「天冥の標」被展開体、すべて飲み込む生態系の怪物、生物の性愛の力

性愛、生態系の連鎖、特殊な存在などへの興味

 上下とかに分かれてるものは1つとして考えた場合、全10巻の宇宙ものシリーズ。全体的には、SFとして世界観に興味深い点はあるが、若者向けの漫画のような雰囲気も強いので、そういうのが好きな人にもオススメできるか。
ただし、どうも作者は、この作品に自身が書きたいかなりの要素を詰め込んでいるらしくて、作品ごとにかなり雰囲気が違ってもいる。 各作品ごとに時代や舞台も結構違ってたりするし、ある程度登場する設定に関しては説明もあるため、1つの大きな作品としてでもなく、気になる作品を単独で読んでみるのもいいかもしれない。
個人的には、このシリーズが気になるけど全部まとめて読むのは面倒という人に、どれか1冊だけ勧めるとするなら、5巻「羊と猿と百菊の銀河」を勧める。

 設定はけっこう壮大ではあるが、全物語の大半の部分は、人間、あるいは人間から派生した種族同士の内輪もめ的な話が多いから、そういう意味では馴染み深い世界観と感じる人も多いかも。

メニーメニーシープ

 メニーメニーシープというのは、植民地惑星の名前。正式には植民地臨時総督と呼ばれている、名前通りの役職の者が、中世の時代の植民地さながらの権力者ぶりだから、皮肉を込めて民衆から「領主」と呼ばれている。
しかし新天地を求めようとする人類の射程から脱落したかのように語られている。文明から孤立してしまった閉鎖的世界としての植民地惑星というような感じか。

 その惑星に、人類の恒星間宇宙船シェパード号がやってきたのは26世紀ぐらい。例によって冷凍保存技術が重要な役割を果たした。
本来は、シェパード号は、資源や機材とするために分解され、ブロックごとに下ろされていく計画だった。しかし何かの原因(コンピューターの暴走、移植用知能化動物の反乱、未知の宇宙生物の攻撃、あるいは内紛)により、船は墜落。様々な問題が生じることにもなった。
植民地開拓のためのロボットたちは、 墜落のショックもあって、渡航状態の終了、自治政権の成立を認識できなくなってしまった。そのために宇宙船が墜落したことを認めず、本来の予定通りに動かすことが少し困難になってしまったり。

 時々古い病気が流行る。描写からしておそらく、文明的にかなり遅れているのだろう植民地においてのパンデミック。

「海の一族」という改造人間の末裔一族は、酸素呼吸を必要としない種族で、水中で溺れない。しかし電気を体内に貯めておいて、その電気で二酸化炭素を分解する能力のためというのは、生理的にはまだ、人間に近い部分がかなり多い可能性を思わせる。

「石工」という、メニーメニーシープに元々いた知的原住種族は、発声器官がなかったはずだが、厳しい訓練により、一部の個体は(つたないものの)人の言葉を操れるようになったとも。知的と言っても、これは命令されたことを行うだけの愚かな種というようにも説明される。ただし基本的にこの種族は(おそらく個体単位ではなく、群単位で)領主に従っているとされ、どのようにか、特定の者に従わせることが可能なくらいには、意識が強い、あるいは機械的なのかもしれない。
描写からすると、節足動物的な生物なのだと思われる。
この生物はメスしかいないらしい。ある性別がどんなふうに定義されているのかはわからないが。

 この1作目は、物語全体の時系列の中では未来の方で、2作目からは、ここに続く過去の話が多くなる。
そして、メニーメニーシープという、この閉鎖世界の謎、登場する各種族の起源なども後に明かされていく。

救世群

 パンデミックものだが、恐ろしい病原菌による世界のパニックより、どちらかと言うと謎の病原菌そのものの性質などについての話が重要な感じ。
1作目に比べるとヒューマンドラマ的な面も強いと思うが、そういうふうに見るなら、かなり人間の感覚が捉える世界観における暗い話みたいにも思える。

「被展開体はほぼ完全に圧縮された第四準位活動状態で、個体素子上にあったその個体素子は塩基と糖とリン酸からなる長大な鎖状化合物で、被展開体を格納するのに十分な大きさ。素子自体は別に被展開体を記録しておくために構築されたものではない……被展開体はウイルスの形でその中に入り込んだ。ウイルス化の手順は簡単。だが侵入対象は、被展開体を含む塩基配列をメチル化しすぐ不活性化してしまったから、それからは長く活動を押さえ込まれることになった。被展開体以上に、必要でもない介在配列(イントロン)をどっさり抱え込まされた対象の方こそ、いい迷惑と言えた」というような説明には、それとDNA生物はもともと関係あるものではなく(不必要な情報)遺伝情報もどきとして、それはそこに寄生したというような。それに共存の形の少なくとも幾分かはかなり最近、紀元前後ぐらいの出来事かのような印象もある。この辺りだけだと、最近共存するようになったのか、実質的にはもっと古くから不活性状態で共存していたのかは、判断が難しいかもしれない。
この話では、人類の生活に対応するような病原菌、ウイルスがかなりハイペースで出現しやすい現象に関して、進化論の観点から説明される場面もよくあるが、ここでの複雑な階層、選択淘汰などのように考えるべきか、興味深いかもしれない。
「個体素子の本来の仕事は、特定のタンパク質を順序よく合成していくことにより、自らを運び増やす4本足の巨大システムを建設すること」ともされているが……。

 サイバーパンク的に、(それが寄生していたヒツジの)生物ゲノムごとデジタルメモリに保存された 、不活性状態のそれが、情報生物として活動を再開するというのは、面白い設定と思う。
結果、ムフロン(Ovis gmelini)が進化した、異様に長いゲノムを持つOvis kyklopsの誕生も。物語的には、ここで羊を使う必要はないと思うが、この動物を選んだのは作者の好みなのだろうか。

アウレーリア一統

 『ドロテア・ワット』という、直径8キロほどの謎の領域の調査から始まる。
異様な植物がまとわりついているかのような謎の巨大物体。そこに確認される二重の円形をした都市などに使われる石材の放射年代測定によると、それは8500年前に造られた。この物語の100年くらい前となる、2150年頃に、木星の大赤斑(巨大な渦)の調査がきっかけで発見されたワットは、木星大気中で強力な大気循環流にさらされながらも、回転もせずに浮遊し続けている。

 そしてさらに後の時代で、ワットは、木星の大赤斑の中にあったというよりも、それを生成し維持していた装置だったかもしれないと、それがそもそもどこかに消えてしまったという謎とともに語られたりする。

 後の海の一族である、酸素いらずの昔も描かれる。しかしやはり彼らも人間の亜種であり、近い部分もあるとも。

 小惑星国家がたくさん作られた時代、 そしてワットのような、地球外生物の文明の可能性、いくつもの戦争などが描かれている。戦闘兵器に関しても様々なものが登場する。つまりミリタリー系描写が多め。

機械じかけの子息たち

 タンパク機械(プロトボット)は、人間と同じような新陳代謝をする。いくつかの説明、描写は文字通りの人造人間を思わせもするか。

 愛欲がテーマと思われる。いわゆる男女のベッドシーンの描写がかなり多い。単にそれだけでなく、異性への生理的欲望に関する神経系などの話も極わずかながらある。
案外、ここで描かれる世界観は興味深いかもしれない。性的快楽を満たすため、が重要な目的になったアンドロイドたちの領域。そういうテーマのゲームとかの世界観のよう、でもあるのかもしれないが、実際問題、こういうのを望んでいる人は結構多いだろう。それに、そういう欲望的な話を抜きにして考えても、攻撃的奉仕のニーズに応えるために用意された、そうした特殊性癖のものを除けば結構危険な『聖少女警察(バージンポリス)』とか、架空の世界観として魅力的なガジェットというか、真面目なコメディ的といえるような要素も目立つ。

 そういう営みなんてつまらないけど、結局いつも欲望に負けるというのは、個人的には人間的というより、現代的という印象。営みのパターン、プレイ自体と、それによって高まる快楽というような部分にも、結構強い興味関心が注がれてるように思う。
肉欲はどこに存在しているのかも。人間もロボットも体が全てではない、人間の肉の体の中には本質的な魂があって、ロボットには回路内の情報などがそういうものといえるかもしれない。そういうふうな仮説も示されている。だが魂を本質的な情報というものと区別する場合、それがどういうものと考えれるのか。

羊と猿と百菊の銀河

 個人的には一番面白く、一番興味深くもあった巻。

 被展開体とは、他者によって展開(ロード)されて初めて稼働することのできる何者か。そうした存在の冒険の話のよう。
被展開体は、その生態からウイルスのような存在とされてはいるが、あくまでそれ(ウイルス)とは別と考えれるような存在みたいな印象もある。知性体であり、そして普通の知的生物のように、学ぶことを覚えてしまうと科学を知らずにはいられないというようにも。

 地球より遠く離れた領域で発生した生命体、そしてそこから進化して誕生した、地球のサンゴといくらか似た特徴を持っている知的生物などの生活史などもいくらか出てくる。そして別の知性体ノルルスカイン、つまり後に旅立つ前の被展開体とのコンタクト。

 知的生物としてのサンゴ人に関して、脳のような中枢的な知能器官には頼っておらず、張り巡らされた神経系の総合動作をそのまま軸にしているような印象。光学システムが発達していて、対象の明度器官を撫でることによって、対話、と言えるような情報交換を可能にしたりもする。 また個体名、名前の概念を有しているのだが、それを身体的特徴によって定義づける。ようするに、文字や音声を(少なくとも日常的には)使うことのない(あるいは使わなくても問題になりにくい)知的生物がここでは表現されている。彼らにとっては、少ない情報を文字で簡単に表現する人間の方法の方が、とても回りくどく感じるというようにも。
またサンゴ人は移動するという概念も持たず、固着生物の知的生物進化可能性が示されているようにも思う。特にこの世界にしっかり、魚のような動物がいると思われることは重要であろう。

 紛れ込んだ不死の個体に関して、定期的に波によって多くの個体がその位置を変えるために、気づかれにくかったが、人口管理が重要視されるようになったために気づかれてしまったというのは、特に興味深いか。

 ノルルスカインは被展開体だが、まだ外の世界を知らない頃から、生物は短命で移り変わるものと長い時間をかけて認識するような、そういう特別な存在。(そこは普通の生物のようにと、されている)最初に発生した時を覚えてはおらず、それは自分が誕生した時の状態を自分なりに想像したりもする。サンゴ人たちとの関わりにおいては、その交流を楽しんでいるような面も。
もっと後には、同じ被展開体との交友すら描かれる。

 消えた個体が、世界天井に達したかもしれない可能性の話。 『光速足』を名乗る、 世界から世界をめぐり、その地に興味をもって紛れ込んだもの。など詩的で、いい感じに思う。

 ある惑星の環境において生命が誕生した場合、知性を得てからはその環境を出て、遠く他の惑星へと移住することも可能になるが、 移民から得られるメリットよりもたいてい大きくなるようなコストを、何らかの目的意識によりごまかしたとしても、移民のために必要な閉鎖環境のテクノロジーが移民の必要性をなくしてしまうという『移民のパラドックス』が示される。のだが、このパラドックスのためになかなか移民に踏み出せない種族は、攻撃型種族と関わりのないようなものだけという話が続く。攻撃型種族に関してもまたカテゴリー分けされているのも面白い。宗教的な目的やエネルギー確保の目的で普通に攻撃的な性格を有している種族。敵意があるわけではないのだが、結果的にその移民行為が侵略となってしまうような能力の種族。意志疎通が難しいために警戒がどうしても解けないような種族。

 あらゆる惑星から宇宙種となった生物は、(基盤が炭素かケイ素か、情報媒体の螺旋の次元数がいくらかも関係なくとされる)基本的にそれぞれの環境で生存競争を勝ち抜いた者たちであるから、そういう意味で似たような傾向もいくらか持ちやすい。その中でも特に特異的な存在としてオムニフロラが登場する。
植物体内で養分を運ぶための官と説明されている師官(植物の主要組織である師部を構成する主要な細胞)。オムニフロラは進化前は、その師官に関してちょっと変わってるだけのツル植物。師官は半導体結晶で出来ていて、やがてその部分に成分の濃淡が生まれ、電流と温度が影響を与えあう。またそれの星は空気が薄く、時間によって(恒星に対する惑星の動きによって)寒暖の差が激しい。つまり温度管理に長けた生物に有利な環境がそこにあった。オムニフロラも、体の各部の温度を自在に調節できるようになっていった。それはやがて、超流動の性質を持つ、つまり粘性が完璧な0である液体ヘリウム4を精製する能力を得た。それはどのような長い道官でも流れることができる。超流動を利用して養分を運べた。熱帯から極地へ養分を、極地から熱帯へアイスジャム(水域表面を覆う氷や雪が気温上昇で割れて流れたまり、ダムのように働いて、水をせき止める現象だが、別の意味と思われる)を送り、その生態系ネットを広げに広げ、ある惑星のすべてを支配しそうであった。それは1つだけの脅威。多くの生物がそれに次々寄生したが、他の何者も利用できない極低温の最速、そして最高のエネルギー効率の伝達官が、他の生物からのあらゆる破壊を無効化、あるいは修復することができた。
そして、本来は宇宙に出ようとする意志を持たない、あるいは持ちにくい植物であるオムニフロラは、被展開体のコントロールも受けて、宇宙種に。もはや植物でもなく、1つの巨大な生態系。それは何もかもただ取り込み、自らの存在のために生かしておくというような、そういうものになった。悪意とか善意とかそういうものではない、ただひたすらに全てを取り込み、巨大になろうとする何か。
情報生物すらも絡め取る、その恐ろしい存在に関する警告を必死に宇宙に広めようとする被展開体という展開は、すごく恐ろしいと同時に、興味深い。

 展開体を普通の生物とするなら、この普通の生物はどうも、地球生物を化学的存在としてみた場合に考えられる別パターンというだけで、それほど奇妙ではない感じである。一方で被展開体の方は、そういうふうに考えることもできなくはないが、かなり奇妙な生命というようにも思える。どちらと考えるにしても、ウイルスという存在がかなり興味深くなりそう。

宿怨

 ここまでに登場してきた種族群の、太陽系世界でのいざこざなどか描かれる。また人類種が、宇宙を飲み込んでいく巨大生態系オムニフロラの存在、それと敵対してきたノルルスカインの存在も知る。そして、ただ滅びに向かったと思われる太陽系。
1巻ではもっとも謎と言えたかもしれない、謎の知的生物イサリの出自も明かされる。

 体内の微小機械が、宇宙放射線によって損傷したDNAを修復するために、機能不全になりにくくした改造動物に関して。微小機械が生体システムの要素としてあり、しかしDNAから情報的に独立している場合、なかなかに面白いものかもしれない。
例えば、修復が物理的状態で表現されるようなゲノムなどのコードを再構築するようなものだったら、多量にあり独自ネットワークを築いているような印象のそれら微小機械自体が保有している情報は、どのくらいの物理的な場を占めているのか。

 人類(地球発祥生物)と系外知的生物との、公式記録に残った最初のコンタクトが、少しばかりおもしろおかしく描かれている。

 火星や小惑星帯に乱立していた小国それぞれで、食品自給ブームが起きた際、単一生物だけを増殖させることの困難があった。赤い雑草が星を覆い尽くすというレッドリート優先禍(ドミナンス)の被害に関しては、200年以上も火星の耕地的価値をゼロにしてしまうほど。そして感染症に対する警戒が人間と同じように、動植物にまで広められたとも。

新世界ハーブC

 言わばメニーメニーシープの始まりの物語だが、わりと不吉な感じが強く、今後の物語の雲行きを怪しくしている。

ジャイアントアーク

 前半はイサリの視点でのメニーメニーシープの物語。後半はメニーメニーシープに関しての真実がはっきりと示される

 被展開体による手助けが、その滅びの時まで続いていた種族は、どんな危機を迎えようとも、影からの手が助けてくれる。いつでも奇跡が守ってくれるような状態で、簡単に自滅するようになる。
少なくともノルルスカインのコントロールは、完全的なものではないことを思わせる。

 オムニフロラについて、広がり続けることを選んだというよりも、広がり続けることそのものが生存戦略かのように語られる。
つまりそれは、基本的に球体の形であり、直径が倍まで広がると表面積が4倍に増えるために、すなわち敵が4倍となる。だが体積は8倍となるため、さらにその倍の軍勢で敵を打ち取ることができる。だがここで問題がある。オムニフロラ自体が広がらなくても情報は広がっていく、そしてオムニフロラ以外はおそらく全てそれの敵といえるような存在。敵はどんどん増えていく、情報も球体に広がるから4倍に増えていく。オムニフロラが自身の広がるのを止めてしまったら、敵だけが増えてしまって、やがては数で負けてしまう。そういう理屈。
他にも、これに関しての話はやはり興味深い。知性は仕事をするかしないかという話では「オムニフロラに戦略はあるが、計画はない。無限に上限はない。それに対して知的活動は計量的で、計画の枠に縛られてしまう。望遠鏡をのぞき計算尺を滑らせることで予測と対処をすることは可能だが、知性にできることはごくわずか」
そしてそれは最初のひとつなのかどうか。宇宙にこれまで長い時間があったが、そんな生物がもしもありえるのなら、すでに宇宙全体を埋め尽くしていてもおかしくないではないか、という疑問も。

ヒトであるヒトとないヒトと

 メニーメニーシープと、滅びてしまったはずの太陽系の世界の再会の話。

青葉よ、豊かなれ

 ただ不死身のまま広がり続けることを覚え、進化を止めたオムニフロラ(ミスチフ)と、これまでそれに敗れてきた生物の戦いを、それをもたらしたノルルスカインと共に継いだかのような地球産生物たちと、いくらかの宇宙種族の、最終決戦的な最終巻。
あくまでも生物であるがゆえの遺伝現象を利用し、毒(武器となってる病原菌)を和らげるというのは、長い宇宙生命の進化の先の計画としては、はっきり言って微妙な感じかもしれない。
また、人工超新星爆発の連鎖による物理的爆撃攻撃は、すでにどこかで試みられているだろうとも。

 巨大ガス惑星の衛星マントル内、 水と硫黄と様々な鉱物質の塊に、周囲を巡る他の衛星の重力の影響、熱く溶けた岩漿がんしょう(マグマ)と熱水をこねて焼き上げ、温度と圧力の変化の中で気化した液体が重い岩漿を押しのけて空洞(晶洞しょうどう)を作り、流れこみ結晶化した熱水溶液の領域を泳いだ小さな硫黄トカゲが始まりだったという、エンルエンラという宇宙種族の説明がある。 
宇宙空間を翔ける金色の竜。硫化錫のと4価化合物の鱗で全身を覆った生命体。鱗のあちこちから純白の硫化亜鉛と、漆黒の硫化銀の魅偉かいい(立派)な角がそびえ、鱗の流れの隙間に金色のラムダ硫黄と褐色のミュー硫黄の肉が見える。温度によって流動性を変える硫黄同素体の相転移がその思考と代謝を形作る。
細長い体を捻じ曲げては、体内に蓄積した硫化窒素固体重合体の衝撃発火による青い爆炎で伸ばす。
種族全体の本体は高熱の硫黄天体エンル。その表面で、局地的な熱的ポテンシャルが高まった場合に個別の竜が飛び出すが、その際の大きさは、個体の熱量と意気込みによる。そして十分な歓喜と熱量を発散すると、冷え固まった体をエンル表面に墜落させて砕ける。
個体として飛び出ている時にもそれぞれの意識があるが、800億トンの天体質量のどこまでがはわからないような核の周りに、常時生成消滅する平均1000万体の竜たちの全ての情動の総合こそ、この種族全体の意思。

 エンルエンラ以外にも、いくつかの地球外生物種が登場するし、高次元領域の存在が示唆されたりもする。

 前作の、最終巻に向けての後書き的にも、作者の性愛への関心はかなり強いと思われるが、実際この作品全体からそういう印象もある。それだけならいいのだが、(人間の領域の中でそうだというだけとかならともかく)宇宙自体の中で、強力に作用する要素としてそれを扱っているかのような(印象受けるような)世界観は、さすがに好み分かれるんじゃないかと思う。
進化や神経系が生み出す幻想の可能性に触れながら、あまり大した根拠もなく、性愛を特別視しているみたいな感じすらあるかもしれない。