「マヤ神話の神々一覧」イグアナ、ヘビ、ジャガー神。アステカ以前

マヤの神々

マヤ文明とはかなり広い地域の総称

 マヤ文明のマヤ民族、と一言に言っても、それはメキシコ、 グアテマラ、ベリーズ、エルサルバドル、ホンジュラスなどの国々の地域を含む、 かなり広い領域に 分布していた様々な部族の総称である。
 当然、マヤ文明の神々と言っても、そのそれぞれの部族の、それぞれの神々であり、マヤ文明の地域全体で、共通して信仰されていた神は少ないとされる。

 それに、同一視されていても、地域によって名前が違うということもあった。
これに関しては、現在では判断が難しい。
なぜなら、別の地域で信仰されている、別の名前の神の場合、それらが同じ性質の神であるというだけなのか、 複数の名を持つ同じ神なのかがわかりづらい。
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フナブ・クー。唯一の最高神

 フナブ・クーは、メキシコ、ユカタンにおいて信仰された宇宙創造神にして、最高神とされている。

 フナブ・クーという名前は、「フン(1)」、「アブ(存在する)」、「クー(神)」を組み合わせたものとされる。
まさに、「唯一無二の神」という訳である。

 この神はしかし、その性格、神性があまりに曖昧であり、実際に、そこまで深く信仰されていたのか、よく議論されるという。
 また、この神は、マヤの神々の中で、もっとも重要な存在とも言われるイツァムナーとバカブの父とされる。

バカブ。東西南北を支える4柱

 バカブは、1柱でなく大地を、東西南北の各隅から支える、4柱の神の総称。
 東のホブニル。
西のサク・シミ。
南のホサネク。
北のカン・ツィオナル。
以上の4柱である。

 宇宙を創造した後に、創造神フナブ・クーは、4柱の息子達に大地の四隅それぞれを支えるように命じた。
 バカブ神は、老人の見た目。
また、同じように天地を4柱で支える、やはり老神のパゥアトゥンは、バカブの別名か、あるいは眷属けんぞくとされている。

イツァムナー。双頭のイグアナ

 その名は、「イグアナの家」の意味とされる。
かつてマヤ人は、世界をイグアナのような巨大爬虫類と考えていたのだという。
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 イツァムナーは、天と地の創造者であり、人間にカカオ、ゴム、トウモロコシの栽培を教えてくれた。
そういう訳で、幸福をもたらす、非常に善き神として、崇拝されていた。

 フナブ・クーの息子ともされるが、同一視される場合もあり、また、同じくフナブ・クーの息子とされる4柱のバカブを、こちらの息子とする説もある。

 別々の神とするなら、フナブ・クーは空間(宇宙空間)を、イツァムナーは物質(天と地の素材?)、バカブは力(重力?)を生んだ、あるいはそのものなのかもしれない。

 この神は、絵文書などには、よく天空を飛翔する双頭のイグアナかヘビの姿で描かれているようである。
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時々は老人の姿で描かれることもあるが、その場合は、手に双頭の蛇を持った姿だという。

キニチ・アハウ。ジャガーと太陽神

 太陽神であり、イツァムナー神と同一の神、あるいは非常に近い関係にある神とされる事も多い。
イツァムナー神の昼間の姿ともされる。

 かつてマヤでは、 日没に沈んだ太陽は夜の間ジャガーに変身して、地上世界を走り回ると考えられていた。
そういう訳で、ジャガーもまた、この神の化身のひとつであり、崇拝され、恐れられていた。

 日本の天皇が、自分達を太陽神アマテラスの血筋と称して、その権威を高めたように、マヤの王族も、自分達をこの太陽神と近しくする事で、権力を高めていたようである。
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 人型で描かれる場合、老人の姿が多いイツァムナーに対し、この神は若者の姿で描かれる事が普通だという。

イシュチル。月と水の女神

 「虹の貴婦人」の意の名の、月、あるいは水の女神。
また、出産や五穀豊穣ごこくほうじょう、織物を司る神でもある。
 基本的には恵みの神であるが、一旦怒らせてしまうと、大雨や洪水により、恐ろしい災害を引き起こす、破壊の神でもあった。

 イツァムナー、あるいはキニチ・アハウの妻ともされる。
アステカの地母神コアトリクエとの関連が指摘される事もある。

 イシュチルは、頭に絡み合う蛇を乗せ、その手に鉤爪を有する老婆、あるいは武装した女戦士として描かれる事が多かったという。

チャク。重要視される恵みの神

 雨と稲妻の神。
大河文化でなかったマヤにおいて、恵みの雨をもたらすこの神は、 非常に広く信仰されていたようである。

 チャクには、東西南北の方角にそれぞれ対応した、4つの化身があったという。
東は赤の「チャク・シブ・チャク」
西は黒の「エク・シブ・チャク」
南は黄色の「カン・シブ・チャク」
北は白の「サク・シブ・チャク」

 古くはナマズのようなヒゲに、全身ウロコをまとった爬虫類のような容姿とされたが、時代が新しくなるにつれて、長い鼻と、牙を持った、人間型も描かれるようになった。
 その場合、網で魚をとるような姿であることも多いという。
その手には、石斧や、ヘビを持っていることもある。
蛇は稲妻の象徴のようである。 

ユム・カアシュ。トウモロコシの神

 ア・ムンとも呼ばれる、森の神であるという。
トウモロコシや農耕の守護神ともされ、雨の神であるチャクにより守られているとも言われる。

 トウモロコシは古代マヤ人達にとっては、非常に重要な食物であり、人間はトウモロコシから造られたという伝承も多いという。

 トウモロコシの穂を頭につけた若者の姿で、よく描かれるので、成長途上の、みずみずしいトウモロコシの擬人化、という説がある。
このような姿は、ユム・カアシュに限らず、各地のトウモロコシの神の典型的姿であるようである。

ククルカン。トゥーラの偉大なる王

 グクマッツとも呼ばれる、マヤ文化において、最も重要視される神の1柱。
この神こそが創造神とも、創造神イツァムナーの化身ともされる。

 伝承によると、この神は、987年頃にメキシコ中央高原のトルテカ王国の首都、トゥーラにて、暗黒神テスカトリポカと戦い、敗北。
故郷を追い出され、それから旅の果てに、マヤの地にやってきたのだとされる。
 テスカトリポカと敵対した理由は、ククルカンが、生贄の儀式に人間を使うのをやめるように、人々を諭したためとされる。

 ククルカンは風の神であり、 人々に 学問を教えた知恵の神でもある

 同一の神ともされる、アステカのケツァルコアトルと同じく、羽の生えた蛇の姿でよく描かれるという。
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アー・プチ。邪悪なる死神

 ユン・シミルとも呼ばれる邪悪な死の神。
あるいは、名前も伝わっていない生贄の神の眷属とされる場合もある。
イツァムナーやユア・カアシュの宿敵とされる事もある。

 マヤの伝承に、死者の世界であるシバルバーは、全9層の地下世界であり、アー・プチは、その最下層ミトナルを支配するとされていた。
 死者を求め、地上を彷徨う事もあると考えられ、非常に恐れられていたという。

 首飾りをつけた骸骨の姿で描かれる事が多い。
傍らに、犬やフクロウが置かれる事もあったようである。
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これは、犬は、死者の魂を地下世界に導く動物だとされ、フクロウは不吉な出来事の前兆を告げる存在だったからである。

地下世界は9階層、天上世界は13階層

 マヤの伝承では、地下世界は9階層。
天上世界は13階層で、その全ての層に対応した神がいたようだが、地下の最下層の神がアー・プチである事くらいしか判明していないていう。

 どうも、かつて13の神オシュラフンティクと、9の神ボロンティクは争い、勝利した13の神々が天上世界を、敗北した9の神が地下世界を支配する事になったらしい。
とすると、階層というのは、 元々そうだったのではなく、個々の神のために、支配領域を分割したものなのであろうか。

ボロン・ザカブ。家族の守護神

 カウィルとも呼ばれる、親族や血統を守る神。
稲妻や火の神とも、王家の守護神であったともされる。

 爬虫類に似せた人間のような姿でよく描かれた。
半身が蛇の姿をしてる場合もある。
煙をだしていたり、鏡などを持った姿で描かれる場合もあった。

エク・チュアフ。軍神、守り神、天空神

 「黒い指揮官」の意味の名を持つ戦いの神、軍神。
一方で、商人や旅人の守り神としても信仰されていた。
 エクは黒という意味以外に、星の意味もあった。
つまり旅人の目印として使われた、天空神という訳である。
 また、カカオの守護神という神性もあったようである。

 軍神としては真っ黒に塗りたくられたような姿。
守り神としては、荷物を背負い、杖をついた姿で、よく描かれているという。

シャメン・エク。北極星の神

 エク・チュアフと関連付けられる場合もある、北極星の神。
あるいは、「神聖さ」という概念の擬人化とされる。

 北極星はやはり、交易路などを旅する人の目印となったために、商人の守護神とも言われる。

 猿に似せたような姿で描かれる事が多いという。

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