「地球外生物の探査研究」環境依存か、奇跡の技か。生命体の最大の謎

もし宇宙全体が普遍的な法則で成り立っているとするなら

 アイザック・ニュートン(Sir Isaac Newton。1642~1727)が宇宙全体で不変の法則と思われる『万有引力の定理』を世に放った時、「我々は宇宙の中で孤独なのか?」という問いかけの意義は大きく増したはずである。
リンゴの木「ニュートン」万有引力の発見。秘密主義の世紀の天才  万有引力の定理が偉大な発見だとされているのは、それは星の動きを、地上の物質に適用できる法則で、大した矛盾なく説明できたからというのがある。
ニュートンはいわば、天と地に境界線がないことを示したのである。
彼は、地球上で木からリンゴが落ちる現象と、同じ原理のもとで、地球(惑星)は太陽(恒星)の周りを巡っているとした。

 我々は、ニュートンが示唆した、質量が質量を引き付ける力、現在は重力と呼ばれているものの本当の原因を、知ってはいない。
しかしそれは、この記事の話においては、大した問題ではないと思われる。
時空の歪み「特殊相対性理論と一般相対性理論」違いあう感覚で成り立つ宇宙  重要なのは、この世界の構造がどうなっているかである。
ニュートン以前は、地球が太陽の周りを囲っているということを認めたとしても、それがどういう原理によっての現象なのかを、地上に存在する物理法則だけで説明することは難しかった。
太陽系「地動説の証明」なぜコペルニクスか、天動説だったか。科学最大の勝利の歴史  今あらゆる(夜空に輝く星まで含めた)物質に普遍的に適用できるような物理法則の内、質量が引力を発生させる法則は、最初のものだったとされている。
だからこそ、確認することができる宇宙のどの範囲も、特別扱いする必要はなくなった。
ようするに、地球とまったく同じような条件の星が、この宇宙のどこかに存在している可能性を、はっきり否定する方が難しくなったわけだ。
そして、もしそんなもの(地球みたいでなくとも、生命が存在できるような環境の惑星)が存在するのなら、そこに生命体が存在しないと断言するのこそ難しい。

3つの重要な問題

 「我々は宇宙の中で孤独なのか?」
この答えの追求に関して、目下のところ、我々の前に置かれた問題は以下の3つであると思われる。

生命活動とはどのようなものか

 まず、「生命体の定義」。
普通に考えるなら、生命活動を行う物質こそが生命体。
では生命活動とはどのようなものかというと、『代謝たいしゃ(metabolism)』、つまり、自らの安定状態を維持するための、意図的に見えるような化学変化などであろう。

 しかしそのような生命活動を、物質が行うようになる条件を、我々は知らない。
ただどうも、物質という存在にエネルギーが必要だということは間違いないなさそうである。

 現代物理学は、質量というのはエネルギーである、あるいは等価交換が可能なものと考えている。
とすると、エネルギー(質量)がない、空っぽの物質というような状態がありうるのだとしても、そのような物質の状態を我々は認識することができないと思われる。
素粒子論「物質構成の素粒子論」エネルギーと場、宇宙空間の簡単なイメージ  しかし、なぜ生命体の定義が重要であるのか。
それは当然、その定義が、生命体の存在できる環境に関連してくるからである。
例えば、この地球という惑星が本当に絶妙なまでに調整されつくした環境であり、物質の構成や循環度合いなどはもちろん、その初期の動作(生命が誕生する以前の歴史)までも、生命体に必要なものなら、地球外生物の探索はかなり厳しくなるだろう。

神の技は必要だったのか

 つまり「神がかった奇跡は必要か」

 生命体というのは、純粋に物理法則の上で発生しうる出来事なのであろうか。
ようするに我々のような、生物が誕生した時と同じような環境がそこに存在すれば、やはり我々のような生物が生まれるのだろうか。
それともそこには、物理法則を超えた何らかの奇跡の技が必要なのだろうか。
神はいるか「人はなぜ神を信じるのか」そもそも神とは何か、何を理解してるつもりなのか  基本的に単純とされている生物(単細胞生物)などは物理的条件が整った時点で 発生しうると考えている人の中にも 我々ではな意識を持つことができるような存在は、奇跡であると信じている場合もある。

 ただ生物はともかく、我々のような自己意識を持つ存在を作るのに奇跡が必要かどうかというのは、AI(人工知能)の 研究が示してくれるかもしれない。
人工知能の基礎「人工知能の基礎知識」ロボットとの違い。基礎理論。思考プロセスの問題点まで機械学習「機械学習とは何か」 簡単に人工知能は作れないのか。学ぶ事の意味  もしも生物が、この宇宙の自然法則の中で、何か条件さえ整えば生じる、というようなものでないのなら、いったいそれはどのように生じたのであろうか。
神がかった奇跡とはいっても、それが神様とは限らないということだけは念をおしておくべきであろう。
何か理由があってこの宇宙に現れた特殊な法則が、生物を作ったが、一時的なものでしかないその法則は、また消えてしまった、というようなシナリオも考えられなくはない。

 ひとつ確かなことは、そのような物理法則を超えた要素が生物を作るのに必要だというのなら、おそらく我々は、 我々が考えているよりもずっと、答から遠い。

 本来なら生物が生じない環境に、誰かが生命の種をいたという場合はあるだろうか。
その場合、地球のような環境を、生物がいるかもしれない環境として探すことは、ほぼ無意味だろうと言える。
宇宙プログラム「宇宙プログラム説」量子コンピュータのシミュレーションの可能性

あなたと同じ誰かがいるだろうか

 最後に、「どれくらいの時間があるのか」
これは最も重要だ。
本当に、特別なクリエイターが特別に作ったもの、というようなシナリオ以外のすべてのパターンにおいて重要と思われる。

 なぜなら生命体が発生する可能性がごく小さいのだとしても、そのような環境が発生している可能性がものすごく少ないのだとしても、無限の場所と時間があれば、そういうことはいくらでも発生しうるからだ。
森の扉「無限量」無限の大きさの証明、比較、カントールの集合論的方法 この宇宙が無限で、常に何か変化が起こっていて、様々な化学反応が常にどこかで試されているというのなら、もちろん我々は数多く偶然に発生している生物の1つにすぎないだろう。
生物どころか、あなたと同じ人間が、この地球とすっかり何もかも同じという惑星まで、どこかに存在している可能性がある。
むしろ時間と空間が無限なら存在していなければおかしい。
この宇宙において、何らかの物理状態のパターンも無限にあり、しかも一度発生したパターンは、二度と発生しない、というような法則がないので限りは。

20世紀の宇宙生物探し

金星は灼熱地獄。火星は寒い砂漠

 19世紀末頃には、太陽系の他の惑星にも生命体が住んでいると考える天文学者は多かったそうである。
他の惑星の生命体と最初にコンタクト(接触)した者に対する賞金まで用意されたこともあったが、 火星はその対象から除外されるのが常であった(もはや火星に生命体が存在しているということは明白であり、コンタクトは簡単すぎるだろうと判断されていた)
だが、宇宙探査が進むにつれ、太陽系内の地球以外の惑星に、少なくとも我々が、簡単に生物だと判断できるような生物が存在している確率は、絶望的なものになっていった。
太陽系「太陽と太陽系の惑星」特徴。現象。地球との関わり。生命体の可能性  有望だとされていた地球の隣にある2つの惑星の内、金星は、最初は雲に覆われた緑豊かな熱帯(年中温暖な地域)が広がる世界だと考えられていた。
だが雲の中は熱帯どころか、二酸化炭素ばかりが熱を貯めていて、その気温は摂氏500度にも達するような灼熱地獄だった。

 火星は、現在でも、太陽系の中で最も地球に似ていると考えられているが、それでも地球に比べると大気がかなり薄く、寒くて乾いた極寒の砂漠である。

SF作家と火星の生命体

 火星の生命体に関しては、 アポロ計画の時代である1960年代頃にはまだかなり楽観視されていたと思われる。
例えば、SF作家で、生化学者としても知られるアイザック・アシモフ(Isaac Asimov。1920~1992)の、初期ノンフィクションエッセイはそのくらいの時代だが、「望遠鏡で確認できるような火星の黒い影のようなものは植物でないかと思う」と平然と書いている。

 アシモフは、自分のことを懐疑論者とみなしていた節がある。
例えば、UFOが高度な知的文面を有する地球外生物の乗り物なのではないかという説に関しては、「我々ごときにこれほど簡単に探知されるなど、恒星間の長旅を行えるような超科学を持っている者たちとしてずいぶんお粗末だ」と皮肉ったりもしている。

 アシモフは多くの著作を長い時間にわたって書いているから、年代順に彼の本を読んでいけば、科学のいくつかの分野の、年代ごとの進歩の状況がなかなかわかりやすかったりする。
地球外生物に関しても、本業がSF作家なだけあり、関連する事項はよく扱われている。

科学者と、どこかの誰か

 20世紀末からは、太陽系以外の場所に存在する惑星、いわゆる『系外惑星』が次々と発見されるようになった。

 どうやら恒星には惑星がついているものらしい。
恒星は、我々の生きている天の川銀河だけでも、1000億ほどあると見積もられていて、かつひとつの恒星に複数の惑星がついている場合も多い(むしろ普通?)だろうから、地球のような生命体が存在する惑星が他にもあるかもと考えるのは、そんなに無茶な希望ではないだろう。

 むしろたくさん存在しているはずだと考える人も多い。
高名な物理学者のエンリコ・フェルミ(Enrico Fermi。1901~1954)が、 宇宙の広さと恒星の数からいって、地球外生物は確実に存在しているはずなのに、まったく見つかっていない状況について、「みんないったい、どこにいるんだ」と問いかけたことは、あまりに有名である。
そして彼の時代よりも、みんながどこかにいる可能性は高まっているとされている。

 ガリレオ・ガリレイ(Galileo Galilei。1564~1642)とほぼ同時代人で、同じようにニコラウス・コペルニクス(Nicolaus Copernicus。1473~1543)の地動説を支持していたジョルダーノ・ブルーノ(Giordano Bruno, 1548~1600)は、「宇宙が無限であり 、太陽系のような恒星系が他にいくつも存在していて、どこかには我々の地球のような星があったり、そこに我々のような生命体が普通に生きている可能性を否定する根拠などない」というようなことまで語っていたとされている。
つまり、そういうふうな発想は、このころにはすでにあったわけである(注釈1)
ガリレオ「ガリレオ・ガリレイ」望遠鏡と地動説の証明。科学界に誰よりも業績を残した男

(注釈1)聖書はバカバカしいか

 考えてみれば、世界を創造した神様が、特別な生物である人類を作りたもうた、というような話には、聖書などにそう書かれていることと、 多くの人がそれを信じていること以外に大した根拠はない。
後は、人間だけが偉大な創造物を作ることができるとか、愛することができるとか、神の声を聞いたとか、あと蘇ったらしいとか、やはりどう贔屓目に言っても大した根拠はない。
ユダヤの寺院「ユダヤ教」旧約聖書とは何か?神とは何か?  この世界を神様が作った可能性は今も十分に考えられることだと思う。
そうだと考えた方が妥当だろうと思うようなこともある。
人間原理「人間原理」宇宙論の人間中心主義。物理学的な神の謎と批判 だが聖書が、その神様とやらの記録かどうかという話になると、ちょっと怪しい。

 聖書の記述の多くが、現在知られている科学的事実と矛盾しまくっていることは有名であろう(そして、科学的事実と矛盾しない形で、神様というものの存在を想定することはいくらでもできる)
この点から考えると(仮に神様が本当にいるのだとして)、神様を信じて、聖書も信じている者というのは、とっくに否定された理論を頑固に信じ続ける科学者みたいなものなのかもしれない。

我々と同じようなエイリアンを探す

 もちろんこの宇宙には、我々が想像もできないような、地球上のものとはまったく異なる性質の生命体が存在する可能性はある。
しかし我々が確実に言えることは、我々のような生物が存在するということだ。
ではその発生は、宇宙でなくとも、この銀河系の中で、地球だけに起きた奇跡だったのだろうか。

 それを確かめるために、地球と似たような環境、いわゆる『ハビタブルゾーン(Habitable zone)』を持った系外惑星を探す試みが行われているわけだが、それを最優先とするのは理にかなっているだろう。
そんなものが存在するかもわからない他のタイプの生命体と違って、我々のような生命体は現に存在しているわけだから。

 また、基本的にハビタブルゾーン(住居可能な領域)という言葉は、地球と似た生命が発生する環境というより、生存できる環境という意味合いが強いようである。
つまりは生存可能領域である。

地球生命にとって大切なもの

 そもそも我々がどのような生物なのかというと難しいところだろうが、生命体の定義というレベルよりはずっと簡単とも思われる。
しかし我々はどういう生物なのであろうか。

 地球上に確認されている生命体にとって、最重要な要素は、液体の水、エネルギー、炭素とされている。
特に液体の水は生態学的(生物と環境との相互影響的)に必須とされている。

エネルギーは太陽より

 エネルギーは、 我々の知見では生命活動に(というよりも、そもそも物質の活動に) 絶対的に必要なものである。

 しかし熱力学研究により、物質が何かの動作を行うためにエネルギーを使えば、エネルギーの系は乱され、意図的に(計算ずくで)利用できるようなエネルギー量はだんだん減少していく(ただし総量自体は変化しない)ことが示されている。
ようするに、ある領域で、長期にわたって(生命活動のような)エネルギーの安定的な利用を行うならば、どこかからエネルギーを供給してもらう必要がある。
熱力学エントロピーとは何か。永久機関が不可能な理由。「熱力学三法則」  地球生物が利用しているエネルギーの第一の供給源は、もちろん太陽である。
ごく一部、火成岩の化学反応で生じる水素を消費する『メタン生成菌(Methanogen)』や、地下深くの放射能からの化学エネルギーを用いる『硫黄還元細菌(Sulfur reducing bacteria)』といった例外もあるとされているが、基本的に地球上の生物は、太陽光を直接、あるいは間接的に、エネルギーとして利用している。
光合成「光合成の仕組み」生態系を支える驚異の化学反応「生化学の基礎」高分子化合物の化学結合。結合エネルギーの賢い利用

なぜ炭素原子が使われるのか

 炭素という原子は、おそらくは物理的素材として最重要なものである。
地球上の生命は、比率的には、水の部分、つまりは水素と酸素が多いが、肉とか、骨とか、皮膚、つまりは生物の物理的パーツといえるタンパク質は、通常つながりあった炭素が骨組みとなって、そこに、水素とか酸素がくっつきまくって形成されている。
化学反応「化学反応の基礎」原子とは何か、分子量は何の量か卵かけご飯「タンパク質」アミノ酸との関係、配列との違い。なぜ加熱はよいか 同じように、 遺伝情報を管理するDNAやRNA。
細胞分裂イメージDNAと細胞分裂時のミスコピー「突然変異とは何か?」 糖分などの栄養(エネルギー源)や、体の各要素に様々な指令を伝える各種ホルモンなども、炭素が骨組みとなっている。
果物「五大栄養素とは何か」働きと、含まれる食品。生命を維持する要素  炭素という原子はそもそも、互い同士で強い結合を作りやすいという性質があり、 その上で原子価げんしか(同時に結合できる他原子の数)が4つある。
つまり炭素は、複雑で強固な繋がりを作りやすいのである。
そういうわけで、地球生物は炭素を適当に選んだのではないとされている。

ハビタブルな範囲

 一般的にハビタブルゾーンは、通常は、恒星の周辺において十分な大気圧があり、さらに表面に液体の水が存在できる温度領域の惑星とされている。

 ただ、何もかも理想的とは言えないが、断片的にハビタブルな領域なら、(地球以外の)太陽系内にも見つかっていて、熱心に調査されている。
 
 例えば、木星の衛星の1つであるエウロパは、探査機ガリレオなどの調査によって、表面の分厚い氷の下に、塩分を含む液体の水の海があることが、ほぼ確実となっている。
分厚い氷に閉ざされているためにエウロパの海は真っ暗で、外部の有機物(炭素化合物)から遮断されていて、酸素もないだろうと考えられているが、それでも地球上の、それと似たようなと言えるような環境に、微生物などが確認されることもある。
だから生命探査において、太陽系内の天体の中では、エウロパは非常に有望視されている。

生命体は、条件さえそろえば発生するのか

 地球とどれだけ同じような環境があっても生命が誕生すると確信をもってはいけない。
それが無生物からどのように発生するか、まだ誰も知らないからだ。
だが、まるで手がかりがないわけではない。

我々が最初からこの宇宙にいた可能性は低い

 まず太陽系ができた時に、そこに生物がいなかったことはほぼ間違いないと思われる。

 こういう恒星系が作られるシナリオとして、現在最も合理的だと考えられているのは、『超新星爆発』の残骸がより集まって作られたというもの。

 「ビッグバン理論」により、宇宙が最初にできた頃は、 どんな原子も存在できないような極限状態であったが、やがて冷えてくると、それは最も単純な水素ばかりで安定したことが示されている。
ビッグバン「ビッグバン宇宙論」根拠。問題点。宇宙の始まりの概要 水素の次に単純なヘリウムも、水素の1/10くらいは作られたのでないかと考えられている。
後はマンガン(原子番号25)以下の番号の原子は、 どこかで微量に発生していたという説はよく言われる。

 やがて、宇宙に満ちた水素とヘリウムのガスは、互いの重力で収縮しあって、恒星という塊となる。
恒星の圧縮される内部では、強いエネルギー反応、いわゆる『核融合反応(Nuclear fusion reaction)』が起こり、変換によって、ヘリウムの量が増していった。

 だが、やがて核融合のための水素(燃料)がなくなってくると、恒星はエネルギーを生成できなくなり、自身の重力で内側から崩壊する。
その急激な恒星質量の圧縮により、弾けるような大爆発が起こる。
あるいは、周囲の物質などを取り込みすぎ、臨界量りんかいりょう、 つまり暴走的な核融合核分裂の連鎖反応が始まる量を越えてしまった時、そのような暴走的反応が大爆発を引き起こす。
超新星爆発とはそのような現象とされている。
「ガンマ線バースト」残光の謎、超新星爆発の威力、宇宙最強の爆発現象ブラックホール「ブラックホール」時間と空間の限界。最も観測不可能な天体の謎  ようするに、我々の地球にも普通にあるような鉄(原子番号26) 以上の原子含む化合物は、最初、宇宙に存在していなかった。
もっとはっきり言うなら、我々の惑星のような、水素、ヘリウム以外の原子もかなり多い集合構造は、宇宙ができた後に超新星爆発で作られたそうなのである。
そしてそのようなスケールの大きな爆発の中で(少なくとも我々のような)生命体が存在できるとは考えにくい。
だから我々は、太陽系が形成される初期段階で、すでに存在していたわけではないはずだと推測できる。

 つまり我々はほぼ間違いなく、初めからこの宇宙に存在していたのではなく、発生したのである。

 もちろんどこか外から誰かが種をまいたという可能性はあるだろうが、そう考える根拠はない。
(ただ、もしも地球のような環境をいくら作ったとしても、生命体が発生しないのなら、それこそ、誰かが種を蒔いた根拠になりうるかもしれない)

進化は宇宙生物にも普遍的な現象か

 我々が最初から存在したわけではないという事実は非常に重要なものである。
それはつまり、必要な環境さえ整えば、生命体は発生することがあるということを示しているからだ。

 だが、やはり問題は、我々がどのようにして発生したかである。
微生物から目に見える生物の分類まで、現在の我々の多様性は、おそらくは我々が本質的に有するダーウィン進化(環境適応能力)という性質が生じさせた結果とされる。
進化の分かれ道「進化論」創造論を最も矛盾させた生物学理論 生物(生態系?)は発生すると、自らを環境にふさわしく組みかえるか、組みかわった自己に対応する能力があるようで、 現在我々が適用している環境のいくつかは発生条件とはなりえない可能性もある。

 極限環境の微生物が、地球よりもずっと過酷と思われる他惑星の環境で、生命体が発生しうる根拠とできるかはよくわからない部分がある。
とりあえず現在の地球の快適な環境は生命体が作ったものかもしれないから、その発生は極限環境におけるものだったとは考えやすい。
ただ、実のところ、そのような他の惑星の極限環境を、地球で見るようなものだと考えて、地球上のそういうところの生物を配置したとしても、上手く生き残ることができるか、という疑問すら、まだ普通にある段階だともされる。

 他に、ダーウィン進化が生物の特徴なのか。
地球生物の特徴なのかという疑問もある。
地球型生物という言葉を「遺伝情報システムを利用した生物」とか、そういうものじゃなく、単に「地球のような環境で発生した生物」と考える場合においてすら、我々と異なるような(例えばダーウィン進化がない)生物をありえないと決めつけるのは難しい。
(理由は比較サンプルが少なすぎるというか、ないからだ。地球と同じような環境で発生した地球外生物が見つからない限り、この状態は続くだろう)

LUCAの研究

 生物の起源に関して、今の段階で最重要の手がかりは、おそらく、地球生物全ての共通祖先、いわゆる『LUCA(Last Universal Common Ancestor。最終普遍共通祖先)』の研究によって得られた成果である。
地球上に多様に存在するどの生物が最初かもわかっていないという状況よりは、最初の誰かがどういう存在かわかっている状況の方が、その生物がどのように発生したのかを考えやすいはずだから。

 LUCAは、すでに遺伝子とタンパク質を備えた細胞で、生命の本当の起源ではないとするのが通説だが、それでもそれが、初期と言えるくらいの時代の生物であることは、ほぼ間違いないだろうとされている。

3つのドメインの起源

 現在の地球生物を分ける大きな分類として、『真核生物(eukaryote)』、『細菌(bacteria)』、『古細菌(archaea)』という、『ドメイン』と呼ばれる3つがある。
(ウイルスも加えて4つのドメインとする説もある)
「ウイルスとは何か」どこから生まれるのか、生物との違い、自然での役割 ウイルスも含めて、遺伝子システムがかなり共通している。
情報保存媒体として、DNA(あるいはRNA)を利用し、タンパク質の構成要素となるアミノ酸配列を決定する(普遍的遺伝コードと呼ばれる)暗号コードまで、基本的に同じだという。

 この遺伝システムの普遍性が、我々に共通祖先がいるという大きな根拠とされている。

 3つのドメインの内、大型で複雑な細胞(遺伝情報、つまりはDNAを保存する細胞核という小器官を内部に持った細胞)を有している真核生物は、古くから我々に馴染み深い。
多細胞生物はすべて真核生物であり、アメーバやゾウリムシのような単細胞タイプも普通に存在する。
ただ真核生物は、3つのドメインの中では、かなり確実に、後発のタイプだとされている。
(それは、細菌や古細菌の相互作用によって形成された存在であることが、よく示唆されている)

 真核生物は、LUCA(3つのドメイン全ての共通祖先)の誕生から、20億年ほど後に誕生したというのが通説である。

細菌と古細菌の共通祖先

 普通に考えるならLUCAは、細菌と古細菌の共通祖先ということになる
そしてこれらのどちらにも、DNAとアミノ酸コードが共通している。
つまり、それらと、アミノ酸コードが関係するタンパク質は、すでにLUCAの時点で、生物の要素だった可能性が高い。

 古細菌に、光合成能力を持っているものが見つからないというのは、なかなか面白い事実かもしれない。

 また、LUCAは、基本的に栄養を無生物から得ていたろう。
古い細菌や、古細菌は、水素と二酸化炭素を栄養として利用していたようなので、LUCAもそうだったのでないかと考える向きもある。

 LUCAは、 水素と二酸化炭素の反応に、『プロトンポンプ(Proton Pump)』の機構を利用していたとも考えられている。

プロトンポンプ

 最も基本的な(そして宇宙の中で圧倒的に数が多い)水素原子は、1つずつの『陽子(proton)』と『電子(electron)』から成る。
水素原子1つは中性だが、陽子は単体ではプラス電荷、電子はマイナス電荷を持つ。
電子が通常よりも多いか少ないために電荷を持った原子は「イオン」と呼ばれるが、プラス電荷を持った水素イオンは、すなわち陽子とされる。

 ようするに陽子はプラス電荷を持つ。
雷「電磁気学」最初の場の理論。電気と磁気の関係  外部からのエネルギー(例えば太陽光)を利用して、ある細胞から陽子を放出すると、細胞膜の内外で電気的にアンバランスとなる(電位差が生じる)。
すると、なぜか調和を好む自然界の掟(?)に従い、陽子は、内側へ戻り、電荷の差をなくしたがる。
その動作により発生するポテンシャル(エネルギー)を、『プロトン駆動力(proton motive force)』。
プロトン駆動力を発生させる機構をプロトンポンプと言うわけである。
これは生命システムにおける、最も基本的な力ともされる。

生命の起源は熱水噴出孔か

 プロトンポンプは、細胞膜の電荷の濃度の調整システムとも言える。
ところが実は、細菌と古細菌を分ける決定的な根拠の1つが、その細胞膜の要素である脂質ししつの化学的構造(原子構造)とされている。

 電荷に隔たりをもたらす極性脂質も、古細菌に見られる、炭化水素をエーテル結合という繋がり方をした「エーテル型脂質」が、 他のドメインの細胞では全然見られない。
(好熱性細菌(45℃以上で普通に生きる細菌)の一部は、エーテル型の極性脂質を持つともされる)

 古細菌以外の極性脂質は、「脂肪酸」と呼ばれる、鎖状に連なった炭化水素や、「グリセロール」という分子が、エステル結合という繋がり方をしているのが基本。

 細菌と古細菌のそれの違いに関する理由については諸説ある。
説得力があるとされている1つは、細胞膜の構造は、電荷を自力で生み出すシステムとして生まれたもので、LUCAはその方式でなかったという説である。
つまりLUCAは、膜を用意して内外に隔たりを作り、電荷を利用してはいたが、電荷を生み出す機構は持っていなかったという考え方である。

 この説が注目されるのは、それが正しいとすると、LUCAの、 さらには我々の起源の大きな手がかりになるかもしれないからである。
LUCAが生まれた環境は、電荷が意図的操作なしに、勝手に供給されるような環境であった可能性があるわけだ。
そのような環境の候補として、『熱水噴出孔ねっすいふんしゅつこう(hydrothermal vent)』が期待されてもいる。

 熱水噴出孔は、海底などに時々見られる、地熱などの圧力がかかった水が噴出する亀裂などで、そこでは独自のミニ生態系が築かれてたりすることでも、よく関心を集めている。
火山噴火「火山とは何か」噴火の仕組み。恐ろしき水蒸気爆発プレート地図「プレートテクトニクス」大陸移動説と地質学者たちの冒険 そして、そのような熱水噴出孔の中には、 無機物の壁で作られた、入り組んだ細い穴の迷路が、 細胞構造と似たようなふうになっていたりもするという。
さらに、そのような穴と海水と熱の相互作用が、結果的に発電機のような役割を果たし、発生させた電気が穴にたまったりというような場合も、確認されている。
この発電は、吹き出す熱水と、海水との間で生じる天然のプロトンポンプともされている。
海洋海はなぜ塩水なのか?地球の水分循環システム「海洋」

電気利用は生物の基本的特徴か

 生命体が、熱水噴出孔(というよりも天然のプロトンポンプ)から発生したという仮説は、我々に2つの重要な希望的観測をもたらしてくれる。

 まずこれが、この広い宇宙の中で、そんなにものすごく珍しい現象とも思えないこと。
極端に言ってしまえば、液体の水が安定して存在している岩石惑星(あるいは衛星)ならば、こんな現象がどこかで起こっていそうである。
太陽系内においても、エウロパの他、同じように内部に液体の水を有している可能性が高いとされる土星の衛星エンケラドゥス。
同じく土星の衛星であり、表面に大部分が窒素である豊富な大気を持ち、液体メタンの海があるタイタンなどで、そのような環境の存在が大きく期待されている。

 もうひとつの方は、おそらくより重要である。
それは地球外生物が存在するとして、我々と同じような電気利用を基礎とする生物であるはずだというもの。
その点でもし共通しているなら、我々が互いを見つけるのは、そんなに難しくないはずである。

古典コンピューターなら

 あまり楽観視しすぎるのもよくないだろう。
我々、生物の定義としてよく言われる「自己複製できる存在」という点を考えてみたら、そう思えるかもしれない。

 我々は、様々なものを作る装置を開発してきたが、自己複製できる装置を作れたことは1度もない。
(3Dプリンターは ちょっと惜しいと時々言われる。なぜならそれら、自身のパーツを複製することができる場合があるから)
地球生成「3Dプリンタの仕組み」材料。原理。積層造形とはいかなる技術なのか  このような話に関して、コンピューターを使った例えがある。

 コンピューターの中で動作するソフトウェアは、プログラムと呼ばれるコードテキストに従う形で動作する。
コンピューターのデータ量は、最小(1か0)のものをビットとしている。
さらに8ビットで1バイトと定義される。
コンピュータの操作「コンピューターの構成の基礎知識」1と0の極限を目指す機械1ビット「ビットとは何か」情報量の原子は本質的にも原子であるのか  コンピューターの領域では、自己複製できるものはありふれているように思われる。
他人のコンピューターのプログラム構造の中に勝手に潜り込み、CPU(処理装置)を勝手に利用したりして、コピーを作らせる(そしてメールなどを通して他のコンピューターにまで感染する)コンピューターウイルスなどは典型的な例であろう。

 この考え方が現実とどの程度まで関連付けられるかは意見が割れるだろう。
たがここではやってみる。
そのようなコンピュータウイルスが適当な操作で、勝手に作られるのは、適当な化学反応で自己複製できる存在(生物)が誕生したような偶然とも考えられる。
(言うまでもないことだろうが、これまで誰かの意図的な操作なしに誕生したコンピュータウイルスは存在していないと考えられている)

 最小プログラムのコンピュータウイルスとも言われるTinba(Tiny Banker Trojan)でも、そのサイズは20キロバイト(16万ビット)。
つまりビットを適当に組み合わせて偶然それができる確率は、1/2を16万回かけた数(つまり常人や、並の電卓では計算しようがないようなくらいやばい数)になる。

 これは生物の発生に関しても言えるが、もしももっと単純な自己複製プログラムがありえるのなら、その勝手な誕生がもっと頻繁に起こっていておかしくない。
実際は自己複製できる生物(コンピューターウイルス)が勝手に発生したことはないとされている。

 もちろん、コンピューター上のことと現実のことを単純に比較するのはあまり得策でないかもしれない。
おそらく、現実の自己複製できる存在に必要な最小情報量は、20キロバイトではすまないだろう。
(ただしこれは完全な決めつけでもある)

量子コンピューターなら

 これまで物理学者たちは、ミクロの世界では我々の常識とかけ離れた量子効果が発生するということを熱心に示してきた。
例えば複数の存在可能性が同時に存在しているというふうに解釈されたりする、重ね合わせ現象がある。
この基本的性質により、0、1、重ね合わせの状態をとれる「量子ビット(キュビット)」をビット代わりに扱い、 計算能力を大幅に向上させた、『量子コンピューター』という装置がある。
量子コンピュータ「量子コンピュータとは何か」仕組み、宇宙の原理、実用化したらどうなるか  そして、地球の最初期の海で発生していた、後の遺伝物質(あるいは自己複製分子)の候補は、ビットでなくキュービットを要素としていた説もある。

 重ね合わせの量子状態はとても壊れやすく、いくつものパターンに重ね合わせていた配列はすぐに何らかの1つに収縮する。
多くの可能性は、自己複製しない分子なので、当然たいていそこに現れるのは、自己複製しないものだ。
だがここで、陽子などの動きが、再び量子状態を作ると、またそこに新たな可能性が結果として生じる。
このようなサイクルの速度は、単純に量子効果を考えないで、分子を適当に作り、破壊し、また作り直すという行為よりもはるかに早いと考えられている。
そして、やがて偶然発生した自己複製可能な状態の分子は、自らのコピーを次々と作ることで、量子世界から古典的世界へと、自らの領域を移していく。

 このシナリオが説得力があるかどうかという点は微妙かもしれないが、今普通にそうだと考えられているように、地球に海が生じてからわりとすぐ生命体は誕生した、という事実を説明しやすくはある。
そしてこのような発生パターンがあるのなら、やはり生命体は簡単に生じるかもしれないと、楽観視もしやすい。