「ミツバチ」よく知られた社会性昆虫の不思議。女王はどれだけ特別か

ハチミツ

ミツバチのコロニー

アリストテレスの絶対女王説

 社会性を持ち、集団で共同生活を営むためのコロニーを作るミツバチ。
この昆虫と人類の関わりの始まりは古い。
虫取り網「昆虫」最強の生物。最初の飛行動物 人間が、ミツバチの巣からハチミツの採集を始めたのは一万年以上前とされている。
また、ローマ時代には、人工的な巣穴である『養蜂箱(ようほうばこ。beehive)』を用いた方法も確立されていたようである。

 また、紀元前のギリシャの哲学者アリストテレスは、この昆虫のコロニー集団の見事な団体行動は、働きバチ達を統治する、絶対的な女王の権力に由来しているという説を唱えた。
 アリストテレスの絶対女王説は、かなり長い間、有力とされてきた。
しかし現在では、そのような考えは間違っていたとされている。

女王と子供たちのコロニー

 ミツバチのコロニーは母である女王と、その大量の子供達で構成されている。
女王蜂は、コロニーの労働力確保のため、夏には毎日1500ほどの卵を産むという。
働きバチといっても、様々な役割を持つが、女王はそれらの役割を担うための、専門の働きバチを調整することはない。
ただひたすらに子を産み続けるだけである。

 女王は確かに、コロニーの中心であり、働きバチ達は、女王の生存と生殖を助けるために生きているようなものだが、別に女王には、権力というようなものは全然ないとされる。

唯一の命令、女王物質

 知られている、唯一の女王の統治行為は、次世代の女王が登場することを禁止することのみ。
女王は、接触した働きバチに、触角を通して、『女王物質』と呼ばれる分泌物を授け、拡散させる。
それにより働きバチ達は、女王が健在であり、次世代を用意する必要がないということを、お互いに理解しあうのである。

コロニー自体がひとつのシステムか

 ミツバチのコロニーは、まるでそれ自体がひとつのシステムのようなものなのである。
個々の働きバチは、システムのプログラムを構成する関数のようなものだ。
コンピュータの操作「コンピューターの構成の基礎知識」1と0の極限を目指す機械  その時その時、コロニー自体に最も有益な行動を、可能な範囲で、ただひたすらに取り続けるのである。

8の字ダンス行動の謎

採取バチは意思疎通をしているか

 1944年。
ミュンヘン大学の動物学者、カール・フォン・フリッシュは、ミツバチの働きバチがダンス行動により、蜜源が豊かな地点への、方向や距離を、仲間に伝える事を発見した。
 採取バチは、豊富な資源を見つけたら、巣に帰って、体を左右に揺すりながら、巣の垂直面を真っ直ぐに歩く。
そして、時に左、または右へ半円を描いて、開始点に戻り、また歩行ダンスを再開する。
 そうしたダンスは、普通、数秒から数分間に及ぶ。
そして手の空の空いている採取バチ達がその後に続く。

 フォン・フリッシュ自身、1944年よりも以前に、採取バチがダンス行動を取ること。
それにそうしたダンスに続いた採取バチ達が、ダンス後に、ダンスを始めたハチの見つけた蜜源に向かうことを、すでに知っていた。
 しかし彼は当初、それまでミツバチのこと調べた全ての人達同様に、ダンス自体にあまり意味はないと思っていた。
採取バチ達は単に、蜜源を見つけた蜂が持ってきた匂いを嗅いで、それと同じ匂い、というのを頼りに、蜜源を探し当てているものだと考えていたのだ。

 だが追従ダンスした採取バチ達は、どう考えても、たとえ距離の離れた地点であろうとも、ちゃんと、見つけられた蜜源へとまっすぐに飛んでいく。

 またミツバチのメッセージダンスは、円か8の字を描くのが基本なので、『8の字ダンス』とも呼ばれる。

ダンスの暗号の使い方

 明らかに、蜜源を発見した採取バチのダンスは、他の採取バチ達に、蜜源の情報を伝えている。
 そのことを発見した1944年以降も、フォン・フリッシュは研究を続けた。
そして、採取バチのダンスは、巣から蜜源までの飛行を、縮小した再現だということを突き止めたのだった。

 ダンスの垂直に進む時間は、目的地までの距離を表している。
体を振るのと、羽音の一秒が、 平均して、1000mほどの飛行距離を表している。
 また、垂直に進む時の角度が、太陽の方向に対する経路の角度を表している。
例えば、垂直歩行を真上に行ったなら、目的地は太陽の方向にあるということなのである。

リンダウアーの分蜂研究のきっかけ

 フォン・フリッシュの弟子の一人に、マルティン・リンダウアーがいた。
彼は1949年に、ミツバチの『分蜂(ぶんぽう。)』した群れを観察中に、ある発見をした。
分蜂とは、ミツバチの女王が、全体の約半数ほどの働きバチを引き連れ、新しい巣を築く場所を求め、元の巣から離脱する行動の事である。

 リンダウアーは、その分蜂集団を観察し、数匹のハチが、集団の上でダンスを行っていることに気づいたのだ。
採取バチが、巣の上でダンスするように、仲間達の背中でダンスしていたのである。
しかも観察を続けるうちに、そのダンスするハチが、採取バチではないだろうことがわかってきたのだ。
花粉を集める採取バチと違い、花粉団子を持っていないし、蜜を集める採取バチのように、蜜を他のハチに口移ししたりしない。
また、そのダンスバチの多くが、土や埃にまみれていた。

新たな巣穴の候補地情報を共有しあうハチ達

 リンダウアーは、それらのダンスバチがまとった土や埃の粒子は、もしかしたら新しい巣穴の候補地で、ついたものではないかと推測した。
つまりそのハチ達は探索バチで、自身の発見した巣穴候補の場所を、ダンスによって、仲間達に伝えているのではないか、と考えた訳である。

 そこで、リンダウアーは、 1951年に、9つの分蜂群において、自身の仮説が正しいかどうかを確かめようとした。
彼はハチがダンスを始めたところで、その1匹ずつに塗料で目印をつけた。
そしてハチのダンスが示す場所の、方角や距離を記録。
 この方法によって、リンダウアーは、また新たな発見をした。
ダンスハチが、分蜂群の中に現れ始めた頃は、かなりバラバラの場所ばかり示しあっている。
だが、数時間から数日経つと、ある一箇所を示すハチばかりになるのだ。
そして最終的に分蜂群が、新たな巣の場所へ向かうときには、全てのダンスバチが示す方角と距離は一致する。

 やはり分蜂群の上をダンスするハチは、新しい巣の場所を探す探索バチであり、ダンスはその位置を仲間達に伝えるための暗号だったのだ。

ミツバチの社会カースト構造

働きバチ。女王バチ、オスバチ

 基本的に働きバチはみなメスである。
しかし女王バチ以外のハチが、卵を産むことはめったにない。
女王バチは、生涯の最初の一週間ほどは、コロニーを離れ、同地域の適当なオスバチ達から、一生分の、大量の精子をもらう。
たぶんミツバチの社会にとって、オスが役に立つのはこの時ぐらいである。

 ミツバチは受精卵も未受精卵も産むが、実はそれによって生まれてくる子の性別が決まる。
メスは全て受精卵から生まれるし、オスは全て未受精卵から生まれるのである。
 つまりミツバチのオスは全員、母バチの、性別の違うクローンということになる。
またそういう訳だから、働きバチがまれに生む子は、基本的にオスである。

王台とロイヤルゼリー

 女王バチは生まれではなく、与えられる餌によって決まるとされる。
普通のハチには、普通の餌が与えられ、働きバチへと成長する。
しかし、『王台』と呼ばれる、特別に大きな部屋に産み付けられた幼虫は、栄養価の高い分泌物(ロイヤルゼリー)を、ふんだんに与えられ、女王へと成長していく。

 働きバチの仕事は多い。
巣の改築、掃除、換気。
幼虫への餌やり。
蜂蜜の熟成。

オスバチの役割

 オスバチは、女王が産む子の5%にも満たないと言われる。
オスバチは、女王バチを発見するために大きな目をしていて、また女王バチを追いかけるために、優れた飛行能力を持つ。
だがその生涯において、女王バチに接触する時期以外、オスバチはずっと、巣の中でだらけた生活を送っている。

 それがどのように決定して、どうしてずっと巣にいたオスバチ達に認識されるのかは不明だが、女王バチとオス達の触れ合いの場は、決まっているという。
時期を迎えたオスバチ達は、『オスバチの集合場所』と呼ばれる、そのエリアに来て、女王を待つ。
そしてやってきた女王に、次世代の遺伝子を渡すのである。

分蜂前の静けさ。探索バチの出発

 分蜂が起こる少し前。
出ていく女王は、新女王を産む。
新女王の成長は早く、次第に、母に敵意を見せるようになる。
 新女王は、あまり餌も食べなくなり、痩せていく。
そうして、平時に比べ、飛行能力を高める。

 一方で、分蜂に参加する働きバチ達は、内部に蜜を貯蔵するという。
そうして、働きバチの体の1/3ほどは、食料の貯蔵庫となる訳である。

 分蜂前の働きバチ達は、どういうわけだかたいてい無気力になる。
そして、無気力にならない、わずかな者達が探索バチになる。

新女王の争い。後発分蜂

 新王女候補は、複数の事がほとんどであり、 殺し合いが発生する事もある。
そこで、自らの身を守る意味もあって、新女王の中にも、分蜂群を率いて、旅立つ者が出てくる。
この現象は『後発分蜂』と呼ばれ、分蜂が 行えなくなるくらいもとのコロニーが弱体化するまで、基本的にひたすら続くという。

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