ペロー童話集
詩人、シャルル・ペロー(Charles Perrault。1628~1703)が、いろいろ世間に伝わっている話とかを、自分なりの童話として書いたものをまとめた本。
基本的には元の(聞いた通りの)話に、なるべく忠実になるようにしていたようである。
周囲の人とかに、「ここを削るべきだ」とか、「あの描写は長たらしすぎる」とか、いろいろと批判されたところもあるようだが、 結局人によって批判する場面とかも結構違ってたりするから、そういうアドバイスにはあまり縛られなかったらしい。
グリゼリディス
人の上に立つべき人に関して「神は大公を造る時、一度に授けた。世にもまれなもの、平凡な友人たちから大公を区別し、偉大な王にしか与えぬものを」と語られる。
キリスト教かはともかくとして、神が世界を創造した時に、すでに人間どころか、社会というものも存在していたようである世界観がここにはある。
遺伝学的な知識がある現代の我々からすると、少し違和感を感じるようなものだが、(おそらく)どの世代の大公も神から授かった様々な才能を持っている。何より優しく寛大な心も持っていて、国民を幸福にしようという名誉にも敏感。
だがその英雄的性質に影を落とすこともある。鬱になり、女性が不誠実で裏切り者だと思い込んだりもする。
この話では、女性という存在に対して疑惑を抱いている大公を、しかし後継ぎのために結婚させようとする家臣たちとのやりとりがあり、大公は、女たちについて長々と持論を語る。
「女というのは、家族のもとにいる頃は、仮面を被って可愛いらしく振舞うが、結婚までこぎつけるや、その家庭内で権力を握り、やりたい放題だ」というような感じ。
タイトルのグリゼリディスは、大公が一目惚れすることになった娘の名前。
幸せな結婚したと思われた2人であったが、大公の心に、再び疑惑が芽生えてしまい、妻となったグリゼリディスに対して、いろいろと冷たい仕打ちをする。しかし決して夫への愛を捨てず、それを神が与えた試練だとすら考えて、耐えていく彼女、という話。
ろばの皮
廐舎において、目立つ場所にいて、主人面をしているロバを、あたかも身分不相応というように表現している。
それはまた、このロバが比類ない功徳を有しているからこその名誉でもあると。汚物の代わりに金貨をひねり出すというロバ。
とある国の王が奥さんを亡くしたが、数ヶ月くらいたったら、悲しみもかなり消えた。 そこで新しい嫁探しを始めたのだが問題は、王妃と死ぬ間際にかわしてしまった約束。「王妃より美しく聡明な女性でなければ再婚しないこと」
そして結局、そんな相手は、王妃との間に生まれた自分の娘しかいないということになった。そうして娘に激しい恋心を抱いた父に対し、姫は恐怖も感じる。
そこで名付け親の仙女に、姫は相談した。仙女は、姫が結婚しないで済むように、色々と王様に対する難題を考える。しかし、王国の仕立て屋は優秀すぎて、空色のドレス、月色のドレス、太陽色のドレスという難題を、すぐさまクリアしてしまう。
仙女は「それなら、あの栄光えるロバの皮をねだれば」と最後の手段として考える。ロバは王様の最重要の資金源であり、その行為は全財産を捨てるようなもの、さすがにそんなことするわけがない。しかし、人間の恋心の強力さというものを、仙女たる彼女が見誤ってしまっていた、という展開はちょっと興味深いか。
そしてその後の、汚らしい女に変装し、ロバの皮をかぶって逃亡する姫様という絵面は、なかなかシュールなイメージ。
それから、ロバの皮と呼ばれるようになった姫は、偶然にその本当の姿を見た、別の国の王子の心も奪う。彼女に作ってもらったパンの中に入っていた彼女の指輪が、指にピタリとハマる女と結婚すると王子は言ったので、国中の娘が、怪しい医療技術や、物理的な切断などで自分の指をどうにか、その指輪に合わせようとする。が、誰も合いはしない。
もちろん指輪は、一番最後のロバの皮にぴったりはまり、そして自分の正体を明かした姫と王子は結婚、姫は長い時間の中で恋心は抑えられ、父親としての愛情を深めていた父とも再会するのである。
しかし、パンに入っていた指輪に関して、姫がわざと入れたのか、それとも偶然に落としたりして入ってしまったのか、という2つの説があると語られている。ペローはわざと入れた説を支持していたらしい。
愚かな願い事
タイトル通り。ある時に「3つの願いを叶えてやろう」と言われた 田舎者が、連続して妙なお願いをしてしまうというだけの話。
願いというのは順に「長いソーセージが欲しい」「女房の鼻をソーセージにしてほしい」「女房の鼻を元に戻してほしい」
ただ、その願いを叶える役目が、ギリシア神話のゼウスとも同一視すれる、ローマ神話の主神ユピテルということで、この話は、妙にスケールが大きくも感じられる。
最後には、憐れな人、無分別な人、軽はずみな人、落ち着きのない人、気の変わりやすい人は願い事をするのに向かない。と語られる。
眠れる森の美女
ある国で生まれた姫の洗礼式に、招待されなかった仙女に呪いをかけられて、紡錘(糸を紡ぐための器具)に刺さって死ぬことが決まってしまった姫。しかし別の優しき仙女が、姫が100年眠った後に、王子様が目を覚まさせてくれるようにしてくれる。
それで、彼女は眠れる森の美女となるわけだが、いよいよその眠りについてしまう時、宮殿から1万2000里ほど離れた、マカタンの王国にいた、優しき仙女は、小人からその知らせを聞く。その知らせを持ってきた小人は、七里の長靴、つまりそれをはいたら、ひとまたぎで七里をいける長靴をはいている。
招待されなかった仙女は、50年以上も塔に閉じこもっていたために、死んだか、魔法をかけられたと思われ、招待されていなかった。そして、元々招待されていなかったために、他の仙女たちに出されたような、純金の入れ物が一緒に置かれた食器を用意されなかったことを、バカにされたと感じたとされる。
また、七里の靴の七里とは、どのくらいの距離のことを意味しているのか、里は、翻訳の問題を考慮するとしても、普通に日本の距離の単位でも里か、あるいはマイルと思われる。とすると七里は27490メートル(7里)か、11265メートル(7マイル)ほどと思われるが、これだと、舞台となる国は、マカタンの国とやらから遠すぎるようにも思える。
しかし、1里を1メートルと解釈したって、小人がひとまたぎで7メートルとは驚きである。
100年経って、ある国の王子がその城に来た時。
すでにそれは廃墟となっていて、幽霊の出る古い城だとか、魔法使いたちが夜のサバトを開くための場だとか、人食い鬼が住んでいて子供をさらっては食べている、などの噂話が流れている有様となっている。
子供が読むことも想定してるだろうおとぎ話の中に、魔女のサバトが出てきているのは、年代的にちょっと興味深いか。
「黒魔術と魔女」悪魔と交わる人達の魔法。なぜほうきで空を飛べるのか 「魔女狩りとは何だったのか」ヨーロッパの闇の歴史。意味はあったか
お姫様は、後の色々な話でイメージがついてしまっているように、キスで目覚めるわけではない。王子が近くに来た時、普通に時が来たということで目覚める。
そして2人が出会えた時点で、めでたしめでたしというわけでもない。
2人は結婚したが、実は王子は問題を抱えていた。なんと彼の母は、王の財産目当てに王妃となった人喰い種族。
やがて王子は王となり、そこで母ももう手が出せないだろうと考えたが、甘く、王の留守中、人食い皇太后は孫たちに、王妃となった姫も食ってしまおうと考える。だが王妃らは料理長の機転で救われる。料理長は、彼女と子どもたちをかくまい、羊の肉を皇太后に食わせたのだが、彼女は見事に騙される。どうも人の味が好きといよりも、人を食う自分の残虐さが好きかのような描写がある。
しかし結局、騙されていたことに気づいた皇太后は、大きな桶に、汚らわしいとされる、ヒキガエル、マムシ、ヘビをいっぱい用意し、そこに王妃たちと料理長を落としてやろうとする。がぎりぎりのところで王子が帰ってきて、皇太后は狂ったのか、自ら桶に落ちるのである。
人食い皇太后は、その桶の動物たちにすぐ食われてしまったようだが、本当に、食われたのだろうか。
赤ずきんちゃん
これは非常に有名な話であろう。ただペローの童話集にあるこれは、ハッピーエンドではない。
かわいそうな赤ずきんちゃんは、オオカミが危険の動物であることを知らず、「どこに行くのか」とオオカミおじさんに尋ねられた時、素直に「おばあちゃんの家に行くの」と言ってしまう。そしてオオカミはおばあさんの家に先回りし、おばあさんを食べてしまい、そしてやってきた赤ずきんちゃんも食べてしまうという話。
これは、幼い女の子がオオカミに食べられてしまうという話なのだが、ペローは教訓として、オオカミと言ってもいろいろある。抜け目なく取り入って、愛想よく打ち解けて、そして若いお嬢様方を家の中、ベッドに誘い込む。優しげなオオカミ(と称される若い男)たちこそ最も危険である可能性が高いと語っている。
青ひげ
そのかっこ悪い青ひげのせいで、なかなか恋人に巡り会えない男の話。というように始まるのだが、実際は、彼は何度も結婚していて、そしてある時にまた結婚する。だがその妻は、彼が結婚した妻たちを何人も殺したという事実をすぐに知ってしまう。結局「お祈りの時間が欲しい」と時間を稼いで、駆けつけてくれた騎士の兄たちによって、青ひげ男は成敗される。
ペローは2つの教訓を語っている。
1つは、好奇心は誤解を招くのが常ということ。
そしてもう1つは、それも年代を考えるとなかなか興味深い。つまり、これが所詮は昔の物語であるということ。不平不満の嫉妬やきはいるかもだが、無理難題をふっかける恐ろしい夫などは、今は全然いない。妻の言いなりになっている情けない亭主ばかり。だから髭の色は何色であろうと、2人のどちらが主人なのかというのは判断に苦しむと。
猫先生。長靴をはいた猫
ある粉ひきが亡くなり、彼は、長男に粉ひき場、次男ぬろば、そして三男に猫を残した。
三男は「兄さんたちに比べても、自分はどうしようもない。猫を食べて、その皮でマフ(円筒形の防寒具)でも作ってから、飢え死にするしかない」と嘆くが、それを聞いた猫は真面目な顔で告げる。「ご主人、悲しまないで。私に袋をひとつくださって、藪の中に入れるような長靴を1足くだされば十分です。そしたら私が決してつまらない分け前なんかではないということがわかるはずです」
そもそも喋るのがすごいと思われるが、この猫は、足を引っ掛けて宙吊りになってネズミを捕らえたり、死んだふりをするのが非常に上手かったりといった、芸達者な猫とされる。
この猫先生はまず、森で死んだふりをし、あたかも袋の中に食べ物があるかのようにも見せかけ、ウサギをそこに入るように仕向けた。 というような方法で、ウサギを捕まえて殺しては、とある国の王様へと献上。「それはカラバ公爵(猫が考えた適当な名前)からです」と猫は語った。
やがて猫は、王様とその娘の姫が出歩く場所に、主人を呼んでおいて、巡り会わせる。さらには道行く人々を脅して、「自分たちのその土地がカラバ公爵のものだ」という嘘を強要。
実のところ、それらの土地は、立派な城に住んでいる変身能力を持った人食い鬼が支配していたのだが、猫はその城にも先回り、「どんなものにでも変身できると聞いたのですけど、まさか小さなネズミは無理でしょう」と煽って、鬼をネズミに変身させて食べる。
そして本当に広い領土を持った貴族になった、猫の主人は、元々彼の容姿がそれなりによかったこともあって、恋に落ちていたお姫様とも結婚。幸せとなる。
「シェイプシフター」神話の妖怪たち。霊的存在の実体。変身の魔法。
仙女たち
普通に結構恐ろしい話。
心の荒んだ母と姉娘、そして容姿も心も美しい妹娘がいた。
母は、自分と性格の似ている姉の方ばかりを可愛がり、妹の方はこき使っていた。
その妹の方は、ある時、水辺でみずほらしい姿の女性と出会い、水が欲しいと言うので飲ませてあげた。それは仙女で、美しい娘が気に入った彼女は、魔法で、その言葉の度に宝石が出てくるようにしてやった。
後からこの話を聞いた母は、姉の方にも、同じように水辺で汚らしい老婆に水をあげるように指示。しかし、姉の方に現れたのは、高貴な身なりの貴婦人で、彼女が水が欲しいと頼んでも、姉は相手が違っていると思って断った。
姿は違っていても、実は前と同じであった仙女は、姉の方には呪いをかけ、言葉の度にカエルやヘビが出てくるようにしてしまった。
妹は、母から責められ、家を追い出されたが、偶然王子様と出会って、結婚し幸せになる。一方で姉の方は、誰からも嫌われ、ついには母からも見捨てられて、1人孤独に死んでしまう。
喋るたびに宝石が出るというのも、なかなか大変に思えるが、その点に関して、苦労などは描かれない。
サンドリヨン。小さなガラスの靴
ある貴族の娘は美しかったが、彼が再婚した女は悪い心の持ち主だった。そして、その義母は、自分の実の娘たちばかり可愛がり、義娘には意地悪ばかりだった。
2人の義姉も、義妹をサンドリヨン(灰色娘。シンデレラ)などと呼び、こき使ってばかりいた。
ある時、貴族パーティーに出席する姉たちを見送った後、自分も出たいと考えていたサンドリヨンの前に、名付け親の仙女が現れ、美しく着飾らせてくれて、 時間制限付きだがパーティーにも出席できるようにしてもらえる。
この時に仙女は、カボチャを馬車に、ネズミをウマに、トカゲを召し使いに変身させている。時間制限は、つまり真夜中がすぎると、それらにかかった魔法が解けて、元の姿に戻ってしまうがゆえである。
美しい彼女はパーティーで話題をさらい、姉たちもその正体に気づかないまま、強い関心を抱く。
だがパーティーに2度目に出席した時は、彼女に夢中な王子と語らったりするのが楽しくて、ついつい時間を忘れてしまう。そしてふと我に気づいて逃げた彼女は、履いていたガラスの靴の片方をその場に残してしまう。
彼女に夢中だった王子は、そのガラスの靴が足にぴったりな女性と結婚すると宣言。当然、結果的にガラスの靴は、サンドリヨンの足にぴったりはまって、彼女は王子と結婚することになった。
また、パーティーで話題だった美しい彼女が、妹だと知った姉たちは、それまでの意地悪を詫びる。サンドリヨンも優しい心の持ち主だったから、姉たちも宮殿に住めるようにして、大貴族との結婚も取り計らってあげた。
これは、意地悪な姉たちまでしっかり救われるということで、特にハッピーエンド感が強い話になっている。
まき毛のリケ
他の話でもわりと、心の正しき者は、その容姿も美しいというような印象はあるが、この話は特に、容姿の美しさというものが、いかに人間の素晴らしい部分なのかということが、主張されてるようにも思える。
ようするにこの話は、容姿は醜いが、聡明で、しかも愛する者にその賢き知恵を分け与えることができる王子と、バカだが容姿は美しくお姫様が出会い、結ばれる話。
お姫様もお姫様で、愛する相手を自分にとって最高の美男子にすることができるという設定。
王子と姫どちらの特殊能力も、仙女の魔法のためという感じだが、姫の方に関しては、ただの愛の力というような感じの設も語られる。
しかし、「美しいことはとても大きな強みです。その他の全ての代わりとなれるほど」の王子のセリフに加え、美しい姉が知恵までも持つようになってしまったから、賢さだけが取り柄だった醜い容姿の妹の欠点が目立つようになり、もはやただのメスザルとまで書かれてるのは、なかなかに酷い。
それにしても、醜い容姿のものをバカにするように、サルとしているのは興味深い。
親指小僧
生まれたばかりの頃は親指みたいな大きさだったから、親指小僧と呼ばれていた7人兄弟の末っ子は、言葉も上手く喋れない子だが、実はとても賢かった。
彼らの家はとても貧乏だったから、ついに両親は、子供を捨ててしまうことを決意。
しかし、遠くの森に自分たちを捨てる計画を盗み聞きして知った親指小僧は、こっそりと目立つ白い石を 帰り道の目印代わりに巻いておいて 森の置き去りにされた後も 兄弟たちとともに無事に帰ることに成功する。
両親はその後もう一度、子供たちをもっと遠くの森へと捨てようとするが、その時は白い石が見つからなかったために、パンの欠片を巻く。しかしそれらのパンの欠片は鳥たちに食べられてしまって、今度は帰り道が本当にわからなくなる。
結局道に迷った親指小僧たちは、人里離れた一軒家を発見。そこには女の人がいたのだが、彼女は人喰い鬼の妻であった。彼女は子供らを一晩こっそり止めてあげようとしたのだが、帰ってきた人食い旦那は、子供達にすぐ気づく。
しかし、すぐに殺されるということはなかった。人食いは、子供たちを、後からやってくる人食い友達と一緒に食べようと決めたから。
親指小僧は、ちょうど自分たちと同じく、7人いた人食いの娘たち がつけていた冠を、彼女が寝てる間にこっそりとって、自分たちに被せた。人食いに、自分たちと彼女らを間違わさせるために。そしてその目論見はうまくいき、次の日に子供たちを殺そうとした人食いは、間違えて自分の娘たちを殺してしまう。
そして親指小僧たちはさっさと逃げる。怒った鬼は、もちろん子供たちを追いかけようとする
七里の靴がここでも登場している。ただ長靴とされていることから考えても、小人のものとはサイズ違いのよう。しかし鬼が疲れて寝てる間に、こっそり靴を奪った親指小僧がそれを履くと、それは小さくなって、小僧の足にぴったりはまるようにもなる。
仙女の魔法のために、履くものに合わせて大きさを変えるという説明もある。
とにかく親指小僧は、兄弟たちをさっさと家に帰し、自分は鬼から盗んだ七里の靴で、鬼の家に行って、靴を根拠として、自分は伝言を伝えに来た使者だと騙し、人食いが金を必要としていると語って、全財産をまんまと騙しとり、家に帰った。
さらに、親指小僧が財産を騙して奪うなんて卑劣なことをするはずがないと考える人たちがよく語るという、もうひとつの説も語られている。その場合、生きるために仕方なく靴を盗んだ親指小僧は、そのまま近くの宮殿で、飛脚として働いてお金を稼ぎ、家に帰ったという展開になる。