「魚類」進化合戦を勝ち抜いた脊椎動物の始祖様

魚の定義。最初の脊椎動物

 魚類は『脊椎(Vertebrae)』を獲得した唯一の生物。
その脊椎は、魚類が進化して、我々四肢動物、すなわち両生類爬虫類哺乳類鳥類が誕生してきた何よりの証でもある。
脊椎動物とまとめられる我々は、ひとり残らず遠い昔に、脊椎を持った何者かから、その形質を受け継いできたのである。

 脊椎とは、我々の体の芯であり、稼動する骨の中心であり、張り巡らされた伝達神経を保護する為の、優れたシステムでもある。

 実質的に脊椎動物は魚。
つまり我々は魚の亜種と言えなくもない。
 実のところ、哺乳類と鳥類というのは、爬虫類の亜種みたいなもので、「爬虫類」という分類は広い。
そして「魚」という分類は、爬虫類よりさらに広い。
魚の定義はほぼ「両生類、爬虫類、哺乳類、鳥類以外の脊椎動物全部」みたいなものである。

陸上に進出しなかった種の末裔

 原始的な魚は、『エラ呼吸(branchial respiration) 』と肺呼吸を併用していたらしい。
エラ(鰓)は水中の酸素を取り込む為の器官、肺は空気中の酸素を取り込む為の器官であるが、かつて魚はどっちつかずで、状況に応じてそれらを使い分けていた。
 基本は水中でエラ呼吸だが、水中で上手く酸素を確保できない時は、水面に顔を出して肺呼吸という風に生きていたと考えられている。

 しかし、その内に、肺呼吸に特化し、ついには陸上に進出した者と、エラ呼吸を極め、水中に留まる者とに、魚は分岐した。
 陸上に進出したのが両生類になり、水中に留まった方が、現在の魚となった訳である。
また、本来の役割を失った肺は、浮力を得る為の『鰾(うきぶくろ。Swim bladder)』として、再利用されたりしている。

エラ呼吸について

 多くの生物が、活動の為のエネルギーの素材として、酸素を使い、そのエネルギー生成の化学反応で生まれた二酸化炭素を、代わりに排出する。
つまり呼吸を行う。

 エラは、水生生物の呼吸器官としてよく知られる。
 それには血管が通っており、口などからそこを通る水から酸素を血管に取り込む。
そして二酸化炭素を排出する。

 肺呼吸の陸上生物が、水中で呼吸できないのは、水から酸素を分離して取り込めないからである。
ではエラ呼吸の魚が陸上で呼吸できないのは水からしか酸素を取り込めないからだろうか?
 実のところ、エラ呼吸では、二酸化炭素を排出というより、水に溶け込ませているのだが、この溶け込ませるのが、大気中では難しいのだ。
つまり魚などが陸で呼吸出来ないのは、酸素を取り込めない以上に、二酸化炭素を吐き出せないからなのだという。

魚類の分類

 様々な意見があるが、現生魚類は、『円口綱(Cyclostomata)』、『軟骨魚綱(Chondrichthyes)』、『硬骨魚綱(Osteichthyes)』、の3大グループに分けられる。

円口類と軟骨魚類

 円口綱は、最も原始的とされる魚類だが、顎がないという特徴の為に魚類に含まれないとする場合がある。
それどころか脊椎動物でないとする意見もあるという。
 現生する種として、ヌタウナギ(Myxini)、ヤツメウナギ(petromyzontiformes )が知られている。
これらは名前通り硬骨魚綱のウナギに似ているが、見た目が似てるだけで系統的には遠い。

 軟骨魚綱は、サメ(shark)、エイ(ray)、ギンザメ(silver chimaera)を含む分類。
骨格が(わりと柔らかい)軟骨からなるから、軟骨魚である。

 硬骨魚綱はさらに、『肉鰭類(Sarcopterygii)』、『条鰭類(Actinopterygii)に分ける場合も多い 。
 条鰭類は、現生する魚の中で、種類も数も最も多いグループである。

 3グループは、それらの分類が考えられた時ほど、近しいとは考えられていない。
系統的に硬骨魚綱は、円口綱はもちろん、軟骨魚綱よりも、我々(魚以外の脊椎動物)に近いと考えられている。
というか正確には、我々は硬骨魚綱だと言ってしまう方が正確らしい。

硬骨魚類

 肉鰭類は、シーラカンス(Coelacanthiformes)やハイギョ(Dipnoi)のような、古い硬骨魚綱とも言える存在で、陸上進出し、両生類に変わっていったグループか、それに近いと考えられている。

 条鰭類はさらに、『軟質類(Chondrostei)』と『新鰭類(Neopterygii)』に分けられる事もある。
 軟質類は、一般的にはチョウザメ(Acipenseridae)などが含まれる原始的なグループ。
 そしてガー類(Lepisosteiformes)とアミア類(Amiiformes)を除く新鰭類は、『真骨類(Teleostei)』とも呼ばれ、現生する大半の魚が、この真骨類である。

魚のディテール

形態

 魚と言えば、平べったい楕円形みたいなのが典型的なイメージだがウナギ(Anguillidae)やウツボ(Muraenidae)のような蛇型、アンコウ(Lophiidae)のような普通に丸っぽいのもいる。
楕円形というより、紡錘型と言えるカツオやマグロ。
蛇型でも、リュウグウノツカイ(Regalecus glesne)のようにかなり細長い者もいる。
 変わった形態と言えば、タツノオトシゴ(Hippocampus)なんかは、まさに風変わりな魚の典型例である。

 これらはもちろん、その生息環境、生活スタイルに関連した形態である。
 タツノオトシゴはまさにそうだが、妙な形の魚はたいてい、泳ぐのが苦手というか、速度が遅い種である。
 逆にいかにも魚らしい楕円形のフォルムは、泳ぐのに特化した形態であり、クジラなどの海生哺乳類も、収斂進化により、似たような形態である。

 魚の鱗は皮膚が変化したもので、外敵などから身を守るための進化とされている。
鱗は、爬虫類などにも見られるが、違いと言えば、爬虫類などの鱗は、単純に硬い皮膚のようなもので、剥がしたりは出来ないが、魚のは、皮膚の上に重なった鎧みたいなもので、1枚1枚剥がしやすいという事であろう。

 鱗には種ごとの特徴があり、熟練の魚類学者は、鱗で魚の種が判断出来るという。
 また、鱗には、木のそれのような、年輪(毎年定量刻まれる跡)があり、個体の年齢推定にも役立つらしい。

 鱗には、またいくつか種類があると言われる。
 後方側にトゲか伸びているような形状で、触るとざらざらという感じの、いわゆる鮫肌である、『楯鱗(squama placoidea)』。
 化石種に多い、名の通り、比較的硬い『硬鱗(ganoid scale)』。
 多くの硬骨魚類が持つ、薄めである『円鱗(cycloid scale)』や『櫛鱗(ctenoid scale)』。

広い視野

 多くの魚は視野が広い。
たいてい左右についた目は、やや飛び出し気味な為に、死角が少ない為である。
同じように、左右飛び出し気味な目で、広い視野を持つ脊椎動物は、他に鳥類と、草食の哺乳類もそうである。

 そのような両目を駆使した、視野の広さには欠点もある。
その視野のほとんどが片目のみを使った視覚の為に、立体視が難しめなのである。

 草食動物は危険をいち早く察知するための広範囲視野。
鳥類と魚は、それぞれ空中と水中という全方位に開けたフィールドに対応してのものと考えられよう。

嗅覚

 魚にも鼻があるが、肺呼吸をしないので、当然鼻は呼吸には使われない。
それはもっぱら嗅覚器としてのみの役割を持つ。
 
 魚には基本、鼻の穴が4つある。
水を吸い込む『入水孔(branchial aperture)』と、水が出ていく『出水孔(atrial aperture)』が左右にふたつずつである。
当然、これらは繋がっており、その通り道に嗅覚器が仕掛けられていて、流れてく水の臭いを嗅ぎとる訳である。

味覚

 様々な実験などによって、魚はどうやら甘味、苦味、辛味、酸味を感じれるらしい事がわかっている。
特に甘味に関しては、かなり敏感に察知できるらしい。

 味というのは、通常、『味蕾(Taste buds)』という細胞の働きによって感じれるものである。
普通、我々のそれから、味蕾は舌に備わっているイメージだが、多くの魚は、舌はもちろん、唇にも備わっている。
種によっては、体表やヒゲにまでその味蕾が備わっているという。

聴覚と声

 魚には外からわかる耳がないので、かつては音なき世界に生きているのだと考えられていたという。
しかし現在では、魚もしっかりと音を聞けるし、聞き分けられる事もわかっている。

 実は、魚の耳は『内耳(inner ear)』と呼ばれていて、名称通り頭の内部にあるのだ。

 魚が自ら音を出す事ももちろんある。
種によって、威嚇音や、仲間とのコミュニケーションの為に音を発する場合もあるという。

 また、魚が絶対音感を持っているという、魚類学者の報告もあるそうである。

側線神経

 魚類と両生類の主要な脳神経の数は10対、他の脊椎動物が12対なのに比べると少ない。
代わり、かどうかはわからないが、魚類と一部の両生類には『側線神経(Lateral line nerve)』という特有の神経器官があるという。

 水圧や振動などを敏感に察知する為の神経であり、まさに水中生活の為の、魚らしい特殊機構である。
 もちろんそういう訳で、この側線神経を持つ一部の両生類とは、水生の両生類である。

魚の古代史

脊索から脊椎へ

 魚類は、我々脊椎動物の大先輩であり、大長老である。
その誕生は、カンブリア期(5億4200万年前~4億8800万年前頃)か、もしかしたらその以前にまで遡ると考えられている。

 まずナメクジウオ(Cephalochordata)のような、棒状の柱的な『脊索(notochord)』を持つ生物が誕生し、その脊索を脊椎へと変化させる事で、脊椎動物、つまり最初の魚が誕生したのだと思われる。

 より魚らしい見かけの魚の登場は、カンブリア期後半か、オルドビス紀(4億8830万年前~4億4370万年前)の頃だとされる。

大革命、肉食の登場

 シルル紀(4億4370万年前~4億1600万年前)の頃だとされる。
魚類の、むしろ後の全ての脊椎動物にとって、最大級の革命が起きた。
「顎(chin)の獲得」である。

 それまで魚には顎がなく、節食方法は吸引が主であった。
顎が備わった事で、魚は口を大きく広げ、より大きな餌を食べられるようになった。
 そして鋭利な歯による「噛む」という行為を覚えた時、脊椎動物は生態系の王者への道を歩み始めたのだ。
 
 恐ろしいティラノサウルスを初めとした、肉を食べる全ての脊椎動物、そしてグルメな人間も、全てその、最初に噛むを覚えた魚のおかげで誕生出来た訳である。

 解剖学的には、顎を最初に持ったのも、最初に何かを噛んだ魚も、サメである可能性が高いという。
だとすると、サメはまさに最古の肉食動物と言える。

硬骨魚類の誕生

 陸上脊椎動物にも繋がる、硬骨魚類の誕生もシルル紀だったと考えられている。

 この時代に誕生した硬骨魚類は、軟質類だったようである。
硬骨魚類は、誕生した時から肉食のハンターであった可能性も高いとされる。
少なくとも初期の硬骨魚類には、捕食者らしき化石が多いという。

 どうも硬骨魚類は海に誕生したようだが、デボン紀(4億1600万年前~3億5920万)には、淡水の領域にも侵攻したようである。

第二の大革命、肺呼吸

 シルル紀の頃くらいに、それまでは水中にしか生きる世界のなかった多くの動物達に、恐ろしい事件が起こった。
 植物が地上でも生い茂った事で、木々から水に落ちてきた大量の落ち葉などが、腐敗し、水中の酸素をかなり奪ってしまったのである。
 そこで、魚、少なくとも硬骨魚類は、この酸素不足という未曾有の危機を乗り越える為に、地上へと目を向けた。

 肺を獲得し、大量の植物が地上に溢れさせた酸素を取り込む技を覚えたのである。
 それは顎の獲得に次ぐくらいの大革命であったろう。
肺の獲得は、魚類の陸上進出への道を開いたのだ。

 そして魚の中から地上に生きる者が、両生類が、爬虫類が、恐竜が、鳥が、現在の我々が誕生したのだ。

意気地無しの大逆転劇

 基本的には、硬骨魚類の地上進出物語は、勇気あるチャレンジャーの大冒険活劇ではなかっただろうとされている。
 それは多分、生物の歴史上、意気地無しが、どういう訳か絶対王者となった、奇跡の大逆転劇であったのだ。

 肺を獲得した硬骨魚類だが、結局肺は廃れていく。
地上に進出した魚は、様々な魚が、様々な環境に対応して、もう水中には居場所がなくなってしまったグループだった。
それがシーラカンスやハイギョで知られる肉鰭類だったのだとされている。
 
 極端に言ってしまえば我々地上の脊椎動物はみな、肉鰭綱の仲間と言える。
つまりかつて、時代に置いてけぼりにされた肉鰭綱は、数億年の時間をかけて、地上の全てどころか、地球の外に飛び出そうと考えるほどにまで、圧倒的な生物学的地位を得たのである。
 それはまさに偉大なる進化劇だったろうと思う。

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