「八つ墓村」感想。金田一耕助の出番が少ない大傑作。最も恐ろしい人の闇の話

探偵小説としてはまあまあ見られる手法

 金田一耕助の出番が少ない、金田一耕助もの。
探偵小説では、 探偵の出番がそんなにないというような話はあまり珍しくはないが、このシリーズでは珍しいと思う。

 書かれた順番的に、この「八つ墓村」は4作目に当たるようだが、3作目、つまり前作にあたる「夜歩く」も耕助の出番が少ないから、 作者の横溝正史よこみぞせいしは、もしかしたらこの頃、そういう方向性を模索していたのかもしれない。
主に登場人物の1人が書いた記録という形式の、一人称視点であるのも、「夜歩く」と同様である。

 いろいろと恐ろしい作品で、獄門島にて始まった、閉鎖的な田舎で起こる、怪奇的というよりも狂気的な殺人事件。
ちょっと不気味な感じの人間関係。
そして、やはりあまり役に立たない金田一耕助という、以降、このシリーズの長編の典型パターンの1つとなっていくような作風。

 また、この話で描かれている事件は、シリーズの世界観の中でもかなり世間の注目を浴びた設定なようで、以降の作品で金田一耕助は、八つ墓村の事件で有名な名探偵というふうに評されたりすることも多くなる。

本当に、大して役に立たない名探偵

 今回、金田一耕助は、ある事情から、かなり始めの段階で犯人の目星がついていたのだが、それをいっさい誰にも言っていなかった点などは、人によっては、なかなか酷いと思うかもしれない。

 最後の解答編( と言っていいのかも微妙な感じの解答編)で、「今回の事件、僕には何もいいところがなかった」と金田一耕助は自虐するが、別に比喩でもなんでもなく、わりとその通りである。

 ただ、「僕がいっさいこの事件に関わっていなかったところで、この事件は勝手に収束し、犯人は報いを受けたことでしょう」というセリフはさすがに自虐がすぎる。
(それによって犯人に予定が少し狂った)とある洞窟の件と、(それによって主人公が精神崩壊(?)するのを防いだ)警察のやりすぎを抑えた件などは、一応はなかなか重要。

 金田一耕助は、この事件は非常に動機が難しいなどとして、なんと匙を投げようと思ったこともあるとすら告白する。
その理由の大きな1つとして、この事件が、かなり奇妙な形の、半分無差別的な連続殺人だからと言うが、それはちょっと違和感がなくはない。
これは「本陣殺人事件」である描写だが、金田一耕助という人は、ミステリー小説に非常に詳しいだけでなく、それらが現実の難事件の解決にも役立つヒントを、よくよく与えてくれるなどと考えている設定である。
琴「本陣殺人事件」金田一耕助、描かれた最初の事件。感想と紹介。頼りない彼の魅力 ただ途中で、そうかもしれないという推測がある、無差別と見せかけている裏側の狙いは、いかにもミステリー小説的なもので、そうかもしれないと感づくのはそう難しくない。

昔の伝説からの宝探し要素

 「獄門島」では、最初、舞台となる島に関する説明があったが、この「八つ墓村」でも、最初に、舞台の村の背景解説がある。
戦国時代の八つ墓村という名前の由来でもある伝説と、近代(物語の20年ほど前)に起きた事件の話である。
「獄門島」俳句に見立てた三人娘連続殺人、まだまだ無名だった金田一耕助  近代の方の事件は、主人公や、その一族にも関連していて、実際に田舎の村であった恐ろしい事件を元ネタとしているが、あくまでもモチーフというか、参考にしているだけで、その事件そのものではない。

 当然であるが、戦国時代の伝説の方は、あまり事件本編と関わるものではない(まったくというほどではない)が、これがなかなか興味深い話である。
暗い本編において、少しばかりの明るさをもたらす宝探し要素の発端にもなっている。

わりと恋愛要素があり、今回はドラマ性が強い

 ちょっとラブコメっぽい設定がある。

 物語の語り部で、主人公的存在である寺田辰弥てらだたつやは、 その出生譚しゅっしょうたんに関して、八つ墓村と因縁があるのだが、そのことは知らずに都会で育ってきた。
謎の過去を持っていて、(全身の虐待跡などのコンプレックスから)少しばかり他人を避ける傾向があったりするなど、どこか影があるが、しかし根は真面目な好青年。
いかにも主人公な設定である。

 この人と、村の2人の女性の三角関係的なものが、けっこうな文量で描かれている。
しかもその2人の女性というのが、片方が姉で、片方が(主人公のことをお兄様と呼ぶ)従妹という、なかなかオタク的発想(?)な設定である。

人間の持つ狂気というものが、かなり恐ろしい形で描かれている

 これは、結局人間が一番怖いという話の典型かもしれない。
とにかく、描かれる人間の狂気の面と言うか、恐ろしいところが本当に恐ろしい。

 (異説もあるわけだが)主人公の父親は、20年ほど前に、32人もの犠牲者を出した、恐ろしい人だったとされているが、彼はむしろ虐待されていただけの犠牲者である。
そいつが悲劇を起こした理由は、無理やり愛人にしていた主人公の母が、身の危険を感じて逃げ出したからだが、その母に関しても、普通に犠牲者である。
しかし被害にあった村人たちは、男が逃亡し、怒りの矛先を失ってしまった後、それを主人公の母に向ける。
そして、本編でも主人公に向けるのである。
それに主人公は、 そもそも自分の生まれた村のことなど知らないにも関わらず、狂気の男の血をひいているという偏見だけで、(殺人を疑われるだけでなく)やばい殺人鬼でないかと、警察にまで疑われたりする(そこまでは主人公の考えすぎという可能性もなくはないが)

 作中で主人公は、「私が恐れていたのは肉体的な恐怖よりも、人の心」というように考えるが、まさしくそれが恐い。

 終盤、村人たちに命を狙われる主人公であるが、「そういうことが起こった件について、何者か扇動者せんどうしゃがいるには違いないが、真に恐ろしいのは、大した根拠もなく扇動にのっかる村の人たちの心」とも考える。
これはかなり現実にありうるし、本当に恐い話である。
この話は小さな村という閉鎖的な環境での話を描いているが、もっと大規模な大衆の暴動とかパニックは、普通に現実にある。
その時に、怒りの矛先が自分に向けられたなら、いったいどうすればよいのか。
(例えば~人に対する反対思想に基づいた暴動が起きて、通りがかりの、何の関係もないはずの~系人が襲われたりというのはある)

作中屈指の常識人?

 ようするにこれは、いろいろ恐い、シリアスな話のミステリーであるが、1人、わりとギャグキャラ(?)がいる。
それは、作中で怪しい行動をとるが、犯人ではないというミスリードキャラの1人なのであるが、終盤に明かされる、その怪しい行動の理由がネタみたいな感じなのである。

 しかしその理由自体は、多くの人が共感しやすかろうものなので、ある意味この人、作中屈指の常識人と言えるのかもしれない。