「真言宗。真言密教」弘法大師、空海とは何者であったのか

真言宗

空海、弘法大師の伝説

 日本仏教に多大な影響をもたらした真言宗しんごんしゅうを、日本にもたらしたとされている、弘法大師こうぼうたいしこと空海くうかい
彼がとう(中国)に渡り、真言密教の教えを受ける以前の、信頼できる記録は全然ない。
ただ、怪しげな伝説が、けっこう伝え残っている。

仏の道を進む決意

 空海の幼名は真魚まお
ある家の三男であったという。

 彼は幼い頃から、仏と縁深かった。
6歳くらいの頃、丘に登って、天空に向かって彼は叫んだ。
「仏は一体どこにいるのでしょう。願わくば、麗しき釈迦如来しゃかにょらいに会いたいです」
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それから彼は谷底へ身を投げたが、天人てんにんが現れて、その身体を受け止めたそうである。

 少年時代の彼はまた、あらゆる学問に対して深い興味をいだき、勉強にのめり込んだ。
 彼はただ知りたかったのだとされる。
この世界とは何かを、人間とはいかなる存在なのかを、宇宙の本質について、ただ知ろうとして学んだ。
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 だが、結局、学校の勉強では答を得られそうになかった。
そして、将来を期待されながら、彼は将来を捨てて、仏の道を歩む事だけが、真理への道なのだと、悟ったのだった。

金星を飲み込む

 他者との交わりを断ち、修行を始めた真魚は、ある時に、自分がいかなる状態にあるかを知った。
豊かな大自然と重なっている。

 不意に、空に輝く金星が見えた。
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そしてそれは、なんと徐々に近づいてくる。
近づく金星は、輝きを増し、速度も増して、そして、真魚の口の中へ飛び込んできた。
 思わず金星を飲み込んでしまった、次には、彼の意識は大宇宙に溶け込んだ。

 金星は菩薩ぼさつ(仏の次ぐ位の者)の化身である。
それを吐き出した後、真魚は仏教への関心をさらに増し、完全に出家を決意した。

大日経との出会い

 ある時、夢の中で仏に、「行くように」と告げられた久米寺くめでらで、真魚は、『大日経だいにちきょう』という経典を見つけた。
 そこに書かれていたのは、彼の知らない教えであった。
それは、当時の日本ではほとんど知られていなかった、『密教みっきょう』の教え。

 真魚は、その大日経に書かれた教えこそ、自分の求めていたもの、と確信したが、しかし日本には、これに関する、よき師もいない。
 そういう訳で、彼は唐国に行く事を、決意したのだった。

唐で様々な思想を学ぶ

 空海と名を改めた彼は、唐でも凄まじい集中力で、ひたすらに学習した。
経典を読むための梵語ぼんごはもちろん、バラモン哲学に加え、道教どうきょうや、儒教じゅきょう
 イスラム教やゾロアスター教まで学んだとされる。
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 日本からやってきた大天才との評判を聞いた、唐の皇帝が空海を呼び、その学識ぶりを見たいと望んだ。
空海は、すぐさま美しい字で、五行の素晴らしい書を書き上げて、みかどを驚かせたという。
 空海は以降、書の達人としても、よく知られるようになった。

青龍寺の密教

 日本の密教は、唐の青龍寺しょうりゅうじという寺から伝わったものである。
最澄さいちょうはそれに強く影響を受け、空海は、この寺で直接的にそれを学んだ。
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 空海は青龍寺で、はじめから密教を学びたいと考えたが、唐に渡ってから、いきなりこの寺には来なかった。
彼は密教こそが、すべてに通ずる究極の教えと考えていたから、まずは他のすべてを学ばなければならぬ、と考えていたのである。

 そうして、多くを貪欲に学んだ空海は、ある時、急に「機は熟した」と悟り、青龍寺の門を叩いたのだった。

 青龍寺のケイカ和尚は、空海がやってくる事を予知によって知っていた。
彼は、異国のものである空海に、自らの奥義を託す事に、何のためらいもなかった。
    

高野山へ。真言宗の始まり

 実のところ、唐入りする時、まったくの無名であった空海は、20年という長い留学期間を設けられ、それよりも早く帰国するのは犯罪であった。
しかし、とんでもない速さで、学ぶべきすべてを学んだ彼は、1年半ほどで帰国したとされる。

 帰国した時、すでに日本にまで伝わっていた彼の名声と、彼の学んだ密教を高く評価していた最澄の庇護もあり、空海は特に、大した罪にも問われずにすんだそうである。
 しかし結局、最澄と意見が対立した彼は、袂を分かった。
以降、しばらく空海は、自分の伝えるべき教えを広める拠点として、ふさわしい場所を探す旅をし、最終的に、高野山こうやさんに行き着いたのであった。

 そして空海は、高野山にて自らの修行も続けながら、真言密教の教えを広めていった。

即身成仏した空海

 仏教の修行者が、生きた体を持ったまま、仏という高みに上りつめることを『即身成仏そくしんじょうぶつ』と言う。
真言密教においては、この即身成仏という思想は非常に重要とされる。
空海その人が、即身成仏したとされているためだ。

 空海は死ぬ数年前から、飲まず食わずを続け、弟子達を心配させていたという。
そして、その死の一週間前に、空海は弟子達に告げた。
「後はお前たちに託す。 私は、遠い未来、弥勒菩薩みろくぼさつがまたこの世に現れる時まで高野にて禅定ぜんじょう瞑想めいそう)を続けておく」

 この言葉通りであったという。
言ってしまえば空海は死んだはずであるのに、高野山にて、瞑想する格好であった彼の体はいつまでも腐りもせず、それどころか髪や髭は伸び続けたとされている。
彼はまさに、即身成仏したのであった。

 空海が今も高野山にいるのかはわからない。
もちろん、いるかもしれないし、いないかもしれない。

宇宙そのもの。大日如来の事

法身仏とは何か

 空海が日本にもたらした真言密教が、 それまでに知られていた思想と違っていたのが、その教えをもたらす者が、釈迦如来のような世に現れたような仏でない事。

真言密教は、『法身仏ほつしんぶつ』、つまり宇宙の根源物こんげんぶつとしての仏に、何かを介してでなく、直接的に教えを伝えてもらうための方法。

 空海は、この真理に限りなく近い教えならば、永遠とも言えるような修行をせずとも、まさに、生きたまま仏になれると説いたのだった。
 真言密教において、教主となる法身仏を『大日如来だいにちにょらい(マハー・ヴァイローチャナ・タターガタ)』と言う。
 それは宇宙そのものであり、あらゆる万物でもある。

森羅万象の素材。六大

 大日如来は宇宙の全て。
その森羅万象しんらばんしょう、つまり法身仏は、『六大ろくだい』から成るという。
 すなわち、「地、水、火、風、くうしき」の6つである。
これら六大が、混ざり合う事で、宇宙たる大日如来は存在するのだという。

 物質と精神の二元論を説く宗教も多いが、実はそれは、物質(地、水、火、風、空)と精神(識)を別物として考えたもの。
識は、他の要素と等しく考えるべきものであり、あえて区別するのは、真言的には誤りらしい。

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