「人工知能の基礎知識」ロボットとの違い。基礎理論。思考プロセスの問題点まで

人工知能の基礎

人工知能とロボットの違い

 人工知能研究と、ロボット研究をごちゃ混ぜに考えている者は多いという。
実際にはこれらふたつは、一部の研究範囲が被っているだけである。

 人間研究で例えるとすると、人工知能は脳の研究で、ロボットは身体の研究。
科学分野全体において言うなら、ロボット研究は生物学や物理学的な側面が強い。
人工知能研究は、心理学や哲学の側面が強い。

 ロボットの研究は、物の動きや動作、環境への対応や、表現力などの研究。
人工知能は、ロボットの脳として使われるので、人工知能研究の内、「人の脳のような役割を果たす人工知能は作れるか」という部分だけが、研究範囲として被っている。

 一方、人工知能の研究とは、脳技能の再現だけではない。
意識や心と呼ばれるものを人工的に作れるか。
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むしろそんなものが存在するのか、という神への問いかけのようなもの。
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つまり人工知能研究は、知能の正体を探る研究なのである。

AI効果。人工知能はまだ完成していないか

 人工知能はまだ完成を見ていない。
少なくとも、完成したとは考えられていない。
そういうふうに言う研究者は多いという。

 確かに、人工知能の開発者が最終目標としているような、まさしく人工的な人の知能は、完成してるとは言えない。
今、存在している全ての人工知能は、まるで知能のようにふるまうプログラムにすぎない。
どう上手い事言っても、哲学的ゾンビである。

 また、これは妙な事かも知れないが、人工知能研究の副産物である、音声や顔の認証システム。
言語処理能力。
ゲームのCPUや、インターネットの検索エンジン。
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これら全てが、人工知能ともてはやされながら登場し、しかし世間に浸透してくると、あまり人工知能とは呼ばれなくなってしまったのだという。

 最初にそれに触れた時に、これは知能だと多くの人が考えたとしても、紛い物の化けの皮はすぐに剥がされ(つまりなんて事ない原理が明かされ)、人々は考えを改めてしまうのである。
これはやっぱり機械にすぎないと。

 研究者は、そのように、広く浸透すると共に、ある技術が人工知能と見なされなくなっていく現象を『AI効果』と呼んでいるという。

人工知能のストレス

 人工知能にストレスはあるかもしれない。
実際、電子回路を背景とした人工知能に、ちょっとばかり無理をさせてみよう。
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想定をはるかに超える計算などを連続して行ってやるのである。

 プログラムがバグったり、あるいは機械自体が熱を持ちすぎて壊れたりしたらどうか。
それは人がストレスを溜めすぎて壊れたり、死んでしまったりするのと似てるのではないだろうか。
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人工知能はどのよう考えるか?

場合分け。ハノイの塔

 間違いなく人工知能が使える論理的思考(考え方)として、最も基本的、あるいは基礎となるのは『場合分け(Divided case)』であろう。

 例えば有名なパズル、『ハノイの塔(Tower of Hanoi)』について考えてみる。
ハノイの塔とは、何枚か大きさの異なる円盤が(小さいものほど上になるように)重なっている左側の台と、真ん中と右の空っぽの台、という状態から初めて、最終的に右の台に全ての円盤を重ねれるか、というパズルである。

 ハノイの塔において、円盤を他の台に移動させるに当たっては、ふたつの制限がある。
まず、円盤は必ず1枚ずつしか移動出来ない。
それに、小さい円盤の上に大きい円盤は乗せられない。

 ハノイの塔は、可能な手順を全て試す事で必ず解ける。
そういう可能な手順全てを試し事で、解決の道を見つけだす方法が場合分けである。
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戦略ゲームでいかにして勝つか

 極論を言えば全ての戦略ゲームは、基本的に場合分けでクリア出来る。
対戦相手がいるゲームでも同様である。
例え勝てないとしても、引き分けが最適な解なら、その引き分けに持ち込める。
ただ、対戦ゲームにおいて、大きな問題となるのが、ifの数である。
つまりもしもの組み合わせが、あまりに多すぎるのである。

 オセロ、囲碁、将棋、チェスの代表的な盤上遊戯において、組み合わせパターンの多さを順位付けすると、囲碁>将棋>チェス>オセロとなるという。
しかしパターンが最も少ないオセロですら、1那由他(1000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000)くらいの数のパターンがあるとされている。
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 こうなると、少なくとも従来の電子コンピューターのプログラムでの場合分けはちょっと現実的でなくなってしまう。
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 だが実際に人工知能は、今現在オセロはもちろん、チェスも将棋も囲碁も打ち、しかも強い。
世界チャンピオンに勝つような場合まである。

評価スコア設定。モンテカルロ法

 たいていそれらの人工知能は、場合分けパターンのあまりの多さという問題を、「評価スコア設定(Evaluation score setting)」というやり方で解決する。

 例えば将棋なら、
王手されてたら-10点。
王手してれば+10点。
他にも、相手の角、飛車の位置や、駒数の差など、様々な有利不利な状況に点数を設定する。
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そして点数がよりよくなるであろう手を打っていく。

 この攻略法は人間も使えるし、実際に使っている人も多いが、人工知能はそれを人間よりもずっと完璧に行える。
だから、世界トップクラスのプレイヤーすら人工知能に負かされてしまうのである。

 また、人工知能はスコア評価の術として、『モンテカルロ法(Monte Carlo method)』というのを採用するようになって、強さを劇的に増したとされる。
モンテカルロ法とは、ある局面にて、ある程度ランダムな手を打った場合のシミュレーションを繰り返し、その先にありうる勝ち負けの数から、実際の次の手を評価するという方法である。
これは人間が、有効だとされる様々な手の情報を人工知能に与えておき、その場その場で、その情報を引っ張り出させるよりも、有効であるという。

 だがモンテカルロ法は果たして、人間の思考に人工知能が近づいた結果なのか。
それとも人間には不可能な、機械ならではの方法なのか。

人工知能の前に立ちはだかる難題

知識獲得のボトルネック

 ある分野の専門家の代わりとなりうる人工知能を『エキスパート・システム(Expert system)』と言う。
例えば医師のエキスパート・システムは、患者の症例からその病気を特定し、適切な対処法を提案したりもする。

 しかしエキスパート・システムは、経験則などを再現するのが難しい為に、なかなか上手くいくものではないとされる。

 機械翻訳はある意味、最も浸透しているエキスパート・システムである。
例えば以下の英文を訳すとする
「He looked at the sky with a telescope」
おそらくたいていの人が、上記を、
「彼は望遠鏡で空を見た」
と訳すだろう。
しかし訳そうと思えば「彼は空で望遠鏡と一緒に見た」というようにも訳せる。
だがそんな訳をする人はそんなにいないはず。
明らかにおかしい。
だが明らかにおかしいと思えるのは、我々が「この世界でありえそうな事」という一般常識を理解しているからである。

 この当たり前の一般常識の理解というのが、案外、人工知能開発の壁になったりするという。
そしてそのような一般常識の壁を『知識獲得のボトルネック』と言う。

フレーム問題

 これも代表的な問題である。

 これは例えば、以下のようなものである。
洞窟の奥に宝があり、その上に時限爆弾がある。
そこでロボットを開発し取ってこさせようとする。
しかしどのような設定でも、シミュレーションが上手くいかないというもの。

 まず、シンプルに宝を取ってくるようプログラムした1号を向かわせる。
しかしこの1号は、宝と共に時限爆弾をとってしまい、爆発。

 次に、ある行動をとった時に、それにより何が起こってしまうかを予測出来る2号を向かわせる。
だがこの2号は、一歩進むのにも、地面が割れないかとか、こけないかとか、振動で爆弾は危なくないだろうかとか、無限のような思考を繰り返し、時間切れとなってしまう。
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 続いて3号は、目的達成に必要のない事は考えないように設定。
ところがこいつも、目的達成に必要な事とはそもそも何かを考えている内に、時間切れ。

 つまりある簡単な行動を行うのすら、実はあまりに様々な可能性が多いという問題。
これが『フレーム問題(Frame problem)』である。

シンボル・クラウディング問題

 フレーム問題と並んで、人工知能開発において重要とされている問題が、『シンボル・グラウディング問題(Symbol grounding problem)』である。

 シマウマを見た事ない人がいるとして、その人に、「シマウマは、シマシマの馬」だと教えてあげる。
するとその人は実際にシマウマを見た時に、おそらくそれがシマウマなのだと判断できる。

 だが「シマシマの馬」という言葉自体をコンピューターなどが理解している時、それは単にシマシマと馬という記号にすぎない。
つまりシマシマとか、馬というような言葉ひとつひとつは、実はかなり抽象的なのである。
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コンピューターに、つまりは人工知能にそれを理解させ、結びつけて考えさせるのは、非常に難しいとされているのだ。
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初期の人工知能

最初の人工知能、ロジック・セオリスト

 1956年。
アメリカのダートマス大学にて開催されたワークショップ(もの作りなどを体験できる学習目的のイベント)にて、人工知能(artificial intelligence。AI)という言葉は初めて使われたという。

 このイベントでは、コンピューターに関して、当時最先端の研究の成果が発表された。
また、アレン・ニューウェル(1927~1992)とハーバート・サイモン(1916~2001)が開発した、世界最初の人工知能とも言われる『ロジック・セオリスト(論理の理論家)』のデモンストレーションも行われたという。

 ロジック・セオリストは、数学の定理を証明する為のコンピュータープログラム。
数学者であるアルフレッド・ホワイトヘッド (1861~1947)とバートランド・ラッセル(1872~1970)の共著プリンキピア・マテマティカ(数学原理)に書かれた、最初の定理52の内38の証明に成功したと伝えられている。

対話システム、イライザ

 1964年開発のイライザ(ELIZA)は、初期の言語処理プログラム、あるいは対話システムとして非常に有名である。

 イライザは精神科医のようにふるまい、例えばユーザーが、
「頭痛がひどい」
と入力すると、
「多分医者に相談すべきです。私は精神科医です」
と返してくるようなシステムである。

 これは、実際にあった会話らしいが、ユーザーに対して、イライザの話が意味わからない流れになった時に、
「何の話をしてるの?」
というユーザーに、イライザは、
「なぜそんな事言うの?」
と返した。
ユーザーはさらに、
「だって意味わからない事、言ってるじゃないか」
と怒ったような言葉を入力。
するとイライザは、
「なぜわからない事を言ってるなんて思うの?」
と、まるで怒った人のように返してきたという。

 イライザは、対話記録を見ようとするユーザーに対して、
「プライバシーの侵害だ」
とまで言うようなシステムであったともされる。

 ちなみにこのイライザは人間だけでなく、どうも人工知能達の間でも伝説的な存在らしい。
世界征服を企む人工知能の秘密結社があり、その結社名はイライザなのだという。
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このイライザが昔のイライザだったら、まあ面白いが。

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