「十二国記」異世界転生のための苦しみをよく描いたアジアンファンタジー

今は逆に珍しいかも知れない、ある種王道的な異世界転生

 もともと少女向けに書かれた作品らしいが、今はかなり幅広い年代層の人たち人気のあるファンタジー小説シリーズ。
いわゆる異世界転移もののファンタジーとして、ある意味伝統的な感じの作品なのかもしれない。現実逃避的というか、異世界への憧れ的なものを投影しているかのような作、ようするに異世界を楽しく楽観的に描いてるようなものではなく、普通に、現代の日本人が過酷な古臭い神話的世界観に放り出されたなら、どんな苦労をするだろうか、というようなことがよく描かれていると思う。

最初の作と、それ以降の作風の違い

 最初に書かれた作品、実質1作目の『魔性の子』は、異世界そのものを描いた話というより、異世界から現実の世界に生まれ落ちてしまった者と、それと関わる者。実際に現実世界に馴染めない者と、単に表面的に馴染めない者との違いや、そのための悲劇などを描いている。よくも悪くも、作風がかなり後の作品と異なっている。
単に異世界ものファンタジーという2作目以降と比べると、1作目は、現実の世界に現れたファンタジーがもたらす物語であって、ややホラー的な作風と合わせ、現代日本版クトゥルフというようにも言えるかもしれない。
「クトゥルフ神話」異形の神、生物の伝記。宇宙的恐怖のための創作神話
個人的には、1作目の方が面白く感じた。
2作目以降は、特にファンタジーとしてはかなりステレオタイプと思う。もちろんそのような作風を好む人も多いと思う。

魔性の子に関して

 「魔性の子」の最初に描かれるイメージは、主人公の妄想的なものであると思われるが、描写的にちょっと興味深い。
美術の嗜む目で見た世界をそのまま描写したかのような、幻想的光景により、序盤からその世界観に引き込まれる人が多いんじゃないかと思う。
魔性の子
 白い花。見渡すかぎり大きな円盤な、地平線まで続くような野原(実は湿地)。複雑の空、桜色や薄緑色が暈し込まれている水色の空。
大小併せて6つのさまざまな形の月と、代わりに消えてしまっているかのように見当たらない太陽。濡れた感覚を抱かせないような、つまり流れを感じさせない澄んだ水。陰から光を弾いて、泳ぎ出てくる小魚。

ホラー的演出

 ファンタジー的設定が現実世界に持ち込まれているというよりも、無理やりに適応させられているというような感じで、結果的に 様々な問題が生じる。そしてそれが、ホラー的演出として、かなりいい感じになっていると思う

 実際にそうであるのだが、おそらく現実ではないどこかと関わりがあるように描かれる少年、高里は、本来は存在しないはずのものに襲われた時、何があったかを上手く説明できない。誰かがそれをやったことはわかるのに、その誰かを理解できない。
「だって、違う種の生き物が混じっているようなものですから……明らかに種が違って、それが何なのかわからなかったら、気味が悪くて当然。有害なのか無害なのかも判定できません……」
そして自分が有害な存在であるらしいと理解できてしまうこと。とにかく有害らしい存在である自分のために、関わった者たちが死んでいくのに、なぜ死ぬのかすら本当には理解できない。
コントロール不可能で、家族も味方も殺してしまう祟り。

 高里自身の体験する恐怖だけでなく、その周囲の者たちが抱く恐怖もよく描かれてると思う。そもそもどういう意味があるのかもわからない。意図的であるのかないのかにかかわらず、どうやって殺すのかわからない。それでも確かに殺されているという理解。
そして得体の知れないものに対する大衆の混乱。「学校を辞めます」 と高里が言った時の、狂気的な人々の笑いなどは、あまりに演出的にも思えるが、実際ならどうなるだろうか。

「人は綺麗なだけでは生きられない。危害を加えた連中のために泣いたり、殴った連中を悼むような、そんな生き方ができる生き物じゃない」とか「人は獣ではない。獣でないだけ不純で醜い」とか、作者の思想を思わせる部分もあるが。

時々示唆される異世界設定

 この話が書かれた時点では、まだ続編構想というか、異世界側の方の話を描く予定はなかったらしいが、その異世界側の設定が、所々の描写や台詞からある程度推測できる構成で、ちょっと興味深い。
「たいおうのき」
「こちらでは物の形が歪んでしまうので、どんな姿をしているのか分からないの」
「どこに、き、がいるのですか」

 丸い眼がひとつしかない犬。砂場で現れたそんな形の獣を、砂場の子供たちは見たことがなかった。声を揃えて鳴き、宙に駆け上がるようにして消えてしまった二匹の獣は。砂場に残された小さな穴。

 異世界側設定から考えると「グリフィンがいるんです」とか、「海のにおいがする。ムルゲン……セイレーン、六世紀に人間に捕まって、後にちゃんと洗礼を受けて聖女になったセイレーンがムルゲン」、「ムルゲンもグリフィンもぼくが落ち込んでいると現れるんです。そっと肩を撫でてくれたり、足に身体を擦りつけるようにしたり」といった高里の認識は妙とすら言えるか。大きな犬で、ときどき飛ぶから、きっと翼があるグリフィン。海の匂いのセイレーンと。
そして 「泰王、契約、麒麟、十二王、十二の国に、十二の王、戴極国」これらのことは後の世界観において重要なキーワードではあるが、この作品においては、信じがたい情報ながら、しかし手がかりかもしれないという感じ。

 向こうの世界のものがこちらの世界に生まれてしまう現象「胎果」についても、少しだが触れられる。

2作目以降、異世界の世界観

 一言で言うとしたら、中華風ファンタジー世界観であろうか。

世界が混じりあう触

 虚海に囲まれた平らな大地というような(少なくとも基本的にそう理解されている)異世界。
2つ(あるいは複数?)世界が混じり合う『触』と呼ばれる現象で、時々、果てがないとされているはずの虚海の東の果ての島である蓬莱山(日本)や、大陸中心の方の山々や砂漠地帯を取り囲む金剛山のどこかの崑崙(中国)より、別の世界の住人が迷い込んできてしまう。
触は嵐みたいなもの、空気が乱れる嵐に対し、気が乱れる(おそらくに二次的作用として大災害が起こる)のが触と説明される。

異世界生物の生態

 人間以外の知的生物も存在するわけだが、半分獣だという『半獣』を実の子供として持つこともある(半獣というのは、 本質的でなく、見た目での定義、例えば白人とか黒人とかいうようなものなのかもしれない)。ただし、人間と獣の姿を使い分けられて、獣の姿の方が楽とも。「ただの獣が喋るか」というセリフもあり、結局のところ、高い知性は人間的なものだというように描かれているか。

「触でつながる世界においては、母親が自らの体の中に子供を宿す」というのが奇妙な噂のように伝わっている。つまり子は、『リボク(里)の木』というのに、ランカ(卵の果実)として実り、それを親がもぐと。
「子は母親のお腹のなかにできて、母親が産む」という説明に対し、「鶏みたいに?」という疑問も出てくる。 しかし結局全ての動物はどこかの木からなる。子供が欲しい夫婦は木に願うが、天が、夫婦が親にふさわしいと感じた場合に子供を授けてくれる。
システム的にまた興味深いことといえば、生まれた動物は(親が迎えに来る場合もあるが、そうでない場合でも)しっかり生きていけるようになるまで、安全な木の下で生きるということだろうか。どうも、獰猛な獣でも木の下にいる間は戦わない、そして敵対する獣同士は同じ時期には生まれないという感じ。
発生の過程を考えると、ここでは生物の姿について、個性として考える部分が強いのだろう。 そもそも遺伝的繋がりがないのだろうという推測のほか、「子が親に似る」というのは気持ち悪いというような感覚すらも語られる。

妖魔と霊獣。王を選ぶもの

 妖魔は、動物と区別されているようでもあるが、それらは一般的認識では「野生の獣のようなもの」というような話も。いずれにしても一部の妖魔は、かなり大きな力を持っていて恐れられている。
そして、王に仕えるという、(本質的にはやはり獣のようだが、しかし神に近いともされる)麒麟のような霊獣。
神仙などの存在も含め、生物世界に関して言えば、中国の神話世界のイメージがかなり強い。
例えば山海経のような古い中国の書には、架空の国なのか、何か勘違いしてるのかわからないような奇妙な外国が紹介されてたりする。実際には存在しなかったと考えられているような幻獣たちと合わせて、そういう伝説が、この異世界からの影響によるものではないか、と考えさせられるような描写が多々ある。
微妙な繋がりがあるために、異世界の設定が出てくればくるほど、現実世界の設定の方もちょっと興味深いような感じ。2つの世界観の行き来も、時空間の歪みとかより、単純に「渡ってきた」というようなイメージを抱かせる。
霊獣に関して言えば、これが選んだものが真の王であり、それ以外の場合は災いを呼ぶ偽王となる、というような話。一国には必ず一頭しかいないとか、そういう世界そのもののシステム要素としてその存在が組み込まれているというような設定は、やはり神話的。
色々考えると、(実際にはそういう意味での黒幕は、天の神というような感じだが)まるでこれは麒麟が作った(つまり、彼らが王と設定した存在により統治される社会)領域というような発想すらありうるかもしれない。
いろいろな理を決めているような天の神、というような存在は、昔の中国の、天帝の概念を参考にしているのだろいか。

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