「ミステリーサークル」悪戯者たちの真相。第五の定理は本当に存在したか

妖精の痕跡か、UFOの着陸跡か

 「ミステリーサークル(Crop circle)」は、主に穀物畑などで、たいていは夜間に形成され、発生する、謎の模様である。
基本的には渦巻きを描くような感じで倒れた作物が、様々な模様を形成する。

 この現象自体が世間の注目を集めたのは、 1980年代以降とされているが、実際にはそれよりもずっと昔から、このような謎の模様が発生する現象はあったともされる。
例えば、妖精のダンスパーティーの痕跡として知られるフェアリーリングなども、いくらかは古いミステリーサークルではないか、というような説もある。
妖精「妖精は実在するのか」天使との関係。由来。種類。ある幻想動物の系譜妖精「妖精一覧リスト」小人と巨人。黒妖犬と水棲馬。モンスター種  しかしこの現象が広く知られるようになった時に、人気を集めた説は、妖精ではなく、これが宇宙人の仕業というものだった。
つまりミステリーサークルを宇宙人の乗り物としてのUFOの着陸後ではないか、というように解釈する者が結構いたわけである。
あるいはこれを、UFOの搭乗員からの、人類に向けたメッセージだと捉える見方もある。

 実際にミステリーサークルには、そこで奇妙な音を聞いたとか、事前にUFOを見たとか、そういう話がついていることが多い。

悪戯者たちのインチキサークル

 おそらくミステリーサークルを神秘的なものだと考える者にとっては、一番くらいに聞きたくなかったろうニュースが、新聞の一面を飾ったのは1991年9月のことだった。
それは二人の悪戯好きな老人、ダグ・バウワーとデイブ・チョーリーが、1978年以降の多くのミステリーサークルが、自分たちが作ってきたものと告白したというもの。

 二人はカメラの前で、実際にサークル作りを実演すらした。

 とりあえず二人が使った道具はそんなに大層なものではなかったという。
彼らは木の板を持って、畑の中を子供のように飛び回り、サークルを作っていったとされる。

 ただ、この時のデモンストレーションは途中で中止となったようだ。
どうも、ミステリーサークルの目撃者で構成されたクラブに所属する とある夫婦が、「こんなの全然違う」とか、「お粗末なサークルだ」などとわめきながら、邪魔してきたかららしい。

計画の始まり

 こんなことを始めたきっかけは、ダグがオーストラリアに住んでいた時に、クイーンズランドで、UFOの着陸跡かもしれないと考えられる円形に押し倒された草むらの記事を見たことらしかった。
その記事を読んだ数年後にダグは、水彩画家のデイブと酒を飲み、話しあい、イギリスの畑に似たようなものを作って、世間の反応を見ようという計画をたてたのだった。

 しかし世間は思っていたより、彼らの作品に注目しなかった。
サークルを作り始めてから2年ほど経った1980年には、一応新聞記事にミステリーサークルが扱われたが、それは地方新聞だったために彼らの目には触れなかった。

 1980年代も中頃ぐらい。
本格的にミステリーサークルが世間に知られるようになってきた頃には、二人の悪戯者のサークル作りの腕前はかなりのレベルに達していた。

敵のためのデザインと、内側の敵

 彼らはサークル研究家が、人ならばあれは作れないだろうとか、UFOならああなるだろうというようなものを次々作っていったようだが、特にミステリーサークルの原因を気象現象で説明しようとする研究者には敵意を抱いていた。

 彼らはその現象を自然にできたものではなく、何らかの未知の知性が作ったものだと人々に考えてほしいと望んでいた。
巨大な円の周囲に、その巨大な円とは逆周りの小さな円がいくつかついてたりするミステリーサークルのデザインは、風が原因でないと示すためのものだったらしい。
さらにははっきりと幾何学的な図形や文字なども描いたりするようになる。

 しかしながら、ダグにとっては、妻にこの悪戯に関して打ち明ける1985年以前の最大の敵は、普通に彼女だったらしい。
つまりは、やたら夜間に出かけていたから浮気を疑われていたわけである。
白状して以降は、妻も結構面白がっていたらしい。

モノマネさん

 ダグとデイブは、 全てのミステリーサークルが自分たちの作だとは言わなかった。
しかし、ミステリーサークルの流行りの初期に、本などで紹介された代表的なものは、たいてい自分たちが作ったものだと証言した。

 ある時など、彼らは「copycat(モノマネさん)」というメッセージをサークルで示したが、それは自分たちを真似ている他のミステリーサークル製作者に向けたものだったそうだ。

 また、ダグとデイブは、 例えば円が4つ集まっているミステリーサークルは1つと数えていることは注意である。
彼らは、一部の専門家が開発した、そのような4つの円のサークルを、そのまま4つのサークルだと数える戦法を知らなかったとされる。

本人たちの把握状況

 彼らは、彼らが作ったと証言したあるサークルを「どうやって作ったのか」というように尋ねられたりすると、時にはしばし考えた末、「いや、自分たちの勘違いだった」などと、証言を撤回することもあったという。

 ただ、サークルがある程度大きなものになると、 作った本人たちにすら、なぜそうなるのかわからないような特徴が現れたりすることもあるらしい。
彼らは別に、こう倒せばこういう力が働いてこうだろうというような計画を、大まかにはともかく、綿密に立ててたわけではなかったのかもしれない。
多分ある程度は勘と経験に基づいてサークルを作っていたのだろうと思われる。

人がやっているとすれば説明できることも多かった

 実のところ、 ミステリーサークルに関するいくつかの謎は、人がやっていると仮定すれば納得できる部分も結構あった。
ダグとデイブも、いくつかの疑問の答はあっさりと明かしてしまったとされる。

 とりあえずミステリーサークルはなぜ夜にしか出現しないのかという疑問は、単に見つかりにくいから。
そもそも畑の作物をダメにしてしまっていることもあるから、これはちょっとしたイタズラで済まされるような問題でもない。

 菜花なばな(ナタネ、カブ、ハクサイ、キャベツ、ブロッコリー、ザーサイなど)の畑は、わりと限定的な時期に集中してサークルが発生しているのも謎とされることがあったようだが、菜花畑は茎がかなり密集する時期があって、その時には木の板によるサークル作りが不可能だから。
つまり必然的に、サークル作りが可能な時期に、サークルの発生は多くなる。

 さらには人里離れた広大な畑の土にはあまりミステリーサークルが出現しないという疑問もあったらしいが、サークル製作者が基本的に車で来ていると考えれば、これもおかしなことではなくなるだろう。

 それとよくUFOが目撃された後にミステリーサークルが作られたというような話も結構あるが、少なくともダグとデイブの目的は、そういうふうに世間に勘違いしてもらうことが一番だったから、当然UFO の目撃があった地域などの畑を優先して、サークルを作っていたわけである。

 また、1990年代前後くらいの頃に、ミステリーサークルが現れる畑などで張っていたカメラが捉えた謎の物体とかは、しっかり解析してみたら、車のライトとか、カメラについた虫だったということも多かった。

マックニッシュのテスト

 1992年には、ジョン・マックニッシュという、一時期はミステリーサークルの謎に取り憑かれていたようだったらしい記者が、ダグとデイブとある密約を結んだ。
つまり、彼らに表向きは引退したと見せかけさせ、こっそりとサークル作りを続けてもらったが、 わりと有名なサークルの研究家でも、確実に彼らが作ったサークルを本物だと断定することが結構あったようだ。

 ここでの研究家には、ミステリーサークルを研究している科学者ばかりでなく、例えば本物のサークルならばエネルギーを感じるのですなどという超能力者も含まれる。
後は、幾何学的な星との位置関係がどうとかいう占星術師とかも。
占星術「占星術」ホロスコープは何を映しているか?  マックニッシュは他にも、何人かの偽物サークル製作者と関わっているが、そうして彼は、真実はどうあれ、一般的に本物だとある程度断定されたようなミステリーサークルに関しては、基本的に虚偽の証言が多く出てくることを確かめてもいる。
ようするに人が作った偽物のサークルだというのに、近くにいた目撃者は(そんなことはないはずなのだが)凄まじい音を聞いたとか、そういう証言をすることがあること。
それに、そのような信頼性が低い情報を持ち出して、これこそ何らかの技術力を持った何者かが、ミステリーサークルを作った証拠だというような専門家もいることも。

実際その証言はどれくらい信用できたか

 あるサークルに関して、 それがインチキであるという証拠はないなどという信者がたまにいるが、普通に考えたらこれは全く逆である。
それを科学的に未知のものとして捉えたいなら、まずはインチキなものでないという証拠を示す必要がある。
とりあえず人が作れるものなら、宇宙生物をわざわざ持ち出す必要はない。

 誰が作ったか記録がちゃんととられなかったアイスクリームとかポテトチップスとか一軒家とかがあったとして、これらは宇宙人が作ったものかもしれない、なんて考えるようなものだ。

 初期の真面目なサークル研究家は、実際にそうして、偽物でない証拠をもって、本物を区別していたわけだが、本物にしかないと言われていたいくつかの特徴をダグとデイブが再現できたからこそ厄介なのであった。

 例えば、穀物がただ倒れるだけじゃなくて、三つ編み状に織り込まれるような形で倒れているというのは、人為的なものではないだろうと考えられていたが、そんなこともなかったらしい。

偽物であるという証拠。本物のための偽物

 ダグとデイブをろくでもない嘘つき呼ばわりする声も多かったためか、偽物サークル製作者は実験や、名乗り出る場合、自分たちが確かにそれを作ったという明確な証拠をはっきり示さなければならない必要性を実感する。
例えばロブ・アーウィンとジム・シュナーベルという二人は、自分たちがサークルを作る前に、そのデザインを知っていたことを証明するための封筒を用意したりしたという。

 ダグとデイブを嘘つきだというサークル信者の中には、「ならなぜ、製作途中の、例えば半分だけ完成したサークルを、証拠として写真に撮っていたりしないのか」というような疑問を、彼らにぶつけた者もいたらしい。
しかしダグとデイブは、まさか自分たちの仕業だと白状するのに、製作方法と実演以外の証拠が必要になるとは想定してなかっただけであろうともされる。

 人は金と名誉を求める生物である。
ダグとデイブのように、10年以上も世間の注目を集めているような仕事をやってのけながら、それが自分たちの仕業なのだと一切主張せずにいることは、不自然だという意見もあった。
しかし、金と名誉に執着の強い人間には理解しにくかろうが、世の中には、他の誰かを驚かせたりするだけで、楽しくて楽しくて、それ以外の利益なんてなくても、ぜんぜん満足できるような人間もいるのである。

 また、偽物サークルを作る者たちは、悪戯者や懐疑論者ばかりでもないとされる。
ウィルトシャーのサークル作りのチーム「UBI」などは、 本物のミステリーサークルが存在することを信じていて、悪戯やテストではなく、その本物を作っている存在と交信することを目的だとした。

第五の定理は本当にあるか

天文学者の登場

 ミステリーサークルに関しては、それを誰が作ったのかという問題ばかりでなく、いったいどんなメッセージが込められているのかという問題も、よく議論されてきた。

 特にストーンヘンジ天体観測コンピューター説で有名な天文学者ジェラルド・スタンリー・ホーキンス(1928~2003)などは、いくつかのミステリーサークルも、それを作ったのは確かに人間かもしれないが、なかなか数学的な教養があると関心したりしている。
ストーンヘンジ「ストーンヘンジ」謎解きの歴史。真実のマーリン。最重要のメガリス

内接円と外接円の比率に関して

 ダグとデイブが確かに作ったといえるサークルの内、 メッセージ性が強いと言われるものは、普通に文字によるものであったとされる。

 ホーキンスは、おそらくは老人二人が作ったものとは別に、もっと純粋に幾何学的な暗号メッセージが込められたサークルもあるかもしれないとしたそうだ。

 本物のサークルを作る未知の生命体と交信しようとするグループが作ったものだろうか?

 とにかく、それらしきものは、いくつかの(ミステリーサークルを構成する)サークルやリングを注意深く分析することによって、発見されたという。
基本的には、正多角形と、それらの内接円および外接円の比率(分数)の関係を扱う四つ、あるいは五つの定理らしい。

 外接円というのは、多角形の外部にあり、多角形の各頂点すべてと接触しているような円。
内接円は、多角形の内部にあり、多角形の各辺と接触しているような円。

 どうも、いくつかサークル構造を、内接円、外接円として三角や四角を作ることができ、それらの比率などが示す定理なのだという。
主にいくつかのリングの層があるサークルなどに見られることがあるようだ。

幻の五つ目の定理

 五つ目の定理は、四つの定理から導かれるものなので、それはユークリッド幾何的なものだが、原論はもちろん、それまでのどんな数学の教科書 にも載っていない全く新しい定理だったとか噂される。
幾何学なぜ数学を学ぶのか?「エウクレイデスと原論の謎」 実のところ、ホーキンスはやけに慎重で、その第五の定理の詳細をちゃんと語ってくれなかったわけである。

 ただ、Mathematics Teacherとかいう雑誌に載ってるとかいう話がある。

 どうもその第五の定理は、四つから導かれるというよりも、四つの定理の方が実は派生的で、その第五定理の特殊な場合の形なのだという。

幾何学なのか、音楽なのか

 四つの定理に関しても現在は情報が曖昧で、一部よくわからない面もある。

「第一定理」 
外接円の直径と、他の角にある円の直径の比率が4:3。

「第二定理」
正三角形の場合、外接円と内接円の面積の比率は4:1
さらに、円の間の輪の面積が、内接円の面積の3倍。

「第三定理」
正方形の場合、外接円と内接円の面積の比率は2:1。

「第四定理」
正六角形の場合、その外接円と内接円の面積の比率は4:3。

 上記の内、第二定理の前半と、第三定理、第四定理は、サークル構造が正多角形の内接円、外接円として定義できるように作られてるなら、そうなるのは当たり前の話である。

 ただホーキンスが重要だと考えたのは、サークル図形から出てくる比率が、和音スケール(音階)を定義できるようなものだったことなのだという。
音楽の基礎「音楽の基礎知識」大事なこと、楽譜の読み方、音楽用語だいたい一覧  しかし、仮にこれが本当にそうだとして、宇宙人はピタゴラス的発想で、音楽的数学をサークルで表現しようとしているとでも言うのであろうか。

ユークリッドの亡霊らしい

 普通に考えると、ホーキンスの四つの定理は、かなり単純な幾何的関係の例にすぎず、別に新しい定理でも何でもなく、 高度な数学的知識がない製作者が意図せず作ってしまうことも、普通にありえるようなものである。
これでは幻の第五の定理に関しても、ハッタリか妄想だろうと考えられても、仕方がないといえば仕方がない。

 それにサークル製作者の目的が、それを宇宙人の仕業だと考えてもらうためだというなら、ある程度は計算して、しっかりした図形を作ろうとするのは当然の話である。

 つまりそれが自然にできるようなものではなく、少なくとも何者かが意図的に作ったものだと理解してもらう必要があるから。

 そしてホーキンス自身が、そのようなはっきりとしたユークリッド的要素を備える図形が現れるのは1986年以降と述べていたともされる。
そう考えると そういうきっちりした図形が現れることはそんなに不思議なことでもなさそうである。
サークル製作者の技術も年々上がっているようで、それは今も変わらないという。

 しかしごく一部本物のミステリーサークルがあって、そこには偽物にはない、何らかの暗号があると考えることアイデア自体は、今でもなかなか面白いのでなかろうか。

 また、ホーキンスの発表当時くらいに、どこかの科学雑誌が、「サークル製作者の一部は、今だに新しい定理を追求しているユークリッドの亡霊らしい」と書いたようだが、このユークリッドの亡霊というのは、おそらくは未知の知性を想定しての呼び名だったと思われる。