「両生類」最初に陸上進出した脊椎動物。我らの祖先(?)

両生類の手

その生態「爬虫類との違い」

 生物の分類法を確立したリンネ(1707~1778)の時代、両生類(amphibians)と爬虫類(reptiles)は似たような存在だったという。
 今では両生類と爬虫類はずいぶん違う扱いである。
両生類は魚類(fishes)に近く、爬虫類は鳥類(birds)に近い。
少なくとも爬虫類は、両生類よりも鳥類にずっと近い。

むき出しの卵

 また両生類、爬虫類はどちらも、基本的に卵生であるが、爬虫類の子の胚は、卵の中で、羊水という液体に満たされている。
羊水は羊膜という袋に包まれていて、爬虫類の場合、さらにその羊膜は硬い殻に包まれている。
 一方で両生類の卵は、殻も羊膜もない、むき出しの状態である。

 爬虫類の卵は完全に陸環境、乾いた環境に適応したものであるが、両生類はそうではなく、その為に産卵場所は水中か、少なくとも湿った場所である。

湿った皮膚

 両生類は基本、昆虫(insect)のような『変態(transformation)』を行う。
つまり幼体から、成体になる過程で見た目が大きく変わる。
オタマジャクシ(tadpole)とカエル(frog)が有名だし、典型的。
 幼体は水中生活に適応した『エラ呼吸(branchial respiration)』だが、成体になる過程で、陸上生活の為の『胚呼吸(embryo respiration)』を獲得したりする。
普通、胚は変態より前もって発生するという。

 また、鱗を持つ爬虫類、毛を持つ哺乳類(mammalian)や鳥類に比べて、両生類の皮膚は湿っていてぬるぬるしている。
 幼体の皮膚は2~3層構造となっていて、成体は5~7層構造。
いずれも多量の『粘液細胞(mucous cell)』が、分泌する粘液により、ぬるぬるの保護膜を形成している。

 両生類の皮膚は、爬虫類などに比べると刺激に弱いと考えられるが、浸透性が高く、両生類は皮膚から、比較的多量の水分を吸収出来る。
 また両生類の皮膚は通気性も高く、かなり効率的な『皮膚呼吸(cutaneous respiration)』が可能。
 両生類の湿った皮膚には、水分を取り込みやすいが、逆に言えば水分を失いやすくもある。
 かっこよく「水陸両用の生物」とも言えるが、はっきり言ってしまうなら、大半の両生類は、「中途半端な陸上動物」なのである。

魚類に近い脳神経構造

 脳神経というのは、脳から直接的に出ている末梢神経のこと。
 爬虫類、哺乳類、鳥類の脳神経は、主要なものが12対あるのに比べ、両生類は10対だという。
主な脳神経が10対というのは、魚類と同じだから、多分12対の脳神経という構成を開発したのは、爬虫類と哺乳類の共通祖先である。

爬虫類に近い心臓

 
 脊椎動物(vertebrate)の心臓は、血液の心臓への入口となる心房と、ポンプの役割を担い血液を心臓から送り出す心室で構成されている。

 心房と心室の数がひとつずつ、すなわち1心房1心室の魚類に比べて、両生類は2心房1心室となっている。
この2心房1心室という構造は爬虫類と同じである。
 哺乳類と鳥類は、さらに心室の数を増やし、2心房2心室となっている。

 陸上に進出した両生類以降の脊椎動物は、基本的に肺呼吸である。
肺呼吸では、肺で酸素を多く取り入れた動脈血と、そうでない静脈血の両方が体を巡る事になり、心臓の部屋を増やすのは、それらが混ざらないようにする為の進化である。
 なので、心房心室のそれぞれをふたつにして、完全に動脈血と静脈血のルートを分けている鳥類、哺乳類の方が、やはりより優れているとかつては言われていた。
しかし爬虫類に関しては、擬似的2心房2心室のような機構になっているらしく、現在は、一概に爬虫類が劣っているとは、言えない。

 しかし両生類に関しては、やはり不完全な肺呼吸システムだと言える。
同じ2心房1心室ではあるが、爬虫類のそれは、むしろ2心房2心室の、鳥類や哺乳類寄りなのである。

魚類からの進化

 昔、陸に出てきた魚は、水中とは様々な点で異なる、その新環境に適応する為に、体のあちこちの部位を変異させた。
 
 陸上は水中よりもずっと重力の負担が大きい。
そこで陸の魚は、ヒレを足へと、つまり自らの重みを、支える事が可能な4つの足へと変えた。

 生物が四肢を手に入れたのは水中であったと考えられている。
ほぼ間違いなく、それは最初、水底を歩く為の進化だった。
そして水中では、水の浮力の為、陸よりもずっと脆い四肢でよかったはずだ。
 そうして、陸の魚は関節を持つに至った。

 また、陸で動くには、水中よりも自らの動きが重要となる。
そこで陸魚は、体と頭の結合も緩くなり、四肢を伸び縮みさせたりしても、頭は前を向き続けられるようになった。

 この陸に対応するように進化していった陸魚から、両生類が生まれた。
そして、その内に、両生類から(あるいは両生類とは別に)有羊膜類(Amniota)が生まれ、その有羊膜類から爬虫類や哺乳類が生まれた訳である。
 つまり爬虫類(あと哺乳類)は、魚が陸上に進出したごく初期の頃に、道を違えた、今では遠い存在なのである。

現生両生類

主に3グループ

 現生する両生類は、『無尾目(anura)』、『有尾目(urodela)』、『無足目(apodal)』の3グループで構成されている。

 平滑両生亜綱(Lissamphibia)と総称される、現生の3つの目グループの祖先が、たった1種の両生類なのかどうか、つまり現生両生類が単系統かどうかについては、かなり意見が割れている。

 ただ化石記録的には、中生代(恐竜の繁栄した時代)が始まった頃には、もう3グループはそれぞれ独立した道を歩んでいたようである。

 また、無尾目はカエル、有尾目はイモリ(newt)やサンショウオ(salamander)のようなトカゲみたいなの、そして無足類はミミズかヘビみたいな種である。
つまり3グループの外見は、そんなに似ているとは言えない。

系譜の謎

 しかし単純な外見こそあまり似ていないものの、共通の特徴も多い。

 共通の特徴かつ、両生類固有の特徴に、『有柄歯(Pedicellate teeth)』というのを持っている事があげられる。
これは、歯の露出した部分である歯冠と、歯茎に埋まった部分である歯根の境にある、比較的脆い層である。 

 特に耳の構造は、3グループでよく似ているという。
また目には特殊化した細胞を持ち、やはり皮膚の構造も似ている。
肺を持っていても、皮膚呼吸機能があまり衰えていない。
 これらの共通した特徴から、現生両生類の祖先を一種と考える者は多い。 

 しかし運動関連の形質はかなり異なるとも言われる。
 運動関連の形質でかなり分かりやすいのが、例えば手足の長さである。
カエルは、そのジャンプ能力獲得の為に、その他の両生類に比べて、かなり手足が長い。

無尾目。カエルはカエル

 両生類最大規模のグループであり、言ってしまえばカエル。
砂漠とか、氷河とか、わりと極端な気候の地域を除けば、ほぼ世界中に分布する。
 種数が普通に数千レベルだが、どいつも基本の見かけが似ているので、始めてみるカエルでも、カエルだとわかりやすい。
水生、陸生、地中生、樹上生のどれであってもカエルはカエル。
 また、ジュラ紀(1億9960万年前~1億4550万年前) のカエルは、既にカエルだったらしい。
 
 名前の通り、成体には尾がない。
 顎が退化、あるいは失われていて、顔と体が連続している。
 眼球と、(なら当然だけど)それが収まる窪みである眼窩も大きい。
 鼓膜が大きい。
 喉頭が発達し、大きな声を放つ。
 頭頂骨を構成する前頭骨と頭頂骨がくっついていて、前頭頭頂骨という状態になっている。
 「人」字フォルムの『翼状骨(Pterygoid)』、「T」字フォルムの『副蝶形骨(Parasphenoid)』が組み合わさって、特有の頭骨形態を構成している。
 下腹の骨である恥骨が軟骨となっている。
 いわゆるカエル型の長く、かつ粘着性の高い舌を持つ。
 そして、幼体と成体の形態の違いが他の2グループに比べて、かなり大きい。
などといった、共通特徴を持つ。

有尾目。多分スタンダードな種

 イモリやサンショウオなどの、トカゲに似たフォルムのグループ。
長い体と尾、前後でほぼ変わらない長さの四肢を持つ。

 形態的に、古生代の両生類に似通ったものが多いが、これはこの種とそれらの進化的な繋がりを示すものでもなく、この種があまり特殊化していない証拠とされる事が多い。

 完全に水生のもの、成体になると陸生になるものがあるが、水生の幼体段階のまま成熟し繁殖する種もいる。
このよう現象は『幼形成熟(neoteny)』と言われる。
 逆に卵の段階で陸生にまで対応する、つまり成体状態で生まれてくる種もいるという。
 肺を持たない種や、胎生の種もいる。

 鼓膜を持っていない。
 前肢の骨である尺骨と橈骨(とうこつ)、後肢の骨である脛骨(けいこつ)と腓骨(ひこつ)がくっつかない。
 足関節に続く足根骨が伸長しない。
 前頭骨と頭頂骨がくっつかない為に、頭骨に隙間がある。
 喉頭の発達が悪いから、おそらく声をあまり出せない。
などの基本的な特徴を持つ。

無足類。触手を持つ脊椎動物

 アシナシイモリ類(gymnophiona)とも言われる、ミミズっぽい見た目な両生類。
 人里ではあまり見られない為、他の2グループに比べてかなりマイナー。
主に熱帯の森林などに生息しているという。
 原始的な特徴と、地中生活に対応した特殊形質を併せ持つ。

 頭骨に隙間がないのは、原始的な特徴か、単に頭骨のいくつかの要素が失われた事による二次的な形質かは、意見が別れている。

 両生類として、むしろ脊椎動物全体において、特筆すべき固有要素として、通常は無脊椎動物の特徴である、触手を備える事があげられる。
触手は基本1対、眼の下に備わっている。
 無足類の眼は、地中生物らしく機能が失われるか、退化しているから、この触手は、その代用としての役割を担うと考えられる。

 胎生の種がけっこう多いようである。

スズガエル反射と毒

 スズガエルだけが行うものでないけど、スズガエルのそれが有名なので、スズガエル反射と呼ばれる防衛行動。
 腹側が派手な色模様をした無尾類、有尾類がとる行動で、仰向けになり、腹の色を見せる。

 これは基本的に、毒を持つ種がとる警告行動である。

 有尾類、無尾類の多くが毒を持ち、危機的状況に陥った時に、その肌から毒を分泌する。
 種によっては、毒液を飛ばす者もいるという。
 カエルを食べる地域では、カエル中毒で死ぬ人もいるらしい。

古代の両生類

四肢動物の祖先

 最初期の両生類は、最初期の四肢動物でもあるかもしれない。
デボン紀(4億1600万年前~3億5920万)の後半。
 エルギネルペトン、イクチオステガ、アカントステガなどは魚のような両生類とするべきか、両生類のような魚とするべきか微妙な所である。

 1932年に、スウェーデンのグンナル・セヴェセダーベリ(1910~1948)に記載されたイクチオステガは、かつて全ての陸上四肢動物の祖先だとする考えもあった。
 実際の所、本当の意味で最初の四肢動物。
つまり現生の両生類、爬虫類、哺乳類、鳥類の全ての祖先動物が、見つかる可能性はかなり低いし、それにそもそもその何者かが四肢動物ではない可能性もあろう。

エルギネルペトン(Elginerpeton)

 3億7500万年前頃のスコットランドに生息していた。
 全長1.5mほどの四肢動物。
同じデボン期ではあるが、より後のイクチオステガなどとは異なる系統だとする向きがある。
 ただし股関節と肢の構造は、イクチオステガに似ているという。

イクチオステガ(Ichthyostega)

 3億6700万~3億6250万年前頃のグリーンランドに生息していた。
全長1.2mほどの四肢動物。
頭骨が魚に似るも、四肢や脊椎はそこそこ頑丈で、陸上生活への適応進化を思わせる。
肋骨が発達していて、これも陸上の重力から、内部組織を守為の適応と見られる。
 後肢の指が7本あったようである。
 同時代のアカントステガに比べると、より陸上生活に適応しているが、やはり基本は水生であったろうと考えられている。

アカントステガ(Acanthostega)

 3億6500万年前頃のグリーンランドに生息していた。
全長60cmほどの四肢動物。
 前肢の指が8本あったという。
水生だったと思われる。
手首に関節がなかったようで、歩けなかった可能性が高い。
 肩に魚のそれのようなエラの痕跡があり、エラ呼吸と肺呼吸を併用していた可能性もある。

迷歯亜綱と空椎亜綱

 古生代の両生類の代表グループとして、よく知られているふたつが、 『迷歯亜綱(Labyrinthodontia)』と『空椎亜綱( Lepospondyli)』である。

 迷歯亜綱の名の由来である、特徴的な歯は、先祖か、近しい種とされる『歯肉鰭綱(Sarcopterygii)』から受け継いだものと考えられている。

 歯肉鰭綱は、生きた化石として名高い、シーラカンスやハイギョのグループであり、四肢動物になった魚グループ候補である。

 また、迷歯亜綱に含まれる分椎目は、カエルの有力祖先候補と考えられている。
もう一歩進み、分椎目は、全て現生両生類の祖先だと言う者もいる。
 分椎目と分岐したのかもしれない炭竜目は、爬虫類と近縁、あるいは祖先候補とされている。

  一方で、空椎亜綱は、後に繁栄する爬虫類であるトカゲやヘビに似た姿の種が多かったようである。

迷歯亜綱(Labyrinthodontia)

 デボン紀後半に誕生したとされる、最初の陸上四肢動物を抱える可能性のあるグループ。
 「迷路歯」と呼ばれる、表面のエナメル質が複雑な内部構造を模しているような歯が、その名称の由来。
1m以上の大型がわりと多かったようである。
 
  イクチオステガやアカントステガなどの原始的な四肢動物。
 椎骨が主に、土台的な間椎心(かんついしん)と、小さな円形の側椎心(そくついしん)で構成されている、ラキトム型と呼ばれるタイプであった分椎目(Temnospondyli)。
 分椎目よりも、側椎心が大きめとなった、 炭竜目 (Anthracosauria)。
などに分類される。

空椎亜綱(Lepospondyli)

 石炭紀(3億5920万年前~2億9900万年前)に誕生したされるグループ。
迷歯亜綱に比べて、1m以下の小型種が多かったようである。

 トカゲみたいなのを中心に、外見に多様性があったらしい細竜目(Microsauria)。
 長い体に短い手足をつけたリソロフィス目(Lysorophia)。 手足がなくヘビみたいだったらしい欠脚目(Aistopoda)。
 顔が平べったく大きいトカゲのようだったと思われる、水生らしいネクトリド目(Nectridea)。
 やはり、手足のないヘビのようだったと考えられるアデロギリヌス目(Adelospondyli)。
などに分類される。

分椎目

 現生両生類に結びつきそうな古代の両生類として、分堆目エリオプス上科(Eryopidea)などは、候補とされるが、確たる証拠はない。

 分堆目の化石は世界中で発見されており、水生、半水生、陸生と多様性にも富んでいる。
 少なくとも、迷歯亜綱としては、最も成功したグループと考えて、ほぼ間違いない。

トリアドバトラクス(Triadobatrachus)

 古代両生類と現生両生類を繋ぐ鍵となりそうなのが、三畳紀(2億5100万年前~1億9960万年前)の種とされているトリアドバトラクスである。
 この種は、無尾目と、古代両生類の中間的な存在だと言われる。

 トリアドバトラクス(Triadobatrachus. massinoti)の化石は1936年、マダガスカル北部にて発見された。
両生類のミッシングリングとも言うべき生物である。

 眼窩が大きい。
前頭頭頂骨を構成。
翼状骨や副蝶形骨による特徴的な頭など、カエルとの関係を疑わせる共通特徴が多い。
 既に舌がカエル型のそれである、という話もある。

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