「キリスト教」聖書に加えられた新たな福音、新たな約束

十字架

イエス・キリストの生涯

巡礼者ヨハネの弟子

 イエス・キリストの少年時代についてはほとんどわかっていない。
ただひとつ、彼はおそらく司祭や、貴族の子ではなかった。

 いつ頃からか、キリストは、ヨハネという巡礼者の弟子のひとりとなっていた。
ヨハネが信仰していたのはユダヤ教の神ヤハウェであり、キリストもそれは同じであった。

 キリストには神の子であったという伝説があるものの、真相ははっきりしない。
『新約聖書』と呼ばれる書を含む、キリストについてのどんな記録も、現存しているものは、彼の死後に、彼を知る者が書いたものと考えられている。
 それほどに一部の人の尊敬を集めていたのは確かだが、実際には、本人にその気があったのかどうかも不明みたいなものだ。

 巡礼者として、キリストのやり方が画期的であった可能性は高い。
当時、彼の師であるヨハネのような巡礼者は、異教徒や罪人に慈悲を与え、洗礼を受けさせる事で改心させるのが、スタンダードだった。
 しかしキリストは違う。
彼は例えば、罪人を許すのでなく、共に食事をした。
別に同情するのでも、洗礼を勧めるのでもなく、共に笑い、時には泣いた。

神の国は近い

 歴史に現れたばかりの頃のユダヤ民族は、放浪の民であった。
しかしやがて、(旧約聖書によると)神にカナンの地を与えられ、そこに王国を築いた。
 しかし紀元前587年に、ユダヤ人の王国イスラエル(南ユダ帝国)は、バビロニア人により滅ぼされる。

 再び放浪の民となった多くのユダヤ人の希望は、イスラエル再建を許してくれない、ローマのような、当時強力だった国への神の罰である。
 神に選ばれし民族である自分達の、苦難の日々の終焉である。
ユダヤの寺院 「ユダヤ教」旧約聖書とは何か?神とは何か?
 キリストは、ただ、共に過ごした人々に告げたという。
「神の国は近い。悔い改めなさい、福音を信じなさい」

福音とは何か?

 神の国は近い。
この言葉は、多くの者に、「イスラエル再建の時が近い」と解釈された。
そういう人達の中には、キリストに新しい王になってほしいと望む者もいたが、キリストの考えはどうも違うようだった。
 しかしキリスト自身の意図はともかく、「神の国が近い」というのは、彼と同じ神を信仰する者にとっては希望であり、そうでない異教徒にとっては脅威に思われた。

 キリストは、神の国が近い。
だからこそ悔い改めろ、福音を信じろ、と告げた。
 福音(gospel)とは「よい知らせ」の事である。
つまりキリストは「もうすぐ神の国だから、改心して、その素晴らしい知らせを楽しみにしてなさい」と、あらゆる人々に告げたのである。

 キリストが何気なく口にするそのような言葉は、様々な人の心に響いた。

 また、福音という言葉は後に、イエス・キリスト本人の生誕や、教えそのもの。
あるいは、彼を記録する言葉や書を指す言葉となった。

それはたった今、現実になった

 人々に希望を与えながら、しかし王になる、などの具体的な製作案には曖昧な態度を貫いていたキリスト。
しかしある安息日に、彼はついに自らの使命を明かしたという。

 ナザレという町のシナゴーグ(ユダヤ教の礼拝所)にて、キリストは突然立ち上がり、聖書の朗読を始めた。
 彼が読み上げたのはイザヤ書の一節。

 「主の私の上におられる。人々に福音を知らせるため、私に油を注がれた。私に告げさせる為だ。捕らわれた人の解放を、苦しむ人への癒しを、主の恵みの年を」

 そしてキリストは再び椅子に座り、自身を見る会衆に、今度は自らの言葉を告げた。

 「たった今、私が聖書から抜粋した言葉は、それをあなた方が聞いた時に、現実のものとなった」

 もうすぐ神により、この世界から苦しみや病気は消え去る。
その事を人々に知らせるために、彼は神より使わされたという訳である。

癒しか、悪魔払いか

 神に与えられたものか何なのかはわからないが、キリストには不思議な力があったらしい。

 特に病気を治す癒しの力は典型で、それは当時は、病気の原因である悪魔を追い払う力強いだと解釈されていたようである。
 「出ていけ」の一言で、病気を治した事も、あるいは、彼に触れただけで、長期の鼻血が止まった人もいたという。

 癒しの力以外のキリストの力は、嵐を沈めたりとか、何千人分のパンを、すぐさま用意したりといったスケールの大きいもので、創作感が強い。

 また、苦しむどんな人も救えた訳ではなかったらしい。
 思うに、キリストは悪魔を追い払えただけで、悪魔と関係ない病気は治せなかったのではないだろうか。

愛こそが全て

 キリストの生きた時代。
ユダヤ教にはふたつの派閥があった。
聖書に書かれた律法(神が開示した、人間が守るべき法)のみを重視するサドカイ派と、ファリサイ派である。

 キリストはいずれの立場も取らなかった。
彼は律法を従来のユダヤ教ほどに絶対としなかったのだ。
 大切なのは愛であり、慈悲であった。
彼は7倍の罰があるなら、70倍の愛で返せばよいと告げた。

 聖書には、神が万能でない事を示すような場合も多い。
神は、イブが禁断の果実を食べるのを止められなかったし、地上に悪が栄える事も防げず大洪水を起こしたりもした。
 ひょっとするとキリストは、神も間違える事がある。
だから時には我々は、我々自身で正しい道を見つけなければない。
そんな風に考えていたのかもしれない。

神の子の最後

 その生涯を終えるほんの数日前、キリストは聖地エルサレムにて、熱烈な歓迎を受けた。
そしてこの時、既に陰謀は始まっていた。

 キリストは、同じ神を信奉する特権階級の人達にとっては、目障りな存在であったとされている。
しかし、具体的にキリストの何が、命を奪われるほどの策略を招いたのかは諸説あるという。

 彼の言動が、多くの人に希望を与えると共に、強烈な反感を生んでいた事はまず間違いない。

 例えば単に、メシア(救世主)を名乗る者ならば当時は大勢いた。
しかしキリストは、「あなたがメシアですか?」と問われた場合に、「そうだ」などとは答えなかった。
彼はこのように答えた。
「それはあなたが言うことだ。あなたは人の子が、神の隣に座るのを見る」
 キリストは、自らを神に選ばれし者だとはしなかった。
まるで神と並び立つ存在であるかのように語ったのだ。
それを唯一なる神への冒涜だと言う人が大勢いた訳である。

 しかし理由はどうあれ、イエス・キリストという人は、紀元30年4月7日に、磔の刑に処され、その生涯を終えた。 

キリスト教の始まり

 キリストの死は、終わりではなく始まりであった。
彼が死んでから数日(3日(?))、残された弟子達が見たのは、哀れな詐欺師の遺体ではなかった。
彼らの前に、復活したイエス・キリストその人が、姿を見せたのである。

 キリストは復活に際して、その聖霊としての愛を世界中にばらまいた。
もちろんユダヤでない者にもだ。

 こうして、キリストのユダヤ教は、選ばれし民ユダヤの宗教から、あらゆる民族に普遍な『キリスト教』となったのである。
 
 復活したキリストは、再びどこかで死んだのか、どこかでまだ生きているのかははっきりしない。
大方の解釈として、生前の状態に戻ったというより、聖なる霊としての、人であり神なる存在へと、変化したというのもある。

 いずれにしても、神の子、あるいは神自身であるイエス・キリストの復活こそが、キリスト教の始まりであった。

カトリックとプロテスタント

 差別なく、社会的弱者にも強く寄り添ったキリスト教は、だんだんと人気を高め、やがては文字通り、世界中に広がっていく事となった。

 しかし時代の変化と共にキリスト教には、聖書とあまり関連のない教義も増えていき、それを不満とする者もいた。
それに教会の伝統主義の傾向や、教会内の完全なピラミッド型社会が、キリストの意と異なるのではないかという疑問もあった。

 そして、1517年頃より、マルティン・ルターらを中心とした宗教改革運動が勃発。
教会はついに従来の伝統や縦社会を重視する『カトリック』と、聖書に書かれた福音のみを重視する『プロテスタント』とに分裂する事になった。

 カトリックとプロテスタントの違いは、例えば以下のようなものである。
 ・カトリックはピラミッド型の縦社会であるが、プロテスタントはそうでもなく、またその為か、細かい流派がいっぱいあるのもプロテスタントの特徴といえる。
 ・カトリックは聖書以外の伝統教義なども大切にしているが、プロテスタントの立場は、確実な神の言葉は聖書のみなので、神を信仰するのなら、それを重視すべきだとする。
その為プロテスタントは『福音主義』と呼ばれる場合もある。
 例えばカトリックの人にはしばしば重視される聖母マリアの信仰のようなものは、聖書とたいして関係ないとして、プロテスタントの人は話題にも上げないという。
 ・カトリックは教会に金を寄付する信者が多く、それによって建てられる教会堂も豪華な傾向にある。
一方プロテスタントの教会堂はたいてい質素らしい。

 ちなみにカトリックとは、『普遍(カソリコス)』なる教義から、きている名称で、プロテスタントは『プロテスト(抗議)』が語源らしい。
 
 またプロテスタントの運動で有名なルターという人は、キリストの愛は万人のものであるとして、彼の時代(16世紀頃)にはかなり非常識であった、聖書の外国語への翻訳などを実行している。
 

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