「ベルガリアード物語」紹介、感想と考察。箱入り少年少女の成長と戦いの話

二つの運命の物語

 この「ベルガリアード物語」は、ようするに二つの予言があって、そのどちらかが必ず実現することになるという設定のファンタジー。

 指輪物語の流れをくんでいるという話を聞いたことがあるけど、確かに他の多くのファンタジーに比べると、それの影響が大きめなような気がする。
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この物語は特に、指輪物語と同じように、迫り来る絶望と、運命に選ばれてしまった者との、意思による戦いが話の軸となっている。
RPGのように仲間たちと冒険する物語だけど、主人公がパーティー内でそれほど強くないことも共通している(と最初は思ったけど途中で覚醒する)。

 指輪物語に比べると恋愛要素が大きい。
主人公のガリオンと、最終的に彼と結ばれることになるセ・ネドラの二人が互いへの愛を確信するまでは、ものすごく丁寧に書かれている。
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 二人とも年齢相応の未熟者という感じで、ガリオンだけでなくセ・ネドラも、物語を通して成長する様がよく描かれているから、途中からはダブル主人公みたいな感じのノリになっていく。 

おそらく舞台はこの宇宙の別の惑星

 別に作中で明言されているわけではないが、おそらく世界観は現実の宇宙と思われる。
全5巻ある物語のうち、1巻だけ読んだ場合は、これは完全にハイファンタジーだと考える人も多いと思う。
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しかし2巻以降は、この物語が地球とは違う宇宙のどこか別の星の物語かのような描写が時々見られるようになっていく。

 個人的にいくつか興味深かったのが、宇宙には様々な種類の人間がいて、様々な世界があり、 中には私たちの太陽が届かないところに存在している世界すらある、というような説明。
他、星がなぜ落ちるのかを調べていてわかったことは、いくつかの星の重力がうまくバランスを取り合うことによってこの状態となる、とか。
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自分を構成する原子を、岩を構成している原子の隙間に滑り込ませることによって潜り抜けることができるとか。

 そもそもこの話に出てくる魔術においても、原理がわからない者が魔術というだけで、魔術師達はそういう呼び方はあまり好まない、という説明があったりする。
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 世界を構成するのは意識と情報というような現代的な考え方も反映されてるように思う。
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現実の世界が悪い運命ってこともある

 作中で身分制度や奴隷制度の悲劇的な状況をいくらか描写しておいて、二つの運命のうち、敵が勝つ方向に行ってしまったら、世界は全てそんな状況になるという設定が、なかなか恐ろしさを演出している。

 むしろこのための現実宇宙設定じゃないかと思うくらい。

 二つの運命の内、一つは主人公たちが勝って世界に平和が訪れるというもの。
もう一つは悪の神が勝って、その欲望のままに全てが支配されてしまうというもの。

 ようするに良い未来も悪い未来も実現されることがある。
物語では良い未来になるか悪いみたいになるかは、本当は作者が決めてることだけど、現実では違う。
決まっている悪い未来のことについて、ちょっと考えてしまいたくなったりもする。

 主人公に関しても、運命というものについて考える描写が多い。
ある時は、自分たちの世界はボードゲーム上のもので、自分たちは駒にすぎないのではないかというような考えをしたりもする。
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哲学により作られる魅力的なキャラクター

 どのメインキャラも独特の哲学を有していて、それが特徴づけと魅力付けの両方になってて、上手いと思う。

 例えば真面目な善人と作中何度も称えられるような人であるダーニクは鍛冶屋であり、たとえ見られることのないような部分であっても、完璧に仕上げるという流儀を持っている。
たとえ誰にも見られない部分であっても、自分はそれを存在することを知っているから。
自分に恥ずかしくないように。

 古くから語り継がれる伝承の時代から生きている魔術師のベルガラスは、常識人として育てられた主人公に対し「なぜありえないことが そうなのだとお前にわかる?」と問うシーンがけっこうある。

 王子だけど詐欺師のシルクは、 何事もゲームだと考え、どうせなら楽しもうとする。
「人を信じたことがないの?」と聞く主人公に、「これはそういうゲームで、私はその名人ってわけさ」と答えるのがなんかクール。

 他にもいろんなキャラが出てくるが、特に特筆すべきことは、ヒロイン的な立ち位置である魔術師の娘ポルガラと、王女のセ・ネドラがちょっとギャグキャラ気味なことか。
特に4巻の終盤ガリオンたちのある行動に怒った二人のヒステリーが爆発したシーンは、おそらく作者は笑いながら書いたんじゃないだろうか。
そろそろ誰か止めに行けよって話になった時に、「考えてみろ、もう物は全部壊してるんだ、とすると次は人じゃないか」とびびる流れが……。

丁寧な恋愛描写

結婚している人を好きになること

 恋愛描写というか、恋愛観について。
これはちょっと奇妙かもしれないと思ったことだけど、ダーニクは作中、人妻に恋をした男について「真に高貴な人なら、(すでに結婚している人に対して)そういう感情自体抱かないはず」などと言ったりする。

 他にも彼に関しては、作中で男女の付き合いに関して、かなり厳しめな考え方を持っている描写が多くある。
一方で彼も、会ったばかりの女の子からキスされたガリオンをからかったりするのに加わる描写などはある。

 恋愛というのは、かくも難しいが。

幼馴染との別れが切ない

 主人公ガリオンにはズブレットという幼馴染の女の子がいるのだけど、結局結ばれるセ・ネドラとのどのやり取りのシーンより、なんか彼女との別れのシーンは印象的だった。

 ガリオンは物語の最初に自分の故郷の村を出て行くことになったのだけど、その時までの二人の描写といえば、紅一点のズブレットの大事な人の座を、ガリオンが他の男の子たちと争いあってるというような感じ。
後に村に一時だけ戻ってきたガリオンは彼女とも再会するのだけど、ズブレットと婚約した友人が、「彼女が好きだったのはガリオンだったから、今からでも」と言われるが、しかし自分の運命に巻き込まないために彼女を拒否する決意をする。

 二人のシーンはかなり切ない。
気心知れた幼馴染だから、お互いに何も言わなくても気持ちがわかり合うのが余計切ない。
それを見てたセ・ネドラが、他の時みたいに嫉妬しないでガリオンに同情するような描写もなかなか……。 

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