誕生の経緯。イザナギとイザナミの決別
古事記、日本書紀によると、かつて伊邪那岐と伊邪那美という夫婦神がいて、二柱は、この世界の様々な物を生み出された。
しかし火之迦具土神(火の神)をお産みになった時、火傷によって伊邪那美は死んでしまう。
その後、黄泉の国の亡き妻に会いにいった伊邪那岐であったが、蛆がたかる伊邪那美の体に恐怖し、彼は地上へと逃げ帰ってくる。
そして黄泉の国で帯びた穢れを祓うべく、禊をした際に産まれた三柱の神。
その三柱は、伊邪那岐の子の中でも最も偉大なる神々であり、後の世界の統治をまかされたのだという。
「日本神話」神々の国造りと戦い。現代的ないくつかの解釈
その三柱の神こそ、アマテラス、スサノオ、ツクヨミである。
アマテラス(天照大神)
天上の国、高天原を治める太陽の女神。
神々の女王様。
天を照らす大神である。
神々の頂点にしてはやや情けないとこがあり、弟であるスサノオを非常に恐れていたらしい。
ある時、高天原を訪ねに来た彼が、自分の国を奪いに来たのではないかと考え、すぐに武装して戦いに備えたという。
この時、アマテラスは、「弟が私の所に来るなんて謀反以外にありえない」と考えていた。
姉弟仲は良好と言えなかったか、スサノオはよっぽど破天荒だったのだろう。
1500の弓矢使い
スサノオが高天原にやって来た時。
彼女が用意した武器は、弓と、背中に千本、腹に五百本の矢が納められた矢筒であったとする説がある。
千五百もの矢を持つなど物理的に無理そうだが、まあ無理ではないであろう。
おそらく彼女の矢はとても小さい物。
あるいは小さく出来る魔法アイテムであるか、もしくは神である彼女は、普通の人よりもかなりでかいのであろう。
しかし彼女は、弟と、どちらが清らかな子を生み出せるかという、人からしてみればずいぶん奇妙な勝負を行い、その勝負に彼女は敗れてしまう。
武器は結局使わなかったのだと思われるが、もしかしたら単なる気合い入れの武装であったのかもしれない。
また、弟の侵略に備えての武装が弓矢であった事は、もちろん弓矢使いを思わせるだろう。
しかしそれにしたって、たった一人の相手に千五百もの矢を用意していたのは、自信のなさからか。
それだけ弟の力を高く評価していた、あるいは恐れていたのかもしれない。
まあとりあえず、遠距離攻撃タイプなのはほぼ確かであろう。
天岩戸伝説。世界を照らしてるのは彼女の光か
姉に勝つや、調子にのったのか、高天原で大暴れするスサノオを怖がり、彼女はついに、とある天岩戸に引きこもり、その戸を固く閉じてしまったとされる。
弟はそれほど恐ろしかったのだろうか?
とにかくそうして彼女が天岩戸に閉じこもった時から、世界は光を失い、永遠の夜の世界になったとされる。
そして困り果てた他の神々の策略(ワイワイ騒いで、何事か?と岩戸を開けて顔を見せてしまった彼女を、無理矢理外に引っ張り出した)にハマり、彼女が意図せずヒキコモリを辞めると、世界は再び光ある世界になったという。
まさに太陽そのものである。
よく考えなくても、万物の起源を光(エネルギー)を放つ太陽だとするのは、非常によく理解していると言えなくもない。
「特殊相対性理論と一般相対性理論」違いあう感覚で成り立つ宇宙
その他、アマテラスの考察
機織り場で服をオーダーメイドしていたというような話もあるので、けっこうオシャレなのかもしれない。
田を作ったりもしていたようだ。
それから大先輩の神であるタカミムスヒ(高御産巣日神。イザナギ、イザナミよりさらに古い神)とは仲がよさそうである。
共に神を従えているような話もある。
タカミムスヒは、葦原中国(地上の世界)を治めるという使命を与えたアメワカヒコという神に立派な弓矢を与えている。
つまり彼も弓矢使いという可能性は充分にある。
二柱は共にかなり高位の神であるので、もしかすると師弟の関係なのかもしれない。
なんでアマテラスになったのかはわからないが、実は古い時代にはアマデラスと言われる事もあったようである。
スサノオ(須佐之男命)
反抗期の甘えん坊、大暴れん坊、怪物退治の英雄と、様々な面を併せ持つ神。
名のスサの部分は、「荒れすさぶ」の意という説が人気で、その事や、様々な性格を持つ事から、嵐の神ともされる。
反抗期だった?
姉と兄(?)であるアマテラスとツクヨミが、父イザナギの言われた通りに任された国を治めたのとは対称的に、彼は国を納めなどしなかった。
ちなみに彼は母に会いたいと泣きじゃくったが、イザナギはそれをひどく怒ったらしい。
スサノオがこの当時、どの程度幼いかで、彼もイザナギも印象は変わってくるだろう。
しかし残念な事に、その辺はまるで不明である。
しかし少なくとも、天岩戸の件の責任を負わされ、高天原を追放されてからは、比較的、落ち着いた感がある。
暴れすぎて高天原を追放される
ある時、スサノオは姉であるアマテラスが治める高天原を訪ねたという。
自分の事を警戒していた姉に対し、彼女より清らかな子を産んだ事で、自身の心が澄んでいると証明した彼は、なんと好き放題に暴れだす。
全て偽りだったのだろうか?
とにかく暴れだしたスサノオ。
アマテラスの耕す田をぶっ壊したり、神聖な場所に糞を撒き散らしたりとやりたい放題であったらしい。
とにかくその被害は凄まじく、死人が出た程であったという。
アマテラスも、ついにはヒキコモリとなる程に追いつめられてしまう。
そんなだから高天原の神々は協力して、アマテラスにヒキコモリを辞めさせた後、スサノオを高天原から追放したのだという。
ヤマタノオロチから得たもの
しかし何だかんだ姉の事は慕っていたのかもしれない。
高天原を追放された後、スサノオは地上で、ヤマタノオロチという怪物を退治。
そのヤマタノオロチの死骸から発生した、不思議な剣であるクサナギノツルギ(草薙剣)、あるいはアメノムラクモノツルギ(天叢雲剣)をアマテラスに献上している。
これは、後に三種の神器となるひとつである。
「天皇家の雑学」宮家とか、三種の神器とか
得体の知れない物だからとか、弓矢使いへの嫌がらせ的な意味での剣チョイスとか、そういう可能性もあるかもしれないが。
しかし結局、真相は多分こうだろう。
何て事はない。つまり彼は大人になったのだ。
力任せばかりでなく、意外と知的
一般的なスサノオのイメージといえば単純なパワータイプではないだろうか?
とにかく何事も力任せな荒ぶる神。
しかし実際はどうであったろうか?
彼は、高天原でアマテラスと対峙した際には、物理的には戦わずに彼女を負かしている。
ヤマタノオロチとは、正々堂々と戦った訳ではなく酒に酔わせて、うとうとした所を一気に攻めて倒している。
案外知的(姑息?)な神なのかもしれない。
ツクヨミ(月読命)
アマテラス、スサノオに比べ、古事記、日本書紀、いずれでの描写も圧倒的に少ない、謎だらけの存在。
月の満ち欠け。死と再生の神
イザナギから黄泉の世界、あるいは夜の世界を任されたとされる。
「月読」とは、つまり「月を読む」。
ようするにこの神は、月の満ち欠けを司る神らしい。
古代、中世の日本では、現在のような太陽暦でなく、月の満ち欠けを周期とした太陰暦が主流であった。
太陰暦は農耕との関わりが深く、ツクヨミは農耕神としても崇められてきたという。
かつては、月が欠けていくのは死。
月が満ちていくのは再生として捉えられた。
そこからツクヨミは、死と生の両方の性質を備えた神だとする説もある。
結局ツクヨミは女か男か
他にも、雨はツクヨミの技だとか、三日月はツクヨミが乗る天の船だとか、多分勝手に付け足された感のある設定が多い。
男なのか女なのかもはっきりしないが、太陽神であるアマテラスが女神なので、男神であると考える人が多いようである。
しかしもちろん、世界中の様々な神話で、月の神と言えば女神である。