ピッチャーに関して
27球で1ゲームを終わらせることが理想
野球というスポーツにおいて、ピッチャー(投手)が1試合に投げなければならない球の数は、理論上は最小27球。全9回の1イニング毎に3球ずつ。すべてバッターに打たれた上で、それをアウトにした場合。
27球は完全な理想で、通常はほぼ不可能とも言えるだろうが、とにかく基本的に、理想のゲーム展開というのは、ピッチャーの投げる「初球を打たせて取る」ことだとされている。
打たせて取るという方法は、ピッチャー以外の味方選手からも非常に重要になってくる。スムーズな流れは、味方選手全体の守備のリズムの安定にも繋がる。
ピッチャーに必要な体力、持久力
『体力(physical strength)』の大きな2つの分類として、『行動体力(physical ability for behavior)』と『防衛体力(physical ability for defense)』というのがある。
行動体力は、実際に体を動かしている身体的能力。
防衛体力は、ストレスなどに対する抵抗力や、環境への適応力などのこと。
「ストレス」動物のネガティブシステム要素。緊張状態。頭痛。吐き気
ピッチャーの投げる動作は、当然、行動体力によるものだが、短期間の『無酸素運動(anaerobic exercise)』である。その1回ずつを短距離走に置き換えて考えると、1イニングで何度もボールを投げるのは、連続的に短距離走を何度も行うようなものともされる。
瞬発力だけでなく、『有酸素運動(aerobic exercise)』的な『持久力(stamina)』も必要となる訳である。
筋肉の動きと直接的に関係するエネルギー源は、『アデノシン三リン酸(ATP)』と呼ばれるもの。安静時から、筋肉にはATPが蓄えられているが、運動時にはすぐに枯渇してしまう。そのためにATPの補給が必要となるわけだが、短期的な運動においては、取り込まれる酸素が不足していても、それに頼らない化学反応により、追加ATPを用意する。
そういう場合を無酸素運動という。
「生化学の基礎」高分子化合物の化学結合。結合エネルギーの賢い利用
一方で有酸素運動は、人が呼吸によって取り込む酸素を、ATP生成に利用するために、長く持続できるような運動。
ピッチングフォーム
ピッチャーがボールを投げる際の動きの型を『ピッチングフォーム』と言う
オーバー、サイド、スリークォーター、アンダースロー
ボールの投げ方として、基本的には『オーバースロー』、『サイドスロー』、『スリークォータースロー』、『アンダースロー』の4種類がある。
オーバースローは最も基本的とされる、腕を上に振り上げる投げ方。
キャッチボールと同じ投げ方であり、普通、誰もがまず最初に覚える投げ方だからである。上から投げ降ろすことで『速球(fast ball)』を投げやすい。
サイドスローは真横からの投げ方で、コントロールがしやすく、『スライダー』や『シュート』などの横の変化球を鋭くしやすいとされる。
スリークォータースローは、オーバースローとサイドスローの中間ぐらいの、腕を斜め上に上げる投げ方。実際のところ、オーバースローとやや区別が曖昧とも言われるが、こちらの方がボールコントロールがしやすく、肩への負担が少ないともされる。
アンダースローは、普通は真下からではなく、斜め下からの投げ方。『ホームベース』近くで球が浮き上がる(ポップする)ようにもなるため、慣れてないと打ちにくいとされる。体勢的に無理がある感じで、成長期の球児には向かないとも言われる。
筋力のみならずバランス感覚がかなり重要で、体の小さな日本人が、外国人に対抗するために考案した投げ方という説もあるという。
ワインドアップ、セットポジション
投球フォームとしては、主に『ワインドアップ』、『ノーワインドアップ』、『セットポジション』の3種類がある。
ワインドアップは大きく振りかぶる形で、力強く速球を投げやすい。肘が外側に向きすぎていると、グローブの中に隠しているボールの握りが相手打者に見えてしまうこともあるから注意する必要があるという。
軸足にしっかり体重をのせるといいとされるが、体重の比率はつま先が6、かかとが4ぐらいがいいとも。かかとに体重を乗せすぎると、体がのけぞり、よくない投げ方になってしまうから。
右投手の場合、左足を上げた時につま先立ちする者もいるようだが、問題がないのなら、無理にかかとをしっかりつけるように修正することもないとも言われる。
ノーワインドアップは、振りかぶらないで『グラブ(グローブ)』を体の前方に持ってきているフォーム。投球時のボールのブレが防ぎやすく、コントロールがしやすいとされる。
ただし、ワインドアップに比べると動きが控えめのために、バッター視点では、タイミングが取りやすいようである。
ノーワインドアップは、ワインドアップの亜種みたいに扱われるというか、どちらもワインドアップとひとまとめにされたりする。
ピッチャーは、軸足を『プレート(投手板)』に触れていなければならないのだが、軸足をプレートにおき、両手でボールを持った時点では、普通ならノーワインドアップの状態である。この時点で、ワインドアップポジションをとったとみなされる。
軸足をプレートに置いたピッチャーが、フリーの足を後ろに置くとワインドアップになるが、プレートの前に持ってきた形はセットポジションと呼ばれる。
ノーワインドアップもワインドアップに比べるとそうなのだが、ボールを速く投げれるフォームのために『ランナー(走者)』がいる場合に有効とされる。
汎用性のためか、昔よりもかなり主流になってきているようである。
通常のセットポジションなどの、動作のどこかを簡略化するなどして、さらに速いモーション(体の動き)を実現するフォームは『クイックモーション(slide step)』と言われる。
変化球を科学的に見る
ボールを投げる場合、その時の握り方などによって、投げられたボールに意図的な『回転(rotation)』を与えられる。
そして空気中(流体中)を、回転しながら進むボール(物体)には、通常、その進行の垂直方向に、『マグヌス効果(Magnus effect)』と呼ばれる『揚力(Lift)』が働く。つまりは、回転しながら進むボールには、横から押すような力が働く。
ボールが回転しているということは、その左右どちらかにおいて、空気の流れとボールの回転方向が逆になっているはずである。そして空気のような流体は、『粘性(viscosity)』と呼ばれる性質を有する。
「流体とは何か」物理的に自由な状態。レイノルズ数とフルード数
粘性というのは、流体内の流速分布が一様でない場合に、速度を一様にしようとする性質のこと。ボールみたいな球体が流体内を進む場合、粘性は、進行方向の流速を強めるボールの勢いを弱める要素になる。
回転しているボールの場合は、進行方向だけでなく、回転する左右にも流速の変化が生じている。すると粘性により、ボールの回転運動は引きずられるような形となり、回転と粘性の循環は結果的に、進行方向に対し垂直から押す力になる訳である。
そうした回転するボールにかかるマグナス効果によって、ボールの軌道は曲がり、カーブする変化球となる。
投げられたボールは、移動するためのエネルギーを有しているわけだが、回転数が高ければそちらにかかるエネルギーも増えて、結果的には、スピードのためのエネルギーは少なくなる。
そういう訳で、回転数を上げてカーブのキレをよくしすぎると、スピードは落ちる。
カーブ、シュート、スライダー。回転、逆回転
普通は、ピッチャーが投げた腕と違う方に曲がるのが『カーブ』、投げた腕と同じ方向に曲がるのが『シュート』と呼ばれる変化球。
どちらも曲がる原理的には同じなのだが、それぞれ逆回転なので、逆方向へと曲がる。ただしシュートは、コントロールがより難しい上に、肘への負担が大きいとされる。
全体的に山なりの起動を描くカーブに対し、それほど急速を落とさないストレートのようでいて、バッター近くで急に滑るように曲がる変化球は『スライダー』と呼ばれる。
スライダーは一般的に、カーブよりも空振りさせやすいとされる。
フォーク。重力によって沈む
ストレートボールを投げた場合、普通はバックスピンがかかっていて、ボールを地面に落とそうとする重力への反発となり、(ボールの勢いが続く限り)直線軌道を保たせる。
しかしボールが無回転のまま投げられたとすると、それは重力の影響を受けやすく、上手くいけばバッター手前で下に落ちる球、いわゆる『フォーク』となる。
このフォークという変化球が優れているとされるのは、やはり絶好球と思わせておいての急な変化によって、空振りを誘いやすいからであろう。
チェンジアップ。緩急のトリック
基本的にストレートと同じような投げ方で、しかし球速遅めという変化球は『チェンジアップ』と呼ばれる。
普通に急速の緩急をつけることによって、バッターの視覚を惑わすことができるから、緩急をつけるというのは普通のことで『チェンジオブペース』と呼ばれたりもする。
打とうとするバッターに対し、急に遅い球を投げたりしたら、タイミングが合わないで、空振りになったり、打てたとしても当たりを弱くしたりできる。
速い球でも、何度も投げられたら、だんだんと目が慣れてくる。しかし緩い球と速い球を上手く使い分ければ、そうした慣れを防げる。それに速い球を投げた時に、実際以上の速度として錯覚させることも可能。
バッティングの瞬間、打たれたボールに起きていること
バッティングは、バットとボールの衝突とその反発現象とできる言える。
主に、ボールの重さ、バットの重さ、ボールの速さ、バットの振るスピード、さらには、ボールの回転力や、空気の密度や動き(気象条件)などが関係する。
通常投げられてきたボール、バットいずれも、そのエネルギー、つまりパワー(力)は、「重さ×速さ」だが、これは打たれて逆向きに返された後もそうである。
ボールとバットの衝突前、衝突後でのボールの速度変化には、『反発係数(coefficient of restitution)』というものが関係してくる。
反発係数とは、2物体が衝突する時の互いの速度に対する、衝突後の(遠ざかる)速度の比。
反発係数はバットの素材によっても変わる。同じ構造なら普通、金属バットは、木製バットよりも反発係数が大きい。
なぜミートポイントに当てるとよく飛ぶのか
バッティングはそのバットの芯、いわゆる『ミートポイント』でボールを打てたなら、最もよく飛ぶとされる。
ボールをバットの接触時、その衝突によってバットは振動の波を起こすことになる。またその振動は、接触時にそちらに移動したバットとボールの合計エネルギーとも言える。だからこれが大きいということは、打たれた後のボールのエネルギーも普通は下がっているということ。
接触時のエネルギーの損失を少なくするためには、バット自体の構造と、それの持ち方、降り方などが関連してくる。だから、力強くボールを打ち飛ばしたいなら、なるべく振動を生じさせない部分(ポイント)に当てることが重要となる。そうしたポイントが、ミートポイントという訳である。
このポイントを大きく外れた場合には、バットの振動も大きくなる訳だから、手がしびれたりもする。
ボールが取りやすい場合、取りにくい場合
打たれたボールに関して、守備の選手はルール的に、素早くグラブで取ることが求められる。
その場合、空気中に放物線を描いた後に落ちてくるボールを取るケースと、地面に跳ね返って浮き上がってくるボールを取るケースが考えられるが、基本的には前者の方が取りこぼしにくいと考えられる。
それは当然であろう。浮き上がってくるボールは、上昇するためにエネルギーを失って落ちてくる訳であって、ボール自体のエネルギーは少なくなっている。一方で跳ね返って浮き上がるボールは、地面との反発によって得られた上昇のためのエネルギーをまだ持っている状態なのだから。
また跳ね上がってくるボールは、グラブに対しての勢いが上向き角度なことも、取りにくさに繋がってしまう。