「象」草原のアフリカゾウ、森のアジアゾウ。最大級の動物

水浴びする像

ゾウの分類

 現生陸上動物としては最大級のサイズであるゾウは、哺乳類に分類される。
『長鼻目(Proboscidea)』、あるいは『ゾウ目』の『ゾウ科(Elephantidae)』に属している。

 現生するゾウは、わずか3種。
アフリカのサバンナのアフリカゾウ(Loxodonta africana)。
アフリカ大陸西部の熱帯林のマルミミゾウ(Loxodonta cyclotis)。
アジアのアジアゾウ(Elephas maximus)。

 アジアゾウはさらに3つの亜種に分けられる場合もある。
ネパールやインドに生息するインドゾウ(E.m.indicus)。
スリランカに生息するセイロンゾウ(E.m.maximus)。
インドネシアに生息するスマトラゾウ(E.m.sumatrana)。
以上の3亜種。
 マレー半島にはマレーゾウ、中国にはウンナンゾウがいるが、これらはインドゾウと同種と考えられている。
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自然と見事に共存する現生種

 アフリカゾウは、現在、最大級の陸上動物。
ただし体は大きいが、体型はアジアゾウに比べると比較的細め。
背中は中央部がへこみ、肩と腰がほぼ同じ高さ。
頭頂部はカーブ型で平ら
耳が非常に大きい。
皮膚のしわが深く荒い。
 植物を大量に接種し、糞も大量に排出する。
それが植物の種子散布に繋がっている。
また、歩いた跡が、そのまま草木が薙ぎ倒された獣道となり、他の動物にも利用される。

 アジアゾウは、背中にへこみがなく、真っ直ぐかゆるくカーブしている。
しかし頭頂部にへこみがある。
アフリカゾウに比べると小型で、森林に生息する。
急な坂道でも容易に歩く。
実は四足歩行動物は、下り坂が苦手な事が多いのだが、アジアゾウは、前足で踏ん張る事で、下り坂にも対応する。
皮膚のしわが細い。
 木を倒したり、根をひっくり返したりする事が、自然再生を促すという。
また水溜まりを、力ずくで拡大し、水場にしたりする。

 マルミミゾウは、かつては森林に適応したアフリカゾウの亜種とされていたが、DNA解析により、現在は別種とされている。
全体的にアフリカゾウとアジアゾウの中間的な見た目。

昔のゾウ

 現生のゾウと直接繋がる系統ではないようだが、発見されている中で、ゾウだとされる内、特に古いのがモエリテリウム(Moeritherium)である。
モエリテリウムは始新世(5600万年前~3400万年前)後期の種。

 モエリテリウムより後。
始新世末期と漸新世(3400万年前~2300万年前) のパレオマストドン(Palaeomastodon )やフィオミア(Phiomia)は、だいぶゾウらしい見かけになっている。

 フォオミアは、更新世(258万年前~1万年前)まで繁栄したゴンフォテリウム(gomphotherium)に繋がる可能性が示唆される。
ゴンフォテリウムと、そこから分岐した様々なゾウは、オーストラリアと南極を除くほとんど全ての大陸で繁栄したようである。
現生種の先祖もそうして、つまりゴンフォテリウムから分岐して誕生したと考えられる。

モエリテリウム

 3700万~3500万年前くらいの、ブタかカバのような見た目の生物。
体高50~70cmに対し、体長は3mほどもある。
歯の形状より、柔らかい植物を食していたと考えられている。

パレオマストドン

 3600~3500万年前くらいの、アフリカに生息していた。
大型で、体高2m以上。
上下に牙を持ち、形状より、下の牙は植物などをすくうのに、上の牙は武器として使われたと考えられている。

フィオミア

 3700~3000万年前くらいの、北アフリカに生息。
体高1mで体長は2.5mほど。
現生の象にかなり似ているが、上下に牙を持つが短い。
主に、食物を集めるのに使われていたと思われる。

ゾウの能力

ゾウの鼻はなぜ長いか

 理由は明らかである。
ゾウという生物はでかい。
頭も胴体もでかい。
でかすぎて柔軟性を失うほどに。
その柔軟性を失い、食べる事すら一苦労なのをカバーする為に、長く柔軟に動く鼻が発達した訳である。

 鼻は4~10万本ほどの筋肉組織の集合とされ、骨はない。
伸縮性があり、かつ柔軟で、ある程度の硬さもある。
鼻先には突起があり、人の手の指のような役割を果たしているという。
その鼻の突起で、小さな豆すら拾える事が、実験で確かめられている。

 水を飲む際にも、ストロー、ではなくコップの役割を果たす。
 また、呼吸器としても、匂いの感知器としてももちろん使われる。
特に長い鼻には、匂いを関知する為の遺伝子が2000ほどもあるのが確かめられている。
人の鼻で400ほど、犬でも800ほどなので、ゾウの嗅覚は非常に優れていると言えよう。
 代わり、なのかはわからないが、ゾウは目が悪く、20mくらい先までしかはっきり見えないらしい

ゾウの歯と牙

 哺乳類の歯は複数種類あるが、ゾウには後臼歯に相当する臼歯と、切歯に相当する牙の2種類しかない。
臼歯は、『咬板(こうばん)』と呼ばれる板状形質が重なった構造で、ギザギザ模様となっている。

 その内に抜ける乳歯と、生涯使われる永久歯という歯の分類も、哺乳類の特徴のひとつだが、ゾウの臼歯は一生で5回も生え変わるという。
 哺乳類の歯の生え変わりは、だいたいの場合が、下から永久歯が乳歯を突き上げるような、『垂直交換』である。
しかしゾウの臼歯は、口の奥から新たな歯が水平移動してきて、古い歯を押し出すという、『水平交換』をするのが特徴的。

 臼歯は年齢もあるが、特に消耗に応じて、交換されるようだが、最後の6本目が使えなくなると、もうゾウは、満足に食物を噛めなくなるという。

 また、牙は生涯、大きくなり続ける。
オスの牙がよく発達している事から、ゾウの牙は、特に異性へのアピール要素としての進化と考えられる。

巨大な耳は温度調節機か

 巨大な耳は、広げると巨体がいっそう大きく見え、威嚇になる。
実際、ゾウは興奮すると耳を広げる。

 しかし耳の最大の役割は威嚇よりも体温調節である。
巨大な耳は熱を逃がしやすく、また、動かして送風機にする事も出来るのだ。
 開けた草原のアフリカゾウに比べると、森林のアジアゾウやマルミミゾウの耳サイズが控えめなのは、森林には木陰がある為に、体温調節の重要性が低いからと考えられる。

 もちろんでかい耳は、音を拾いやすい。
あまり高い音は聞き取れないようだが、低い音は人間以上に聞き取れるようである。
数十km離れた仲間とも、低音の鳴き声でコミュニケーションをとったりするとされる。
 またそのような遠くの音を、地面を伝わる振動からも関知出来るようである。

 ゾウの皮膚は厚いが、耳だけは薄め。
ゾウは泥遊びなどを好むが、それは手入れであり、皮膚のしわに泥をつけて、寄生虫などを遠ざけているのだ。

津波を予知したゾウ達

 2004年12月に、インドネシアで起きたスマトラ沖地震。
実はこの時、津波を予期したゾウ達が、一斉に高い声をあげ、観光客を乗せたまま、あるいは繋いでいた鎖を引きちぎり、高台に昇って、多くの人達の命を救った。
 ゾウに予知能力がある訳ではなく、これは低周波による情報伝達により、津波の到来を察知したからだろうと考えられている。

ゾウの群れと子育て

 ゾウの群れは、基本的に血縁関係のある雌達と、その子供達で構成される。
雄ゾウはある程度成長すると、群れを離れるが、これは追い出されている可能性も示唆されている。

 雌は生涯同じ群れに留まるようである。
若い雄も集団を形成する事があるようだが、長続きはしないらしい。

 群れはある程度の規模になると、分裂する事もあるが、また集合したりと、絆は残るという。
群れが集まり、数百、数千の大群になる事もある。
 どの群れも互いに友好的で、縄張り争いなどもないとされている。

 子育ては母親だけでなく、群れの他の雌も協力する。
特に若い雌にとっては、やがて自分が母親になった時の練習にもなるのであろう。
 少し妙なのが、出産経験の乏しい雌が、自らの子を攻撃する場合がある事。
子を異物か何かだと勘違いしているなどの説があるが、原因は不明。
 子はたいてい、より年長の雌に守られるという。

ゾウの知能

 餌を使った実験で、ゾウは一桁くらいなら数を数える事も出来るし、簡単な足し算すら可能だという結果も出ている。

 また鏡に映っているのが自分だと認識する事が出来るという。
これは人間以外には、イルカやチンパンジー、オランウータンなどの、ごく一部の生物のみの認識能力である。

 実際にゾウは、脳が巨体に負けず大きいので、ある程度賢いのだと思われる。

 ゾウは怒ると恐ろしいが、雌より雄の方がかなり冷静で、何事にも動じにくいという。
もちろん雌がヒステリックだという訳ではなく、これは単に子を守ろうとする防衛本能であろう。

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