カブトムシらしいカブトムシは少ない?
カブトムシは、甲虫目コガネムシ科カブトムシ亜科に属する昆虫。
日本では最大級であり、近縁な生物としてはコガネムシやカナブンがいる。
よく誤解されるが、クワガタとはそれほど近しくもない。
カブトムシのオスに備わった武器である角は、頭部や胸部の骨が変化したものと考えられている。
一方、クワガタのハサミは顎が巨大化したものである。
妙な話だがカブトムシ亜科は基本的に長い角など持たず、小型である。
だがこの日本で、愛されてやまない、単にカブトムシと呼ばれるあの一種のみが、あのかっこいい角を持つのだ。
海外でも、ヘラクレスオオカブトやコーカサスオオカブトなど、角を持つカブトムシはむしろ少数派である。
そしてそれら(少なくとも日本人にとって)カブトムシらしいカブトムシは、高い山などに生息する為に、日本以外の国では、カブトムシなど名前も知らない者が多いという。
「昆虫」最強の生物。最初の陸上動物。飛行の始まり。この惑星の真の支配者たち
典型的なカブトムシの生涯
卵と幼虫
カブトムシの寿命は1年ほどで、生涯のほとんどは地下暮らしである。
時期を見て、メスは適当な場所で、20cmほど土に潜り、20~30ほど卵を生む。
卵は最初、真っ白な楕円形だが、徐々に水分を吸って茶色っぽい球状となる。
二週間くらい経って、孵化する頃には、透けて幼虫の姿が見えるようにもなっている。
幼体の成長は早く、孵化してから2ヶ月経つ頃には、体重が20グラムほどになっている。
これは産まれた時の400倍ほどだという。
冬が近づくと幼虫の体は蓄えられた脂肪で黄色っぽくなる。
そして冬にはほとんど活動せず、餌も食べず、体重も減るが、春になるとすぐに体重は回復する。
サナギとサナギの部屋
幼虫は、夏にはまた、あまり餌を食べなくなり、地下20cmほどの深さに、液状の糞と土を混ぜて、『蛹室(ようしつ)』を作る。
これはサナギになる為の部屋である。
蛹室に丸くこもってから10日ほどで、幼虫は脱皮し、サナギとなる。
オスに角か現れるのはサナギになってからで、おそらくはその為に、オスの蛹室は、やや縦長である。
サナギの中で、幼虫は一旦ドロドロの液体状になり、25日ほどかけて、構築され固まった成虫の姿となっていく。
そしてそのまま1週間ほど蛹室で過ごしてから、いよいよ成虫は地上に出てくるのだ。
成虫と樹液スポット
地上に現れたカブトムシは、まずは餌である樹液を求めて、森林を飛び巡る。
樹液は、カミキリムシなどに木が傷つけられると染みだす。
そのような、樹液スポットは、森の昆虫達の溜まり場である。
昼間は、カナブンやスズメバチやチョウ。
そして夜にはクワガタやゴキブリ、それにカブトムシが集まってくるのだ。
また、カブトムシは時折、自ら木を傷つけ、樹液を発生させる事もある。
成虫の寿命は1週間ほどとされているが、飼育下では2ヶ月ほど生きる事もあるという。
カブトムシ集団行動の謎
二酸化炭素により、集合する
カブトムシの幼虫の顔には1対の触覚があり、その下に『大顎(おおあご)』と呼ばれるハサミ型の器官、さらに下にはやや小さなハサミ型器官の『小顎』がある。
顕微鏡で確認すると、小顎の先端は突起状構造になっていて、これは匂いなどを感知する器官と考えられている。
カブトムシの幼虫にとって、土中の微生物は貴重なタンパク源である。
そこで微生物が多く存在するがゆえに、その呼吸により生じた二酸化炭素を、幼虫は小顎で感知し、その方向に移動する。
幼虫もまた呼吸するので、幼虫が集まってくると、その場の二酸化炭素濃度はさらに高まり、さらに幼虫を引き寄せる。
そういう訳でカブトムシの幼虫は、ある程度特定の位置に集合する傾向にあるという。
しかし集合自体には特にメリットはないらしい。
というかむしろデメリットらしい。
実は、集合したせいで餌が減り、ストレスが増え、集合した個体は、意図的に単独にされた個体よりも、体重が小さい傾向にあるのである。
一緒にサナギになって、一緒に成虫になる
幼虫の集合よりも、さらに高い集中度合いで、カブトムシの幼虫は蛹室を一定域に作る傾向にあるという。
しかも幼虫の1匹がサナギになると、まるでそれに触発されたかのように、近場の幼虫達も、次々サナギになるようだ。
少なくとも同じ容器に入れられたカブトムシの幼虫達が、同時期に一斉にサナギになる事は、愛好家の間では常識らしい。
だが、産まれた時期がずれていても、発育の度合いが違っていても、近場の幼虫達がサナギになるタイミングを示し会わせるなんて可能だろうか?
可能なようで、発育の進んでる個体は、サナギになるタイミングを遅らせ、発育の進んでない個体は、サナギになるタイミングを早めてまで、幼虫達はタイミングを会わせるらしいことが実験によって確かめられている。
(幼虫の発育は、寒いと止まるので、冷蔵庫を使うことで、ある程度調整できる)
サナギから成虫になるまでの時間はほぼ一貫してるので、幼虫達は成虫になる時期を合わせているともいえる。
防衛行動を利用した防衛行動
カブトムシの幼虫達が1ヶ所に集うのは危険もありそうである。
蛹室は脆く、適当に土中を進む他の幼虫に当たるだけでも、簡単に破壊されてしまうが、実際はそんな事はめったに起こらない。
サナギは、振動を感知し、他の幼虫が近づいてきているのを察知出来るようで、そういう時、蛹室内のサナギはクルクルと回転運動を行う。
その回転運動により発生した振動を察知した幼虫は、また10分ほどその場に止まった後に、サナギから離れるのである。
サナギの発する振動は、幼虫の天敵であるモグラの発する振動に似ているという。
そしてモグラもまた、振動で獲物を探るので、幼虫がしばらく停止するのは防衛行動であるのは間違いない。
その防衛行動を、サナギは自らを守る為に、さらに利用している訳である。
回転運動の獲得
サナギの回転運動は、カブトムシに近縁な、他のコガネムシ科にはあまり見られない。
進化の妙で、カブトムシは集団で集まるようになり、かつ蛹室が脆くなってしまったから、回転運動を行うようになったのか?
あるいは、回転運動を覚えたから、蛹室が脆くても大丈夫になったのか?
ただ他のコガネムシ科の幼虫も、カブトムシのサナギの振動で、止まるらしく、この幼虫の防衛行動は、おそらくカブトムシ誕生に先立って発生した性質だと考えられる。
そもそもなぜタイミングを合わせるのか?
真っ先に浮かぶ答といえば、成虫になった時に、配偶者をなるべく見つけやすくする為じゃないだろうか。
野生でのカブトムシの成虫の寿命が1週間程度だという事を考えれば、成虫になるタイミングを合わせるのは、よい戦略に思われる。
もちろん世界は広い。
どのみちカブトムシの時期は夏なので、別に近場の奴に合わせなくても、適当に夏に成虫になれば、どこかに出会いもあるだろう。
だが、全体の個体数が少なければどうか?
安全策としての、周囲の個体とのタイミング合わせは、意味を増すだろう。
全体の個体数は少ないか、というと今はおそらく多い。
だが、何かからカブトムシへの進化が大きな突然変異だったならば、カブトムシ誕生後しばらくは、少数種族だったろう。
もっとありそうなのが、カブトムシの数が増した可能性だ。
例えば、人は木を傷つけ、樹液という成虫カブトムシの餌を増やす。
そして人は農作の為に、意図的に腐葉土を作るが、それはまたカブトムシ幼虫の、格好の餌場となる。
人が変えた世界の副作用で、カブトムシの数が増した可能性はあると思う。
巨大個体、小型個体の不思議
カブトムシの個体間の大きさの変異は大きい。
カブトムシのメスは、より大きく長い角を持つオスをパートナーに選ぶ傾向にあるという。
ならなぜオスにも小さめの奴がいるのか、みんな大きくなればよいではないかとも思ってしまう。
しかし、体が大きく長い角を持つオスは、天敵であるカラスやタヌキに、狙われやすいので、大きすぎるとそもそも、運命の出会いを果たす間もなく死んでしまったりするようである。
またカブトムシの大きさは餌の質によって変わるのだという説もある。
実際に様々な餌を使い分けて実験すると、オスは、メスに比べても、かなり餌の種類に体の大きさが左右されるらしい事が確認されている。
サナギ化の強引な調整も関連しているのかもしれない。