「3000年の密室」「シクラメンと見えない密室」神秘的ミステリー

3000年の密室。考古学と本格ミステリー

 考古学ミステリーと本格ミステリーが混ざったかのような作風。
密室状態の洞窟の中で発見された、おそらくは殺されたらしい縄文人のミイラ、サイモンの謎を解き明かしていく話。
途中からは、そのサイモンを発見した館川たちかわという人が、行方知れずとなり、さらには不可解な状況での死亡という、現代での謎も絡んでくる。

 3000年前の事件が「密室殺人」で、現在で送る事件が「足跡なき殺人」という感じ。

 しかしとにかく全編にわたって考古学の話。
様々な調査方法の説明や、学者たちのそれぞれの仮説の話し合いなど、雰囲気はかなり味わえる。
単に、彼、サイモンが生きていた頃の社会形態とかだけでなく、それが、日本神話などにどのような影響を与えたのかとか、そういう方面からのアプローチもある。

コンピューター、インターネット、仮想世界がもたらす現実

 現代で起こる事件とも関係している概念ではあるが、コンピューター、インターネットが築き上げた、あるいは築き上げていくだろう、新しい社会に関しての考察もある。
サイモンは、遺留品などから、滅びの危機に瀕していた仲間たち(縄文人たち)を助けようとしていた者。しかしそのために、それまでの伝統から離れてしまったことで、殺意の対象になってしまったのかもしれない。というように、終盤に語られたりする。
そしてそれは、新しいテクノロジーが社会に浸透し、それまでは教える立場にあった年寄りたちが、若い者たちに教えを乞わなければならなくなってきている、今の状況と重なり合っていたかもとされたりする。

 ただ基本的には、インターネットはいい流れとして捉えられてるように思う。
つまり、先進国と途上国の格差を減らし、楽しく学ぶ気持ちを持つ者を次々と育て上げるためのもの。
情報がないための悲劇を減らすものというように。

 作中では変わり者とされているあるキャラは「現実だって、みんなが共有している仮想にすぎない。バーチャルというのは仮想イメージとされがちだが、そこにこそ物事の本質がある。そこで真実を感じ取れるならそれがリアル。リアルな感覚を得られるなら、それこそがその人間にとっての現実なんだ」というように語る。
さらに「むしろ電子世界ではマネーが真の意味で流通している。現実において価値があると信じこまされてる、ペラペラの紙切れなんかじゃなく」とまで。
作中でそう語られているように、意識すらやがてデジタルの領域に、というもしもが、ここには語られている。

洞窟の密室殺人事件

 密室に関しては、仕掛けはともかくとして、状況はけっこう面白い。
サイモンは明らかに何者かに殺されて洞窟の中に放置されていた訳だが、その洞窟は、どうやら内側から石を積み上げて塞がれていたという具合。

 隙間とかもない上で、どうやって内側から鍵をかけたか、とかでなく、どうやって内側から石を積み上げていったのか、という謎。

シクラメンと見えない密室。喫茶店、美奈子の謎の母子を描いた短編集

 上記の作品と同じ作者が書いた短編集。
『美奈子』という喫茶店を営む謎の母子、美奈みなと、娘の奈子なこが登場する連続ミステリー。

 探偵役は主に美奈で、奈子はその辺、あまり活躍はない。
基本的には、安楽探偵スタイルよりな作風で、 何か事件にちょっと面してしまった客とかが、知的な雰囲気の美奈に相談。 そして見事に、彼女が事件を解決というような流れが定番。

 3000年の密室同様に トリックはともかくとして、事件のシチュエーション自体に、なかなか興味深いものが多い。

傷とアネモネ

 最初から、なかなかにシリアスで重たい話である。
喫茶店を営む母子が主役という設定から、ほのぼのとした話を期待していると面食らう可能性があるくらい。

「今も魔女狩りの時代からそれほど進歩していません」というような、美奈の話は印象的。
強い人と弱い人がいる世界では、誰もが強い人の側に立とうとして、加害様側に必死で立とうとして、そしていろいろな悲劇が起こる。
事件自体は連続通り魔に関係しているものなのだが、解かれる謎は、ある人の自殺の真相という感じ。
その動機がなかなかに悲しげ。

遠隔殺人とハシバミの葉

 精霊の呪いを発揮することができるという、ハシバミの木。
ひどい嫌がらせをしてくる相手からもらった置物に対して、それで叩くことで、実際に相手がものすごく苦しみ……という展開がなかなかにミステリアスで興味深い話。
この仕掛けに、謎の呪文まで組み込む手腕は、なかなか見事である。

タイトル作(シクラメンと見えない密室)

 どの話でも、タイトルにある植物が絡んではくるが、 一番事件自体と関係してた話かと思う。
ついでに迷信までもトリックに利用していて、本自体のタイトルに持って来られるのも、よくわかる良い出来。

クリスマス・ローズの返礼

 美奈と奈子という母子の謎に切り込まれるシーンも出てくる。
そして、美奈という人の、他の話では示唆されてはいてもはっきりとは出てこない一面が、かなり明確に出てくる。
一番美奈が、本当の魔女ぽい話。

 事件自体は足跡なき系。
やや強引な感はあるが、個人的にはなかなか好きなトリックパターン。

オークの枝に、誰かいる

 様々な人の所に脅迫状を送りつけまくってる何者かがいて、それが様々な情報にかなり通じている美奈さんでないか、と疑われたりする話。
やや地味な話ではあるが、脅迫状を送りまくってた真犯人が明らかになるまでの流れは、かなりいい感じだったように思う。

おとぎり草と背後の闇

 「おとぎり草と背後の闇。」は、いかにもミステリー好きに人気出そうな、やや怪奇的感もある話。
ようするに、同時刻に4箇所にいた男に関する話。
なかなか逆転の発想を用いたトリックも興味深い。

夾竹桃の遺言

 最後の夾竹桃の遺言は、クリスマス・ローズよりも、さらに美奈と奈子の謎に切り込んだ話になっている。
それまでの話に登場した人物たちが結構集まっているのも、最後の話っぽくてよい。
最終的には、まだ謎が残る感じではあるが、これはファンタジーぽい解釈でよかったのだろうか。