「生化学の基礎」高分子化合物の化学結合。結合エネルギーの賢い利用

化学。生体高分子の相互作用

化学結合した巨大分子

 複数の「原子(atom)」を「分子(molecule)」として結び付ける力や、それによる原子同士の結合を「化学結合かがくけつごう(chemical bond)」と言う。
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 化学結合にはいくつか種類があり、最もスタンダードなのは、原子間で電子の軌道を共有する形で結び付く「共有結合(covalent bond)」とされている。
量子 「量子論」波動で揺らぐ現実。プランクからシュレーディンガーへ
というか、化学結合と言えば基本的には共有結合である。

 また、一般的に分子量の大きい化合物(分子)を「高分子化合物(macromolecule)」、あるいは「巨大分子(giant molecule)」と言う。

 巨大分子の多くは、生物が発生させる作用によって作られるとされている。
生物由来の巨大分子は「生体高分子せいたいこうぶんし(Biopolymer)」などと呼ばれたりしている。

生体内の触媒、酵素。ポリマーとモノマー

 「ポリマー(polymer。重合体)」という名称もまた、高分子と同じ意味合いで使われることがある。
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 まず、固有の物理的性質により区別できるあらゆる物質、例えば原子やイオン、それらの化合物(分子)を全てまとめた総称として「化学種かがくしゅ(chemical species)」がある。
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一般的に物質と同じくらいに馴染み深い、光や音波や熱などは物質扱いでなく、化学種とされないことには注意。
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 特定の化学反応の速度を高める効果を有する化学種を「触媒しょくばい」と言う。
そして特に生体内で触媒として機能する分子は、「酵素こうそ(enzyme)」と呼ばれる。

 (薬の成分など意図的なものも含めて)酵素と結びついたりして、その働きの基点になったり、化合物を生成する化学種を「基質(substrate)」と言う。

 基質がさらに鎖状さじょう網状あみじょうに結び付いた化合物がポリマーである。
ポリマーを構成する個々の基質は「モノマー(monomer)」、そのモノマーがポリマーとして結合する化学反応は「重合反応(polymerization)」と呼ばれる。

タンパク質はポリペプチドか

 分子構成を数式で表現したもの、すなわち”化学式(chemical formula)”内の部分的構成(共有結合している要素としての分子)を”基(group)”と言う。

 生体内で最重要の高分子といえば、まず間違いなく「タンパク質(protein)」だろう。
そのタンパク質は、アミノ酸をモノマーとして重合した鎖状のポリマーである。
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 アミノ酸という分子はその化学式内に、窒素(N)と水素(H)の構成である「アミノ基(amino group。NH2)」。
それに、炭素(C)、酸素(O)、水素の構成である「カルボキシ基(carboxyl group。COOH)」を有している。
それらから水分子(H2O)が取れて「CO−NH」という形で、アミノ酸同士はくっつく(結合する)。

 水分子がとれる化学反応は、「脱水縮合(Dehydration condensation)」などと呼ばれる。
そしてその、脱水縮合を介したアミノ酸同士の結合は「ペプチド結合(peptide bond)」と呼ばれる。

 ペプチドという言葉は、ギリシャ語の「ペプト(消化)」からきているらしい。
そして、ペプチド結合したアミノ酸の塊は、やはり「ペプチド」と言う。

 ちなみに化学的に結合している構造がある場合、 その結合した部分以外を「残基ざんき(residue)」という
ペプチドの場合、結合しあう個々の縮小したアミノ酸が残基である。

 またペプチドの残基、つまり結合しているアミノ酸の数が2個のものを「ジペプチド」。
3個のを「トリペプチド」
4個のを「テトラペプチド」
5個のを「ペンタペプチド」などと言うように、一応かなり細かく分類されてはいる。

 残基がだいたい10個以下くらいのペプチドの総称としては「オリゴペプチド(oligopeptide)」がある。
また、残基の多いペプチドは「ポリペプチド」と言い、それは実質的にタンパク質と同義である。

それぞれの結合の利点

 脊椎せきつい動物の血液に含まれ、酸素を運ぶ役割を担っている「赤血球(Erythrocyte)」は、ほぼ水分と「ヘモグロビン(hemoglobin)」というタンパク質で構成されている。
ヘモグロビンは、「α鎖」、「β鎖」と呼ばれる2種のポリペプチドが結びついた構造を持つ。

 また、生物関連の分子では、共有結合ではないもっと「弱い相互作用(weak interaction)」による結合が重要とされている。
その結合は名前通りに弱い結合であり、それ単独で原子同士を結びつけるほどには強くないから、厳密には化学結合とは異なるとされることもある。

 例えばヘモグロビンのポリペプチド鎖は、いくつかの弱い結合が組み合わさって結びついているという。

 弱い結合が重要なのはまず間違いなく、コントロールがしやすいからだろう。
そもそも共有結合のような強い結合は結びつきが強すぎて、一般的な生体の温度で結合を切ることが難しい。
弱い結合は単体ではあっさりと崩れてしまうが、積み重ねることによって、それなりに強固にもできる。

 ちなみに、実際の力を測定せずとも、弱い結合は強いのに比べて原子間の距離が明らかに大きくなるらしいから、原子間の距離を確認することができたなら、その結びつきが強いのか弱いのかをある程度測ることができると思われる。

 共有結合の場合は、個々の原子の結合可能な数に、かなり明確な上限があり、その結合可能な上限の数を「原子価(Valence)」と言う。

 弱い結合のいくつかに関しては、原子価のような縛りはなく、空間に空きがある限りはいくらでも結合可能と考えられている。(コラム)
しかし弱い結合も、場合によっては数制限の縛りがあるとされる。

(コラム)空間無限結合によりロケットも捕獲できるか

 空間に空きがある限りということは、もしも別空間を、我々の空間に重ねたみたいな状態にしたりできたなら、その確保できた空間の領域にいくらでも結合する原子を置きまくれば、ものすごく強固な結合が実現できるかもしれない。

 例えばそれは、別空間へと逃げる宇宙船を捕獲したりする技術として使えるかも。

量子論。電荷が生じさせる静電相互作用

 化学結合の原因を説明するには、「量子論(quantum mechanics)」の展開が必要とされる。

 量子論的には、電子を共有する強い結合も含めて、知られている全ての化学結合は原子を構成する粒子が持つ「電荷でんか(electric charge)」が生じさせる物理現象で説明できるという。
電荷が生じさせる物理現象は「静電気せいでんき(static electricity)」と呼ばれ、 それによる、化学結合を引き起こしたりする相互作用は「静電相互作用(Electrostatic interaction)」と呼ばれる。

熱力学。エネルギーの保存性

第一法則と第二法則

 複数の原子が化学結合を作った場合、結合後の分子の内部エネルギーは 、結合前の全ての素材原子の総エネルギーと等しくはならない。
なぜなら原子は化学結合する時、必ずいくらか内部エネルギーを放出するからだ。

 例えばaのエネルギーを持つ原子と、bのエネルギーを持つ原子が 化学結合してエネルギーcの原子になった場合、 「a + b = c + E(結合時に放出されたエネルギー)」ということになる。

 熱力学第一法則により、a+bとc+Eが異なることはない。
また、結合するのに必ずエネルギーを放出しなければならないのは、熱力学第二法則による。
熱力学 エントロピーとは何か。永久機関が不可能な理由。「熱力学三法則」
 また、ある原子の結合を引き離すのに必要なエネルギー量は、結合する時に放出されたエネルギーの量と等しいとされる。
これはcをaとbに分解する場合の話である。
その際に、やはり熱力学第一法則を破らないためには、そう考える必要がある。

熱を高めて切断する

 化学結合している原子を引き離すのにもエネルギーがいるが、最も重要なものが熱エネルギーである。
熱とは高速で動く分子の運動とも言えるが、その動きの過程で分子同士が衝突すると、衝突時に放出した運動エネルギーのいくらかが結合している原子にかかることがある。
そうなると、それによって結合が切断される場合がある。

 当然のことながら熱が大きい場合、つまり分子がより高速で熱運動している場合の方が、衝突時に結合が切れる確率は高い。

 こういうのはおそらく、実質的には切るというよりも、引き剥がすに近い。

状態の量をどう定義するか

 「質量(mass)」や「圧力(pressure)」や「体積(volume)」や「密度(density)」。
「温度(temperature)」や「静電気力(Electrostatic force)」。
それに不可逆性や乱雑さを示す関数とされる「エントロピー(エントロピー(entropy))」。
圧力により体積内に置かれた熱量といえる「エンタルピー(enthalpy)」などのような、リアルタイムでの物質や空間の状態により定まる要素(物理量)を「状態量(quantity of state)」と言う。

 状態量はさらに、「示量性しりょうせい (extensive property) と、「示強性しきょうせい(intensive property)」の、2つの性質のどちらかに分類される。

 これは状態量の総量と、部分的な量の関係による分類である。
部分の量を全て足し合わせた時に、総量と等しくなるものを示量性。
それ以外のもの(だいたいが、部分の全部の平均を総量とするもの)を示強性と言うわけである。

 例えば質量や体積、エントロピーなどは示量性。
圧力や密度や温度は示強性である。

自由エネルギーは減少していく

 閉じた系(閉鎖された領域内)で、一定時間の間に発生する原子同士の結合数と、結合の切断数が等しいことを、「平衡状態(equilibrium)」という。

 また、エネルギーを利用した意図的、作為的と考えられるような 物質の様々な変化を仕事と言う。
例えば電気エネルギーをいくつか利用してロボットを動かした場合の、その動いた距離が仕事量である。

 そして、ある系が有する潜在的な仕事量として変換可能なエネルギーを「自由エネルギー(free energy)」と言う。

 ちなみにエントロピーは仕事量に変換不可なエネルギーと言えなくもない。

 化学結合によって発生した物質は、通常は平衡状態に向かい変化していくが、その過程で自由エネルギーは減少していく。
そこで平衡状態は、系の自由エネルギーが最低値になっていることと同義とされる。

 平衡状態になるまでの過程で失われる自由エネルギーは、基本的には熱になるか、エントロピーを増大させる。
特に熱が下がる化学反応などの場合は、エントロピーの増大が比較的大きいと考えられる。

 こういうことから、ある系を形成する際の自由エネルギーの減少度は、その系内の原子が結合する割合の指標にもなる

重要な弱い結合4つ

 生体の中で重要な弱い結合は、主に「ファン・デル・ワールス結合(van der Waals bond)」、「イオン結合(ionic bond)」、「水素結合(hydrogen bond)」、「疎水結合(hydrophobic bond)」の4つとされる。

 ただしイオン結合と水素結合は、区別がされにくく、 ちょっとややこしい。

 弱い結合は全て、電荷の引力が原因とされている。
原子というのはくっついて分子を構成するわけだが、そのくっつき方により、電子の分布が不均一になって、結果的に分子が電荷由来の「双極子モーメント(dipole moment)」という力を生じさせるようになる場合がある。

 モーメントは物理的意味合いを特に強調した、力を意味する言葉である。

ファン・デル・ワールス結合。確率分布した電子

 その名が、物理学者のヨハネス・ディーデリク・ファン・デル・ワールス(1837~1923)に由来するファン・デル・ワールス結合は、弱い結合の中でも特に弱いものとして知られている。
これはまた先に述べた、空間的なこと以外には数に制約のない結合である。

 どのような分子であっても、この結合を発生させるためのファン・デル・ワールス力を発生させることはあるとされている。
基本的に、ほっておくと分子は、強い結合となる傾向にあるから、他の結合が可能な状態であるなら、こちらはあまり優先されないようだ。

 ファン・デル・ワールス力は、電子が備えた電荷というよりも、どちらかというとその変化によって発生する力である。
だから、そもそも個々の電荷が上手く打ち消しあっているはずの場合の分子同士であっても、生じることがあるという。

 その結合エネルギーは距離の6乗に反比例するとされている。
つまり、距離がx離れたなら、ファン・デル・ワールス力は1/x^6に減少する。
ようするにちょっと離れただけで急激に弱くなる。

 しかしファン・デル・ワールス力の原因となっている電子の変化とは何なのか。
それは原子内部に存在している電子が、量子論的(というより確率論的)に分布されているからゆえの変化である。

 原子同士の距離が近づきすぎると 今度は原子同士の電子が重なることがあるために生じる、斥力せきりょくとしてのファン・デル・ワールス力も発生する。

 ファン・デル・ワールスの引力と斥力は、原子の大きさによってその釣り合う距離が決まるが、その距離を「ファン・デル・ワールス半径(van der Waals radius)」と言う。

 ファン・デル・ワールスの結合エネルギーは、平均的な室温ぐらいの温度環境では、 ちゃんとした結合構造を作るのに、ひとつの分子内で原子数個ずつの間でしっかり働かなければならないとされる。
さらに安定した相互作用のためには、それらの原子間の距離はそれぞれファン・デル・ワールス半径程度でないといけないと考えられる。

水素結合とイオン結合。単純に電気の力

 水素結合は主に、プラスに帯電している水素原子と、負に帯電した原子との間で形成される結合。
特に生体内では、共有結合により生じた基が電荷を実質発生させたりもする。

 ファン・デル・ワールスとは異なり、方向性や、(電荷の中和がおこるとそれ以上の結合がなくなる)化学的な制約などもある。
またファン・デル・ワールスよりもかなり強く、原子間同士の距離も近くなるが、共有結合ほど強くはないし近くもならない。

 イオン結合は、まったくその名称通り、イオン間の静電力による結合で、原理的には水素結合とそう変わらないと言える。
だから同じようなものとされ、ややこしいわけだ。

 特に有機分子(炭素を含む分子)は、イオン性の基を持つものが多いとされる。

疎水結合。 相対的な安定性

 疎水結合は、結合と言うには、かなり特殊なものとされる。

 生体内では、水分子に関連した化学反応が多い。
構造的には水素結合もわりとそうだといえる。

 そこで水とあまり馴染みにくい化学構造は枠からはじかれがちで、結局それらだけで重なり合い、安定した状態が発生することがある。
その相対的な安定状態こそ、疎水結合と呼ばれるものの例である。

 生体内では、水素結合、イオン結合でない弱い結合のうち、ファン・デル・ワールスが直接的な原因でない結合は、だいたいこの結合とさえ言いきられる場合もあるようだ。

 だがこの結合が相対的だというのなら、見事なコントロールと言えるかもしれない。

 タンパク質やそれを含む複合体の安定化には、特にこの疎水結合が重要と考えられている。
例えばタンパク質が折りたたまれる場合に使われるエネルギーの半分ほどが、この結合由来なのでないかという説もある。

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