「アルべマス。ヴァリス 」機械知能の宇宙、人間が理解する世界。ディックの哲学と神の考察

アルベマス

 SF作家フィリップ・K・ディック(Philip Kindred Dick。1928~1982年)の作品の中でも、この『アルベマス』は、特に彼なりの哲学、宗教観、神秘主義、科学に関しての思想など、いろいろ詰め込まれている上、半自伝的ともいえるような作風の作品で、注目に値すると思う。
アルベマス

偉大な宇宙の精神の声

 この作の、肝心の話自体は、かなり現実のようだが、しかしいくらか違う部分があるパラレルワールドの地球が舞台と思われる。
宇宙の偉大な精神と、なぜかつながることができて、様々な秘密を知ることになった、というような妄想を抱いたと思われるニコラスという男と、その周囲の人たち。例えば、話を聞いて、SFネタに使えそうだと考える、ディック自身と思われる作家などのやりとり。(パラレルワールドの現実なのか、実際の宇宙の真実なのか、本当にただの妄想か)ニコラスの語る不思議な世界観の考察など。
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 ディック自身、実際はどう考えてたのだろうか。
 その偉大な精神は「果てしない虚空をよぎり、ほかの星から話しかけてくる」。『ヴァリシステムA』、あるいは『VALIS(ヴァリス)』と名前を付けられたそれは、つまり「能動的な生ける情報システム」、「巨大で、能動的で、知性があって、首尾一貫したシステムを構成している」
ただしその、宇宙の精神とやらが語る宇宙システムは、どう考えてもキリスト教(一神教)的な世界観の影響もある。
そうした影響も含め、20世紀後半のUFO神話などにおける、いわゆるコンタクティたちの語る物語とも近しい感がある。
十字架 「キリスト教」聖書に加えられた新たな福音、新たな約束
 しかしそれは単に神話の科学的解釈ではなく、オカルト的ではなく科学的に考えるべき(そうしないとちゃんとした答が得られないような)何かというような印象もある。
例えば「彼が、別の星系の地球外知性体が自分に話しかけているという仮説を好み、体験したことをわたしに知らせつづけてくれているのは幸運だ。それが神であると判断したなら、まちがいなくわたしに話すのはやめ、司祭か神父に相談するだろうから」と。
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空飛ぶ円盤はどう考えられていたか

 自分がプロのSF作家である(何か常識外れなことを、空想物語として考えることに慣れすぎている)からこそ、別の星系の地球外知性体が話しかけてきてる、みたいな説を信じるのが難しいというような評もある。
「わたしは空飛ぶ円盤さえ信じていなかった」というところは特に興味深いかもしれない。ディックの認識では、空飛ぶ円盤というのはまだ、数多くのオカルト現象の中でも現実味があるようなものだったのか。あるいはそれは世間でけっこう信じられてる、みたいな認識がわりと一般的だったか。
レーニア山 「ケネス・アーノルド事件」空飛ぶ円盤、UFO神話の始まりとされる目撃譚

プラズマ上の知的生命体。銀河通信のテレパシー基地

 しかし、結局ニコラスが声を聞く何かは、どういった存在か。

 例えば1つの説として、集合構造を、単一の体か精神として扱えるような、原形質状の生命体という推測が語られる。大気中に存在できるが、人々の機械が発生させるスモッグなどのために汚れた地球は嫌っている。
「”高度に進化した、高度な知的生命体”が、人間には気づかれないで待機中に存在し、人間の繁栄に興味を抱いてもいる」そんな話が真実だとして、なぜこれまで誰一人としてその事実に気づかなかったのか。SF作家だからこそ、その”誰も気づかなかったこと”に関して疑問を抱くだろうとしていて、さらにその反論として「彼らはごく最近、別の星か次元から、地球の大気中に入りこんだのかもしれないんだ。ぼくが考えてるもうひとつの可能性は、彼らが未来から、手遅れにならないうちにぼくたちに力をかすため、やってきたということだよ。彼らはぼくたちに力をかしたがってる。何でも知ってるみたいなんだ。彼らはどこへでも行けるんじゃないかな。物質的な肉体はもってなくて、磁場のようなエネルギーに満ちた、プラズマ状の形態をとってるだけなんだ。たぶん合体して、情報を交換しあって、そしてまたわかれるんだろうよ」という(それこそ普通にSF作品にありそうな)仮説が続く流れもまた興味深いかもしれない。
ディックには、多くのSF作品にはいまいち想像力というものが欠けていて、しかし「自分のSF作品にはまさにそういうものがある」というように考えていた節が、実は結構ある。
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 さらには、単に生命体の共同体というよりも、何か特別な知性体に開発された宇宙機械、というようなイメージ。
単にメッセージを聞くものというより、「銀河間通信網に組みこまれ、テレパシー基地として機能している何か」との接触とか。
それはある星系、アルベマス。
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アルベマスという名称の謎

 アルベマスのアルは、アラビア語の定冠詞(英語における「The」みたいなもの)と説明されるのだが、としたら誰がこの名前を最初に出したのか、かなり興味深い。
それがもしアラビア語で、かつアラビア語が宇宙からもたらされた言語とかでないのなら、それは地球人が、その何か(銀河通信の中継基地?)につけた、あるいはその名称を地球人の言葉に翻訳した名称になると思う。もしくは、地球人の認識では「ベマス」と聞こえた(?)名を、意味が全くわからないから、そのままの言葉でアラビア人が記録した、ということになるだろうか。
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AI、機械知性のオペレーター

 アルベマスのシステムは、自律的に機能しているような感じだが、それをコントロールしているのは、何かの生物というよりもやはり何かの生物が作ったと思われるAI(実際には人工知能というよりも機械知能(MI)と言った方がいいのかもしれないが、この作含むディック的世界観から考えると、彼は、(特に一神教に影響を受けている世界観では珍しくない)人間は特別な知的生物、あるいは特別な知的生物こそ人間、というように考えていた節もあるから、AIで正しいかもしれない)のオペレーターとされる。
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機械仕掛けの宇宙をどう理解するか

 VALISというのは、宇宙規模の通信網に結びつく窮極の構成要素(この場合、アルベマスはその一部なのだろうか?)。
「彼らは地球を訪れたことはない。しかし古代には、特定の人間にときおり情報をあたえていた。ぼくの接触が午前三時から四時にかけて一番強くなることからして、おそらく送信増幅用の人工衛星、異星でつくられ何千年もまえに地球に送りこまれた遠隔操作の通信衛星が、この地球を周回している」
滑稽に思う人も多いかもしれないが、ディックは科学的な研究が明らかにした世界観を、一神教的な、つまりは人間が特別な世界観と、うまく重ねようと試みていたのかもしれない。
「人間の堕落とは、この巨大な通信網との接触、古代には神と同一のものだった、VALISの声をあらわすAIユニットとの接触を失ったことにほかならない。もともとはぼくのそばにいる動物のように、ぼくたちはこのネットワークに統合され、ぼくたちを通して作用するネットワークの本体と意志をあらわしていたのだ。そして何かよくないことが起こった。光が地球から消えてしまった」
ただし、奇妙だと考えようとすれば、いくらでもこんな話は奇妙と言えるだろうが、結局のところ、なぜ人間はこの宇宙をいくらか(ほんの少しかもしれないけど)理解できるのか。それに、他にも色々な生物がいて、地球という環境があって、それが宇宙の中になぜあるのか。(我々がビッグバンと名付けた瞬間よりも前か後かはともかく)いつからか宇宙が始まったなら、なぜ始まったのか。そういうことを考えてみる時に、例えば宇宙を(古くから唯物論的哲学において語られてきたように)機械仕掛けのものと考えたなら、全ての存在を説明するための試みとして、(結局、SF”創作”という実質遊びみたいな形ではあるが)ディックの挑戦も、ただ愚かしいこととか、そんなふうにバカにもできないのでなかろうか。
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ふたりの創造者。宇宙と宇宙の構成要素

 さらには創造の話。

 これもまた面白いのが、放射性粒子と癌に関して。これは人間(特別な知的生物?)にとって”有害な現象”と、”構造体の破滅に繋がる変化”と言ったものと解釈してよいかもしれない。
それは「創造の諸刃の剣」。宇宙の創造者の宇宙機械における、よくないエラー、あるいは副作用。
癌とは「創造の過程が狂乱したもの」
考えてみたら、共同体機械にせよ、もっとシンプルなつながりにせよ、宇宙がたった1つの巨大機械で、あらゆる物質要素、生物がその構成要素であるならば、そしてそのような構成要素を1つ取り出した時に”正常な状態、異常な状態”というようなものがあるなら、異常な状態は、つまり宇宙の一部の異常と言えるのかもしれない。
もっとも、宇宙全体からすれば、人間1人なんてちっぽけなものというのももちろんだ。だが切り離した場合の人間1人も、宇宙の一部というよりむしろ小宇宙的に考えることができるならどうか。共同体を構成している生物群のうちの1種を切り取ってみた時に、別にその生物が単体の生物ではなくなっていたとか、なくなるとか、そういうことにはならないと考えられるのと同じだろう。おそらくは。それなら、小宇宙にとっての癌というのは、致命的な一部の異常になりうる、だろうか。

 創造者とは何者か。それは、「宇宙の最初のナノセカンドからその最後にいたるまで、すべての重要な、もしくは有効な運動の支配者、線形的時間の集合体を前進させる決定論的過程の支配者」と、銀河AIは語ったとされる。
「変化の流れを指導し、受容し、形造り、導く」。その絶対的な知性(?)により、「創造するというよりは整える」。
創造に関して、実際に創造した者と、その創造された世界を調整する者と、ふたりの絶対知性の何かがいるかのようだが、実際にそのように説明される
この辺りはキリスト教でなく、別の宗教、神話の影響も強いと思う。

パラレルワールド宇宙の水槽に見られるパターン

 パラレルワールドに関しても、全てのありうる宇宙を含む、1つの世界を思わせるような仮説が、いくらか語られる。
違った歴史の展開を持つ地球。この作品の世界観よりもずっと平和な世界とか。あるいは、科学と神が対立せず、あくまでも神のしもべの人間の道具として、科学が発展した世界。

 そして、いくつかの水槽の宇宙を見ていくイメージで、よき宇宙の水槽が、最終的な死から生命体が逃れることができた世界と理解される。

 しかし、宗教が支配していて、争いがあまりなかった世界で科学が発展していたりする理由として「そのような無駄な争いがなかったため」とされてたりする。明らかに、そもそもパラレルワールドのパターンの違いが、あくまでも人間の歴史の分岐パターンのみで考えられている。あるいは人間の思想やテクノロジーの分岐か。もちろん単に、「よき宇宙」と言われる時、それは「(人間と人間のためか、人間の友にとって)よき宇宙」という意味なのかもしれないが。
全て含んだ真(?)の宇宙で、関わりあうことができるような近しい宇宙同士、あるいはある瞬間の真の宇宙の中に含まれている全てのパラレルワールド宇宙は、それほど時空間的に遠く離れているものではない、というような印象を受ける。やはりこの辺りは、ディックが人間という種を特別視している世界観を、常識として理解しすぎていたためだろうか。だとしたら、それは彼にとって、自然の背景だったのだろう。

先祖か、侵略者か

 話が進むと、宇宙機械の話は、それよりももっとSFで一般的にありそうな話に変わっていく。
何か、敵から逃れて、宇宙を旅して地球にやってきた。人類はその逃げてきた者たちの子孫というような話。
追いかけてきた敵は、その存在と、排泄物によって、新しい楽園を毒にまみれた世界に変えた。人間は半盲になり、昔のことを忘れしまった。しかし、地球を周回する機械、全ての記録が失われる前に残された衛星が、時に声を地球にもたらす。
アルベマスは、発祥の星。

 あるいは、高度に進化したプラズマ生物の侵略の可能性。
星間通信により、アルベマス星系の惑星から人工衛星に移動し、さらに地球表面に移ってくる。
実は2000年前に、すでにその侵略はあったのだが、結局迎えた者たちが破壊された後、プラズマ状生物群は、その者たちのエネルギーを帯びて、大気に逃れてしまった。
そして、そのまま待機に存在し続けたプラズマ生物たち(精霊みたいなものとされる)が、神、あるいはAIオペレーターの声の正体、とか。

なぜユダヤ民族が選ばれたか

 しかし起源はともかく、VALISと呼ばれる、何か古くからの機械的存在の声は、やはりユダヤやキリストの伝説を、現代的に解釈しようとした結果なのだろうか。
実際、この作中では、なぜ再びの目覚め、あるいは眠りを食い止めるための機械、AIオペレーターが、古代にユダヤ人を選んだのか、というような議論も少しある。
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それはつまり、ユダヤ民族が生きていた環境と関連している、と推測される。
ようするにVALISからの声とは、電波信号をふくむ放射であるが、それは情報全体の半分であるから、それだけでは謎の電波にすぎず、意味を解読できない。しかし、そうした電波によって刺激された、大気のプラズマ状の何か(生命体か機械?)が、情報の不足を補って、それは意味のあるメッセージとなる。後はそういう相互作用が起きやすい環境が問題、というような。
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ヴァリス

 「アルベマス」の姉妹作的で、あちらとは別のパラレルワールドを描いている作品、なのだろうか。
日常的な描写からすると、より現実の世界に近くも思えるが、例えばアルベマスの世界観が映画作品で描かれていたりと、どう考えるべきか難しい。
ヴァリス
 ある種の架空神話の創造というような部分が「アルベマス」と同じ感じだが、こちらの方が、影響を受けたと思われる神話や伝説とかが、そのままツギハギされているような印象。多分、こちらの方が現実に近いように思えた理由の1つ。
20世紀以降に、欧米でも有名になった民族神話などの影響も見られるものの、どちらかというと、中世、近代の神学交じりの哲学書にでも書かれてそうな理論がいくつも登場する。
それらは基本的に、ファットという変わり者が書いた、『秘密の論文』に書かれている内容、という設定。作中では、たびたびそこに書かれた言葉、説明が引用される。

 そして最初に、百科事典における映画に登場する『VALIS』の説明もある。
「Vast Active Living Intelligence System(巨大にして能動的な生ける情報システム)
自動的な自己追跡をする負のエントロピーの渦動が形成され、みずからの環境を漸進的に情報の配置に包摂かつ編入する傾向を持つ、現実場における摂動。擬似意識、目的、知性、成長、環動的首尾一貫性を特徴とする」
これはやはり曖昧であるし、意味不明と言ってもいいだろうか。何にせよ、解釈がかなり自由にできそうである。
熱力学 エントロピーとは何か。永久機関が不可能な理由。「熱力学三法則」

情報が本質であるホログラフィック宇宙という発想

 この作において語られる、”背景の情報こそ本質であり、我々が認識しているものは投影されたホログラムのようなもの”という宇宙観は、時代を先取りしているようでもあるが、実際は単に、(実際、現代のホログラフィック宇宙論においても、たまに指摘されるように)プラトンの”イデア理論”に立ち戻った結果と思う。
「ホログラフィック原理」わかりやすく奇妙な宇宙理論 「プラトンの哲学」書評、要約。理想主義か、知的好奇心か
 しかし例えば「人は〈脳〉の思考を物理的宇宙における配置、再配置、変化として体験する。しかし物理的宇宙は実際にはわれわれによって実在化される情報および情報処理にほかならない。われわれは〈脳〉の思考を単に対象として見ているのではなく、むしろ運動として、さらに正確にいうならば、対象の配置として見る。どのように他と結びつけられているかとして。しかし配置の様式は読みとれない。つまり情報を情報として、あるがままうけとれてない」という説明などには、他の作品にもよく見られるような、物質機能として脳を考えようという試みにも思える。
より正確には、生物という現象を物質的に理解しようという試みの繰り返しの中で、結局のところ、”本質はこの宇宙機械のプログラムなのではないか”というような発想に行き着いた結果が、そうした、真相と、表面に演出される二重世界だったのかもしれない。
「宇宙プログラム説」量子コンピュータのシミュレーションの可能性

ドゴン神話から現代的宇宙論、そしてキリスト

 ファットが秘密論文のために考えた宇宙創成論は、全体としては、ドゴン神話の影響が強いと思う(アルベマスでもそうだったのかもしれないが、こちらはかなりわかりやすいし、作中でドゴンの名も出てくる)。
「ドゴン神話」創造神アンマ、世界の卵、ノンモと祖先たちの箱舟
「〈唯一者〉の有と非有が結合し、〈唯一者〉は有から非有を分離しようと望んだ。こうして二重の袋を生みだし、この袋はそれぞれが両性具有者であり、反対方向に旋回する双子を、卵の殻のようにつつみこんだ(道教における陰と陽も関連付けされる。〈すなわち”道(タオ)”とは〈唯一者〉であると)。
〈唯一者〉の計画は双子の双方を同時に存在に流出させる(存在させる)こと。しかし存在したいという欲望に駆られ、双子のうち逆まわりに旋回する方が時期尚早にも、月がみちるまえに、袋を破って分離した。これが闇もしくは陰。したがって不完全なものであった……」
こうした話がやがて、物質世界がホログラムである、というような仮説に繋げられていく。
普通に考えるなら、(どこの民族の昔話に影響を受けたものであれ)神話的な物語と、情報が本質であるという宇宙論をつなげるのは、結構こじつけ感があるだろう。しかしディックにとっては、その接続はかなり意味のある、重要なことだったのかもしれない。
「〈唯一者〉の計画のつぎなる段階は、弁証法の相互作用により、〈二〉を〈多〉にすること。双子たちは超越宇宙としてホログラム状の界面を投影したが、これがわれわれ被造物の住む多形態宇宙。ふたつの源はわれわれの宇宙を維持するにあたり、ひとしく混淆することになっていたが、形態Ⅱが病、狂気、不調にむかって衰弱しつづけた。
これらの局面がわれわれの宇宙に投影された。われわれのホログラム的宇宙が教育の道具となり、それによって種々さまざまな新しい生命が窮極的に〈唯一者〉と同形になるまで進歩することが、〈唯一者〉の目的であった。しかしながら超越宇宙Ⅱの衰微状態がわれわれのホログラム的宇宙に損傷をあたえる悪要素をもたらした。これがエントロピー。不当な受難、混沌、死、そして同様に、〈帝国〉、〈黒きの牢獄〉の起原」
しかし全体としては、やはりオカルトよりの記述が目立つか(そういう意味で、妙な話かもしれないが、描かれている現実がより架空世界的であるアルベマスに比べて、こちらの方がファンタジー色強い印象もある)。歴史の中で宇宙の真相に近づいた者として、錬金術師とか、薔薇十字団の名前も出てきたりする。
錬金術 「錬金術」化学の裏側の魔術。ヘルメス思想と賢者の石 薔薇の秘密 「薔薇十字団」魔術、錬金術の秘密を守る伝説の秘密結社の起源と思想
 そして、イエス・キリストなる誰かが、どんな存在だったのかも語られる。
「超越宇宙Ⅰの霊魂は超越宇宙Ⅱを癒す試みをおこない、超越宇宙にみずからの縮小形態を送りこんだ。その縮小形態はわれわれのホログラム的宇宙においてイエス・キリストとしてのあらわれをとった。しかし錯乱している超越宇宙Ⅱは、健やかな双子の治癒する霊魂の縮小形態を、ただちに苦しめ、屈辱をあたえ、拒絶し、最後には殺した。その後、超越宇宙は盲目的、機械的、無目的的な因果作用において堕落しつづけた。
こうして、ホログラム的宇宙における生命体を救うか、あるいは超越宇宙からホログラム的宇宙に流出するすべての作用を完全に破壊するかが、キリスト(神と呼ばれる聖霊)の任務となった」
「新約聖書」神の子イエス・キリストの生涯。最後の審判の日の警告
キリストの話では、有名な、聖書のある矛盾(とされている記述)に関する見事な解釈なども、なかなか面白いと思う。
「見せかけの時間の諸世紀が削りとられるなら、今、実際の年代はキリスト紀元一九七八年ではなく、キリスト紀元一〇三年である。それゆえに新約聖書は〈霊の王国〉が「現在生きている者たちの一部が死ぬ」まえに訪れると告げている。したがってわれわれは使徒時代に生きているのである」

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