ペーパークリップ。紙を留める
ストレートピンの致命的な欠点
かつて、紙をどこかにとめておくために使われていた道具は、『ストレートピン』と呼ばれた、裁縫道具の待ち針とほぼ同じものであった。
「裁縫の基礎知識」道具や縫い方の種類とか
しかしストレートピンは、紙に穴をあけてしまうという、かなり致命的な欠点があった。
そこで、誰かが紙に穴をあけなくとも、とめられるクリップを開発した訳である。
ゼムクリップのゼムとは何か
ペーパークリップと聞けば、長円形の形を思い浮かべる人が多いと思われる。
長円形のものは、『ゼムクリップ』と呼ばれるもの。
ゼムとは、ゼム・リミテッドというイギリスの会社の名前からきている。
ただし、このゼム・リミテッドという会社自体は、クリップの開発に関与していないとされる。
その名がついたのは、一種の宣伝方法らしい。
ゼムクリップの発明者は、一説によると、ノルウェーのヨハン・バーラーという人。
彼は、1899年に、「針金などのバネ材料を長方形、三角形、あるいはフープ状に曲げて、それぞれの先端が、互い違いの方向に重なったもの」という特許を出願している。
しかし実はバーラーは、生前には、クリップの開発者としては全く認知されていなかったという。
しかも、そもそも彼の開発したその品は、明らかにゼムクリップとは違うという指摘もある。
また、そもそも、バーラーの特許出願と同じ1899年。
ウィリアム・ミドルブルックという人が、「ピンに代わって、 髪を挟んだり、まとめたりできる針金のクリップを、自動製造出来る機械」の特許を出願している。
その出願書に描かれた図のクリップは、ゼムクリップだという。
つまり、少なくとも、その時にはもう、ゼムクリップは認知されてた訳である。
チケットファスナー。バインディングピン
かなり確かな事は、ゼムクリップは、最初のペーパークリップではない。
1867年。
サミュエル・B・フェイは、布に穴を開けずに、チケットなどを留めておくための、『チケットファスナー』というものを考案した。
これは、針金を曲げて、それぞれの先端を交差させている留め具で、クリップの一種。
また、「適者生存(survival of the fittest)」という言葉を考案したとされるハーバード・スペンサーは、1846年に、「バインディングピン」という留め具を発明したと主張している。
画鋲。ブッシュピン。突き刺し張り付ける
ヨハン・キルステンの画鋲
ポスターなどを貼るのに使う画鋲は、描いている絵を留めるためのものとして発明されたとされる。
最もスタンダードな画鋲と言えば、針に円形の頭がついたものであろう。
それは、1902年、あるいは1903年に、ドイツの時計職人、ヨハン・キルステンが発明したとされている。
キルステンは、しかし、この画鋲のアイデアを、アルトゥール・リンドステットという人に売ってしまった。
その時には、この画鋲は、力を加えたらすぐに取れてしまう、欠陥品と考えられていたのだ。
アルトゥールは、しかし自身の工場の従業員達にも意見を聞いて、キルステンのアイデアに改良を加えて、1904年に、特許出願した。
キルステンにとっては、残念な事に、リンドステットは、その画鋲によって大儲けした。
しかし、今、画鋲と聞いて、普通にイメージされるような画鋲が、キルステンのものであったとしても、それは最初の画鋲だろうか。
実のところ、すでに、1826年刊行のオックスフォード英語辞典に、画鋲なるものの記述があるようなので、キルステンの画鋲が、最初の画鋲でない事は確実である。
また、キルステン型の画鋲にしても、ジョン・フライ・ヘザーの 1851年の本に、それらしきものが紹介されているという
エドウィン・ムーアのブッシュピン
平べったい円状でなく、シルクハットみたいな形状がついた針。
『ブッシュピン』は、1900年に、アメリカのエドウィン・ムーアが考案した。
彼は、写真の現像所に勤務していた人物で、ブッシュピンの最初の発想は、ピンにつまみを付けるというものだった。
彼はこのブッシュピン、の商品化をきっかけに独立し、ムーア・ブッシュピン・カンパニーを立ち上げた。
ブッシュピンは、抜き差しが簡単という点以外にも、もうひとつ、かなり重要な点で、キルステン型の画鋲よりも優れていた。
それは床に落ちている時の危険が少ないこと。
明らかなことである。
通常、キルステン型画鋲は、床に落ちている場合、針を上にした状態になっているから、何も知らない人が踏んでしまった時に危ない。
一方で、ブッシュピンは、針を上にした状態ではバランスが悪く、すぐ倒れるので、たいてい地面にある時は、横向きである。
だから、踏んでしまった時の危険性がかなり少ないのである。
ホッチキス。いつからブロックか
初期のホチキスは、ブロック状につなげた針など使われていなかった。
一度の使用に、一本の針しか装填できず、使用するたびに、針を新しく装填しなければならなかったのである。
1868年にアルバート・J・クレッツカーが特許を取得した、彼自身はクリップとしていた代物は、最初期のホッチキスとされている。
この頃のホッチキスは、セットした紙を、針の上に押し付けるという仕組みであった。
針を紙に打ち込み貫通させる仕組みで、 1879年に特許を取得したのは、ジョージ・W・マクギルという人。
彼のホッチキスは、商業的に初めて成功を収めたホッチキスでもあった。
その後、1877年に、ダニエル・ソマーズが、複数の針を同時に装填できる、スライド式ホッチキスを発明。
しかし当初は、針が一本一本バラバラの状態だったために、装填中によく詰まることがあった。
しかし、 1924年の『ボスティッチ・ナンバー1』以降、複数の針を接着剤でくっつけた状態で、装填できるようになっていったのだという。