「三体」11次元と三重連星の世界観。粒子コンピューター智子

三体問題、三重星系の生命体をテーマとしたSF

 『三体問題さんたいもんだい(three-body problem)』と言えば、それぞれが重力効果を及ぼし合う三つの質点の系に関して、その運動を計算予測することが可能かどうかという問題である。
ニュートン力学が確立されて以来、多くの数学者、物理学者が挑戦してきたが、『ラグランジュ点(Lagrangian point)』のような、極端な状況を想定した場合での特殊解しか発見されていないとされる難問である。
アンリ・ポアンカレ(Jules-Henri Poincaré。1854~1912)の研究などにより、一般的な解を一般的とされる方法で求めることは不可能だとされている。

 その三体問題と、実際に大きな重力を発する三つの恒星の系、つまり『三重星系(Triple star system)』の惑星に発生した生命体をテーマとしたSF小説。
全3部作の1作目である。

謎のオンラインゲーム。粒子のコンピューター

 基本的には、いろいろな予想を貪欲に詰め込んだエンタメSFという感じではある。

 『宇宙背景放射(cosmic background radiation。CBR)』は、だいたい等方的に観測される、ビッグバン現象の名残りとされるマイクロ波である。
主人公的存在であるワン・ミャオ(汪淼)の前に突然ちらつき、 宇宙背景放射まで利用しているようであった謎のカウントダウン。
ビッグバン「ビッグバン宇宙論」根拠。問題点。宇宙の始まりの概要  三体世界、つまりは三重星系の生物の発生と発展を、かなりデタラメな歴史観と合わせて体感する、 まさしく「三体」という名前のVRオンラインゲーム。
そしてそのゲームの中で繰り広げられる、どこか面白おかしいような展開の数々。

 実際の三体世界の生物たちが直面した問題と、 それに立ち向かおうとする様子。自分たちがこれから関わる事になるのだろう、地球生物の研究。
そしてその三体世界における、折り畳まれた次元を利用した粒子コンピューター『智子ソフォン』などが、特に興味深いファクターであろう。
コンピュータの操作「コンピューターの構成の基礎知識」1と0の極限を目指す機械

11次元の領域を3次元から利用する

 おそらく超ひも理論からの設定であろう。次元空間はごく小さな要素の中に大半閉じ込められているから、実際の空間次元が11次元であるにもかかわらず、我々は3次元しか認識できないというような設定があり、智子という、1個の陽子であるコンピューターは、この空間構造を活用している。
11次元理論「超ひも理論。超弦理論」11次元を必要とする万物理論  外部からそれを確認した場合のスケールは小さくとも、構造の次元が1つ上がるごとに、その内部で利用できる情報量はかなり増えていく。三体世界は、9次元までを操作する技術を有している。
少し恐いのが、この一連の開発話の中で、粒子すら、当然高次元を圧縮した、内部に凄まじい情報量、つまりは複雑性を実は持っているものと語られること。その内部には、それこそ複雑性が生み出すもの、生命体が存在していたりすることもある。その話を飛躍して解釈してしまうと、我々のこの世界までも、そういう折りたたまれた次元の中、つまり、大きく見えて小さな世界かもしれないという発想もありうるだろう。
作中で、粒子同士の崩壊現象の度に、そのような小宇宙は壊れてしまっているという例の通り、この宇宙も突然に崩壊してしまうということもありえるかも、とイメージすると、やはり恐い。
四次元「四次元空間」イメージ不可能、認識不可能、でも近くにある

三体世界の設定について

 三体世界は、3つの恒星の動きのパターンの複雑性のせいで、(その星系の惑星の生物にとって)恐ろしき破滅危機が、定期的にどうしても発生する。
作中では、その破滅的危機の時期を『乱紀』、そうではない、比較的安定した時期を『恒紀』と表現している。
また、 そこで生きている生物は、太陽が接近した時の熱さなどに堪えるための手段として、『脱水』という能力を獲得している。 体内の水分をすべて放出し、ゲームキャラ曰く干し椎茸のような状態になること ある意味 すごく高度なエネルギー節約術であり、復活するためには、また水に浸せばいいというもの。
それは、ゲーム、三体の設定であるが、実はそのゲーム自体、ある程度の真実を元にしているという感じである。

 三体世界の実際の生物と、通信を取れることになった者たちは秘密結社的な組織『地球三体組織(ETO)』を作ったが、実は例のゲームは、自分たちの賛同者を集めるために、このETOが作ったものという設定。
彼らは、自分たちが得た三体世界の知識を、そのゲームに適用している訳である。
物語的には、これは自分たちの思想を広めるためという、なかなか面白い仕掛け(ギミック)であるが、メタ的な視点で見るとしても、読者にその世界観を、自然な形で認識させる、見事なエンタメ的演出となっているように思う。物語の終盤で、実際の三体生物たちが描かれる頃には、すでにある程度、その性質の知識を、読者が持てる構成になっているわけである。

知性の発達は生命体の規定路線なのか

 しかし肝心の生物の描写に関してはどうだろうか。
宇宙全体(でなくとも天の川銀河系)の構造から見ると、三体世界の星系と、太陽系は距離的に近いが、それでも、それぞれに孤立した生態系を生み出すくらいには遠い。この物語においても、通信技術が開発されて、初めてふたつの世界はコンタクトを取ることに成功している。
それにも関わらず、この二つの別世界の生命体たちは、その精神構造、進化の道筋など、ある程度似ているところがある。地球外生命体側の描写も描いたコンタクトものでは普通ではある。
「地球外生物の探査研究」環境依存か、奇跡の技か。生命体の最大の謎「宇宙生物が地球に来る目的」いくつかの問題点、ロボットの可能性  知性が発達する方向へ生物は変化していくものだろうか。
少なくとも地球生物のモデルでは、一度発生したパターンは、その表面上の生物が変わったとしても、消えないことが多い。それは複雑性がどんどん増えていくことにも繋がる。そして知性というもの(複雑性がおそらく必要)も、だんだんと増えていく。という流れは想像しやすくはある。
だがこれが生命体という現象の普遍的なパターンかは、実際には謎な所である。

 しかし、生物がその系に含ませるような複雑性のパターンの中には、例えば我々のこの思考とかも含まれてたりするだろうか。そういうふうに定義することは可能だろうか。

やはり似てはいる

 それもよくある設定ではあるが、三体生物は科学技術や社会も、地球の人類社会と似たようなものを確立している。宗教など、地球の言語を自分たちの言語に翻訳した場合に、そのまま変換できると思われる概念もたくさん持っているようである。つまりこの生物は、物理的原理がどこか違っているとしても(孤立した系で発生したにも関わらず)地球生物とそれなりに似ている。

 また、地球生物を攻撃的な種族と考えられてること。どういうわけだか、地球生物が科学技術という概念を獲得してから、それを発展させる速度が凄まじく速いことなど、 良くも悪くも地球生物の方がむしろ少し特殊みたいなイメージで描かれてる感じである。

エンターテイメントとしての魅力

 ETOは、だんだんと人員数を増していくと共に、いくつかの派閥に別れることになる。
人類という種に絶望し、三体世界生物のもたらすであろう侵略による滅びを期待している者たち。
訪れることを願ってはいても、結局三体問題が完全に解決され、どちらの種も生き残る方向性を目指すことを理想としている者たち。

 この1作目は、個々の画面を切り取った場合、(なぜそれが今重要なのかも含めた)三体問題に関しての話などの一方で、三体生物の捉え方から生じる、人類世界の対立が、わりと強調されて描かれてるように思う。
おそらく科学に最も関心がないメインキャラである、警察官の史強(シー・チアン)の考え方や行動、その活躍のためがある。

 科学に関して素人ながら、見たままや、素直に思ったことを、自分や仲間を奮い立たせる言葉として使える彼は、作中通して、なかなか興味深い人物と言えよう。