「北欧神話のあらすじ」オーディン、ロキ、トール、エッダの基礎知識

北欧神話のあらすじ

エッダとはどのような文書か

 北欧神話では、未来の出来事らしきことが普通に語られる。
未来のあるかのようで実際には過去にあった話なのかもしれないが、 普通にそれはやっぱり未来の話という説もある。

 北欧神話は『エッダ』と呼ばれる古い文書群が第一資料となっている。
しかしこれらは全部、断片的なもので、実際のところは各種の物語の時系列なども不明であるし、当たり前のように矛盾もある。

 エッダの語りは基本的には詩の形式であるが、設定上、予言であることもある。
そこでは、(おそらく)未来の物語が、普通に語られているというわけである。
「アイスランド」海底火山の上に、ヴァイキングたちが作った国

創造神話。ミッドガルズはいかにしてできたのか

巨人、神、人間、エルフ、ドワーフ

 それを生命体と言うなら、最初に存在した生物は、ユミルという巨人であった。
ユミルが生きていた頃には、海も大地も天もなく、ただ奈落へ続く口だけがあった。

 ユミルの体からはいろいろな巨人が生まれ、 様々な場所から いくらか生物が誕生した。
そしてブルという巨人(あるいは最初の神)の子供たちが、オーディン、ヴィーリ、ヴェーのアース神族の三柱であった。

 オーディンたちは、大地を持ち上げ、『ミッドガルズ』を作った。
ミッドガルズは、後には人間が住むようになる領域である。

 大地というのはまた、オーディンたちがユミルを倒したその体が変化したものだった。
ユミルの血が海や川となり、骨が山や岩石となり、髪の毛が草花となった。
そのように体の各部位が世界を構成するいろいろな要素となり、残った腐った部分から湧いてきたうじに、オーディンたちは知性を与え、それらが妖精(小人)となった。
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 妖精には美しい妖精のエルフ(アールヴ)と、醜い姿のドワーフ(ドヴェルグ)がいた。
エルフは地上に住み、草木の世話をし、いつも楽しく踊っている。
ドワーフは地下に住み、性格がややひねくれているが、優れた鍛冶屋であったという。

 北欧神話に登場する魔法の道具は、基本的に全てドワーフ作のものである。

アース神族、ヴァン神族。セイズの魔法と最初の戦争

 アース神族のオーディンたち以外に、ヴァン神族という神々もいた。
『アースガルズ』という地に暮らすアース神族に対し、ヴァン神族は『ヴァナヘイム』という地に暮らしていた。
ちなみに巨人たちが住んでいた場所は『ヨーツンヘイム』と呼ばれていた。

 昔、アースガルズに、へグルヴェイグというヴァン神族の女がやってきた。
ヘグルヴェイグは、「セイズ」という魔法をアース神たちに伝授したが、それがあまりよくない影響をもたらす。

 そこでアース神族たちはベグルヴェイグを責めて、オーディンが彼女を槍で貫く事態にまで発展。
そしてその出来事がきっかけで、ふたつの神族の間に争いが勃発。
それが、史上最初の戦争であった。

 両神族は最終的には和解。
互いに人質を送りあうことに決定。
そうして、アースガルズにはヴァン神様族のニョルズと、その息子フレイと、娘フレイヤ。
アース神族側からは、ヘーニルとミーミルがヴァナヘイムへ送られた。

 フレイヤは、そもそもヘグルヴェイグと同一という説もある。

ラグナロク。神々の黄昏

世界が滅びる時

 昔、ソールという太陽と、マーニという月があった。
ソールとマーニはそれぞれ一匹ずつの狼に追いかけられていて、ある日ついに、狼たちはそれらに追いついて、月と太陽を食べてしまった。
オオカミの影 「日本狼とオオカミ」犬に進化しなかった獣、あるいは神
 そして世界は真っ暗闇となって、神様たちも次々と死んでいって、アース神族の父オーディンと、いくらかの神だけが生き残った。

 人間たちは月や太陽が食われる前から、すでに滅びていた。
世界中で雪が降り続け、寒さに震えながらも、人々は生きるために争いあい、そして死んでいった。
遠く、緑が豊かな美しい世界も、恐ろしい風が全てをなぎ倒し、大火事が起こり、焼き尽くされた。

 この悲劇のことを『ラグナロク(神々の黄昏)』と言う。

新しい世界

 ラグナロクにより、世界がほとんど徹底的に滅びた後、そこに新しい太陽と新しい月ができた。
そして大火事から逃れた深い森の中で、一人ずつの男と女が目を覚ました。
男の名前はリーフスラジルで、女の名前はリーフ。

 二人は世界を旅しながら、次々と子供を産んで、彼らが世界の新しい住人となった。

 ラグナロク以前の、それにつながる様々の過ちは記録されていた。
神々も人間もそれを見て学び、もう過ちを繰り返すことはなかった。

アースガルズの誕生

 アース神族と巨人たちは長い間、争いあってきた。
ある時、神々は高い山の頂上に、巨人たちにも壊すことのできない大きな街を作ることを決定した。
そしてそこはアース神たちが住むということで、アースガルズと名付けられる。

 神々が、その街に巨人たちを寄せ付けない頑丈な城壁を作りたいと考えていた時。
「あんたがたが何を望んでいるかはわかるよ。私なら一年以内にできるね」
通りがかりの鍛冶師らしき男が言った。
「もし本当に1年以内に巨人たちを寄せ付けない頑丈な城壁が作れるというのなら、私たちはお前になんでも望むものを褒美としてやろう」
神々は相談した末に、男にそう告げた。

 そして男は翌日から仕事に取りかかった。
彼には手伝いの者などはおらず、大きい馬を一匹連れていただけ。
しかしこの馬は、石を運び、積み上げ、固め、昼夜問わず働き続けた。
神々は最初あまりあてにしていなかったが、本当に期限までに城壁が出来上がりそうだと考え始め、そうなると、彼がいったい褒美として何を望んでいるのかが気になってくる。

 そこでオーディン自らが男に、いったい何が褒美として欲しいのかを聞いてみた。
「私が欲しいのはあの美しいソール(太陽)とマーニ(月)、それにフレイヤだ」
神々はそれを聞いて大慌てだった。

 太陽も月もなくなれば世界は真っ暗闇になる。
フレイヤがいなくなれば、アースガルズの輝きも全く失われるだろう。

ずる賢いロキ

 神々は男が実は巨人族であることも、もう見抜いていた。

 そこでロキというずる賢い神が一計を案じた。
彼はかわいらしい雌馬に化けて、巨人が使っていたスヴァジルファーレという馬を上手く言いくるめ、仕事をサボらせることで、期限通りの城壁の完成を阻止した。

 神々は喜んだが、オーディンだけは、 自分たちが正しくないことをしてしまったことで、心を痛めたとも言われる。

魔法の品々の秘話

グングニル。スキドブラドニル

 ある日のこと、悪戯者なロキは、美しい女神であったシーフの美しい髪の毛を、彼女が寝てる間にこっそりと切ってしまった。
これを知り、シーフの夫であったトールは怒り狂うが、ロキを殺すのはオーディンが止めた。

 しかしロキは、罰としてなんとしてもシーフの髪の毛を元に戻さなければならなくなり、優れた鍛冶屋のドワーフたちに助けを求めることにした。

 ロキはお得意の口の上手さで、ドワーフたちに、金を細く長く加工させ、美しい金の髪の毛を作らせる。
さらについでとばかりに、魔法の槍『グングニル』や、魔法の船『スキドブラドニル』も譲ってもらう。

 グングニルは、投げれば必ず狙った目標に当たる槍。
スキドブラドニルは、どんな海でも思い通りに進められ、平時はポケットにしまえるくらいの小ささに折り畳める船。
グングニルとスキドブラドニルは、どちらもドワーフの傑作であったが、彼らは哀れにも、それを無料タダ同然に手放してしまったのだった。

 ロキは、ドワーフの国『スヴァルトアールヴヘイム』から、アースガルズに帰ってきたロキは、シーフの頭に金の髪の毛を被せてやった。
するとすぐに、その髪の毛はその頭に馴染み、彼女は以前の美しさを取り戻した。

 ロキはいい気のまま、グングニルをオーディンに、スキドブラドニルをフレイにプレゼントした。

ドラウプニル。ミョルニル。金のブタ

 ロキは調子にのって「わしの友人のドワーフより優れた鍛冶屋はいまい」と大口を叩いた。
これを聞いて対抗心を燃やしたブロックとシンドリというドワーフらは、金色に輝きながら空を飛ぶブタ、9日ごとに8つの分身を生む腕輪『ドラウプニル』、強力な力を持つハンマー『ミョルニル』を作り、神々にプレゼントした。
金のブタはフレイに、ドラウプニルはオーディンに、ミョルニルはトールのものとなった。

 ミョルニルは、トールが使えば巨人たちだって簡単に倒せるので、グングニルやスキドブラドニルよりも神々の役に立つと評価された。

 ブロックたちは、自分たちがより優れたものを作れるかどうかで、トールと賭けをしていた。
しかしトールは、首を賭けていたはいたが、首に触れることは許可していなかったと言い逃れをする。
ブロックたちは悔しがりながらも、ロキの口を縫い合わせ、しばらく喋れないようにすることで妥協したとされる。

ブリーシンガメン。美しすぎた女神の首飾り

 フレイヤは美しい女神であったが、その美しさゆえに、多くの者が、望みの品物扱いした。
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 例えば、フレイヤの持つ『ブリーシンガメン』という美しい首飾りは、それを作ったドワーフたちか、あるいはそれを持っていたベグルヴェイグから譲ってもらったもの。
いずれにしてもフレイヤは、それをもらうためか、あるいはベグルヴェイグの居場所を聞くために、醜いドワーフたちに自らを差し出したという。

 そこで愛想をつかしたのか、ある時、夫のオーズルは彼女の元を去って行方不明となってしまった。
フレイヤは、夫を探したがなかなか見つからず、アースガルズとミッドガルズを繋ぐ虹の橋『ビフレスト』で見張り番をしているヘイムダルに、夫の場所聞いてみた。
ヘイムダルは「あなたが彼を見つけたいと思えば思うほど見つからないだろう。彼はあなたが探さない場所に常にいるのだ」と答え、いよいよフレイヤは途方にくれる。

 そしてフレイヤが、流した涙の粒が金に変わったことから、彼女は後生において涙の貴婦人と称されるようになったのだった。

恋のために魔法の剣を失った話

 フレイヤもまた、夫を探して行方不明になってしまった時、今度は兄のフレイは彼女を探そうと考えた。

 フレイは、オーディンがよく世界の様子を見ている、『フリズスキャルフ』という高い見張り台へとやってきた。
そこではオーディンは不在だったが、ゲリとフレキというオオカミたちが見張りをしていた。
しかし、神の言葉を喋るフレイをオオカミたちは通してしまう。

 フレイヤはすぐに見つかったが、妹以上に、フレイは雪降るヨーツンヘイムに暮らす美しい巨人の娘ゲルダに目を奪われてしまった。

 フレイは召し使いのスキルニルに、ゲルダへの求婚の使者になってくれるよう頼んだ。
スキルニルは、報酬として、フレイの持っていた魔法の剣を要求。

 スキルニルは使者としての役割を果たし、ゲルダを脅してまで説得したともされる。

 結果、無事にゲルダはフレイのお嫁さんとしてアースガルズに来ることになった。
しかしフレイは、後にラグナロクでの戦いに使える強力な武器を失ってしまったのである。

オーディンの知恵への旅

 ある時、巨人であり、ノルン(運命の女神)でもある3姉妹、ウルズ、ヴェルザンディ、スクルドの元へとやってきたオーディン。

 ノルンの3姉妹は、 世界の中心にあり、世界を支える柱でもある大木『ユグドラシル』の根元の泉から生まれた存在で、はるか過去の事から、遥か未来のことまですべてを知っていた

 オーディンは、世界を飛び回っては様々なことを報告してくれる、二羽の大ガラスのフーギンとムーニンが、悪い前兆を見て以来、ずっと不安を抱えていたのである。

 ノルンたちから、悪い前兆は現実のものになるだろうと聞いたオーディンは、 絶望の未来を少しでも良いものと変えるために、ミッドガルズへと旅に出ることにする。

 そして彼は知恵と知識が隠されているという『ミーミルの泉』へとやってきた。
オーディンは、番人である巨人の賢者ミーミルに、代価として片眼を捧げて隻眼となり、代わりに泉の水を飲んで、大いなる知恵を得たという。

 そしてオーディンは、ラグナロク、その終末の日の時、いったい何が起こるのかということを全て知った。
世界は確かに壊滅寸前にまでなるが、その時、気高き心を決して忘れることがなければ、いくらかの希望の芽が残り、さらに後の世界では真の平和が訪れるということも知ったのだった。

ヴァルキュリア、ワルキューレとヴァルハラ

 ラグナロクの時に起こる大きな戦いに備え、強力な軍を作ろうと、オーディンはミッドガルズで死した人間たちの中でも、 特に優れた勇気を持つ者たちを選び、集めていた。

 勇者たちを選び出す役割を担っていたのが、『ヴァルキュリア(ワルキューレ。戦乙女)』であった。
ヴァルキュリアたちは強く、美しく、気高く、勇敢で、さらにはオーディンから知恵の魔法を授かっていたから、とても賢くもあった。

 ヴァルキュリアにより戦死者の中から選ばれた勇者は、『エインヘルヤル』と呼ばれ、『ヴァルハラ』という館に連れてこられた。
勇者たちはヴァルハラで、その出番、戦いの時まで、自分たちをさらに鍛えながら、それぞれは仲良く楽しく暮らしていたという。

ブリュンヒルド。最も賢き戦乙女

 ヴァルキュリアの中でも最も賢かったのは、ブリュンヒルドであったが、彼女は自分がついた勇者であるアグナルが、オーディンの味方する白ひげ王ヘルムグンナルと戦った時。
オーディンに背き、アグナルを勝たせてしまう。

 ブリュンヒルドはアースガルズを永久追放となったが、ある時、 最も賢かった彼女がいなくなってしまったことを悲しんだオーディンは、八本足の愛馬スレイプニルに乗って、彼女に会いにきた。
ブリュンヒルドの中には、今やアースガルズへの怒りが渦巻いていた。

 選ばれた勇者がヴァルハラに連れて行かれるということは、ミッドガルズからしてみれば、最も勇敢な者を一人失ってしまうということ。
それは多大な犠牲であり、もう完全にミッドガルズの住人となっていたブリュンヒルドは、そのことを怒っていたのだった。

 オーディンは「お前がいつか人間として死んでしまうまでに、私に何かしてほしいということはないか?」と聞いた。
ブリュンヒルドは答えた。
「ひとつだけ。私が生きている間、世界中で最も勇敢な者でなければ、私に求婚などできないようにしてほしい」

 オーディンは願いを聞き入れ、ブリュンヒルドを「眠りの木のトゲ」で突き刺し、ヒンドフェルという山に建てた屋敷に彼女を寝かせた。
その屋敷は、恐れというものを知らぬ勇者しか通り抜けることができない、炎の壁に囲まれている。
ブリュンヒルドは、いつか本当に勇気ある者がそこを訪れて、彼女を起こすその時まで、ずっと眠ったままでいるのである。

フェンリル、ヨルムンガルド、ヘラ。ロキの悪霊の子たち

 ロキはよき心と、悪い心を持っていたが、ラグナロクが近づく時、その悪い心が大きくなりすぎ、よき心を失ってしまう運命にあった。

 神々の裏切り者となったそのロキと、巨人魔女のアンゲルボダとの間には、恐ろしい悪霊たちが生まれることになった。
その悪霊たちは、 恐ろしい願いを叶えるために最もふさわしい姿になることができた。
最初の子供フェンリルは、 全てを破壊する恐ろしい狼。
二番目の子供ヨルムンガルドは、全てをじっくり破滅させる蛇。
ヘビと餅 「ヘビ」大嫌いとされる哀れな爬虫類の進化と生態
三番目の子供ヘラは、どんな生き物の命も奪う、半分が死骸である女。

 恐ろしい三大の悪霊たちに、神々は震えた。
そこでオーディンはヘラを世界の深い底の死者たちの世界『ニフルヘイム』に落とした。
ヨルムンガルドは、トールに掴まれ、世界を囲む大海へと投げられた。
フェンリルは、『グレイプニル』という魔法の鎖で縛りつけられた。

 しかしラグナロクの時、ヘラは死者の軍勢を、神々を攻める巨人の軍に加勢させる。
そして大海で大きくなったヨルムンガルドはトールと、鎖から解放されたフェンリルはオーディンと戦う運命にあるのだという。

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