「ファウンデーション」アシモフの名作シリーズ第一巻、感想と考察

惑星ターミナス

心理歴史学者

 アイザック・アシモフの名作シリーズとして名高いファウンデーションシリーズ。
そのファウンデーションシリーズを、1巻から読んでいくなら、必然的に一番初めに読む事になるだろう話。
第一巻の第一部であり、 内容的にも完全にプロローグな、この「心理歴史学者」だが、実はこの話は、アシモフが最初に書いた話ではないという。
 連載されていたいくつかの話を一冊の本にするにあたり、新たに書き加えられたそうだ。
しかし書かれてたとしても、もしかしたら連載第一話としては微妙だ、と判断されたのかもしれないぐらいに、この話はあまり派手な展開とかがない。

  しかしながら、この物語全体の重要なキーワードの一つである、銀河帝国の首都トランターが舞台であるし、最重要キャラであるハリ・セルダンも絶妙な感じで登場、活躍するので、物語のプロローグとしては、完璧といっていい出来と思われる。
 特に、生前のハリ・セルダンは、ファウンデーション設立秘話を描く第6巻、第7巻まで登場しない事を考えれば、なおさらである。

 ただし後から書かれただけあって、この第一部は、大きな問題(?)をひとつ抱えている。
早い話が、この第一部は、第ニ部のオチのネタバレになっている(笑)。

 二作目はコチラ。
ワープドライブ旧銀河帝国との最後の戦い、熱い展開の二巻。「ファウンデーション対帝国」

個人的には1〜3巻が名作でおすすめ

 ファウンデーションという話は、ハリ・セルダンという人が、心理歴史学という架空の学問の手法を駆使し、銀河帝国の終焉と、その後の、人類が衰退する暗黒時代を、かなり正確なレベルで予測したことに、端を発している。
 セルダンは、帝国が滅んだ後も科学技術を保存し、将来にやってくる長い暗黒時代を消し去るという計画を立てる。
その計画のために、科学技術を密かに保持していくための組織がファウンデーションという訳である。
 セルダンの計画は、自らの死後1000年ほどにわたる長期的なもので、このファウンデーションの設立以降1000年以内にいくつも起こる計画崩壊の危機と、その解決を描くのが、このファウンデーションというシリーズの内容。

 これは僕が1〜3巻を好きな人だからかもしれないが、ハリ・セルダンという人物の生涯に関する情報は、5巻まで、つまり実際に、過去のハリ・セルダン自身の活躍を描く前の、いろいろ想像、考察出来た状況が完全にベストだったと思う。
はっきり言ってしまえば、6巻と7巻が失敗であると個人的には思う。
さらに言うなら、個人的にはロボットシリーズと世界観を繋げた4巻、5巻も失敗。
鋼鉄都市「鋼鉄都市」感想と考察。R・ダニール・オリヴォー初登場作  まあ、個人的にはやっぱり1〜3巻が最高という事で。

わりと時代を感じるSFガジェット

 ハイパースペース(超空間)に、光速以下の情報のやり取りしかできない正常空間が区別され、ハイパースペースを利用したジャンプ技術がある。
ハイパービデオというのもあるようだが、これはハイパースペースを利用した、広範囲のテレビ技術だろうか?
時空の歪み「特殊相対性理論と一般相対性理論」違いあう感覚で成り立つ宇宙 電波「電波とは何か」電磁波との違い。なぜ波長が長く、周波数が低いか  他にも、設定された場所に、正しく向かっている場合、光続ける切符を渡される、全方向タクシー。
スパイビームなる、 おそらくは情報を盗む技術があるようで、それを防止出来るというレコーダーが登場したりする。

心理歴史学とは何か

 この世界のあらゆる現象などを説明できる、ひとつの理論を統一理論という。

 おそらくだけど、心理歴史学はある種の、統一理論なのではなかろうか。
後のシリーズで明かされた情報的には、「大集団を一個として扱い、その行動を予測することで、結果的に全体の未来を予測する」というようなことが、この心理歴史学の方法である。
だが、それはある意味で、大集団としての1個の宇宙を説明する理論にならないだろうか。
つまり心理歴史学は、統一理論とは言えないにしても、近似的にそうとして扱えるような理論なのではなかろうか。

 インフレーション理論の提唱者として有名な佐藤勝彦さんなどそうだが、「統一理論には数学は必要ないかもしれない」と言う物理学者もいる。
インフレーション「インフレーション理論」ビッグバンをわかりやすくした宇宙論 この最初の話だけ読んでもらえばすぐにわかるように、ハリ・セルダンは、銀河帝国滅亡などの未来予測を、完全に数学的に行っている。
そこをちゃんと描いているから、心理歴史学はより近似的感が強い。

 だからこそ、この話はSFとして面白いんだと思う。
数学はよく不完全だとされているけど、それによって多くの現象が近似的に、しかし科学的にうまく説明できる。

 何もかもに不確定性要素という訳である。
量子「量子論」波動で揺らぐ現実 100%こうだというふうな結果は絶対に出ない。
数学が100%完全なものではないから。
 しかし限りなく100%に近い値を出すのが科学。
そして実際に我々は、それに従うような現実しか見た事ない。
確率的には他にもあり得るはずなのに。
というような現実と科学の関係を、実に上手くSF世界で描いているのが、このシリーズだと思うのです。
 もっとも、この最初の話を書いた頃の若かりしアシモフが、そこまで考えてたかは不明であるが。

スケールの大きさについて

 さすがに今では、「ものすごい壮大なスケールの小説」というような感じではない。
しかし、この小説が書かれたのは、まだ20世紀の半ば頃であり、当時の水準で言うと、かなり壮大な物語であったに違いない。
それに、とりあえず普通に面白い。

 しかしながら、銀河フィラメントがさらに点のように見えるだろう真の宇宙領域や、超ひも理論のような量子力学と一般相対性理論を両方取り込んだ統一理論なども議論されている今となっては、別に、たかが銀河一個の数万年程度の物語、さほど大スケールでもないだろう。
11次元理論「超ひも理論。超弦理論」11次元を必要とする万物理論  いや、スケールはでかいはでかいけど、「ものすごい壮大」と高らかに言えるほどではないと思う。
まあ、他のSF小説と比較しての、相対的なスケールは今でも大きいかもしれない。
しかし、個人的には、今のSF作家が、壮大な物語に対するやる気なさすぎなだけだと思う。

 多分、ファウンデーションが書かれた当時は、銀河系が舞台っていうのは、今でいう観測可能な宇宙が舞台、くらいの感じだったんではないだろうか。
 我々はSFがファンタジーということを忘れてるのではなかろうか。
ファンタジーの水場ハイファンタジーとローファンタジーの違い。SFについて「ファンタジーとは何か?」

百科辞典編纂者

 後に、ファウンデーションの歴史上において、セルダンに次ぐ英雄として語り継がれることになる、サルヴァー・ハーディンの話、その1。

 ファウンデーションの本拠となっている惑星ターミナスの、都市の市長であるサルヴァー・ハーディンが、ターミナスには金属がなから輸入に頼るしかなく、しかも予測通りの帝国の弱体化が、 貿易にも影響を与え始めそうになっていることを、不安視している状況から始まる。

 素粒子の組み換えで、金属生成とか、そういうことできる技術はないのだろうか。
実際わからないけど、感じ的には、あえてそういう技術が誕生しなかった、というふうに書いてるように思える。
 ただし、第四部で金属変成器なるアイテムが登場しはする。

一般人の科学知識はどうなるか

 アシモフはどうも、一部の優れた頭脳を持つ科学者にしか理解できないような難しい科学理論は、一般大衆にはいつまでも理解されないものだろう、というような考えにあったのだと思われる。

 まあ、難しい問題である。
少なくとも19世紀の人と20世紀以降の人では、一般人の科学知識に関しても、全くレベルが違うと思うし。
ただし、それを実用的に行える能力に関しては、むしろ劣化しているようには思える。
それはおそらく、それらを実用的に行うのを手助けする装置があまりにも発達しすぎたせいもあるかもしれない。
 ようするに、専門家を除けば、電子回路を組み立てられる人は減ったが、コンピューターを扱える人は増えた、というような事。
電気回路「電気回路、電子回路、半導体の基礎知識」電子機器の脈 コンピュータの操作「コンピューターの構成の基礎知識」1と0の極限を目指す機械 こういう事に関して、未来がどうなっているかというのは、どんなSF作家にも難しい予測だろう。

 ただ、とりあえずアシモフは、多くの人が扱えるような工学技術の進化が、逆に基礎的なことを扱える人を少なくしてしまう、というような事を予想していたのかもしれない。

霊廟

 霊廟れいびょうとは、先祖の霊をまつった建物の事である。
そして、ラジウム時計の一定の周期によって開く、セルダンの霊廟も、特に、シリーズの初期の話においては、重要となっている。

 特に第二部において、記録映像のハリ・セルダンがファウンデーション計画の真実に関して、楽しそうにペラペラ喋るシーンは、クライマックスかつ最大の見どころと思われる。
 その語りが、そのままサルヴァー・ハーディンの語りに繋がっていて、なかなか痛快である。

市長

 サルヴァー・ハーディンの話、その2。

 セルダン自身によりファウンデーションの真の目的が明かされてから30年後。
 ハーディンは、孤立していターミナスの周囲の(田舎だから秩序が崩壊しかけていた)文明から、ファウンデーションを守る為に、あえてそれらに科学技術を与えながら、複数の文明同士を牽制させあう事で、自分達の安全を確保していたが、その方法の代償としての新たな危機を描く。

 ハーディンに二度危機を体験させ、二度とも彼を主役として描く事で、見事に後の彼の英雄扱いを納得いくものにしているように思う。

 第二部は、謎があって、それを解くみたいな話だが、この第三部は普通に危機の原因である周囲の星系や、ターミナス内の不穏分子との駆け引きなどを描いている。
どちらがいいかは、好みの問題だろうが、個人的にはこちらの方が面白かったのは、おそらく第二部のオチを第一部でネタバレされているためである。
この構成は、どうにかならなかったのだろうか。
まあ、それでも結局面白いは面白いけど。

貿易商人

 星から星を次々と飛び回る貿易商人を装ったファウンデーションのエージェントの活躍の一端を描いている。
黒魔術だの、錬金術だのという、アシモフの趣味が全開である。
月夜の魔女「黒魔術と魔女」悪魔と交わる人達の魔法。なぜほうきで空を飛べるのか 錬金術「錬金術」化学の裏側の魔術。ヘルメス思想と賢者の石  金属変成機が登場するのだが、電力消費量が大きすぎるために大規模利用は出来ない、という設定が出てくる。

 マイクロフィルムレコーダーという記録装置が出てくるが、これはどうも様々な場所に仕込むことができる、映像や音声の記録装置のようである。
そしてこれを使った駆け引きとかまさにそうだけど、この頃のファンデーションの話は、周囲の技術の遅れた文明に対しで、科学力で圧倒するのが定番。
そういうの好きなら楽しめるのはもちろん、後の、ファウンデーション以上の敵への布石にもなってる感じ。

豪商

 サルヴァー・ハーディン同様に、後の時代に英雄として語り継がれることになるホバー・マロウが出てくる。
マロウは どこかアウトローな感じで、知的で真面目な雰囲気のハーディンとは、よく差別化されてると思う。
 また、マロウは、教育でファウンデーション人になった、外惑星人というのも、なんかよかった。

 もう定期的に訪れる危機が、普通に浸透していて、セルダン危機とか言われている。
政治家は、やたらとセルダン危機をがなり立てたがる、という設定はけっこう面白いと思う。 

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