男性使用人とその階級
イギリスの歴史において、使用人というのは、一時期女性が多くなった。
「メイドさん」歴史と文化、19世紀イギリスの女使用人たちと女主人の話。
しかしもちろん男性使用人というのが、駆逐されたわけではない。
基本的に 屋敷の使用人には階級があるが、中でも最も偉い立場にいるのが『家令(ハウススチュワード)』である。
ハウススチュワードは、大きな屋敷のみの存在で、使用人たちのリーダーであり、屋敷の家事全般に関することを一任されていた。
ハウススチュワードがいない家においては、特に男性使用人をまとめていたのは『執事(バトラー)』だが、雇用主直属の『従者(ヴァレット)』に対しては、それほど強い権限を持てなかったようだ。
ハウススチュワード、バトラー、ヴァレット、それに『料理長(シェフ)』を加えた者たちは、『アッパー・テン(上流階級)』と呼ばれる上級使用人とされる。
一方で、アッパー・テンに対して、下級の使用人は『ロア-・ファイブ(下流階級)』と呼ばれる。
基本的にロアー・ファイブは、屋敷内で働く『従僕(フットマン)』である。
『客室係(グルーム・オヴ・ザ・チェンバーズ)』はアッパー・テンとされることもあれば、ロア-・ファイブとされることもある。
野外で働く使用人は『アウトドア・スタッフ』と呼ばれる。
馬車小屋を管理するのが『馬丁(グルーム)』。
その馬丁たちをまとめるリーダーが『御者』である。
『園丁(ガーデナー)』は、いわゆる庭師。
庭の手入れは見習いや臨時雇いも含めて、かなりの人数が動員されていたが、園丁は最高責任者である。
コーチマンやガーデナーは、使用人全体の地位的には、バトラーに次ぐか、同じくらい。
それはシェフも同じである。
各役職の立場、仕事
家令。ハウススチュワード
ハウススチュワードは、古くから貴族の家の子がつくくらいの仕事であり、当然のことながら、相当な家柄の屋敷でないと、雇われることはなかった。
基本的に、男女関係なく、ほぼ全ての使用人たちのリーダーであり、使用人たちに対する権限は、雇用主より強いのが普通だったという。
ハウススチュワード自身が、使用人を持っているということも珍しくなく、仕事内容は雇用主の財産管理にまで及ぶ場合もあったようだ。
執事、従僕。バトラー、フットマン
バトラーというのは本来、酒を管理する使用人の名称だったようだ。
しかし酒というのは、屋敷を訪れるお客をもてなすのに重要なアイテムである。
やがてバトラーは、客のもてなしそのものを任されるようにもなっていき、その重要性から使用人としての立場もだんだんと上がっていった。
また、新しく募集される時には、経験の有無がかなり重要視されたようだ。
それと接客することが多いため、 外見もそれなりに採用基準になっていたらしい。
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一応使用人としての立場が強くなっても、メインの仕事が酒の管理ということは変わらない。
しかしたいていの屋敷では、その本来の仕事以上に、他の一般使用人の仕事もしなければならなかったらしい。
またバトラー直属の使用人がフットマンである。
客室係。グルーム・オヴ・ザ・チェンバーズ
酒の管理がメインの仕事であるバトラーに対してそのもの接客自体 を仕事とするのが、グルーム・オヴ・ザ・チェンバーズである。
もちろん重要な仕事なのだが、逆に来客が来た時のみの仕事であるので、わりと楽でもあったようだ。
また、客室の管理も彼らの仕事である。
従者。ヴァレット
ヴァレットは雇用主の直属ということで、基本的には他の使用人たちの序列に含まれていない。
ヴァレットの仕事は雇用主の身の回りの世話であり、ヴァレットがいない家は、ハウススチュワードかバトラーが兼任していた。
また、外出の際などのボディーガード役を担うこともあったそうである。
料理長。シェフ
シェフもまた、相当な家でないと雇えなかったようである。
イギリス人は料理が下手という噂がある。
そしてイギリス人自身がそう考えていたのか、どうもシェフは、フランス人かイタリア人が多かったようである。
もっとも、シェフが料理に直接関わるということあまりなく、他の使用人に料理を教えてもらうために、短期間だけ雇われるということもあったらしい。
御者、馬丁。コーチマン、グルーム
コーチマンは古くからある役職で、使用人たちの中でもかなり高い地位を保っていた。
厩舎(Stable)、つまり家畜小屋、馬小屋で、 動物たちの世話をして雇用主が馬車で出かける際には、その運転も任されていた。
下にはグルームたちがいたが、 家によってはコーチマン一人のみという場合もあり、なかなか大変だったようだ。
厩舎の二階に住んでたりする場合もあったが、裕福な家においては、厩舎の隣に家屋を与えられていることもあったという。
園丁。ガーデナー
ガーデナーは、庭園や家庭菜園などの管理、そこで働く人たちの監督が仕事。
庭園を持っている家は多く、またそこまで礼儀作法を重視されないことから、そこで働く使用人の数は非常に多かったようだ。
ただしガーデナー長ともなれば、さすがに多少の礼儀作法は身につけておかなければならなかったようだ。
その他。土地管理人、給仕、狩場番人
ここまでの紹介した以外にも様々な男性使用人の職種がある。
例えば、雇用主に代わって土地管理を任された、『土地管理人(ペイオフ)』。
食事に関する雑用を行う『給仕(ページ)』。
貴族のたしなみとされた狩猟を行うための場を管理する、『狩場番人(ゲームキーパー)』などである。
イギリス以外の国の使用人いくらか
この記事や、メイドの記事での使用人は、基本的にはイギリスの存在である。
しかしもちろん使用人という制度自体は他の国にもある。
ここでの話は全て19世紀くらいまでの話である。
ドイツの使用人は、法的に非常に立場が弱く、少ない給料で、かつ雇用主から暴力を受けていたりする場合もあったようだ。
フランスもやはり、使用人はあまり高い立場になく、苦労したようだ。
また、フランス革命(1789~1799)以降は、やや裕福という人たちが増えて、使用人が一人だけ雇われるということがよくあったという。
アメリカでは、契約期間中、もうほとんど奴隷のような扱いを受けていた 塩にも多かったようだが、給料はそれなりに高かったようだ。
まだ19世紀も後半になる頃には、使用人はほとんど黒人女性だった。
黒人女性が働ける仕事は、当時それくらいしかなかったのだとされている。