奇巌城、カリオストロ伯爵夫人、対ホームズ「アルセーヌ・ルパン長編」

奇巌城

 この奇巌城きがんじょうルパンシリーズ初の長編らしい。
とりあえず登場人物がかなり豪華である。
ルパンの宿敵であるがガニマール警部に、小物化させられてしまっているシャーロック・ホームズ(原文では簡単な問題で別の名前)。
ルパンを盗賊に育て上げたという乳母のヴィクトワール・エルヌモン、ルパンから直接話を聞き、その伝記を書いているモーリス・ルブランその人など。
とにかくルパンシリーズおなじみのキャラたちが共演。

 物語全体の主役としては、語り部でもある高校生探偵、イジドル・ボートルレというキャラがいるが、これも、『黄色い部屋の秘密』の新聞記者探偵ルールタビーユを意識しているとされる。

 また基本的に、ルパンは悪役として描かれてはいる。
ただし、だんだんとルパンの人柄にボートルレも惹かれていく。つまりそういう交流や葛藤も描かれてたりする。
また、終盤には、なんかホームズが悪役みたいな感じになってしまう。

何時でも一枚上手なルパン

 始まりは、ある屋敷にて、盗まれたものがないにも関わらず、泥棒らしき誰かが、明らかに何かを持ち出しているところが目撃された、というような事件から始まる。
この時に、泥棒一味の中でも、おそらくはリーダー格の誰かが、銃で撃たれ、そして逃げ切れずに、どこかに身を潜めたというのが物語の始まりとなる。

 ボートルレは、事件に関わることになった探偵として、その好奇心を武器に、様々な推理を披露する。が、結局たいていの場合で、ルパンはいつも先を行ってしまう。
そのために、彼がとても悔しがる描写もわりと多い。
むしろそれは、しつこいくらいかもしれない。

見事な偽物を置いていく癖

 しかし、ルパンという怪盗は、盗んだものの代わりに、見事な偽物を置いていくのが好きな人ある。
この話で盗まれたルーベンスの絵画などもそうだが、ヨーロッパ中の様々な美術館で飾られている、有名ないくつかの絵画作品は、全て偽物というような説明も、作中である。

ホームズがなかなかの敵役

 この作品のホームズは本当に情けない。
元のシリーズのホームズと、同一人物とは思えないレベルである。

 作中ホームズは、ガニマールと共に、ルパン一味にあっさり誘拐、拉致されてしまうのだが、何か裏があるとかではなく、単純にしてやられてしまっただけである。
そして復讐心にかられて、民間人に危害が及んでしまっても、結構平気だったりする。

歴史的な興味

 途中から話の主軸となる、暗号に覆い隠された秘密の話に、鉄仮面やジャンヌダルクなど、歴史上の人物が出てきたりする。
特に鉄仮面に関しては、 このショットが書かれた時点でもかなり 興味深い謎だったことを結構実感できる。

カリオストロ伯爵夫人

 かなり若かりし頃のアルセーヌ・ルパンを描いた作品。
百面相の大怪盗ルパンでなく、後にルパンと名乗る泥棒ラウールを描いた話。

 無垢な印象が強いクラリスに、カリオストロ伯爵夫人こと謎の女ジョゼフィーヌと、二人の女との三角関係の恋愛も、かなり話の中で軸となっている。

 ジョゼフィーヌは特に、元々結婚も考えている恋人であったクラリスから、ラウールの気持ちを離してしまうくらいに、とてつもない魅力を持っている人物として描かれていて、そのために、また脅威としても立ちはだかることにもなったりする。

ルパンという父の謎

 自分はボクシングやレスリングの達人だが、そういう技能は実は、親父のおかげで得られたもの、とルパンは語っている。
ルパンというのも、父の姓らしい。

 それをジョゼフィーヌが指摘するシーン。
自分自身も詐欺師である彼女が、本当のラウールは詐欺師、泥棒であり、アルセーヌ・ルパンなのだと言うのも、なかなか興味深い。

詐欺師カリオストロと、純粋なクラリス

 物語全体の重要人物であるジョゼフィーヌは、どうも、伝説的な魔術師、あるいは詐欺師の、カリオストロの娘であり、しかも100年以上生きているにも関わらず、若々しい姿というトンデモな人物。
そのトリックを見抜いた上で、いまだ神秘的な雰囲気を拭い去れないと、ルパンも認めたりもする。
とにかく、このカリオストロ伯爵夫人は、悪党としてかなりの威厳を持っているような感じに描かれている。この彼女を、最終的には、相手にして、あっさり裏をかけるくらいの怪盗に、ルパンが成長する様が上手く描かれてるのが本作とも言える。

 ようするにこれは、弟子が師匠を超える物語でもあるわけである。
その中で、クラリスに愛を帰らせたのは、 果たして神の愛に気付いたからどういう風に表現できるだろうか。
それはちょっと微妙なところで、なかなか考察しがいもあるところかも。

ルパン対ホームズ


 ホームズもワトソン君もかなりあからさまだが、(すでに述べたが)原本ではあくまでもアナグラムの名前。日本語訳では、ホームズは普通にシャーロック・ホームズで、ワトソン君はウィルソンという名前。
この作品は短編集、『怪盗紳士』の一番最後の作品、『遅かったりシャーロック・ホームズ』を実質的なプロローグとしている、2作の中編(あるいは長めな短編)という構成。

 タイトル通りに、イギリスの名探偵シャーロック・ホームズとフランスの大怪盗アルセーヌ・ルパンの対決という話ではあるが、やはり基本的にはルパンの方が一枚上手に描かれてるようには思う。
しかもそれに関して、ルパンが凄すぎるというよりも、ホームズが、コナン・ドイルの原典よりもショボくなっているという印象が、個人的には大きい。

 ルパンの方が、シャーロック・ホームズより若いっぽいのはよかった。

 1つめの『金髪婦人』は、ルパンの共犯者だと思われる金髪の女は一体どこの誰なのかというロジックに置いた内容になっているが、これはホームズとルパンの初対決の話でもある。
ルパンは事前にホームズの評判を知っていて、しっかりと「厄介な敵だ」と認めている。だが、逆にそのような好敵手と戦える事に関して、喜びを抱いたりもする。
「探偵としては彼に並べる者などいないだろうし、未来永劫現れないと僕は信じている。ただし僕の方が有利だ。なぜならば、彼は攻撃してくる必要があるが、僕は守っているだけでいいからだ」
案外ルパンの方が常に上手ぽく描かれるのは、作者のそういう考え方が反映されているが故なのかもしれない。

 まあ、その1つ目の話の一番最後。
逮捕されたはずのルパンが、ホームズたちの前に現れるシーン。あれが多分、一番作者が描きたかった場面なんじゃないだろうか。そんな気がした。