を、1冊の本で可能なだけ、簡単に説明しようと試みてるだけの本。

 序盤の数章は、必要な最低限の知識として、相対性理論と量子力学に関して、それにそれらを一緒くたに考えた場合の問題点などが説明されている。ようするに物理学に関して完全な素人の読者を想定してもいる。ただ注目すべきは、それらを解説するにあたって利用される、いくつもの比喩表現であろうか。ちょっとクセが強い(とにかくわかりやすく、という他に、他との差別化を考えているような感じもある)。それと、「比喩で説明→(同じことを)普通に説明」みたいな部分がいくつかあり(確かにそうすることで、非常にわかりやすくなっているとも言えるかもだが)、ややくどいと感じるかもしれない。
量子「量子論」波動で揺らぐ現実。プランクからシュレーディンガーへ時空の歪み「特殊相対性理論と一般相対性理論」違いあう感覚で成り立つ宇宙
 この著者自身、超ヒモ理論の研究過程に関わりを持ってる人で、少し、その研究史を語る場面とかでは、自身の経験も語られてたりする。難しいとしても、どうにかそこまでを読んでみた人なら、いくらか、断片的であるとしても、よい答を得る喜びの興奮を共有できるかもしれない。
11次元理論「超ひも理論、超弦理論」11次元宇宙の謎。実証実験はなぜ難しいか。
 この本のように超ヒモ理論のみを扱っている(おまけに、まさしくそれを専門としている人が書いた)一般科学書は珍しいと思う。だから他の本で少し触れられている程度の超ひも理論の様々に関して、より詳しいというのは重要なことと思う。
例えば超ひも理論に関して、今やかなり有名な「11次元時空が必要だ」という話。おそらくそのことを取り入れたフィクションとかでも、11次元というところだけが独り歩きしてる感があるが(例えば11次元空間だったり、3次元以外全てが同じような次元で同じように折り畳まれてたりと、少し妙なイメージがよくある)、実際になぜ11次元が必要なのか、どのような11次元なのか、とういうことが詳しく説明されている。

宇宙を織りなすもの 時間と空間の正体

 テーマが時空に関するあれこれみたいな、ようするに内容の幅が増え、物理学に関連する歴史の話も結構語られる。
始まりはニュートン(Isaac Newton。1643~1727)が行ったというバケツの水の実験から。それが示唆する空間の性質、真空の謎。つまり時空間とは何なのか、どう考えれるか、という本

現代物理学で、特に一般向けでは、奇妙な世界観としてだけよく語られがちな様々なことについて、あらためて疑問を投げかけていくスタイルでもある。宇宙の全物質同士の関わり、 量子論の不確定性とか確率波と呼ばれるもの、 いわゆるEPRパラドックスを解決したとみられるエンタングル状態の2物質の観察実験がまだ残していると思われるいくつかの疑問など。
特に熱力学の第二法則、エントロピー増大の法則に関しては、非常に面白く、しかし背筋が震えるような不気味な考察があったりする。
熱力学エントロピーとは何か。永久機関が不可能な理由。「熱力学三法則」
終盤にはマルチバースに関連する話がいくつか出てくるが、これを執筆中に次の本の内容も考えたのであろうか。それはわからないが、その辺りのことに興味を抱いたなら、次の本がまたおすすめである。

隠れていた宇宙

 個人的にはグリーンの本で1番面白い本だと思う。マルチバースがテーマで、現代物理学がその可能性を示唆している様々なマルチバースという世界観について、とにかく説明していくだけというような本。

特に他の本では(著者は物理学者で、真っ当に実際的な物理の内容ばかり書いてきたから、当たり前と言えば当たり前だが)あまり触れられることのない感じな『宇宙プログラム説』に関する章は、ある意味貴重かもしれない(著者自身、肩の力抜いて、おまけのお楽しみみたいな感じで楽しんでほしい、というように書いている)。
「宇宙プログラム説」量子コンピュータのシミュレーションの可能性
 しかし個人的にもっとも興味深い内容と思ったのは、量子力学の多世界解釈が示唆するパラレルワールドを説明する章。あまりに有名な 問題の話で、ともすればありがちになってしまいそうなところだが、特に「波動関数の収束」という現象に関して、非常に鋭く、いくつかの疑問が明確に提示されている。
場合によっては、「多世界解釈は突拍子もない空論から出現したものなどでなく、むしろあるがままに観察事実を捉えた保守的な説」という指摘なども、衝撃かもしれない。

時間の終わりまで 物質、生命、心と進化する宇宙

 「宇宙を織りなすもの」と、テーマや構成的には近く思うが、より初心者向けという感じがする。 用意する情報も最低限のものとして 1つ1つは丁寧に解説される。そういう意味で、グリーンのというより、物理学関連の最初に読む本としてもおすすめ。

これまでの本に比べると、物理学以外、具体的には化学や生物学に関連する話が増えているから、馴染み深いという人も多いかもしれない。

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