「スターシェイカー」テレポーターの戦い。宇宙を存在させる相対的な振動

虎よ、かサイバーパンクか

 人類の精神能力としての瞬間移動(テレポート)能力の獲得。そして実用化されたテレポートを利用した近未来社会を舞台としたSF。
スターシェイカー
 設定が似ているためか、ベスターの『虎よ、虎よ』と比較されてるの何度か見たことあるが、世界観以外は、別にそこまで似ていないと思う。個人的にはむしろ、主人公の設定とか、クールな感じの反社会組織など、どちらかというとエンタメ寄りのサイバーパンク作品に影響を受けてるような印象だった。
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物語は、少年漫画のバトルものぽい感じもあるかもしれない。

 SF作品として注目すべき部分は、やはり終盤の量子宇宙論的な世界観と思う。
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現象としてのテレポート。武器としてのテレポート

 テレポートの原理はともかく、宇宙内のどこからどこへか、また集合体としての物質のどこまでを移動対象として扱うかは、テレポート使用者(テレポーター)の認識、または脳(神経系)の動作と関連しているように描かれている。そうした知性の原因を唯物論的に理解している、つまりサイバーパンク的と言えそうな世界観での、物質操作テクノロジーが、現象としてのテレポートのコントロール可能性を示唆してる感じはする。
ただし、『WB(ワープボックス)』と作中で呼ばれる、テレポートの安定利用のための機械の描写などは、どちらかというとテレポートを行う場合の実用的問題、あるいは副作用的な現象(例えばある場所における、テレポーターの構造分子の消失や出現に伴う、周囲への圧力変化)を重要視している印象もある。もしかしたら作者としては、まずテレポートを使える人間同士の戦いを上手に描きたかったのかもしれない(実際作中では、テレポート現象をいかに武器として使うか、というようなアイデアが多めに思う)。
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認識とテレポート範囲

 原理としてはどんなものか。

 この作では、人類がテレポート現象をちゃんと認識したのは2029年のこととされている。そしてそれが認識されると、情報社会の中で、どこでもそれが重要な話題となったから、すぐに世界中で学ばれることになった。
それは「人間の身体機能に隠されていた潜在能力という形で現れた。気づくことさえできれば、誰もがその力を得る」というようなもので、何かのきっかけでの突然の変化とかでなく、”コロンブスの卵”的なもの。
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また、テレポートの危険性を完全にはっきりさせた、アメリカ大統領が、シークレットサービスの父に会いに来た少年のテレポートのために死んでしまった事件が2033年。
さらに40年代に定着したという再定義。「テレポートとは、前頭葉底テレポート野が活性化した際、全身の細胞から均等にエネルギーを奪取し、別座標へと瞬間的に移動することを指す。エネルギー消費量は個人差が大きく、定式化されていないが、容積、移動距離、海抜高度の値の上昇に従って増大。テレポートが行為された瞬間、行為者の輪郭が重心に向けて圧縮〈縮入〉し、出現はその真逆のプロセス〈膨出〉を踏む。この二つのプロセスは限りなく同時に行われ、かつ限りなく零に近い時間で行われるため、出現先の空間に存在する物体は、光速に近い速度で膨張する輪郭の衝撃によって、どんなものであっても例外なく裂断する」
問題は、テレポート対象となるテレポーターの輪郭が、テレポーター自身の認識に依存すること。「自認が完全でないと、縮入時、自分と認識できていない部分が取り残される〈置き去り現象〉」が起こる訳である。
WBは、その使用者に、箱内が対象の輪郭なのだと錯覚させる機械とも。
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 テレポート能力の性能が認識に関係しているため、例えば地球の反対側に一気にワープするためには、平面でなく立体構造(球体)としての惑星世界の(知識でなく)感覚的理解が必要というのは、けっこう面白いアイデアと思う。
宇宙の中での位置、つまり座標の認識に関しての話とかも。

系をかき乱す消失情報、出現情報

 しかし、まだ残る謎の1つは、部分でなく、構造体全体としてのテレポーター自身への負担の問題だろうか。この作品では認識に失敗した部分や、テレポートする物体以外への影響に比べ、テレポートする構造体自身についての考察はかなり不足しているか、微妙と思う。
エネルギー保存の法則を前提に、サイバーパンク的に考えるなら、テレポートした時、ある場所で失われた情報量が、他の場所に現れることになるが、それが周囲の情報系をかきみだす。しかし、出現した時点で、あるいは出現してすぐに、その現れたテレポーター自体も、その現れた場の情報群と、物質的な関係を深くすると思う。つまり、その時かき乱されるその情報系の中には、テレポーター自身も含まれているのでなかろうか。
よくもわるくも、テレポート設定自体(最終的には別次元を介する移動というような話になってくるが)わりと曖昧なので、いろいろ好きに解釈はできるだろうが(SFでは珍しくないというか、むしろSFらしい)

揺れることで、相対的に存在する宇宙

 量子論的宇宙に関しては、相対的な動作がなければ宇宙の素粒子全てが意味をなさない、というようなものと説明される。ようするに、全てが実質的に揺れている(振動している)ことに意味がある(量子論的な物質の波動の原因?)。テレボートが宇宙に与える影響は、その揺れを変化させるが、そのために宇宙自体の揺れが素粒子の揺れと一致した場合、相対的な動作がなくなり、つまり全ての物質の存在(意味)がなくなる。というような(作中では、そうした全物質の実質消滅は、宇宙の「相対崩壊」と表現されている)。
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 素直に考えるなら、この作の宇宙は、(それ自体がどのような性質を持っているかはともかくとして)数学的には幾何学構造として考えられるような時空の上に、素粒子が乗っかっているような。つまりは、原子論から”超ヒモ理論”まで続く、伝統的宇宙のイメージと思う。
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とするなら、特に重要な問いはつまり揺れが、第一原理なのかどうかだろうか。
また、テレポーターが通る「空」なる領域は、別の時空(というより土台的な幾何学構造)か、素粒子系か。前者の印象だが、しかしそれがビッグバン以前の状態の領域みたいな感じもあり、何かが奇妙な気もするが。
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