「プラスチック」作り方。性質。歴史。待ち望まれた最高級の素材

プラスチック

プラスチックの意味

 プラスチックとは「自在に様々な形に作れる何か」を意味する英語である。
日本語では『塑』、または『塑性(そせい)』と書く。
これらはそのまま、生形時には好きな形にしやすく、固まると安定になるプラスチックの特徴を表している。

プラスチック開発小史

漆。漆器

 紀元前数千年くらいの遺跡に、石器や土器と共に『漆器(しっき。lacquerware)』が発見される事がある。
漆器とは、『漆(うるし。lacquer)』から水気を取り、顔料(水などに溶けにくい着色材)を混ぜ、乾燥によって硬くして作る道具である。
繊維や木材の損傷の酷さに比べ、漆は安定であり、重宝されてきたという。

天然樹脂。合成樹脂

 漆とは『天然樹脂(natural resin)』の一つ。
樹脂とは樹木の脂の事だが、カブトムシなどが群がるような樹液から採れる。
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漆は『漆の木』から採るから、漆である。
 例えば漆の木を見つけると、幹を傷つけて樹液を集め、採る。
この作業は『漆掻き』と言われている。

 樹脂は最初は、塗装や接着に使われるのが主な用途であったとされている。
問題は、形を変えやすく、腐ったり錆びたりもあまりしない。
こんな使いやすい材料であるのに、産出が乏しく、貴重である事だった。
 なんとかこれを簡単に大量に手に入れられないかと、誰かが考えた事が、『合成樹脂(synthetic resin)』、つまり人工的な樹脂、プラスチック開発の第一歩であった。

象牙を作ろうとしてたけど

 十九世紀中頃。
アメリカではビリヤードが流行しすぎて、当時、象の牙製であったビリヤードボールが不足してきていた。
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 その内に、ビリヤードボールの、象牙に代わる新たな材料発案に賞金までかけられ、印刷業をしていたジョン・ハイアットも賞金欲しさに、実験に励みだす。

 ある日、写真原版などに使われる、化学処理した木綿を溶剤に溶かした、コロジオンという液体を溢してしまったハイアット。
そしてその時は、コロジオンを溢した事にすら気づかず、次の日になって、ようやく彼は気づいた。
既にコロジオンは机の上で硬くなっていた。
そうしてそれは、まるで樹脂のようであった。
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セルローズ。セルロイド

 まったく偶然の、その幸運にあやかる事に決めたハイアット。
そうして彼は、木綿から世界初のプラスチック製ビリヤードボールを作りだした。

 彼が開発したプラスチックは木綿の化学名『セルローズ』から『セルロイド』と名付けられる事になるが、彼はこのセルロイドの液体を電球のガラス球に注ぎ固めて、ボールを造ったのだという。

化学的に見たプラスチック

半合成樹脂のキューピーとピンポン玉

 第二次世界対戦前。
日米間の不穏を少しでも消し去ろうと、セルロイド製人形が親善大使として日本に贈られた事もあったという。
そういう訳で、動揺にもその名を見せるセルロイドは、現在主流のいわゆる完全な合成樹脂ではない。
 それは天然の物を人工的に化学処理しているので『半合成樹脂』と言われている。

 合成樹脂は、かなり製作の初期段階から人の手が入る。
化粧用品や玩具、キューピー人形など、活躍したセルロイドだったが、現在は耐熱性が低いという欠点の為に、あまり使われなくなった。
しかし完全に使われなくなった訳ではなく、例えば卓球のピンポン球などはセルロイド製である。

熱硬化性プラスチック。熱可塑性プラスチック

 液状の材料を調合して型にはめ、加熱による化学変化で固めるという製法で作ったプラスチックを『熱硬化性プラスチック』という。
 化学変化の逆行は困難であり、熱硬化性プラスチックを原料に戻すのは非常に難しいとされている。

 熱硬化性に対し、既存のプラスチックを熱で溶かし、型に流して、冷却し再び固めて作られるのが『熱可塑性プラスチック』である。
こちらは品質安定で、再利用も比較的容易。
しかし、こちらは高熱で溶けてしまうという欠点もある。

高分子による分子構造。分子間力

 実際のところ、熱硬化性と熱可塑性のプラスチックの違いは何か?

 物質というのは、分子が繋がり合って出来ている。
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プラスチックを構成する分子は『高分子(macromolecule)』と呼ばれる比較的巨大な分子。
プラスチックはその高分子が、細長く繋がった鎖のような構成となっている。
 いわゆる『鎖状高分子』と呼ばれる、そのような形状では、大量の鎖や糸がすぐにそうなるように、隣同士の分子が絡まったりして、1本だけ取るのが難しい。
そして表面積が大きく、分子同士やたら接しまくっているので、『分子間力(intermolecular forces)』が強い。
プラスチックが水や油で溶けにくいのは、この分子間の強い結びつきの為である。

 温度が上がり、分子の運動が激しくなり、鎖状分子といえども、上手く絡まらないくらいまでになると、それが熱可塑性プラスチックの液体状態である。
 一方、熱硬化性プラスチックは、分子が網目構造の塊状で、鎖よりも分子同士が結びつく結合点が多い為に、さらに結びつきが強く、熱にも強いという訳である。

溶融と溶解の違い

 プラスチックの鎖状分子は、炭素原子が約0.15ナノメートルくらいの間隔で、繋がり合って出来ているという。
温度が上がると、高分子鎖は動きを激しくしていく。
しまいには、プラスチックは液状態になるが、この現象を『溶融(meltdissolve)』という。

 また熱を使わずとも、『溶剤(solvent)』と呼ばれる、化学的性質の似た液体に接触すると、溶剤が分子間の間に入る事で、分子同士を離してしまう。
人の目から見ればプラスチックは溶けてしまう。
このような溶かし方は『溶解(solution)』という。
 砂糖などが、その分子間に水分子が入る為に、水に溶けるのと同じである。

プラスチックが変形しやすい理由

 加熱して液体になりはじめても、まだ個体の部分が多い為にドロドロになったり、気体になる頃には分子の鎖が切れてしまい、再び冷やしても、前と同じ個体には戻れない。
そのような高分子に見られる特徴が、プラスチックにはそのまま表れる。

 鎖状構造の分子は『主鎖』と『側鎖』からなる。
例えばポリエチレンの場合は、鎖を構成する炭素が主鎖で、それにくっつく水素が側鎖となる。
そしてプラスチックの鎖状分子の大半の主鎖は、ポリエチレン同様に炭素である。
これは大半のプラスチックが石油から作られている為。

 とにかくそれで、だいたいのプラスチックの種類の違いが、側鎖の違いという事になる。
また、プラスチックのような鎖状高分子は、連結し合う主鎖に比べると側鎖同士の繋がりは弱く、比較的自由に動きやすい。
 また側鎖同士は反発するが、単純に数が増えれば、反発後、また新たな側鎖に近づいてしまう事が多くなってゆき、結局動かなくなっていく。
側鎖を大きくしていっても同じ事が起こる。
つまり我々から見たら、硬くなっていく。
 そして、そういう構造が我々が認識するプラスチックの、柔らかさと固さの二面性のギミックである。
だからプラスチックは変形しやすいのだ。

ポリエチレンとは何か?

 プラスチックの1種である『ポリエチレン』の1分子は小さいもので、1000くらいの炭素原子が繋がり、それに2000くらいの水素原子が結合して出来ている。
 空気中でポリエチレンを加熱すると、炭素と水素は離れ、それぞれが酸素と結合して、二酸化炭素と水蒸気を生む。
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 原子同士が結合する為の力を『手』と呼ぶ事があるが、この表現では、プラスチックに含まれる主な原子の手の数は、炭素が4。水素と塩素が1。酸素が2。窒素が3である。
 ポリエチレンは炭素の結びつきの鎖状だが、両端の炭素の3本、間の炭素の2本の余った手が、全て水素原子と結びついている。
 化学式は
H+(CH2)n+H
である。
Hが水素、Cが炭素、nには様々な整数が入る。

 つまりポリエチレンは、炭素原子と、そのほぼ倍くらいの数の水素原子で出来ている。
ポリエチレンの化学式で、nが1の時は『メタンガス』。
2の時は『エタンガス』。
3の時が『プロパンガス』。
12で『灯油』。
50で『ワックス』。
1000を越えれば『ポリエチレン』となる。

人の世界をどれだけ変えたか

 それが開発されてから、低コスト化などの目的でプラスチックに置き換えられたのは、多くの木材。
金属。
ガラス。
陶磁器。
皮革。
紙などで作られていた製品。
 さらにプラスチックによって開発されたものに、各種カード。
カセットテープ。
光ディスク。
ライター。
コンパクトカメラ。
シール容器。
モバイルパソコン。
ケータイ電話などがある。

プラスチックのコントロール

ビニル化合物

 側鎖を変えて、新たな性質のプラスチックを作る事はよくある。
しかし、その際には側鎖全てではなく、1つずつくらいを変えていく事も多い。
そうした方がコストが少なくすむのと、それで十分な効果を得られる事が多い為である。

 様々な側鎖のプラスチックを作るのに、石油、
H+(CH2)6+H
から
(CH2)2
、すなわち
CH2+CH2
を取り出す。
 この場合、主鎖である炭素は4本の手の内、2本ずつで結ばれた、『二重結合』という状態である。
 また、結ばれた手の内の1本を外した所に、新たな側鎖を入れるという方法がある。
1本外したら
CH2+CH2+x
という『ビニル化合物』と呼ばれる状態になる訳だが、x部分をさらに様々な側鎖に変えたりする。

エンジニアリング。汎用版

 プラスチックの、主鎖に炭素以外の原子を含めると、隣り合う原子を結ぶ手が回りにくくなり、分子の運動は不活発化して、実際的にはプラスチックは強固となる。

 機械の部品などに使われるプラスチックは、主鎖の中に、数個に1個くらいの割合で炭素以外が入っている。
外部からの力にも、熱にも、液にも強い、このようなプラスチックは『エンジニアリングプラスチック』と呼ばれる。
 それに対し、他のプラスチックは『汎用プラスチック』と呼ばれる。

ベンゼンは六角形

 エンジニアリングプラスチックよりさらに強い『スーパーエンジニアリングプラスチック』や熱に強い『耐熱性プラスチック』などもあるが、これらは主鎖にベンゼンという化合物が入れられる。
ベンゼンは化学式
CH6
で、六角形の形をしている。
 安定したベンゼンはこの六角形の形を崩さず、鎖の非常に大きな1欠片となって、全体の自由運動を許さず、物質世界での耐熱性を向上させる。

化学式による違い。ポリプロピレン。ポリエチレン

 主鎖が炭素のみのプラスチック、『ボリエチレン』が融点120度
主鎖が炭素+窒素の『ポリアミド6』が融点220度。
主鎖が炭素+窒素+ベンゼンの『アラミド樹脂』は融点450度にもなる。

 また同じ化学式であるのに、原子の配置が違う『立体異性』である為に、別の性能を発揮するプラスチックもある。

 『ポリプロピレン』はポリエチレンの側鎖の水素が、炭素1つおきに化学式、
CH3
の『メチル基』に置き換わった物だが、このメチル基の配置の違いでもまた、さらに3つの分類がされる。
 図などで表現される場合、メチル基が上か下かいずれかに位置している『アイソタクティック』。
メチル基が上下交互に配置されている『シンジオタクティック』。
メチル基がデタラメな配置の『アタクティック』。
以上の3つ。
 メチル基同士の距離が近いために、自由運動がしにくいアイソタクティックの場合が、特に強固となる。

結晶化させる

 分子鎖の配置などより、上手く側鎖が等間隔の距離で安定した状態を『結晶』と呼ぶ。
 プラスチックの結晶化した部分は、非結晶部分よりも遥かに使いやすいとされる。

 結晶部分と非結晶部分の境目では、光が屈折するので、不透明だったり半透明となる。
なので、完全に透明なプラスチックはほぼ確実に非結晶である。

 結晶化をコントロールする為の『結晶化核剤』という物質もある。
これは表面の形が分子鎖の周期に合わせデコボコした物質で、冷却でプラスチックを作る際に、導入する。
すると原子が、結晶化核剤の表面に合わせて規則正しく並ぶ。ここを基準とし結晶化を促す。
 また冷却速度を遅くし、分子が動ける時間が長い方が、結晶化しやすいとされる。

ポリマーアロイ

 単純に強いプラスチックと弱いプラスチックを混ぜて、普通くらいのを作ったりもする。
このような手法は、『ポリマーアロイ』と呼ばれる。
 ポリマーとは高分子の意味。
アロイは合金だが、これはこの手法が金属の合金製作方法に似ている為の名称である。

 ポリマーアロイを行う為には普通、『コンパティビライザー』という技術が必要である。
 これは単純に、異なる為に結びつきが弱い2つのプラスチック、どちらとも親和性の強い物質を含ませる事で2つのプラスチックの結びつきを強くする方法。
これを分子レベルで行うのを『共重合』といい、共重合により生み出される新たな高分子を『コポリマー』と呼ぶ。

カップリング剤

 プラスチックをさらに強化する為に、プラスチックとは全然異なる物を混ぜる事もある。
例えばアルミナやケイ素、炭酸塩などの無機物を混ぜて作られた『無機物強化プラスチック』などがある。
この際、プラスチックとの結びつきをよくする為に無機物の表面に塗られる薬剤は『カップリング剤』と呼ばれる。

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