「巨人伝説」巨大な人間は本当にいたのか。どのくらいならありえるのか

おとぎ話の巨人のパターン

 おとぎ話や、民間の神話などでも馴染み深い、西洋的な古いイメージにおいては、 小人といえば、その体のハンデを補うかのように、賢いとされたり、気品に満ち礼儀正しいというふうに語られることも多い。

 逆に巨人たちは、力はすごいのに頭が悪く、あるいは下品だったり、バカ騒ぎを好んだり、単純な思考回路だったり、とにかく愚か者というようなレッテルをよく貼られている。
中世の騎士物語、英雄物語などでは騎士どころか、(その愚かさゆえに)かよわいはずのお姫様とかに殺されてしまうパターンすらもわりと見られるという。

 伝承の中で、巨人は人間を食うというパターンも多いから、どちらかと言うと、巨大な人間というよりも、人の形の怪物というイメージも強いか。
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神話に登場する巨人

聖書の登場人物たちの身長

 聖書には小人らしき存在の描写もあるが、 基本的には巨人の方が多く登場するとされる。

 ペリシテの戦士であるガテのゴリアテは特に有名であろう。
他にも、エミン、エナキム、ザムズシミム。インビベノブ、バシャンのオグ王など、多くの(おそらく)巨人や、あるいは巨人の子孫とされる人々が『サムエル記』などには特によく登場するという。

 そもそも聖書に登場する古代の人間は巨人だった可能性がある。
ヘンリオン(Henrion)という人は、 聖書の有名な登場人物の身長を計算したらしいが、その結果は(本当なら)驚くべきものである。
最初の男アダムは121フィート(39メートル)、 最初の女イヴは118フィート(36メートル)。
しかし時代が下ることに身長はだんだん小さくなっていき、ノアで27フィート(8メートル)、アブラハムは20フィート(6メートル)、モーゼは13フィート(4メートル)らしい。
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 ヘンリオンの説が正しいなら、ゴリアテだって、通常は3メートルくらいとされているのだから、先人に比べれば大したものでもない。

ティーターンとギガス。ギリシア神話の最初

 古い時代は、巨人族の世界があったとする神話がある。
ギリシャ神話においては、古くはティーターン神族という巨人たちが この世界を支配していた。
天の存在たるウラノスは、 自分の子供達の力を恐れて、大地であるガイアの胎内に彼らを閉じ込めた。しかし時の存在である、子のひとりクロノスが、ついには父であるウラノスを殺し、性器を斬って、精子を大地に浴びせた。
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 主神となったクロノスは、后としたレアとの間に、新しく強力なティーターンたちを生む。
クロノスは、自分が敵にそうしたように、子供に殺されることを恐れて、生まれた子供を次々と丸呑みにしたが、レアが産着に石を含めて代わりにしたことで、ゼウスだけは助かった。
後にゼウスは、クロノスを毒で殺し、飲み込まれた兄弟たちも吐き出させた。そして彼らはオリュンポスの神々となった。

 ところで、ウラノスの精子がかかった大地からは、またギガスという巨人族が発生。そして彼らは、オリュンポスの神々と敵対。ギリシャ本土の山脈は、このギガス族が、オリュンポス山に登るために、岩を積み重ねてできたもの、ともされている。
ギガス族も結局神々にやられて、地上は弱い人間が暮らせるような安全な世界になった。しかし地下深くに埋められたギガスたちは、地震や、火山の噴火などを時々起こす。

アイルランドの先住民族

 アイルランド神話は、島(アイルランド)があって、神々がそこに流れ着くのが、始まりであるが、島にはすでにフォモール族(Fomoire)という巨人の先住民族がいた。
ただの人間でない姿の者もいたとされ、人の体に馬の頭を持つ者もいれば、魚のような鱗に覆われていて足でなくヒレを持っている者、また単眼で手足が1本ずつというような奇形もいたという。
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 紆余曲折の末、フォモールはダーナ神族(Tuatha Dé Danann)に取って代わられ、後にはそのダーナ神族も、ミレシア族(Milesians)に島の支配を奪われる。
ミレシア族は、後のアイルランド人である。
最初、巨人たちがいて、次に神々、人間という流れは、ギリシア神話と似ている。

北欧神話で、世界そのものとなったユミル

 北欧神話においては、(今の?)世界の始まりは、巨人の死であったとされている。
原初の巨人ユミルは、大地も天もない時代の者だった。
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 ユミルの体からは、様々な巨人や、他の生物も生じた。
やがてブルという巨人の子供たちオーディン、ヴィーリ、ヴェーらは、ユミルを殺し、あるいは何かで死んだユミルの体を利用して、後に人間たちが住まうミッドガルズを作る。
海や川は血、山や岩石は骨、草花は髪の毛だった。
腐った部分から湧いてきた蛆にも知性が与えられ、小人になったともされる。

 ユミルの子孫の巨人たちヨトゥンは、混沌と破壊の力の象徴ともされ神々との間で争いが絶えない。
神話の中で、たいてい神々が勝利するわけだが、それは巨人たちという自然の力に対して、文化や文明など叡知の勝利を意味しているのだともされる。

中国神話世界の創世の巨人

 北欧神話のユミルと似ている
盤古ばんこは、中国の創生神話における原初の巨人。
毛深い体で長い髭を持つ。角を生やしていたり、毛皮をまとっていたという説もある。陰陽のシンボルが描かれた、宇宙の卵を抱えている場合もある。

 中国の創生神話では、最初、世界には混沌だけが存在していた。しかしやがて、陰と陽の気からなる巨大な原初の卵が誕生。
さらに18000年ほど成長を続けたことで、陰と陽の間に完璧なバランスも成立した。その時に卵の中から、この盤古が現れて、世界の創造を始めたのだという。

 巨大な斧で、くっついていた陰陽を切り離すと、陰が大地に、陽が天となった。 そして天地がまたくっつかないようにさ、らに18000年、盤古はそれらを抑え続けたという。
世界の創造には、亀、麒麟、鳳凰、龍の四獣の助けを借りたという説もある。
また盤古が死ぬと、その息が風と雲に、声が雷に、左目が太陽、右目が月、髪と髭が空の星々に、腕と足が四つの方角と四つの聖山、胴体も山、血は川、骨は鉱物、汗が雨となった。
さらに毛皮についていた蛆が風で飛び散って、人間になったのだという。

 北欧神話と中国神話には何か関連があるのだろうか。
中国の創世神話は、他にも伏羲と女媧の夫婦、あるいは兄妹神が行ったというバージョンも有名だが、確かに盤古の創世神話に関しては、ユミルのと似ている感じが強い。
世界自体を、生物的な構造と考える発想から、似たような神話ができたのかもしれない。

スタルカテル・タウェストゥス。海賊巨人

 ジョン・アシュトン(John Ashton。1834~1911)によると、サクソ(Saxo)という人などが、スタルカテル・タウェストゥス(Starchaterus Thavestus)という、 残忍な海賊であったが、妙に食事に関して禁欲的であった、いくらか英雄的とされる巨人を記録したりしているという。

 デンマークに詳しいサクソ(サクソ・グラマティクス)が語ったというスタルカテルは、何よりも質素を重視し、美味を追求したような飾った料理は節度を欠くとして嫌っていた。
快楽というものを、徳の力を弱める敵とし、古来の厳しい掟を愛したという。

 スタルカテルは、年老いて死を望み始めた時、かつて殺した貴族の子と出会う。そして、首を切ってほしいというスタルカテルの願いを、若者は聞き入れたそうだ。

ダイダラボッチ。国づくり巨人

 日本の各地で、ダイダラボッチと呼ばれる巨人の伝説がある。
伝わる話の多くは、基本的に国づくり伝説といった感じで、山とか湖沼を作ったというものが多い。

 ダイダラボッチという名前の、ダイダラは、「大きな人」を意味する「大太郎」からで、ボッチは法師。つまりダイダラボッチとは「大太郎法師」であり、一寸法師の反対の意味という説がある。

ポール・バニヤン。アメリカの地形を作った巨人

 19世紀頃。
アメリカの材木伐採場では、ポール・バニヤン(Paul Bunyan)という巨人と、彼の相方である巨大な牝牛ベーブの伝説が、よく話題にされたという。

 ポールは、その巨体からイメージできる通りの、すごい怪力の持ち主だったとされる。
彼の斧を引きずった跡はアリゾナ州のグランドキャニオンになり、焚き火を消すために岩を積み上げた場所がオレゴン州のフット山になり、ミネソタ州に残された足跡は大量の湖となった。

 そもそもアメリカ大陸というのは、昔はかなり平らな大陸で、それをこの巨人(と場合によっては仲間たち)が、力任せに作り変えていった、という物語がたくさん残っているという。
日本のダイダラボッチと、このような話はよく比較される。

 バニヤンという名前の音は、ケベック・フランス系の驚きの表現「bonyenne!」に似ているともされる。

彼はいったい何者なのか

 バニヤンの話は大部分、木こりたちの実話か噂話に基づいていたという説がある。

 南北戦争後に南に移動し、ミシガン州の伐採作業員の監督をしていたフランス系カナダ人のファビアン・フルニエ(Fabian Fournier)は、身長185メートルくらいと、当時としては大柄の人だったという。暇な時には、飲酒か喧嘩ばかりという、豪快な人物でもあったようだ。
そのフルニエという人物の話が、時が経つとともに、なぜかボン・ジャン(Bon Jean)という、別のフランス系カナダ人の製材業者の物語と一緒くたにされてしう。
ボン・ジャンは、1837~1838年に、カナダ北部で起きた、国王と政治的現状に対する反乱で、活躍した人らしい。
ここまでの話では、非常に大きな人物というような話はないが、 それは後の子供向け創作などで付け加えられた設定であり、ポール・バニヤンの話自体は、上記のいくつかの話から生まれた、ともされる。

現実に存在した巨人

 プリニウス(Pliny)は、神話や古典の世界を抜きの記録の中で、最も背が高い候補として、皇帝クラウディウス(Tiberius Claudius Nero Caesar Drusus。紀元前10~紀元54)の命によってアラビアから連れてこられた、ガッバラス(Gabbaras)という男を挙げていたらしい。
ガッバラスは3メートルほどの身長だったという。
さらに、皇帝アウグストゥス(Augustus。紀元前63~紀元14)の治世には、この男よりも若干高かったともされるポシオ(Posio)とセクンディラ(Secundilla)という男たちがいたとも。
彼らの体は見世物として、サルスティウス家の博物館に保存されていたとされる。

 ジョン・マンデヴィル卿(John Mandeville。~1372)は、『東方旅行記(The Travels of Sir John Mandeville)』という本の中で、28フィート(8.5メートル)ほどの巨人の噂を語っている。
彼らは獣の皮だけを身にまとい、牛肉や牛乳を好み、人肉も好んで食べる。また、定住などということはせず、家という概念を持たないらしい。
さらに彼らの島よりもさらに向こうには、もっと大きな巨人たちの領域があるという。
人間だけでなく、そこに住む羊もとても大きいようなのだが、マンデヴィルは、噂でしか聞いていない巨人と違って羊の方は、その目で見たようである。

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