宇宙創生、最初の三分間。科学の発見「ワインバーグ著作」

スティーヴン・ワインバーグについて

 アメリカの物理学者スティーヴン・ワインバーグ(Steven Weinberg。1933~2021)は、自然世界の物理的、基本的な4つの力、すなわち「重力、電磁気力、弱い核力、強い核力」の内、電磁気と弱い核力の相互作用を統一的に記述する「電弱統一理論」、または『ワインバーグ=サラム理論(Weinberg-Salam theory。WS理論)』か『グラショウ=ワインバーグ=サラム理論(GWS理論)』を 完成させた功績でノーベル賞を取ったことが有名。
また、マルチバースや人間原理といった、 当初はSF的とも見られていた概念を、早くから現実の物理世界の考察に導入していた、先進的で大胆な学者としても知られている。
一方で自分なりの科学哲学に注目した科学史の本を書いて、本職の歴史家たちの間に議論を起こさせたこともあった。

宇宙創生、最初の三分間

 ワインバーグが、一般向けに書いた本の中で、おそらく最も有名なもの。タイトルから明らかのようなものであるが、基本的にビッグバン理論と、それが示唆している宇宙の始まりの瞬間(正確にはその瞬間のわずかな後から、いくらか後までの時間に何があっか)がテーマとなる。
この本は書かれた当時から、一般向けに書かれた科学の本として、非常に内容に優れていると評価されていたとか。

 本当にタイトル通りに、当時の物理学知識に基づいて宇宙の最初の3分間だけを描き出しているというだけの本ではなく、ビッグバン理論というものが、どのような研究からどのように考え出されたのかということが、順序よく丁寧に書かれている。
ビッグバン「ビッグバン宇宙論」根拠。問題点。宇宙の始まりの概要 また、インフレーション理論が提唱されるよりも以前に書かれた本であるから、それによって解決の可能性が示されたいくつかの謎に関して、まったくの謎として扱われてもいる。他にも様々な物理知識に関して知識を得るためとよりも一体何が疑問なのかということがよく示され、理解しやすいこともこの本の優れているところと思う。
インフレーション「インフレーション理論」ビッグバンをわかりやすくした宇宙論 標準理論と呼ばれるものや、統一理論というものに関わり深いワインバーグであるから、それらについての利点などもわかりやすい。

科学の発見

 科学史の本だが、ワインバーグは物理学者であり、この本も、当然物理学に関連するトピック(話題)が多めになっている。
しかしもっと重要な特徴はこの本が、作者自身も認めているように、かなり現代的な視点で歴史を捉えているということであろう。その是非はともかくとして、非常に影響力強い有名な科学者が、古くさいとすら言えるかもしれない方法で歴史を見つけようとするこの試みは、今はそれ自体珍しいものであるかもしれない。科学の歴史に興味があるなら(例えこの本で取られる方法があまり好ましくないと思える人にとっても)一度は読んでみるべき本の1冊かと思う。

一方は主に生物学、一方は主に物理学というジャンル的、専門分野的な(つまりより表面的な)違いもあるものの、この「科学の発見」という本は、「歴史を覗いてみようという時、なるべくなら、その当時の世界観で、その当時の人たちの一般的な考え方をしっかり理解した上で」とよく語っていたスティーヴン・ジェイ・グールドのエッセイ集などと対極的なものとも言えるかもしれない。
ダーウィン以来、ワンダフルライフ、人間の測りまちがい「グールド著作」  科学というものがおかしくなる時、表面上は正しそうでありながら、実はそもそも科学として間違っている時、そこには詩的な要素があり、そこに先入観とか、先入観のための無意識の調整とかが発生する。そういう考え方があちこちで示されているように思う。
例えば、古代の人の中には愛や神性といった、幻想的で、実質的には不確かなものを非常に重視していたためにあっさり間違ったとか。あるいは、非常にわかりやすく美しい宇宙構造に、多くの学者がこだわりすぎていたとか。
具体的には、単に理論を組み立てるだけでなく、実験による再現を含む、観測事実という根拠を軽視していたと思われるアリストテレスに関して、彼は「自然」と「人工」という、 とても人間中心的な世界の見方に囚われすぎていたとか。
詩的な科学という紛い物。普通にそういう考え方は、ある科学者が、間違った(と考える)科学に関して批判する時の見方として、実はわりと典型的である。ただし同時代の科学者でなく、昔の科学者たちに対して、今の基準から見たそうした「詩的な科学」という間違いを定義することは、やはり難しいことなのではないかと、個人的には思うが。

原子と原子核の発見 20世紀物理学を築いた人々

 (ここでは量子論のみならず相対性理論も省いた)古典物理学、つまりはニュートンの力学や、マクスウェルの電磁気理論などを根本的な基礎として世界のすべてを記述していた頃の物理学研究に関しての本。

本題と直接的には関係ない研究者の逸話もいくらかあるし、また様々な理論(考え方)に関して最初の提唱者に注目しようとしてる感じで、やはり歴史書としての側面もある。扱っている内容的には、『科学の発見』から続けて読むのもいいと思う。
あちらと違い、歴史人物や研究の評価的な要素はほぼ無いと言っていい。だから歴史書として、こちらの方がより客観的とも感じれるかもしれない。

 一般向けの現代物理学の本を読んでみて、量子論とか相対性理論といった話ばかりで、もっと古典的な物理学知識が前提として必要と感じたなら、この本は特におすすめ。