史上最大級の肉食恐竜
ティラノサウルス(Tyrannosaurus Rex)は、白亜紀(1億4500万年前~6600万年前)末の北米に君臨したという史上最大級にして、おそらくは最強の肉食恐竜である。
「恐竜」中生代の大爬虫類の種類、定義の説明。陸上最強、最大の生物。
ティラノサウルスは典型的な獣脚類(Theropoda)であり、より正確には当時ウエスタンインテリオルシー(western interior sea)という海で隔絶されていた、西の『ララミディア大陸(Laramidia)』、東の『アパラチア大陸(Appalachia)』の、ララミディアの方に生息していたという。
現在の地名で言うと、アメリカのニューメキシコ、ユタ、コロラド、ワイオミング、サウスダコダ、モンタナ、ノースダコタなどの州。
カナダのアルバータやサスカチュワン州などの地域である。
最初の化石発見者と命名者
ティラノサウルス最初の化石は、1900年、ワイオミング州にて、有名な化石ハンター、バーナム・ブラウン(1873~1963)によって発見された。(注釈1)
当時ブラウンは、アメリカ自然史博物館のヘンリー・フェアフィールド・オズボーン(1857~1935)に雇われていて、ティラノサウルスに関する史上初の論文は、このオズボーンによって1905年に書かれたものである。
この論文にて、オズボーンは大胆にもこの恐竜に、ティラノサウルス・レックス(暴君トカゲ・王)という名を授けたのだ。(注釈2)
(注釈1)マノスポンディルス・ギガス
実は1892年にエドワード・コープという人が、ティラノサウルスの脊椎を発見していたらしいが、ティラノサウルスだと長い間気づかれないでいた。
普通、生物の名前は先に付けられた方が有効なので、ティラノサウルスは、コープがつけていた名前であるマノスポンディルスになってしかるべきである。
しかし、長く親しまれている名前には、その「先行する名前を優先するルール」は適用されないという、特別ルールにより、ティラノサウルスの名前は守られたという。
正直、マノスポンディルスとティラノサウルスの類似性はオズボーンが既に指摘していたくらいだから、そのスルーは完全に確信犯的である。
もし生物の名前に関する特別ルールが作られなかったら、今だにマノスポンディルスは無視されてたに違いない。
(注釈2)ディナモサウルス・インペリオスス
実はティラノサウルスという名前は、ブラウンが1902年に発見した第二(マノスポンディルス入れたら第三)のティラノサウルス化石に対してつけられたもの。
オズボーンは1900年の方の化石は別種だと考え、最初はディナモサウルスという名前をつけていた。
しかし1906年には、実は両者が同じ化石だと気づき、ティラノサウルスに統一したのである。
ティラノサウルスのサイズ
成体のティラノサウルスの全長は12mほどだったと考えられている。
これはティラノサウルスが発見された時代には、全肉食恐竜でも最大のサイズだったが、現在ではより大きな肉食恐竜も発見されている。
ギガノトサウルスやスピノサウルス、ティラノタイタン、カルカロドントサウルスなどは、13~15mくらいだったのではないかと見られているという。
超肉食と呼ばれる理由
前足が小さく、頭骨の幅が広い。
両目がどちらも前に向けられていて、立体視出来たという説が有力である。
巨大な歯は最大で25cm以上になるという。
そしてその歯は、半分以上が深く歯茎に埋まっていて、ティラノサウルスの強靭な武器となっていたと考えられる。
さらに歯は、哺乳類のように、機能的に分類されたいくつかの種類があった形跡があり、肉食動物としては、現在のそれに近い完璧な存在であったとされる。
前足が小さいのは、口回りが強すぎて必要なかったからかもしれない。
その恐ろしい肉食性能の為に、ティラノサウルスは、『超肉食動物(Hypercarnivore)』とも言われている。
ただし、このHypercarnivoreという言葉は、単に「優れた肉食動物」の意であり、つまり現在の肉食動物レベルというくらいの意味合いらしい。
現在の肉食動物に近いというと、単に登場する時代が早かっただけの存在のようだが、大きさが10m以上という事を考慮に入れたらどうであろう。
言うなればティラノサウルスは12m級のライオンである。
確かに最強というに相応しくはないだろうか。
優れた嗅覚
21世紀になってから、CTスキャンが恐竜学の分野にも採用されるようになり、恐竜の内部機構の研究も飛躍的に進んでいる。
もちろん、ティラノサウルスも例外ではない。
CTスキャンにより、ティラノサウルスの嗅球(Olfactory Bulb)は、他の獣脚類に比べ、大きめであった事が判明した。
嗅球は嗅覚に関係する脳の器官であり、これが大きいという事はすなわち、ティラノサウルスの嗅覚が非常に優れていた事を示している。
走れなかった?
コンピューターによるシミュレーション研究も盛んになってきて、2002年頃には、「ティラノサウルスは鈍足だったのではないか?」という噂が流れ始めた。
足の筋肉を再現したシミュレーションで、ティラノサウルスほどに重いと、大した速度は出せなかったはず、という論文が世に出たのである。
しかし後には、シミュレーションは、ティラノサウルスの(例によって他の獣脚類より)巨大な尾の筋肉を考慮に入れていない、などといった指摘も出ている。
最強の噛みつき能力
コンピューターシミュレーションと言えば、2012年にイギリスの大学で、ティラノサウルスの噛む力が、シミュレーションされたのだが、その結果は恐ろしいものだった。
ティラノサウルスはその太くて厚い顎から、その噛む力は強いだろうとは、かなり昔から言われてきた。
現生動物で噛む力が強いと言えばアリゲーターだが、ティラノサウルスの噛む力はその3倍はあるはずだと見積もられてきたのだ。
そしてその予想されていた驚異的に破壊的な噛みつきこそ、ティラノサウルス最強の理由だとされてきた。
ではシミュレーションの結果はどうであったか?
なんとティラノサウルスの噛む力はワニの8倍以上だったのである。
またジュラ紀(1億9960万年前~1億4550万年前) における最大の肉食恐竜とされるアロサウルスと比べても、6倍以上の噛む力を持っているようであった。
破壊的は控えめな言い方かもしれない。
多分、超破壊的と言った方がよい。
成長速度と寿命
化石から推定される、ティラノサウルスの成長期は十代だろうとされている。
ティラノサウルスと近しいとされる、ゴルゴサウルス、アルバートサウルス、ダスプレトサウルスのいずれもが、その成長期の時期は似たような感じらしい。
そしてこれらのいずれの種も、成長期までは似たようなサイズであるが、成長期にそのサイズに違いが生じるのだという。
ゴルゴサウルス、アルバートサウルス、ダスプレトサウルスのいずれもが10mには達しないが、ティラノサウルスだけは急速に成長して、12m以上にまでなるのである。
また、ティラノサウルスの寿命だが、だいたい25~30歳くらいだったようだ。
羽毛はあったか?
少なくとも、ティラノサウルスの先祖か、同じ系列には、羽毛を持った種もいたらしい。
そこで、ティラノサウルスは、その幼体には羽毛があるが、成長に合わせて抜けてなくなるのだという説がある。
幼体にだけあると考える理由、根拠は、羽毛はおそらく体温維持の為の機構だからだ。
基本的に体温維持が容易なのは大型の個体とされている。
つまり、成体の巨大なティラノサウルスには、もはや羽毛など必要ないという訳である。
ただし、「羽毛を持つ獣脚類は小型のみ」というかつての認識は、既に過去になったとする向きもある。
まあティラノサウルスに羽毛があったとして、だから何だって話なんだけど。
獣脚類恐竜は鳥類の先祖な訳だから、羽毛があるのは当たり前だし。
「鳥類」絶滅しなかった恐竜の進化、大空への適応
ティラノサウルスの天敵
それはティラノサウルスであった可能性がある。
トリケラトプスなど、ティラノサウルスと同時代同地域に生きていた大型草食恐竜のいくらかに、ティラノサウルスにつけられたらしき傷痕が見つかる事がある。
これはティラノサウルスが典型的な捕食者であったならば当たり前の事である。
問題は、ティラノサウルスの化石にも、何らかの大型肉食恐竜につけられたような傷痕がいくつか見つかっている事である。
知られている限り、ティラノサウルスと同時代同地域に生きていた大型肉食恐竜は、他にいない。
つまりティラノサウルスは、ティラノサウルスを襲っていたのである。