「巨人の星シリーズ」どこか楽観的、地球外生物ガニメアンとの友情SF

楽観的な未来世界的と呼ばれるSFシリーズ

 地球の知的生物や、小惑星群などの発生に関して、ガニメアンという異星人の知性を絡ませたSFシリーズ。

 テクノロジーが進んだ未来世界に関して、かなり楽観的な見方をされている。
科学のおかげで賢くなった人類は、戦争癖を克服し、その好戦的な性格を全て、人類の社会のさらなる発展のために利用することを覚えているという、ある意味でトンデモな世界観。
これが、遥か未来とかならともかく、なんと22世紀ぐらいの設定である。
また、物語に登場する、異星人の知的生命体ガニメアンも、結果的にはかなり人間に友好的な存在であり、あっさりとよき友となる。

 それと、もともとこのシリーズは「星を継ぐもの」、「ガニメデの優しい巨人」、「巨人たちの星」の3部作で、その後しばらく期間をおいてから、4作目である「内なる宇宙」が発表されている。
そのため実質的には、3作目の「巨人たちの星」で、一旦物語は完結というふうな感じにはなっている。
4作目は、管理システムの原理的要素から自然的に生じた、新しい別宇宙の存在を描いた内容で、ファンタジー的演出の増加など、続編ではあるが、単独作品感は強い。
ただし、それでもやはり続編ではあるし、それまでの作品で出てきた要素が再利用されているところも多いので、4作目のみに興味がある場合でも、やはり1作目から順当に読んでいくのが無難と思う。

星を継ぐもの。地球の知性の起源の謎

 この作品は純粋なSFと言えるであろうが、ミステリー小説のようでもあると言われるように、この1作目は特に、序盤から次々と明らかにされていくいくつもの謎に関する、科学者たちの議論シーン、推理シーンが、内容の大半となっている。

 例えば月面で発見された、チャーリーと呼ばれる謎の人物の遺体が、おそらく5万年前に死んでいるにも関わらず、高度な科学力を有していた謎。さらには、進化系統的にそれは明らかに地球の人間と同種と考えられる謎が、特に重要なファクター(要素)となる。

 ただ、主に作品の主要テーマと言えよう、小惑星帯や月の起源。
それに、人類種のミッシングリング問題に関して、様々な解釈を与えられてはいるが、おそらく当時の知見的にすら、あまりリアリティが感じれるようなものではない。
つまりそういうのを求めるような小説ではない。
むしろそこは、純粋に空想科学を楽しめる内容となっている。

人類が自力で獲得したテクノロジーか

 後のシリーズにはほとんど出てこなくなるものだが、ニュートリノ物理学を原理として利用した、読み取り(スキャニング)システム、あるいは『トライマグニスコープ』という装置はちょっと興味深い。
「テレビ」映像の原理、電波に乗せる仕組み。最も身近なブラックボックス
 ニュートリノのビームが個体を通過する際、原子核の近くである種の相互作用に影響を受け、そこを通過したビームに測定可能な変化が生じることが立証されている。
その変化の読み取り調整を、三次元の各方向からそれぞれ行なって、得られた情報を同調させることで、対象物体の内外かなり深くに関する観察を実現しているシステム(装置)という設定である。

 このようなテクノロジーというか物理知識は、2作目以降の、より進んだ科学力を持つ異星人たちとの接触によって、完全に崩れてしまうという展開のため、この作品の中で描かれる、人類が完全に自力で得た科学知識やテクノロジーは、ある意味この1作目の、最大の特徴と言えるかもしれない。

ガニメデの優しい巨人。優しい世界観でのファーストコンタクト

 1作目にて、小惑星帯や冥王星の起源となった、今は崩壊してしまった惑星ミネルヴァに、もともと生きていた知的生物ガニメアンも、いよいよ本格的に登場する2作目。

 時空間に関するトラブルにより、2500万年(の20年)を飛んできた、ガニメアンの宇宙船シャピアロン号の船員たちと、地球人たちとのコンタクトを主に描いている。
時空の歪み 「特殊相対性理論と一般相対性理論」違いあう感覚で成り立つ宇宙
 前作では明かされなかったいくつかの謎。
地球生物がミネルバで進化した理由。
月が地球の衛星となった経緯なども、今作で明かされる。

今作はガニメアンたちが主役

 今作で特に注目すべきは、(後のシリーズで判明する事実なので)そもそも自分たちの種族が生き残っていることを知らない、過去のガニメアンたちの、様々な心理的側面が描かれていることであろう。
むしろ今作に限っては、シャピアロン号の船長ガルースがかなり主役的である。

 彼らが、完全に地球に対応して、地球で暮らすifの未来も想定できるような描かれ方が、個人的にはとてもよかった。

 地球生物に関しては恐ろしいというイメージが根強いガニメアンたちが、最初警戒するくらいで、とても楽観的というか、いわゆる優しい世界観の中でのファーストコンタクトが描かれている(厳密にはファーストコンタクトなのか微妙だが)。
知的生物同士の接触とはこうあるべき、という作者の理想だろうか。
「宇宙生物が地球に来る目的」いくつかの問題点、ロボットの可能性

巨人たちの星。後に架空戦争と呼ばれる、平和のための戦い

 シリーズ全部の中で、おそらく最も戦いを描いているという感じの話である。
後の時代に、架空戦争と語り継がれることになる、賢くなり内戦をやめた地球人、穏健派知的生命体のガニメアン、両方にとっての共通の敵との、ある種の同盟戦のようなものが描かれている。

 前回までは、地球人がどのような形で、知性を持つに至ったのかということが、謎要素の主軸であったが、今作は、その歩みの過程が重要となってくる。
何者かが地球を監視し、その発展状況などをコントロールしているのではないか、という、さらに次作品のテーマに通じるような話も、(微妙なところだけど)あったりする。

 今回は、特に前回登場した、過去のガニメアンの宇宙船シャピアロン号ですら、もはや旧時代のシステムとして描かれる。
移住先の星で、さらに科学を発展させたガニメアン等の様々なハイテク技術が登場するのである。
そもそも争い合う必要すらもないくらいに、宇宙には無限に資源として利用できるエネルギーが存在しているとは、前の作品からすでに語られていることだが、今回は特にブラックホールや、それでなくとも特異的な重力場など、まさしく宇宙を利用した、と言えるようなものが多い
ブラックホール 「ブラックホール」時間と空間の限界。最も観測不可能な天体の謎 「ホログラフィック原理」わかりやすく奇妙な宇宙理論
それらの辺りも結構楽しい。

コントロールされたためか、コントロールされてただけか

 1作目からの流れからして、地球の科学の歴史の流れが、すべてコントロール下のものにすぎず、本来からして、地球人はある程度賢かったのかどうか、と考えてみるのは、なかなか興味深いかもしれない。

 つまり1作目と2作目の話の印象的には、本来好戦的な種族であるはずの人間であるが、地球人に関しては、自滅しかけたところでかなりギリギリで踏みとどまることができた。
ついにその争い癖を克服することができた、というように描かれている。
しかし今回の話的に考えると、それはただコントロールされていたからだけ、というような印象もありうるのだ。

 もちろん2作目の、過去からさ迷ってきたガニメアンとの、誰も予想してなかった接触。
それをきっかけとして、コントロールが結果的に外れた地球人は、その理由はどうあれ、ずる賢さを残してても平和を維持できるような種族として描かれている。

時空の特異的な変化に関する描写

 時空間ジャンプした場合での内容が、矛盾のないように描かれている。
つまり決定論的な条件的に描かれている。
ミネルヴァの歴史の要素として、終盤に時空を超えた、あるキャラクターが関連しているということはほぼ間違いない、というような感じで描かれているのだ。
おそらくこの小説の世界観においては、誰かが時間を超える場合すらも含めて、最初から宇宙のシナリオの一幕というわけである。
これは多くの時間もの小説で描かれてきた、矛盾をないようにするための典型的アイデアだが、いくら考えても興味深い内容ではある。

内なる宇宙。サイバーパンク的要素を取り入れた意欲作

 もともと作る予定でなかった続編だから当たり前なのだが、後付け的な設定がわりと多い。

 このシリーズ内での斬新な要素として、宇宙プログラム説のガジェットが、ジャンル的にはサイバーパンク的な要素が追加されている。
この新要素に加えて、地球生物の歴史に関する謎要素などは、せいぜい神話が別宇宙起源説とかが語られたりするくらいで、ほぼなくなっているから、雰囲気的にも、以前からガラリと変わったものになっている。
「宇宙プログラム説」量子コンピュータのシミュレーションの可能性
 ところで、「こんなバカげた話は聞いたことがない。データ処理の抽象概念から物理学をでっちあげるなんて」という作中のセリフは、生命体、あるいは物質の根源の謎を見事に要約してると思う。
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