北欧神話における9つの世界
まず、北欧神話の世界観は、9つの別世界からなるとされている。
すなわちアース神族の国、アースガルズ(Ásgarðr)。
ニョルズ(Njorðr)とその一族(ヴァン神族)の国、ヴァナヘイム(Vanaheimr)。
フレイ(Frey。繁栄。豊穣)により支配された妖精の国、アールヴヘイム(Álfheimr)。
火の巨人が支配する火の世界、ムスペル(Múspellsheimr)。
人間たちの世界、ミッドガルズ(Miðgarðr)。
巨人族の国、ヨーツンヘイム(Jǫtunheimr)。
死者の国、ニヴルヘル(Niflhel)。
暗黒の妖精、あるいは小人たちの国、スヴァルトアールヴヘイム(Svartálfaheimr)
そして極北世界、ニヴルヘイム(Niflheimr)。
「北欧神話のあらすじ」オーディン、ロキ、トール、エッダの基礎知識 「妖精」実在しているか。天使との関係。由来、種類。ある幻想動物の系譜
スノッリのエッダ。ギュルヴィたぶらかし
アイスランドの詩人スノッリ・ストゥルルソン(Snorri Sturluson。1178~1241)が書いたとされる、『スノッリのエッダ(Snorra Edda)』は、多くのより古いエッダを引用している。
現存する古いエッダには、確認できない話のパターンなどもある。
この書第一部に当たるとされる『ギュルヴィたぶらかし(Gylfaginning)』の巨人発生の経緯などは、特に興味深いか。
巨人族がどのようにして発生したのか、以下のように語られている。
ニヴルヘイムから、寒冷とあらゆる恐ろしいものがやってくるように、ムスベルの近くにあるものは熱く明るい。奈落の口は穏やかだった。やがて霜と熱風とかぶつかり、溶けて滴った雫が、熱を送るものの力によって生命を得て、人の姿となった。それはユミルと呼ばれ、霜の巨人たちはアウルゲルミルと呼ばれている。霜の巨人族はそこから始まったのだ。巫女の予言に言われている通り。
しかし霜の巨人族は、ユミルが殺された時、その傷口から流れた多量の血によって、ほとんど死んでしまった。ただ1人だけ、家族と一緒に逃れた者がいた。その者はベルゲルミルと呼ばれている。 彼は妻と一緒に、挽臼の台に登っていて助かった。そしてこの2人から、新しい霜の巨人族たちが次々生まれた。
巫女の予言
北欧神話について語られた写本と、それに基づく教本である『エッダ(Edda)』の中でも、特に 重要と考えられている一節。
世界の創造や終末などに関して巫女(völva)が語っている。
不吉な予兆から続く暗黒時代は、ギリシア神話とも似ている感じがする。
巨人ユミルについて
砂、海、浪、大地、天がなく、どこにも草生えず、 奈落の口ばかりがあった古代に、ユミル(Ymir。雌雄同体。泣き声)は生きていた。やがてブル(Burr。息子)の息子たちが大地を持ち上げることで、名高いミッドガルズができた。
「巨人伝説」巨大な人間は本当にいたのか。どのくらいならありえるのか
少なくとも、ほとんど何もなさそうな世界で、奈落の口はあったようである。
ブルの息子たちとは、オーディン(Óðinn。狂気の主)、ヴィーリ(Vili)、ヴェー(Vé)の3アース神とされるが、ここでは有名な、巨人の体から世界ができたという話は語られていない。
天体はどのような存在であるか
ソール(Sól。太陽)は自分の館がどこにあるのか知らず、星々も自らの住居を知らず、マーニ(Máni。月)は己の力がどのようなものかを知らなかった。そこで裁き治める神と、尊い神々は、裁きの庭にて話し合い、年により時を数えるため、夜と欠けゆく月、それに朝と昼と午後と夕方に名前を付けた。
「太陽と太陽系の惑星」特徴。現象。地球との関わり。生命体の可能性
ここだけだと、太陽や月や星々を、時間を計りやすいように配置したのか、あるいはそれらを基準として時間を定めたのか、どちらとも受け取れる。
だが、それらに名前を付けた、とあるのだから、やはり、元々太陽や月、星々があり、それらを神々が定義したという印象が強いか。
神々はまた、裁きの庭というところでよく話し合うようである。
初期の小人と人間
ブリミル(Brimir。騒ぐ者)の血と、ブラーイン(Bláinn。黒。暗黒)の骨から、小人の王を誰が作ったものだろうか。と神々は話し合った。その折に、全ての小人の中で一番偉いモートソグニル(Mótsognir。疲れため息つく者。勇気持ち飲む者)と、2番目に偉いドゥリン(Durinn。眠る者。出入り口)が生まれた。2人は人間の姿に似ていて、ドゥリンの語るところによると、土からたくさんの小人が作られた。
妙な語られ方にも思えるが、ブリミル、ブラーインはユミル(の別名)とされる場合もある。また、ここでの小人というのは、どうもドワーフ(dwarf。ドヴェルグ、闇の妖精)のことのようである
3柱の神々は、岸辺で自らの運命を知らなかったアスク(Askr。灰の木)とエムブラ(Embla。ニレの木?。ツル?)を見つける。息も、心も、命の暖かさも、良き姿も持っていなかった彼ら。だがオーディンは息を与え、ヘーニル(Hœnir。番人。射手)は心を与え、ローズル(Lóðurr。果実?。人々?。引き付ける?)は命の暖かさと良い姿を与えた。
アスクとエムブラは、北欧神話における最初の人間たちとされる。アスクが男で、エムブラが女。
ユグドラシルと、運命の女神
ユグドラシル(Yggdrasill)という名のトネリコの大樹。その高い木は、白い霧に濡れていて、谷の露はそこからくる。
ウルズの泉のほとりには、いつも青々と緑の樹が高くそびえる。その樹の下にある海から、ヨーツンヘイムよりやってきた、ウルズ(Urðr。編む者。宿命)、ヴェルザンディ(Verðandi。生成する者。現在)、スクルド(Skuld。責務。未来)の巨人三人娘は、人の子らに運命を定め、運命を告げる。
9つの世界全てを含む、宇宙そのものだともされる巨大な木ユグドラシル。そして、神々ですら逆らうことができないという、運命を定めた、あるいは告げた、女神たちに関する描写
戦いの始まりと魔女
この世での戦の始まりは、神々が槍でグルヴェイグ(Gullveig。黄金の力)を突いて、ハール(オーディン)の館で焼かれた時。それは3度繰り返されたが、彼女は死ななかった。
彼女はまた、どこでもヘイズ(Heiðr。輝き)と呼ばれ、人の心を魔法でたぶらかし、淫らな女たちを喜ばせた。
オーディンが槍を、敵の軍勢の中に投げつけたのが、この世での最初の戦になったともされている。
グルヴェイグはヘイズとも名乗るが、これは魔女としての名前というような感じだったのだろうか。彼女は、女神フレイヤ(Freja。婦人。主人。豊穣)だという説もある。
巨人の描写
北のニザヴェリル(Niðavellir。月が衰退した領域)の上に(ドヴェルグの)シンドリ(Sindri)一族の黄金の館が建っている。そしてオーコールニル(Ókólnir。決して寒くない)の上に、ブリミルという巨人の麦酒の館がある。
さらに続いて、太陽から離れた死者の岸の上にある館は、扉は北向き、天窓からは毒液が滴り落ちていて、その壁は蛇の背骨で編まれている。とされているが、(この部分のみを見ると)これらの館は別々にも、同じとも思える。
女巨人の番人エッグセール(Eggþér。鋭い刃に仕える者)は竪琴を弾く
怪物の描写
東のイアールンヴィズにいる1人の老婆はフェンリル(Fenrir。フェンに棲む者。湿原の者)一族を生んだ。彼らのうちの1人が、太陽を呑み込む怪物となる。
怪物は人間の生命で腹を満たす。
しかし、太陽は食われないように動き続けなければならないというような話もあり、それも生き物かのようである。
オーディンの箴言
いろいろな知識に関する、格言のようなものがひたすら並べられてるだけみたいな感じ。
人との付き合い方に関して、近くの友達でも悪い友達なら遠いとか。女の口説き方、綺麗事を言って、贈り物をして、女の美しさを誉めよとか。老人が語ることはためになることが多いから、その語り手をバカにするべきではないとか。
不実な友人に対する呪い、 戦いの際に用いられるような呪い、危機の時に自然災害を抑えたりするような呪いなど、「わしは知っている」と書かれているだけで、具体的にどのようなものが書かれてない。
何か欠陥を抱えている者でも、死んで焼かれた者よりは役に立つ。と書かれてる部分もあるが、当たり前のように火葬文化があるような感じか。
生活的に実用的と思えることも普通に多い。
貧しい者に親切にせよ、と語られた後。腕輪を与えないと、やがて彼らが、災いをもたらすだろう。というのは、かなり社会の一員として、それが安全であることが自分のためでもあるというような、そういう考えにも解釈できよう。
また、躁狂病は月に訴えよ。土は麦酒に、火は病気に、樫は便秘に、麦の穂は魔法に、広間は不和に、牧草は家畜の病気に、ルーン文字は災いに、土はリウマチに対して役に立つだろう。と語られたりもする。
ここでは、月が人の精神状態に影響を与えるのではないか、という古い仮説が見られる。
「オオカミ人間」狼憑きと呼ばれた呪い。獣に変身する魔法使いたちの伝説
麦酒に土というのは、つまり入ってしまった麦毒に対する解毒剤として、特殊な粘土が用いられることがあったからとされる。
そして、病気というか、傷口とか腫瘍とかを焼くことは古くからの民間療法。病人の衣服や寝ていたシートなどを焼くことでも、感染の危険をある程度断てたかもしれない。
ルーン文字(Runes)は、 ゲルマン系の古い文字体系だが、北欧神話の記述に見られるように、時には魔術のための道具として扱われてもいた。
ヴァフズルーズニルの歌
オーディンはある時、賢き巨人だとされるヴァフズルーズニル(VafþrúðniR。強い絡み。強力ななぞなぞ)と会って、昔の知識を知りたいと考えた。
そして彼の館を訪ねて、ガグンラーズなどと名乗った。
ヴァフズルーズニルは、訪ねてきた者が、自分ほど物知りでないのなら、館から出さん、と決めていた。
まず、彼はお試しとばかりに、人々の上に太陽を毎日引っ張っている馬の名前、東から優れた神々の上に夜を引っ張ってくる馬の名前、ヨーツンヘイムとアースガルズを分けている川の名前、スルト(Surtr。黒)と神々の戦の行われる野の名前を聞いた。
オーディンは冷静に、「太陽を引っ張る馬は、フレイズゴート人の間でも最上の名馬として知られる、鬣美しいスキンファクシ(Skinfaxi。光のたてがみ)。夜を引っ張ってくる馬は、毎朝その轡から谷間の露となる泡を滴り落としているフリームファクシ(Hrímfaxi。霜のたてがみ)。巨人と神々の国を分けている、決して水面に氷ができぬ川の名前はイヴィング(Ífingr)。スルトと神々の戦が行われる野はヴィーグリーズ(Vígríðr。戦いが渦巻く場所)」と答えている。
そして、「確かになかなかの賢者だ」と認められたオーディンは、大地と天が最初どこから来たのかを聞き、ヴァフズルーズニルは、「巨人ユミルの肉から大地が、骨から岩が、霜のように冷たい頭蓋骨から天が、その血から海が作られた」と語る。
さらにオーディンは、古代の様々な知識を巨人から聞き出す。興味深い情報は多い。
人間たちの時刻計算のために毎日天を巡っている月と太陽の父の名前はムンディルフェーリ(Mundilfäri。定まりし時の中を動く者)。
ダグ(Dagr。昼)はデリング(Dellingr。曙光)から生まれ、ノート(Nótt。夜)はネルヴィ(Nörvi。深い夜?)から生まれた。満月と半月を優れた神々が作ったのも、人間の時刻計算のため。
ヴェツ(Vetr。冬)の父はヴィンドスヴァル(Vindsvalr。冷たい風)、スマル(Sumarr。夏)の父はスヴァースズ(Svásuðr。穏やかなもの。快適)。
大地の作れられるより以前にベルゲルミル(Bergelmir。山で叫ぶもの。クマのように叫ぶもの)が生まれた。父はスルーズゲルミル(Þrúðgelmir。強烈な大声で喋る者)、祖父はアウルゲルミル(Aurgelmir。耳障りにわめき叫ぶ者。ユミル)。
巨人族はエーリヴァーガル(Élivágar。嵐の海)から毒液が湧き、それが大きくなることで生まれた。
霜の巨人の腕の下で、男の子と女の子は一緒にできたとされている。賢き巨人の足と足が交わり、頭の6つある息子が生まれた。
覚えてる最も古い記録は、ベルゲルミルがすでにいたこと。その賢き巨人は、挽き臼の台の上に置かれていた。
ワシの姿で天の一角にいる巨人フレースヴェルグ(Hræsvelgr。死体を飲み込むもの。難破船を流すもの)の、その翼から、波の上を渡る風はやってくる。
フェンリルが太陽を捕まえる前に、太陽は娘を生んでいる。神々が死ぬと、母の軌道は娘が巡ることになる。
グリームニルの歌
武器に輝くオーディンはいつも葡萄酒だけで生きている。
オーディンは、軍勢の父としてよく強調されているが、その食生活は質素なものとされていたのだろうか。
カラスのフギン(Huginn。思考)とムニン(Muninn。記憶。心)は、毎日大地の上を飛ぶ。
神聖な門の前に、清らかに立っているのはヴァルグリンド(ヴァルハラの門)。門は古く、錠がどのようにおろされたのかを知る者は少ない。
オーディンの館で、レーラズ(Læraðr。裏切りの整頓?。避難所?)の樹の葉を食べているヤギはヘイズルーン(Heiðrún。天国の?)、シカはエイクスュルニル(Eikþyrnir。トゲのある?)。
レーラズというのはユグドラシルそのものだという推測もある。その意味に関して、裏切りなら(実際そんな印象は強い)ユグドラシルという世界が「オーディンの自己犠牲により成り立っている世界」という解釈と関連付けやすい。避難所の場合は、避難というより(宇宙の中で)生物とかが保護される場所と考えられるか。
ヘイズルーンは、澄んだ蜜酒で、容器を満たしておかないとならない。その酒は、戦死した勇者たちの魂、エインヘリャル(einherjar。ひとつの軍隊)のためともされる
エイクスュルニルの角から、泉フヴェルゲルミル(Hvergelmir。沸き立つ鍋。叫ぶ大釜)の中に滴りおちた雫は、ありゆる河の水源。
ユグドラシルの下からは、3つの根が出ていて、1つの根の下にはヘル、1つの根の下には霜の巨人、1つの根の下には人間たちが住む。
つまり、巨大なユグドラシルは、3つの根をミッドガルズ、ヨーツンヘイム、ニヴルヘルにそれぞれはっていて、枝は全世界に広がっているとされている。
ユグドラシルの上をかけまわらなければならない、ラタトスク(Ratatoskr。走り回る出っ歯)というリスがいる。
首を後ろに向け、樹の枝から若芽をむしって食べている4頭のシカもいる。ダーイン(Dáinn)、ドヴァリン(Dvalinn)、ドゥネイル(Duneyrr)、ドゥラスロール(Duraþrór)と呼ばれている。
忘れられているが、多くのヘビがユグドラシルの下にいる。
ユグドラシルはいつも食われている。上の方はシカに食べられ、脇腹は腐っていて、下の方はヘビのニーズヘッグ(Níðhǫggr。怒りに燃えてうずくまる者)が噛んでいる。
ラタトスクは、ユグドラシルの梢に住むフレースヴェルグと、根元に住むニーズヘッグの中継係ともされるが、もっと幅広く世界中に情報を運ぶ役割を有しているという説もある。
4頭のシカに関しては、何かの4つの要素との関連が色々製作されている。例えば四大元素、4つの季節、月の満ち欠け、風の種類など。
ロキの口論
ある時に神々は宴会をしたが、ロキ(Loki。炎?。クモの巣?。鍵?)はやたらと、 他の神々に対し その行いに関して侮辱するようなことを言った。
だが例えば嘘も含まれていたようだ。「アース神や妖精の多くと情人だったくせに」と言われたフレイヤは「嘘ばかり。口は災いの元よ」と返している。
しかしこの宴会によって、みんなの怒りを買ったとしっかりわかっていたのだろう。ロキはサケに姿を変えて、フラーナング(Fránangr。輝く入り江。煌めく水)滝に隠れた。
だが結局彼は捕らえられて、その息子ナリ(Nari)の腸で縛られた。さらに別の息子ナルヴィ(Narvi)はオオカミに姿を変えられる(ナリとナルヴィは、同じ子の別名説もある)
さらにスカジ(Skaði。傷つけるもの。危害)が捕まえてきた毒ヘビが、顔の上に結びつけられた。ロキの妻シギュン(Sigyn。滴る)は、桶で滴り落ちる毒液を止めたが、桶がいっぱいになったら、毒液を捨てに行く。その間は、毒によって苦しむロキは暴れるが、それで大地が震える。それが地震。
別の話(スリュムの歌など)でも、例えば盗んだトール(Þórr。雷)の槌(フロールリジの槌)を返す代わりに自分を花嫁にという、巨人の王スリュム(Þrymr。騒動)の要求を聞いた時に、怒るフレイヤの鼻息で、アース神々の全ての館が揺れたりしている。
グリーピルの予言。レギン、ファーヴニルの歌
『グリーピルの予言』において、賢き預言者として知られていたグリーピル(Grípisspá)が、シグルス(Sigurðr。勝利の加護)に与えた助言の中に、「そなたはグニタヘイズ(Gnitaheidr)に横たわる、貪欲な輝くヘビを討つだろう。レギン(Reginn)とファーヴニル(Fáfnir)のいずれも殺すことになる」というのがある。
『レギンの歌』では、父を殺して得た黄金を独占し、竜になって守っている兄ファーヴニルを殺すように、レギンがシグルスをそそのかす。
レギンは先に、竜となったファーヴニルについて、どんな人間でも恐れる、「エーギル(Ægir。海)の兜」をかぶっているとも説明している。また、シグルスに、ライン川に突っ込み流すと、水を一刀両断に切り裂いていくほどに鋭いという剣、グラム(Gram。怒り)を与えている。
そして、ファーヴニルの元へ向かう途中、嵐に悩まされていたシグルスらの前に、フニカル(Hnikarr。転覆する者)という謎の(実はオーディンとされている)男が現れる。彼が船に乗るやすぐに嵐が静まったことで、シグルスは、彼が何か特別な存在であることを悟る。まるでキリストの奇跡のようである。
「新約聖書」神の子イエス・キリストの生涯。最後の審判の日の警告
「神と人間の前兆どちらもご存知のフニカルよ。剣を振るうのに一番良き前兆は何でしょうか?」とシグルスに聞かれたフニカルは その良き前兆いくつかを説明した後に、逆に避けた方がよいことを警告もする。「もし戦という時につまずいてしまったら、それは良き前兆ではない狡知に長けたディース(dís)たちが、お前の両脇にいて、お前が傷つくのを見たがっている」というように。
ディースは、元来は出産などを助ける祖母の霊とされていたようだが、ここでは運命の女神、あるいはヴァルキュリア(valkyrja)など神話の霊的な存在と混合されていると考えられる。
そして『ファーヴニルの歌』で、いよいよ竜退治が語られる。
レギンと共にグニタヘイズに来たシグルスは、ファーヴニルが水を飲むために這っていく跡を発見、その道に穴を掘った。そしてファーブニルが黄金を置いている隠れ家から這い出してきた時、吐き出す毒を頭上に浴びながらも、ファーヴニルがそこまで這って来るまで待った。そして剣でその心臓を貫く。
ファーヴニルは即座に死んだわけではなく、苦しみながらも、シグルスに「おまえ何者か」と聞いた。シグルスは自分の名前を言わないように気をつけたが、それは瀕死の人の言葉にこめられた呪いは、大変な力を及ぼすと信じられていたからとされている。