「ファミコンブームの裏側の戦い」80年代のアーケードゲームとPCゲームの革命

アーケードゲーム

アーケードゲーム。ゲームセンターの変化

 アーケードゲームというのは家庭用でない業務用のゲームのこと。

 1980年代という時代。
任天堂のファミコンが一大ブームを巻き起こしていた頃。
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対照的に苦境に立たされていたのが『アーケードゲーム』だった。

 その理由は多くのアーケードゲームが家庭用に移植され、そういうゲームを楽しめる『ゲームセンター』の存在意義が薄れたというだけではない。

 実は1970年代の後半くらいから1980年代にかけては、世間で子供たちの非行が特に問題視されていた時期であった。
ゲームセンターは、その温床おんしょうとみなされるようになったわけである。
 そして夜間の営業禁止など様々な制限も付加されてしまい、この業界はさらに縮小していくことになる。

 しかし家庭用ゲーム機に対しアーケードゲームは、高いグラフィックやサウンド性能、処理速度などによって、家庭用よりも刺激的なゲーム体験を追及。
コアなゲーマーたちの心は、尚もゲームセンターを離れなかった。

ハングオン、アウトラン、アフターバーナー。体感ゲームの衝撃

 しかし家庭用よりも優れたゲームも、せいぜい1年か2年程度のもので、結局は多くのゲームが移植された。
この年サイクルに逆らおうとするかのように、徹底してアーケードゲームのみの楽しみを追求したメーカーの最大手が、「セガ」であった。
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 特に新進気鋭しんしんきえいだったクリエイター、鈴木裕すずきゆうがデザインした『ハングオン』は、業界に大きな影響を与えたとされる。
これは、実際のオートバイを模した筐体きょうたいを 左右に揺らしたりして 画面中のバイクを操作するレースゲームである。
ハングオンは、 いわゆる体感型ゲームの最初期作だった。

 セガの体験型ゲームはそれなりに成功して、次々とその派生が続いた。
シューティングゲームの『スペースハリアー(1985)』。
ハングオンの2とも称されるバイクレースゲーム『エンデューロレーサー(1986)』
自動車のレースゲーム『アウトラン(1986)』。
1986年の映画トップガンを参考にしたとされる、戦闘機体感ゲーム『アフターバーナー(1987)』など。

UFOキャッチャー。ゲームセンターのもうひとつの革命

 もうひとつ、アーケードゲームの歴史的文脈の中で非常に大きな意味を持っているのが、やはりセガが1985年に投入した『UFOキャッチャー』であろう。

 プレイヤーがボタンやスティックを駆使しクレーンを動かすことで商品ゲットを目指す、いわゆる「クレーンゲーム」というジャンル自体はもっと古くからあった。
その原点は1960年代とも1930年代とも言われている。

 しかしセガは、UFOキャッチャーという名で、そのクレーンゲームを ゲームセンターの代表として定着させたのである。
それはポップな雰囲気で、体感ゲームという新しい境地と共に、 ゲームセンターをアンダーグラウンドから 楽しい遊び場へと変化させる のに大きく貢献したと言われている。

ライトゲーマー、ハードゲーマー

 セガというメーカーはまた、ファミコン天下の1980年代という時代の家庭用ゲーム機の領域においても、『セガ・マークIII』というゲーム機で、ファミコンに食らいついていた数少ないメーカーでもある。
 セガのゲームは、万人向けの親しみやすい任天堂のゲームに対し、クールなイメージをブランド化して、コアなファン層を開拓していく。

 言うなれば、ファミコンの時代には、「ライトゲーマー」、「ハードゲーマー」という区分がすでにあったわけである。

 ただ、正確に言うなら、ライトゲーマー層の方こそ、任天堂を初めとする家庭用ゲーム機メーカーが新たに開拓した領域。
ニッチな遊びであったコンピューターゲームを、一般と呼ばれる幅広い層に最大限に広めることで、任天堂はゲーム戦争に勝利したとも言えよう。

オタクたちのPCゲーム

三つのジャンル。AVG、RPG、SLG

 家庭用ゲーム機の台頭は、PCゲーム業界にも大きな影響を与えた。

 アップルのようなPCメーカーの開発したOSは、大胆なビジュアル操作でコンピューターを扱うハードルを低くした。
しかし、それは本質的にエンジニアではないパソコンユーザーが増えることを意味した。

 そしてファミコンでそれなりのゲームが気軽に遊べるようになった1980年代以降は、もうごく簡単なプログラムのゲームを個人開発するような意義は大きく薄れた。

 結果的に、PCに求められたゲームは、その時々のゲーム状況をセーブしながら、長期的に楽しむことができるようなものだった。
ジャンルとしては基本的に「AVG(アドベンチャー)」、「RPG( ロールプレイングゲーム)」、「SLG(シミュレーション)」の三つが、PCゲームのスタンダードになっていく。

かつてのエニックスとスクウェア。美少女とSF世界

 特にPCゲームの領域において1980年代後半のアドベンチャーゲームの進化は注目すべきだろう。
グラフィック性能の向上によって、アニメの影響か、ようやく人の趣向性に機械の表現が追いついてきたのか、とにもかくにも二次元の美少女が多くのPC ゲーマーたちの心を虜にしていったのである。

 ところで、この時代のオタクたちの心には、美少女ともう一つ、ロボットやSF的世界観への愛もあった。
ウィリアム・ギブソンの「ニューロマンサー(1984)」の出版により、サイバーパンクというジャンルがSF業界に登場したのもこの時期なのだ。

 ニューロマンサーは、電脳空間をテーマとしたSFの金字塔的作品である。

 そして、美少女キャラとロボの要素を組み合わせた作品群の最前線にいたメーカーが、実は後にドラクエやFFで名をあげる、エニックスとスクウェアだった。
エニックスの『ザース 人工頭脳オリオンの奪還(1984)』と、スクウェアの『ウィルザデストラップⅡ(1985)』はそのような方向性の作品の先駆けであった。

家庭用ゲーム機への、PCゲームの更なる影響

ウィザードリィ、ウルティマ的ゲーム

 コンピュータRPGの元祖はTRPGであり、 どちらにせよそれが誕生したのはアメリカにおいてである。

 日本最初のRPGは、「テトリス」の話でも有名なヘンク・ブラウアー・ロジャースの『ザ・ブラック・オニキス(1984)』という説がある。
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また同年の『夢幻むげんの心臓(1984)』は、後に一大ムーブメントを引き起こすドラクエの原点ともいえるようなインターフェースをすでに備えている。

 ブラックオニキスや夢幻の心臓は、海外の『ウィザードリィ』や『ウルティマ』を参考にしているが、それらに比べると、より効率重視とも言われる。
アメリカのタイトルでは、例えばウィザードリィは一人称視点の画面、ウルティマは完全にプレイヤーとキャラクターを別物として切り離した神視点での画面を、徹底している感があった。

アクションRPGの誕生。日本におけるRPGの進化

 日本は芸術に関する自由度が高いという説があるが、RPGではまさに自由。
画面のビューを複数使い分けたりする変幻自在のシステム表現で、例えば一人称視点でありながら、神視点のパラメーター表示などを実現させた。
技術の問題というよりも、単に発想の問題であったが、とにかくJRPGははなから独自の方向性を突っ走ろうとしていたとも言えよう。

 また日本においては、『ドラゴンスレイヤー(1984)』や『ハイドライド(1984)』のような、経験値を貯めてレベルを上げることでステータスを強化したりするなど、海外産のRPGの要素に加え、若干のアクションやパズル要素を加えたPCゲームも登場。
これは単純にまだ馴染みの薄い海外的要素に、日本でもすでに親しみやすかった要素を合わせたものであろう。
しかし、そこから結果として「アクションRPG」というジャンルが誕生したわけである。

「ゼルダの伝説」の伝説。ディスクシステムの衝撃

 RPG要素を含めたアクションというゲームシステムと、さらに任天堂的キャラクターを融合させることで、家庭用機に華々しく登場したのが『ゼルダの伝説(1986)』であり、 この類のゲームは大きな人気を得ることとなった。

 任天堂も、従来の家庭用機のROMカートリッジ容量では実現できない、壮大な世界観やストーリーのPCゲームが、人気を増していることには気づいていた。
 そこで、 1986年2月に新たに投入されたのが『ファミリーコンピュータ・ディスクシステム』という周辺機器である。
これは、当時は高級品だった「フロッピーディスク」の安い代用品として、ミツミ電気社が開発した「ディスクカード」という記録メディアを利用したシステム。
ROM外部のディスクに記録されたデータを、必要に応じて読み込むことで、PCゲームのような大容量の作りのゲームを、ファミコンで実現するというものである。

 ゼルダの伝説は、そのディスクシステム本体と同時発売されたゲームであり、最大に成功した作品でもあったと言われている。

 しかしそのシステムは、後から見ると実に見事であったとしか言いようがないだろう。
従来のスーパーマリオ的なアクション性を取り入れながら、画面形式をトップビューにして、好きな方向へ行けるという自由性がRPG的冒険感を演出。
さらに、ボスを倒したりした時に入手できるアイテムによって、体力最大値や攻撃力が増えるという、やはりRPG的なキャラクター成長要素の大胆な解釈。

 このゲームが後世に与えた影響の大きさは、まさしく伝説的であろう。

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