「天動説の宇宙」アナクシマンドロスの宇宙構造。プトレマイオスの理論

古代の階層宇宙

 古代アッシリアや古代エジプトにおいては、宇宙を、球状や立方体状のドーム型の層が複数重なっているようなものという説があったという。
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このような世界観の場合、地表もまた積み重なる層の1つであり、その下層に地下世界があることも普通であった。

アナクシマンドロスの宇宙構造

 観測証拠に基づいて宇宙構造を論じた最初期の人として、古代ギリシャの哲学者アナクシマンドロス(紀元前610~紀元前546)とされている。

 アナクシマンドロスは、3つの宇宙要素を考えた。
・惑星や月などの天体は、地球を囲む球面、いわゆる『天球(celestial spheres)』にて、真円運動を行っている。
・地球自体は空間の中で、支えなしで浮いている。
・地球を取り囲む、天体の配置された球面は複数あり、同心円状の階層的構造をなしている。

 そして、厚い円盤状の形をしている地球の表面で、生物は生きている。
基本的には星々の球面が一番地球に近くて、次に月の球面、そして太陽の球面が最も地球から遠いとされていた。
そして、地球がどこにも落下しないのは、それが、全ての方向から等しく力を受ける中心に存在しているからなのだと推測していた。

第五の元素エーテル

 さらに後にアリストテレス(Aristotelēs。紀元前384~紀元前322)は、 地球を中心に、月の軌道を境目とした2つの天球面を想定し、より遠くの方の領域は、完璧な世界ともした。

 かつて天界という領域は、『エーテル(aetherial)』という、地上にはない特殊物質で構成されているとも考えられていた。
エーテルは、この宇宙そのものの魂かのように考えられる場合もあり、『真髄(quintessence)』とも呼ばれる。あるいは、地上世界が4つの元素から成り立っているという四大元素説と合わせて、天界のための『第五の元素(fifth element)』と呼ばれることもあった。

 興味深いことに、アリストテレス的な宇宙観では、月を境目とした天界世界は、地上とは違って、妙な変化など生じない完璧な世界であるから、彗星などのいくつかの天体現象は、月より下の大気園で起こる気象現象だと考えられていたという。

プトレマイオスによる天動説の証明

 地球の周囲を他の天体が回っているという天動説における大きな問題の1つは、他の各惑星の奇妙な動きであった。それらの惑星はどうも、地球に対して接近や後退を繰り返しながら動いてるように見える。
そこで各惑星はそれら自体が小さな円運動を行いながら軌道を回っているという説も唱えられたのだが、地球が不動のものとすると、想定できるその動きは不規則になってしまう。 つまり地球が中心と考えにくくなってしまう。

従円、周転円、偏心、エカント

 2世紀頃の天文学者プトレマイオス(Claudius Ptolemaeus。83~168)が算出した妥協案は、現実と比べると間違っていたとは言えるけど、数学的にとても優れた見事な理論とされている。
それは、各惑星が、地球の周囲の『従円じゅうえん(deferent)』と呼ばれる軌道を回っている。さらにそうしながら、その従円の起動上に常に中心点が重なっている『周転円しゅうてんえん(epicycle)』という小軌道も回っているというもの。
従円の中心は、地球とずれている。そこで『偏心へんしん(Eccentricity)』と呼ばれる。
偏心は、構造体自体の中心からはズレている重心のこと。

 プトレマイオスは、偏心を挟んで、それと地球の距離と同じだけ反対側に離れている点(つまり偏心を中心と考えた地球の反対側)を『エカント(Equant)』と呼んだ。
そしてエカントから観測された場合に、惑星の周転円の中心が常に同じ『角速度(angular velocity)』になるように動いているなら、それまでの天動説における様々な問題を解決できるとした。
角速度とは、回転運動速度を単位時間に回転物体が進むことによる(原点と物体の結ぶ線の)角度の変化量によって表わす物理量。

オーブ、原動天、恒星天、水晶天

 プトレマイオスは、天体が配置されている同心円状の透明な球体を『オーブ(celestial orbs)』と呼んだ。
そして地球から最も近い位置に月。次に水星、金星の内惑星。太陽。火星、木星、土星の外惑星。さらにその先にそれぞれの恒星がある考えたとされている。

 オーブは、プトレマイオス以前からもあった概念で、それを想定する場合、基本的に天体が動く理由は天体自体ではなく、オーブの動きだと考えるのが普通ともされた。そしてオーブをさらに外側から動かす力が想定されることもあり、それは『第一運動者』と呼ばれた。
中世ヨーロッパにおいては、第一運動者は、神か、あるいは天使とされていたとも言われる。

 第一運動者が、『原動天』 と呼ばれる、宇宙の最も外側の球体を動かし、それと連動して、他の球体も動く、というような世界観もあったようである。それは、球体自体が動いているものなのかもしれない。

 原動天と、恒星の配置された『恒星天』の間に、また別の天空領域が置かれる場合もあった。中世ヨーロッパにおいては、よく『水晶天』なるものが想定されていたという。
水晶天は、聖書の創世記において、空の上に存在すると書かれている水の領域と解釈されていたようだ。

アラトスの現象から着想できる、複雑な惑星オーブのシステム

 紀元前3世紀ぐらいのマケドニアの人らしい、ソロイのアラトス(Aratus)は、『現象(Phaenomena)』という書で、「惑星は、かなり多様な道筋を選べるようだ」と語ったりしている。
複数のオーブ軌道が、あちこちで交差している、というような世界観をイメージさせる印象もある。
しかし実際、地球を完全に中心と考えるとしても、惑星のオーブ軌道が、複数交差し、途中で別のオーブ軌道に移り変わったりということもあるシステムなら、それらの奇妙な動きをそれである程度までは説明できるだろう。

クレスケスのカタルーニャ図

 アブラハム・クレスケス(Abraham Cresques。1325~1387))という人が書いた、『カタルーニャ図(Catalan Atlas)』という地図は、6つの羊皮紙に書かれてるらしいが、4つは地球の地図で、2つは宇宙を描いているという。

 描かれたその宇宙は、プトレマイオス的な宇宙で、中心である地球には観測機器を持った天文学者が描かれている。
そして、そのすぐ外側に水、空気、火の元素を示す円があり、次に月と太陽、五つの惑星、さらに黄道十二宮のオーブとなる。
特に興味深いのは、黄道十二宮のさらに外からであろう。まず月の満ち欠けが描かれている。さらに外には、様々の天体に関する占星術関連の記述があって、さらにそれよりも外には数学的な黄金数などの説明が。そして端の4隅には、4つの季節を擬人化したとされる絵が描かれている。
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 黄道十二宮の外側のものをどのように解釈するべきだろうか。
もしかしたら、現在の様々な現象以外にも、地上世界の季節とか、時空間とかの原理は、エーテル領域にあるシステムが地上側に適用されている結果、というような世界観も普通にあったのかもしれない。

アリスタルコスの、太陽中心の世界観

 アナクシマンドロスより300年くらい後の、サモス島のアリスタルコス(紀元前310~紀元前230)は、宇宙の中心は太陽であり、そしてそれを中心にいくつもの星が回っているとした。
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太陽から1番近い星は地球で、他の惑星がいくつか、そして最も離れた面に他の恒星群。
アリスタルコスは、地球の1日とはつまりその1回の自転。1年は1回の太陽周囲の公転と推測。さらには、最も遠くの恒星群も、他の太陽なのだと考えたともされている。 

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