「ループ量子重力理論とは何か」無に浮かぶ空間原子。量子化された時空

ループ量子空間

第二に人気(?)な重力量子理論

 量子論と相対性理論は、同時期、どちらも二十世紀の初期に誕生した。
両方とも、19世紀までに物理学研究の発展によって明らかになった、様々な問題を解決するために、ある意味で、誕生することが必要だった、新しい理論であった。
そしてどちらも、それまでの通説を破壊した。

 量子論は、かつては、この世界の最も基本的な最小構成要素と考えられていた、原子のさらに内部構造を明らかにし、我々のスケールでは体感できないために、想定することすら難しかった、物質の機構に関する、いくつもの奇妙な事実を明らかにした。
量子「量子論」波動で揺らぐ現実。プランクからシュレーディンガーへ  相対性理論とひとまとめにされる、特殊相対性理論と一般相対性理論は、電磁気学に関する諸現象を説明する、マクスウェル方程式より導き出される、「光速度が常に普遍」という、当たり前におかしいとされたパラドックスを解決する試みに端を発する。
雷「電磁気学」最初の場の理論。電気と磁気の関係 それは、時間と空間に関して、やはりそれまでの常識を覆すような内容の理論であった。
時空の歪み「特殊相対性理論と一般相対性理論」違いあう感覚で成り立つ宇宙  ディラックは、特殊相対性理論と相対性理論は考慮に入れていなかった、量子論における基礎的なシュレーディンガー方程式を、上手く組み合わせて、ディラック方程式を考案。
ディラック方程式は、反粒子の存在を予言し、実際にそのような粒子が見つかった事で、一気にその価値を高めた。
反物質「反物質」CP対称性の破れ。ビッグバンの瞬間からこれまでに何があったのか?  問題は一般相対性理論と量子論が、互いに噛み合わない理論だという事である。

 一般相対性理論と量子論のどちらか一方でも成り立たないのは、まずい。
なぜならそれらは現代物理学のかなり根から備え付けられた二大柱だからである。
だが、ふたつの理論が両立出来ないのなら、それは少なくとも一方が間違っている事を意味している。

 そこで当然、一般相対性理論と量子論を融合させた理論はないかと、多くの人が考えてきた。
そのような理論は、『量子重力理論』と呼ばれ、(全てといって言いだろうが)それらのほとんど全てが、複雑な数式から想定された理論としてだけ存在していて、実際的な証拠はまったく見つかってない。

 量子重力理論の最もよく知られ、研究されている理論は、超弦理論(超ひも理論)であろう。
11次元理論「超ひも理論。超弦理論」11次元を必要とする万物理論 おそらく、『ループ量子重力理論(Loop quantum gravity)』は第2番目である。

ループ量子重力理論とは、どのようなものか

 ループ量子重力理論は、「空間は原子のようなものである」とする。
そのまま原子のような空間があるということではなく、原子理論のように、空間を構成する基本要素を想定する。
その空間原子は、よく原子のイメージとされる球ではなく、閉じた紐のような、1次元のループ状の広がりを持ったもの、だと考えるとしっくりくる。
そこでこの理論は、ループ量子重力理論と呼ばれる理由である。

 空間原子のいくつかの性質は、実際に空間に存在するような原子と似ている。
原子はエネルギーを持っているが、そのエネルギーを増大させる方法は、主にふたつ。
単純に原子の数を増やす方法と、原子のエネルギー状態を高める方法である。
どちらにしてもエネルギー保存則により、外部からの干渉が必要となる。

 空間原子に関して、それを大きくするための方法も、普通の原子のエネルギー増大の例と同じように、ふたつある。
空間の原子を追加すること、あるいはそれ自体を引き延ばすこと。
ただし空間の体積には保存則というものがなく、空間原子は外部からの何らかの干渉がなくても大きくなる。

 ループ量子重力理論のモデルにおいては、膨張する時空間と、おそらくは物質の相互作用が、空間原子に影響を与え、大きくする。
空間原子による空間は、それ自体で大きくなるのだ。
空間原子の体積が十分に大きくなると分割され、新たな空間原子を生みさえする。

超ひも理論との比較。物質の性質か、幾何学的構造か

エウクレイデス以来

 この理論において最も奇妙な事のひとつは、実のところ、空間原子が存在しない場合の状態である。
それは言うなれば無の状態なのだが、これは真なる無の状態。

 ループ量子重力理論はある意味で、エウクレイデス、ギリシア派の現代的宇宙理論と言えるかもしれない。
幾何学なぜ数学を学ぶのか?「エウクレイデスと原論の謎」  ひも理論は、量子を基礎として、時空間の理論と矛盾しないよう、時空間にそれを配置して、宇宙モデルを構築していくような理論とも言えよう。
ある意味、ひも理論は原子論以降の、比較的新しい思想の流れを組む正統派理論である。

 一方でループ量子重力理論は、宇宙を古くさい幾何学的発想から理解する試みであり、物質の性質よりも空間の構造が重要だと考える。

時空の場を扱う量子論

 ヒモ粒子も、空間原子も、一次元の基本要素を有するが、ヒモ粒子は、固定されたような時空間内で作用し、素粒子や力を発生させている。
空間原子は、時空間そのものも、それが作る。
言うなれば時間と空間を同一の時空としたアインシュタインの思想をさらに進化させ、時空と物質も同じ原理から生まれるものと考える。

 そういうわけで、超ひも理論が「時空上の場を扱う量子論」であるのに対し、ループ量子重力理論は「時空の場を扱う量子論」とも言われる。
素粒子論「物質構成の素粒子論」エネルギーと場、宇宙空間の簡単なイメージ

真の真空か、11次元空間か

 幾何学的な目で宇宙を見てみた時、ヒモ粒子の宇宙は連続的なものであり、空間原子の宇宙は離散的でありうる。

 また、普通、超ヒモ理論に対し、ループ量子重力理論は、追加しなければならない要素が、まだありそうともされる。
ループ量子重力理論を認めるなら、その奇妙な、「地獄状態」と称される真空を認める必要があるなど、いわば必要条件がある。
しかしそれらは、超ヒモ理論が要求するような11次元空間などに比べれば、まだ不可解ではあっても、ありえそうなものと言えよう。

 いずれにしても、あらゆる量子重力理論がそうであるように、実験的な根拠が何もなく、数式上においてだけしか確認していない理論は、追加要素が過剰すぎるという危険性はある。
かなり極端な話ではあるが、これは確かな事である。
いくらでも必要条件を追加していいなら、ある意味で宇宙理論など自由に作れる。

 ただし、例えばディラック方程式における反粒子がそうであったように、そういう追加要素は予言と言われる場合もあり、実際にそのようなものが見つかった時に、理論の有力な根拠となる。

空間原子を見つけた人達

一般相対性理論の再定式化

 1986年。
アブヘイ・アシュテカは、一般相対性理論の再定式化の計画をたて、必要な数学の解明のために、若い研究者たちを招集した。

 アシュテカたちが書き換えたアインシュタイン方程式は、時空の量子論を展開し、その性質を探るのに適していて、後のループ量子重力理論に大きな影響を与えたとされる。

 アシュテカのもとに集った研究者たちは、しばらくすると、それぞれ自分たちのプロジェクトのために去っていったが、トーマス・ティーマンはそうしたひとりだった。
彼は、ループ量子重力理論に大きな発展をもたらした。

ループ量子という発想

 ループというのは、物理の記述において、有効な近似手法であった。
ループで定義する事により、扱う範囲が広がる曲線に限定され、計算がやりやすくなる。

 だから、カルロ・ロヴェリとリー・スモーリンが、1990年に、重力を、ループを用いて説明する、「ループ量子重力」のモデルを発表した時、ループという概念自体は、目新しくもなんともなかった。

 ロヴェリとスモーリンのモデルの基礎として、「一般共変性(General covariance)」というものがあった。
これは、「空間内に絶対的な場所は存在せず、物体同士の関係だけが問題となる」という、一般相対性理論においても重要な概念である。

 ループの位置の変化は、重力以外の力を記述する際に力の状態を変えるが、重力を記述する時には何の影響ももたらさない。
重力の記述の際に重要になるのは、ループ間の関係のみ。

 ロヴェリとスモーリンのモデルは、一次元のループが空間を編んでいくというようなイメージのものであったという。

 ロヴェリとスモーリンは、自分たちが書いた基礎方程式の解をいくつも見つけさえした。
一般相対性理論の解は、特殊な状況下のものしかほとんど知られていないことを考えると、驚くべき事と言えた。

 しかし結局後に、彼らが見つけた解は全て、体積が0で、しかし面積は0ではないような空間を記述したものばかり、ということが判明した。
少なくとも、現実的に考えられるような条件下での答ではなかったのである。
ゼロの空間的な何か「ゼロとは何か」位取りの記号、インド人の発見

アシュテカ、ロヴェリ、スモーリン、ティーマン

 アシュテカとの共同研究の後に、ティーマンは、「接続の空間上の変換」というテーマに取り組み、その研究過程で発見した、いくつかの恒等式こうとうしき(等号(=) を含む数式)は、重要な役割を担う事になった。
数字ガラクタ「数字と数式の種類」数学の基礎の基礎。  ティーマンは、それらの式により、ロヴェリとスモーリンの空間領域の成長を記述する法則の数式を、より明確にしたのだという。

 アシュテカ、ロヴェリ、スモーリン、ティーマン。
この四人こそ、ループ量子重力という理論の初期段階において、特に重要な役割を担った研究者たちと言われる。

宇宙は何度も生まれ変わるか

接続。ホロノミー。ウィルソン・ループ

 細長い木の板を地面に立てたとする。
それから、同じような板を次々、並べ立てていく。
その後、ペイントを用意して、線を描いてみる。
という時に、水平に線をひくとなれば、それはつまり、地面と平行になるように、描くことと簡単に理解できる。

 では少し異世界に飛んで、地面が存在しない世界で、無限の板ならばどうだろう。
この場合、水平に線を描く場合に基準となる地面が存在しない。
水平線とは、文字通り、水平面(地面とか水面)に平行な線である。
その水平線がない世界では水平線はどう描けばよいのか。
森の扉「無限量」無限の大きさの証明、比較、カントールの集合論的方法  この場合に、水平線の性質について考えてみる。
板をいくつも並べてる時、垂直線を描く場合、ひとつの板から別の板に、線が連続することはない。
しかし水平線の場合は、板から別の板へ、線が連続する。

 さらに、水平線は、いくつかの板を見てみたら、ある板の次には、次の板のどの点を線が通るかも明らかである。
そして、板が連続してる限り、水平線もひたすら続いていく。
以上の性質を満たすような線が水平線と言える。

 水平面のないような無限世界で、連続して並ぶ無限の長さの板に水平線を描く場合、まっすぐな垂直でない線が水平線である事は容易にわかるであろう。
まっすぐな線を示す矢印、そのような構造を、「接続」と言う。
そして、接続により定められた、水平方向の動きを、「平行移動」、あるいは、「ホロノミー」と言う。

 仮に、板を円周上に並べ、平行移動を行う場合、線は同じ板に何度も返ってくるが、接続の方向の決め方によって、以前の板に戻ってきても、板上の、前とは別の点を通ることもありうる。
そうして、接続の方向によって生じた、同じ板を巡った時のズレが、『ウィルソン・ループ』と呼ばれる量である。

時空間の量子化。面積と曲率の不確定性原理

 一般相対性理論は、地面を時空、板を回転角として、ウィルソンループをつまり時空の歪みとして、扱える。
アシュテカは、一般相対性理論において、特殊な接続を用い、地面を時空でなく、空間のみとしてよいようにした。

 ロヴェリとスモーリンは、ループ量子重力に、このウィルソンループを用いた。
ふたりは、アシュテカの接続を用いれば、従来、考えられていたよりもずっと簡単に、時空を量子化出来る事に気づいたのだった。

 ある物質粒子のみならず、時間と空間の相互作用の量子化であった。
これには、粒子の位置や速度のみならず、物質が存在する幾何学的空間、つまり面積や曲率にも、量子の不確定性原理が適用される事も意味している。

唯一である事の証明

 90年代は、アシュテカの一般相対性理論の再定式化から導かれた、ループ重力による時空の量子化に、他の異なる形式、異なる規則がありうる可能性があった。
そのような理論が、他の規則にも普通に繋がっている可能性は、その理論の脆さを意味する。
はっきり言ってしまえば説得力がなかった。

 しかし2002年頃。
ティーマンのもとにいたハンノ・サルーマンが、ループ重力での量子化の規則は、 唯一のものであることを、数学的に証明できることに気がついた。
そして実際に2005年に、その証明はなされた。

ループの格子構造が、宇宙を築く

 ループ重力で編まれた空間とはどういうものなのか。
空間の、距離、面積、体積は、ループがある種の格子構造を構成した時に生み出される。
ループの構造が空間を作るのである。

 空間の面積は、面と交差するループの数によって決まる。
空間の体積は、ループ同士の交差パターンによって決まる。
ループが原子に例えられるのはそういう事。
原子の繋がりあいが物質を作るように、ループの繋がりあいが空間を作るわけである。

 そして、ここではっきりさせておくと、時空は擬似的には連続でも、真実は不連続である。
ループ量子重力理論は、時空を量子化しているのだから。

 ループひとつが、空間体積を構成する割合はかなり低いとされる。
1×1×1mの空間でも、100桁をこえる数のループがあるだろうと考えられている。

 我々のこの広大な宇宙は、とんでもない数のループで編まれているに違いない。
もちろんループ量子重力理論が真理だったならの話である。

宇宙の始まりの地獄状態

 空間の真の姿が、針金のようなループの網目状であっても、我々がそれを見ることはできないらしい。
しかしもしも、真の空間の状態を視覚化できたとしたら、常に、編まれた大量のループは、変化を続けているはずである。
その変化こそが、時間というものを発生させている。
タイムトラベル「タイムトラベルの物理学」理論的には可能か。哲学的未来と過去  我々が手足を動かしている時、様々な素粒子が同時に動いている。
その時、空間原子は動きを見せる。
ただ腕を振っている時、そこでは信じられないほどの空間原子のループのダンスが起こっている。

 空間は大量のループが(擬似的に)連続して続いているものとも解釈できる。
ループ量子重力理論的には、ビッグバンの瞬間を知るためには、ループをひたすらに取り除いていけばよい。
ビッグバン「ビッグバン宇宙論」根拠。問題点。宇宙の始まりの概要 そして最終的に行き着くのが、たったひとつのループ。
そのループすらとられてしまった状態なら、それがつまり、認めなければならない、地獄状態。
真の真空である。

特異点を避けられるか

 最初は特異点であったのかもしれない。
この宇宙は。
ブラックホール「ブラックホール」時間と空間の限界。最も観測不可能な天体の謎  しかしビッグバン以前にいったい何があったのかに関しては、まるっきり謎である。
ただ、3つの説が考えられている。

 そもそもビッグバンという現象なんてなかった可能性。
我々はどこかで勘違いをしている。

 次に、 以前にも宇宙があった可能性。
つまり以前、収縮に転じていた宇宙があって、それが最初の大きさになった時に、その勢いだか何だか知らないが、とにかく何かで再び、今度は膨張を始めて、今に至るという説。

 そして文字通り、無があった説である。

 ループ量子重力理論の、ループが時空を形成していくパターンの方程式は、今はまるっきり完成しそうにない。
しかし、簡略化されたものによる計算で、おそらくループ理論的には、以前、収縮する宇宙があったという、とりあえずの答がでるという。

 時空が不連続である、ビッグバンを逆に、つまりループを取り除いていったら、1個の時空がそこ現れる。
もうそれ以上分解できないような時空が、斥力を生む可能性が示唆されているのである。

 つまり小さくなりすぎた時空間に入りきらなくなったエネルギーが、外部に出ようとするのである。
しかしそんな外部はない。
時空間にループがあるのでなく、ループが時空間を構成しているのだから。
そうなると、過剰なエネルギーをどうにかするためには、宇宙は膨張に転じるしかないというわけだ。

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