十二支、十干、陰陽五行説。陰陽道とは何か
(星の上からの見かけ上の)宇宙は大地と天からなる。
天之御中主神の領域。「日本神話」神々の国造りと戦い。現代的ないくつかの解釈
アマテラス。スサノオ。そして謎のツクヨミ「記紀の三柱神」
すなわち宇宙の真の中心がどこにあるかは誰も知らない。
しかし自分を中心として世界を見ることは、誰でもできる。
その時、自分の周囲を定義するのに「方角(direction)」というものが役に立つ。
まずは、北の空に見える「北極星(pole star)」を北と定義して、自分の周囲を東西南北と4分割する。
さらに東西南北それぞれの間に2つずつ用意することで、全部で12の方角ができる。
鼠、牛、虎、兎、竜、蛇、馬、羊、猿、鶏、犬、猪の動物をそれぞれにあわせた、子、丑、寅、卯、辰、巳、午、未、申、酉、戌、亥からなる『十二支』を各方角に当てはめた場合、北は鼠、つまりは子、南は牛(馬?)、つまりは午となるとされる。
だから北極と南極を結ぶ線は、「子午線(Meridian)」と呼ばれるのである。
さらに十二支を、甲、乙、丙、丁、戊、己、庚、辛、壬、癸からなる『十干』と組み合わせることで、時間の流れを体系的に定義できる。
つまり「暦」を作成できる。
つまり十二支と十干とで、簡単には時空間を定義できるわけである。「日本の年中行事」簡易一覧。宗教。伝統。太陰暦との関係
「特殊相対性理論と一般相対性理論」違いあう感覚で成り立つ宇宙
また、万物の基本素材を火、水、木、金、土の五元素とし、その状態を陰と陽という太極の性質の比率により定義する『陰陽五行説(Theory of Yin-Yang and the Five Elements)』というのがある。
古代中国では十二支と十干に、さらに陰陽五行説の思想を合わせ、この宇宙は全て定義できる。
そしてそれらを分析することにより、未来の予測すらすることができるという説があった。
そういう思想が日本に伝わり、独自に発展を遂げたものが『陰陽道』である。
そしてこの陰陽道を使う者を「陰陽師」という。
動物のイメージが与えられた十二支
日本においては十干よりも十二支の方が、現在の文化が根付いているとされる。
生まれた年に応じて十二支を設定する習慣があるし、その周回の数に応じて祝いをする習慣もある。「日本の人生のしきたり、風習」七五三、元服、還暦の意味
動物という具体的でわかりやすいイメージが与えられているため、馴染み深いからであろう。
十干や十二支が本来どのような概念であったかについては諸説あるが、生命が誕生してから死にゆくまでの段階を表しているという説が有力だという。
陰陽五行説よりも古くからある概念だということはほぼ間違いないらしい。
絶え間なく変化する二つの属性と、五つの元素
『陰陽(yin yang)』と『五行説(Five Elements Theory)』は、 最初から関連付けて考えられていたわけではなく、それぞれ個別に考え出された概念であるとされる。
物質は陰と陽の属性を有するが、それらに関する物質の保有量は共用となっている。
つまり、ある物質が持てる属性量を10とし、陰を9有しているなら陽は1までというような感じである。
宇宙の万物を見た場合、陰陽の合計量は決して変化しないが、陰と陽の存在比率だけは絶え間なく変化しているともされる。エントロピーとは何か。永久機関が不可能な理由。「熱力学三法則」
何事にも対極のものがある。
例えば喜びと苦しみなんかもそうである。
上と下、明るさと暗さ、美味い不味い、綺麗さと汚さ、善と悪。
それら全ては、言葉遊びのような領域でしか両立することはない。
対極のものはどちらかが高いならば、どちらかは必ず低い。
どんなものもそういう性質とするのが陰陽説である。
五行説は、水星、金星、火星、木星、土星の5つの惑星に関連付けられる説。「太陽と太陽系の惑星」特徴。現象。地球との関わり。生命体の可能性
東西南北四つの方向に、中央を加えた五つという説などもある。
陰陽寮。陰陽師たちの国家機関
陰陽師は基本的に、国家機関である中務省に属する小機関、『陰陽寮』に所属していたとされる。「天皇家の雑学」宮家とか、三種の神器とか
主な仕事は暦の作成。
星の動きなどを基準とした様々な予測、いわゆる占星術。「占星術」ホロスコープは何を映しているか?
陰陽寮の最高幹部は「陰陽頭」とされている。
また、見習いの育成担当の陰陽博士。
占星術を専門とする天文博士。
主に暦の編纂を手がける暦博士などの役割もある。
その秘技はもちろん、書物や機器など、陰陽寮に関係するものは全てが国家機密とされ、秘密を漏らす裏切り者は処罰されたという。
陰陽師の技に関して荒唐無稽とされていることのいくつかは、秘密にされていたがゆえに広がった噂ではないか、という説がある。
また上記のような事情から、国家に属しない民間の陰陽師は、「隠れ陰陽師」と呼ばれていたともいう。
陰陽師以外の闇の者たち
日本の歴史において魔術めいた力を使ったのは陰陽師ばかりではない。
巫覡。神に仕える者たち
例えば神に仕え、 自らの身体に神を憑依させることで、それこそ神がかり的な技を使えたとされる「巫覡」もそうだ。
巫と覡はそれぞれが神に仕える女と男のことで、宗教的な役割においては、現在の巫女と神主に近いとされる。
ただし今では、神主はともかく、巫女という言葉は単に神社の仕事をお手伝いする女性を指すだけの場合も多い。
巫は「かんなぎ」と読むこともあり、その場合は男も含めた巫覡と同義ともされる。
呪禁師。邪気を祓う医学魔術師
陰陽道より古くから存在するとされ、宮廷での役割を取って変わられたともされる「呪禁師」なる者たちもいた。
中国の「道教」を軸とし、最澄や空海の密教思想に影響を受けていたとされる呪禁は、病気の元とされていた邪気を払うことなどを主としていた。「天台宗、天台密教」比叡山の最澄。空海の真言宗との違いと関係
「真言宗。真言密教」弘法大師、空海とは何者であったのか
しかし、道教的、密教的要素も取り入れた上で、さらに体系的に発展させた陰陽道の方が、より優れているともされ、廃れていった。
宿曜師。密教僧たちの星祭
陰陽道と影響を与えあっていたともされる密教はまた、最大の商売敵でもあったとされる。
密教僧は、陰陽師と同じように占星術と呪術のエキスパートとして活躍した。
密教の天文の儀式「星祭」は、天に定められし災いをも取り除く、 究極に実用的な儀式であったという説もある。
また密教の経典のひとつである宿曜経にもとづく占星術を使う者は宿曜師と呼ばれ、天文分野の専門僧として、有力貴族などにも仕えていたという。
易占い。四象、八卦とは何か
中国に古くより伝わる「易占い」は陰陽道とも関わりが深い。
万物は対極から
易においては、万物は対極なる「両儀」から成り、そこから『四象』が成る。
四象はさらに『八卦』を生じ、その八卦の組み合わせにより吉凶が定まると考える。
両儀は陰陽、あるいは天地。
四象は五行、方角、季節を意味するという説が一般的。
つまり四象までで宇宙を意味するともされる。
八卦はこの世界で陰陽がとりうる形を示した記号ともされ、その形、あるいは記号を作ったのは、伝説的な古代皇帝、あるいは民族神である伏羲とされる。「夏王朝」開いた人物。史記の記述。実在したか。中国大陸最初の国家
八卦記号は、さらに細かい記号である爻を組み合わせて作られている。
爻は2パターンで、陰陽を示しているようである。
八卦はその名の通りに8パターンあるが、さらにふたつずつ組み合わせ、64パターンを構築する。
吉凶を定めるのだから、八卦とは陰陽の状態の内、運命に関する64パターンとも言えるかもしれない。
卜筮。亀の甲羅、木の棒
八卦占いは、よく「卜筮」とひとまとめにされる方法が主流。
卜は亀の甲羅、筮は「筮竹」という小さな木の棒を、適切に扱うことで(八卦にもとづく)吉凶を占う方法である。
周の時代くらいからは主に筮が行われ、卜は廃れていったともされる。「周王朝」青銅器。漢字の広まり。春秋時代、戦国時代、後の記録
陰陽道においても、筮はかなり一般的に行われていたようだが、卜はやや珍しかった。
卜が行われなかったわけではない。
八卦を正確に読み取るのが難しく、上級者向けだったという説もある。
四霊獣。東西南北と中央
四象は実用、あるいは便宣的にするため、「天の四霊獣」という実体が与えられる。
すなわち東、春の青龍。
西、秋の白虎。
南、夏の朱雀。
北、冬の玄武である。
さらに古代中国の五帝伝説において、五帝それぞれを補佐したとされる、東の句芒、西の蓐収、南の祝融、北の玄冥、そして中央の后土という五佐にならって、中央の「麒麟」が想定される場合もある。
中央の霊獣を想定することで、四象は五行にも対応できる。
また四季においても、季節の合間のどっちつかずの時期も埋められる。
五行においては、青龍が木、白虎が金、朱雀が火、玄武が水、麒麟が土とされる。
中央を霊獣の長とする場合は、麒麟でなく黄竜が置かれる場合もある。「東洋の龍」特徴、種類、一覧。中国の伝説の最も強き神獣
空間のどの方角にも四霊獣の力はかかっていて、そこに置く物事が司る霊獣によく対応しているなら、力は高まる。
霊獣は人にはありがたい存在で、その力の高まりは吉の高まりを意味している。
陰陽師は霊獣の力の高まりを感知することができ、それによって、正しく物事の配列を示すことができたという。
上記のような思想が独自に発展したものがいわゆる「風水』ともされる。
陰陽師たちが使った術
本来の陰陽道は、陰陽五行の世界観を基礎とし、そのバランスをコントロールすることで物事をよい方向に変えていく術。
つまり、神や仏や、鬼のような霊的な存在とは何の関係もないとする説もある。
だから陰陽道の術の原理に現れる神や鬼といった存在は、何か別のことの比喩なのかもしれない。
陰陽道において、他の者に害を与える術は基本的に外道とされたが、一流となるためには、そのような術を覚える必要もあったという。
おそらくは、容赦なく他者を傷つけるような外道陰陽師から身を守るためであろう。
人形、撫物、天児。人の形を真似たもの
『人形』、つまりは紙や木製の人形を用いた術の歴史は古い。
陰陽道においては、最初に『撫物』という術があったとされる。
撫物とは、人の「穢れ」、悪しきものを人形へと移し、それを川に流したり、燃やしたりすること。
そうして生身の人間の代わりに犠牲となる人形は「贖物」と呼ばれていたという。
贖物に穢れを移すには、それで対象となる人の体を撫でればよいとされていたから、撫物なのだとされる。
人形を用いた術は、陰陽道の内外で発展し、様々な方法が生まれた。
敵の魂の一部を封じ込めた人形を傷つけることで呪いをかける術。
「天児」という幼児の遊び相手となり、守り神にもなった人形。
「草人形」と呼ばれた、死者が寂しくないように、ともに葬られた人形も知られている。
符呪、セーマン・ドーマン。御札の原型
陰陽道において、呪文を書いた札を用いた『符呪』はかなり盛んであった。
それらは現在の神道における御札の原型ともされている。
書かれている呪文はもちろん、目的によってその札の扱い方も違っていたようだ。
特定の場所に貼ったり、地面に埋めたり、川に流したり、火で焼いたり、飲み込む場合もあった。
最初は札に漢字が書かれていただけだったという説もある。
それが密教などの影響もあり、梵字や星などの絵が描かれたものも作られるようになったのだという。
札に描かれる呪術的意味を有する絵として最も一般的なのが『セーマン・ドーマン』である。
その名前は、最も有名な陰陽師ともされる安倍晴明と蘆屋道満からとされる。
普通は、「晴明桔梗」とも呼ばれるセーマンは星。
「九字」とも呼ばれるドーマンは横に5本、縦4本の棒線で描かれる格子状とされる。
しかし逆とされる場合もある。
セーマンは防御に用いる場合はそのままだが、攻撃に使う場合は 中心に点をつけたり、逆さまにしたりするともされる。
式神。無生物か、怨霊か
優れた密教僧はその験力により、護法という鬼童子を使役するという。
そして優れた陰陽師もまた、『式神』という鬼神を使役するとされる。「鬼」種類、伝説、史実。伝えられる、日本の闇に潜む何者か
座敷童子、一つ目小僧、童子と呼ばれる鬼「子供の妖怪」
式神は護法と同じような存在と考えられることもあるが、全く別物とする説もある。
式神という言葉の本来の意味は「神を使う」というものであり、つまり術の名前であったが、いつのまにか式神なる存在がいるかのように扱われるようになっていったともされる。
道教の仙術に由来すると思われるが、陰陽師は紙に魂を宿し、まるで生き物のようにしてしまうという話がある。
そのような命を与えられた、元はただの紙である存在も式神と呼ばれる。
無生物に魂を与えるためには必ず何らかの目的が必要であるともされていた。
そして命を与えられたそれは、目的を果たすと強制的に元に戻るのだという。
狭い領域に様々な種の動物を閉じ込めて、強制的に争わせ「蠱毒」にて生き延びた生物を使い、式神を作る術もあったようだ。
また、虐待した犬や猫も、式神に成り得たとされる。
これらの場合、動物自体が式神になるというよりも、その怨念を陰陽師が利用していたという説もある。
「犬神」や「猫鬼」と呼ばれたような怨霊に対し、復讐すべき相手を誤解させたというわけである。
片忌み、片違え。凶を避ける法
天の星の配置から、吉、凶な方角を知り、特に凶方を避けることを『片忌み』。
目的地などの関係で凶方に進まざるを得ない時に、一旦他の場所に移動したり、一定期間待ったりすることで、凶の方向を強引に変えることを『片違え』という。
いずれも陰陽道の技であり、普通に風習にもなり、戦国時代には兵法の一つとして考えられるほどだったとされる。
物忌。避けられない驚異をやり過ごす
神道においては、『物忌み』は、神聖な儀式の前とかに、穢れを避けようとする期間のこと。
その期間は行動や食事に制限を設け、心身を清潔に保つ。
しかし陰陽道においては、物忌みとは迫り来る脅威を避ける術のことである。
占いなどで何らかの危機が必ず避けられないことを知った場合に、それが到来する期間、「物忌」と書いた紙が生じる防護空間の中でおとなしくすることで、危機をやりすごすとされる。
物忌とは、あらゆる生物を守る鬼の名で、その名が書かれた何かを所持する者を守るともされている。
豆まき、鳴弦。見えない鬼への攻撃
物忌みを使うまでもなく、陰陽師はちょっとした危機ぐらいなら、簡単な儀式や取り決めで祓うことができるともされている。
祓いの技に関しては、節分でやるような『豆まき』。
桃や蓬のような、霊力があるとされた木の枝で(普通は目に見えない)鬼を叩く。
音を使わないで、しかしそれを払ったかのような音を弓から出して悪霊を驚かせ追い払うという『鳴弦』などが知られる。
鳴弦に関しては、鬼に有効な見えない矢を放っているという説もある。
反閇。魔除けになる歩き方
陰陽道には、魔除けになるという特殊な歩行法『反閇』というのがある。
道教において、八卦の意味を込めた「禹歩」という歩き方があり、これを取り入れたものらしい。
先に出した足に、引き寄せられるように後ろの足を持ってくるというような歩き方であり、凶を踏み置いていくという意味があるという。
簡単なために、様々な風習として今にも残っているとされる。
例えば相撲の四股などがそうである。
泰山府君の祭。命を移し替える究極の術
陰陽道には、死にゆく命を、別の生きる命に差し替える術があるとされる。
つまり、他の誰かを犠牲にする代わりに、死にそうな誰かを助ける技。
それが『泰山府君の祭』である。
泰山府君とは、中国の泰山に住むという府君、つまりは生死を司る神とされる存在だという。
しかしいかに優れた陰陽師といえども、神の意志まで完全に操ることはできない。
泰山府君の祭は、あくまでお願いにすぎず、助けようとしている命がふさわしくないと判断されたなら見捨てられることもある。
逆に犠牲になるはずの者を気に入った神が、対象となる二人のどちらも助ける場合もあるという。
泰山府君は陰陽道における主神ともされる。
その場合は単に生死を司るのみならず、森羅万象全てを司る最高神とされる。