占星術殺人事件
シリーズ作品内の時系列に一番初めというわけではないが、これが名探偵、御手洗潔の活躍を描くミステリーシリーズの第1作目。
ミステリー好きの間では非常に有名な小説なので、評価の高いそのトリックなども知っている人が多いのではなかろうか。よくこの作品が「最初にして最高傑作」と言われることもあるが、おそらくそれは このトリックの評価がかなり大きい。作者もかなり自信があったのか、設定としては、誰も解決できなかった数十年前の事件に、(ちょっと退屈していた?)名探偵の御手洗潔が挑戦してみるというような内容。読者への挑戦もあるが、かなり挑発的なだけでなく、二段構造みたいな感じになっている。
ただし、あくまでも過去の事件の調査の話であるから、緊迫感というかサスペンス的な部分はかなり弱いと思われる。
名探偵御手洗潔の初登場作であるが、彼のキャラクター性自体は、後の作品でどんどん追加されていく傾向もあるので、そういう意味では、後の作品ほどスーパーマンではない彼を楽しめもする。しかしその目的で読もうというのなら、次作である『斜め屋敷の犯罪』の方がいいかもしれない。
むしろミステリー部分以外で注目すべきは、御手洗潔が(そもそもこの話自体が、助手が語る名探偵の記録というような、いわゆるホームズ形式で、かなり影響を受けている感じがあるのだが)ホームズという探偵に関して、いろいろ語る場面であろう。彼はとんでもない野郎だと説明するが、一方で興味深い人物とも語る。
斜め屋敷の犯罪
個人的には、初めて読むなら1作目よりもこっちの方がいいと考えている。探偵の登場は後半であり、わりと遅いが、作中で描かれる事件や、示される謎自体はより王道的で、普通のミステリー作品として楽しみやすいと思う。ただしトリックは、前作が見事と言うなら、今作はぶっ飛んでいるというような感じで、けっこう賛否両論あるかも。
後半は、「このような難事件においてなら彼を置いて適任な助っ人はいない」という情報の後に登場した、占い師御手洗潔の振る舞いはかなりコメディ的。彼というキャラクターを実によく楽しめるだろう。
このシリーズの長編は、けっこう御手洗の心理状態が安定しないことも多いのだが、この作品に関しては常に高いテンションで、 一見とても難しい事件を名探偵があっさり解決しちゃうみたいな。
どちらかと言うと、やはりこちらが1作目みたいな感じがする。
暗闇坂の人喰いの木
ただのミステリー作品というよりも、オカルトが入ってきた、かなり怪奇的な世界観を思わせる作品。真相に関しても、いくつかの要素の中に、そういう雰囲気がしっかり残されてもいる。
「人を食べる、巨大な化け物の木」という、 おそらくはかなりオリジナル色が強いと思われるモチーフ。ヨーロッパの方の、妖精、巨人伝説との関連と、巨人の家の見事な正体。そして、普通なら目を背けてしまいそうな恐怖の動機と、かなりホラー混じりなアドベンチャー的作風。
御手洗潔がこの事件に関わることになったのは、自分から首を突っ込んだためというように描かれているのもまた興味深いかもしれない。
最初から怪奇的な難事件だと考えていた彼は、そのような事件を普通の警察とかじゃ絶対解決できない、自分が解決しなければならないだろうと、とても楽しげに関わっていく。
単独作としては(もっとも、このシリーズの平均で言うとそこまででもないかもだが)長いが、御手洗潔が最初から最後までしっかり出番があり、そういう意味で、1度は敗北感を味わうような描写があることなども含め、ある意味『占星術殺人事件』のオカルト話版といえるかもしれない。
水晶のピラミッド
最後に明かされる真相がかなり不評な作品であるが、個人的に(おそらく自分がミステリーを読むにあたり、トリックの見事さとかはあまり重視していないから)全体的にはそれほど悪い作品でないと思う。むしろ前作に比べると、取り入れられてるオカルトネタが、おとぎ話的なものから、現代的な超科学系統になっていて、親しみやすいという人も多いかもしれない。
最初、古代エジプトの物語と、タイタニック号の話があるが、その後の本編とほとんど何の関係もないように思う。雰囲気作りとしてはいいのだろうが。
これらの話を単独で楽しめる人もけっこういるかと思う。ただ、ミステリーではなく、よりアドベンチャー的か。
最後の最後の真相はいらないというほどではないが、タイトル的には、やはりしっかりピラミッド構造のトリックの方が最後でよかったのでなかろうかとは思う。