「コウモリ」唯一空を飛んだ哺乳類。鳥も飛べない夜空を飛ぶ

月夜のコウモリ

コウモリは実はウマに近いという事実

とりあえず鳥や虫ではない

 たまにコウモリを鳥類だと勘違いしている人もいるらしいが、それはまだマシな誤解かもしれない。
 なんと時代と場所によっては、コウモリはだとされていたらしい。
 コウモリは漢字で『蝙蝠』、いかにも虫っぽい二文字である。
古代中国人に言わせれば、動物でも植物でもないから、虫なんだそうである。
 
 ヨーロッパでは、コウモリは空飛ぶネズミだと考えられていたようだが、同じ哺乳類なので、正解と言えば正解である。
並ぶ哺乳類哺乳類の分類だいたい一覧リスト  まあまず間違いないのは、遺伝生物学以前に、「コウモリは実は奇蹄類(ウマやサイ)と近しい動物」なんて発想に至った人はひとりもいなかったろうという事か。

トガリネズミでも霊長類でもない

 ところがDNA解析によると、コウモリはしっかり奇蹄類と近縁だったのだ。

 この結果はかなり衝撃的であった。
 というのも、以前は、コウモリは霊長類か、あるいはトガリネズミ(ネズミというよりモグラとかのグループ)に近縁だと考えられていて、どちらの系統からの進化なのか、議論が白熱していたからだ。
どっちも間違っていた訳である。

 ちなみに、遺伝生物学的には、コウモリは霊長類よりはトガリネズミに近いという。
どうやらトガリネズミから、鯨偶蹄類(クジラとかウシとかキリン)と食肉類(イヌネコ)と有鱗類(センザンコウ)と奇蹄類、それにコウモリは派生したらしい。

 中でも一番近縁なのが奇蹄類、つまりウマな訳である。

コウモリの能力と生態

エコーロケーション

 コウモリが、人間には聞こえない音、すなわち超音波を用いるのは、よく知られている。
 
 コウモリは超音波を発し、それが跳ね返ってくる方向や、その時間から、周囲の状況を察知する『エコーロケーション(Echolocation)』能力を備えているのだ。
 その精度は素晴らしく、周囲の物体の大きさや、細かいデコボコ、質感まで把握出来るとされている。

 といっても、コウモリは盲目な訳ではなく、エコーロケーションはもっぱら夜間飛行用のシステムのようである。
 またエコーロケーションの対象範囲はせいぜい20~50mくらいまでらしく、それよりも遠くは目でしっかり見ているのだという。

超音波パターン

 そして人間には聞こえないから実感できないが、その音量、連続するパルス(短い音)の連射速度も凄いらしい。
クラクションくらいの音量を、1秒間に10~100回くらいに発するのである。

 コウモリの超音波の最大音量は140デシベルほど。
これはジェットエンジンの音くらいだ。

 ちなみに、コウモリが超音波を口から出すのは間違いない。
目を潰されても生きていけるのに、耳を塞がれたコウモリは上手く飛べなくなる。
まあ当然であろう。
そして口を塞いだ場合も、コウモリは飛べなくなるのである。
 そういう訳だ。

 またコウモリは超音波の波長などのパターンを調整できるらしく、複数個体で飛行する時などは、他の者とパターンが被らないよう調整しているようだ。
 

翼は水かきか?

 人間含む多くの哺乳類が、胎児の時期、指と指の間に水かきらしき膜が形成されている事が知られている。
 しかし人間などは、アポトーシス、つまりその部分の細胞は初めから勝手に死ぬように遺伝的に決まっている。
 だがコウモリは、細胞を増殖させたりするFGF(線維芽細胞増殖因子)の働きによって、水かきのアポトーシスを無効果するようなのだ。

 つまりコウモリの翼である、指や尾で繋がる『皮膜(membrane)』は、ある意味で水かきなのである。

長寿の秘訣(?)。温度調節と休眠

 特に体の小さなコウモリは、内温生の哺乳類でありながら、外温生動物のように、生きたまま、体温を急激に下げる事が出来る。

 この驚くべき能力を使い、コウモリはしばしば、超低エネルギー状態での休眠を行う。
 四季のある生息域では、これを長期間にわたって連続的に行う場合もある。
これはいわゆるコウモリの冬眠である。
 そしてこの能力を活かす為に、コウモリは寒い時こそ寒い場所で過ごしたがるのだという。

 そんな能力がどの程度関係しているのかは不明だが、コウモリの寿命は同サイズの哺乳類に比べてかなり長いとされる。
普通に10数年。
種によっては40年以上生きた例もあるという。

ほぼ虫か果実しか食べない

 全コウモリの70%の主食は虫である。
基本的にコウモリは夜行性なので、ターゲットも必然的に、ガや甲虫類などの夜間に飛ぶ虫とかる。

 素早く飛翔する虫を捉える上で、エコーロケーションの精度を少しでも上げる為か、食虫性コウモリの耳は大きめである。

 食虫性の次に多いのが植物食のコウモリであり、ぶっちゃけコウモリの90%以上が、食虫かこれである。

 オオコウモリと呼ばれる大きめな種が主に植物食とされる。
オオコウモリの多くはエコーロケーションを使わず、視覚に頼った種であり、耳が小さく目が大きい。
植物というか、フルーツを食べる種が多いという。

肉食のコウモリ

 肉食のコウモリはかなり少ないが、魚を食うウオクイコウモリ。
カエルを食べるカエルクイコウモリ。
ネズミやトカゲや別種のコウモリなどいろいろ食べるアラコウモリなどが知られている。
 
 特に気性が荒いとされるアラコウモリ科だが、キバネアラコウモリ、アフリカアラコウモリ、そしてチスイコウモリモドキは、オスが子育てに参加する哺乳類としても知られている。
 オスが子育てに参加する哺乳類は、他に霊長類と齧歯類の一部に、オオカミだけである。

実在する吸血(?)コウモリとドラキュリン

 肉食よりさらに少数派なのが、吸血鬼よろしく、血が主食のチスイコウモリである。
中南米に生息する、シロチスイコウモリ、ケアシチスイコウモリ、ナミチスイコウモリのわずか3種が知られるのみ。
だがナミチスイコウモリは、まれに人の血もしっかり吸うという。

 ナミチスイコウモリはよく研究されている種でもある。
 こいつらは真夜中に、寝ている獲物を定め、その近くにまず降りる。
そして四足で体を立てると、なんとカエルかカンガルーのようなジャンピング走法で、ターゲットに近づいていく。

 チスイコウモリの鼻は、サーモグラフィー機能を有していて、それを駆使し、獲物の血管の位置を特定する。
 さらにチスイコウモリの唾液には麻酔の効果があり、獲物の局部を舐める事で、そこの感覚を一時的に無効化してしまう。
 唾液にはまた、血をさらさらにして流れやすくする効果もあるという。
 
 それから、カミソリ状の前歯で、獲物の皮膚に傷をつけ、血をすすり舐めるのである。(コラム1)

 一度の吸血にかかる時間はだいたい20~30分くらいだとされる。

 最も驚くべきは、チスイコウモリの唾液の酵素が、脳梗塞の治療に活かされている事だろう。
固まってしまった血を溶かす血栓溶解剤(けっせんようかいざい)『ドラキュリン』の成分として。 
吸血鬼の夜「吸血鬼」能力に弱点、退治方法まで。闇の貴族のすべて

(コラム1)血液採集用生体機械?

 エコーロケーションといい、なんかもうロボットみたいである。
もしかして吸血コウモリって、マジで宇宙人のキャトルミューティレーション用マシンなんじゃないだろうか。

 あるいは紛れ込んでてもわからないかも。

 

助け合いこそ素晴らしい

 深夜に寝ぐらから飛び立ったチスイコウモリの7%は、血を吸えずに帰宅するという。
そういう哀れな仲間に対し、チスイコウモリは吐き戻した血液を分け与える事がある。
それも驚くべき事に、血縁関係でない個体間でも、この慈悲深い行動は見られるという。

 しかもそれは、単純な優しさからの行動でなく、もっと深い信頼性の上に成り立っているようだ。
チスイコウモリが、血を分ける相手に選ぶのは、かつて自分に血をくれた個体が多いのである。
つまりチスイコウモリは恩返しをしあっている。
助け合っている訳だ。

 チスイコウモリは恩を忘れない。
我々ももっと見習うべきかもしれない。

 ちなみにチスイコウモリは、仲間同士で毛づくろいをし合う、いわゆるグルーミングを頻繁に行うようで、これが血を分け合う関係の下地になるようである。
 

寝ぐらと休憩所

 洞窟を寝ぐらとしてるイメージが強いコウモリだが、木の枝や、木に空いた穴で寝る種も多い。
屋根裏や橋の下、廃墟などの人工物もけっこう利用されている。

 様々な場所で寝るというコテングコウモリなどは、雪の中で寝る事もあるという。
またシロヘラコウモリやテントコウモリは、テント状ならどこでもよいらしい。

 人里に暮らすコウモリはたいていアブラコウモリである。
人工物の隙間を寝床にしていて、都会の夜空を飛び巡る。

 コウモリは夜間ずっと飛んでる訳でなく、夜にのみ止まる、『ナイトルースト』と呼ばれる夜のみの休憩所を確保しているようである。

 コウモリは大胆で、ナイトルーストには、マンションのベランダなどが選ばれる場合もあるという。

鳥との比較。なんで逆さまか?皮膜は有利か?

 同じサイズのコウモリと鳥では、鳥の方が2、3倍程度重いそうである。

 もしかしたら鳥の方が、力が必要だからなのかもしれない。
翔んでいない時、コウモリはたいてい逆さまだが、鳥はそうではない。
実はコウモリが逆さまで止まっているのは、わずかなエネルギーで飛び立つ為という説があるのだ。
 つまり地を勢いよく蹴って飛び立つ鳥に対し、コウモリは、止まり木などから足を離した時の、一瞬の落下を利用して、加速し、飛び立つのである。
そうして飛び立つエネルギーを節約している訳だ。

 後は、単純に、肉をそぎおとしすぎてるコウモリは、真っ直ぐ立てるほどの筋力がないとも考えられている。
しかしせんなガリガリな体だからこそ、足のフック状の爪を適当に引っ掻けるだけで、寝ながらでも逆さま体勢を維持できるのである。

 また、飛行中の虫を獲物とした時、鳥は口で直接パクりといく事が常だが、コウモリは皮膜、つまり翼を曲げて、虫を捉えるという。

最大と最小のコウモリ

 世界最大のコウモリは、ジャワオオコウモリ、インドオオコウモリ、フィリピンオオコウモリのいずれかとされる。
 いずれもオオコウモリの名にふさわしい、(翼を広げた全長が)2mを越えるバケモノである。

 逆に世界最小は、タイとミャンマーのキティブタバナコウモリである。
コウモリというか哺乳類最小の種であり、翼を広げても全長15cm程度。
 手のひらに乗せたなら、胎盤性生物の限界、あるいは可能性を垣間見る事が出来るだろう。

進化の謎

コウモリになる前の生物が見つかっていない

 コウモリの進化過程は謎である。
いつどこで、飛行能力や、エコーロケーションを習得したのかが、ぜんぜんわかっていない。

 発見されているコウモリの最古の化石は約5300万年前のものだが、問題は既にコウモリは、コウモリらしい形態だったらしい事である。

 コウモリではないけど、コウモリに近いくらいの形態の哺乳類化石は見つかっていない。(コラム2)

 これは、謎ではあるが、コウモリは急激的な速度でコウモリになったのだという根拠とも言える。

(コラム2)つまり5300万年前に宇宙人が

 やっぱりコウモリは撒かれたんじゃないたろうか? 
生体機械のコウモリ。

イカロニクテリスとオニコニクテリス

 いちおう、同じ(5300万年前の)地層から発見されている原始コウモリの二種イカロニクテリスとオニコニクテリスには、原始的だと感じさせる特徴もある。

 現生コウモリは基本的に、指がほぼ翼と化していて、第一指にしか爪がないのだが、イカロニクテリスは第二指にも爪がある。
オニコニクテリスに限っては五指全てに爪があったようである。

 また、聴覚器官の痕跡より、オニコニクテリスの方は、エコーロケーションを使えなかっただろうと考えられている。

 つまりこの二種、特にオニコニクテリスは不完全なコウモリと言える。

 そしてオニコニクテリスの存在は、コウモリはまず飛行能力を獲得してからエコーロケーションを身に付けたという事を示唆している。