「蚊」人間同士を、生態系を血と病気で繋ぐ小さな怪物

蚊取り線香

けっこう多い蚊の種類

 蚊(カ)と呼ばれる昆虫は、全世界で3500種以上。
日本だけでも100種類以上いるという。
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 昆虫の中でも、蚊に独特な形態的特徴として、その針のような長い吻(口)がある。
 この長い吻は、実は種ごとにより細かい特徴があり、種類を判断する一番の手掛かりとされる。

 ちょっと日本語では妙な感じであるが、蚊とはつまり、蚊科の昆虫である。

 吻以外に、研究者は、体の形や色、羽の筋や、体毛の数までチェックする事で、あらゆる種を見分けてしまうらしい。
ただし蚊という生物自体、そもそも我々からしたら小さすぎるため、細部にわたって調べるには、顕微鏡が必要な事も多いという。

日本でよく見られる種

 日本においては、関東より南で、最も人々に身近な、つまりよく人を刺している蚊は、シマカ亜属のヒトスジシマカだという。

 本州、四国、九州の種に比べると、北海道や沖縄の種は独特な特徴があるようである。

蚊がもたらす病気

熱帯性マラリア

 蚊に関する情報で、特に多くの人が求めているのは、病気に関するものであろう。
 致死率の高いとされる『熱帯性マラリア』の感染源として、蚊はよく注目される。

 マラリアという病気の原因は、マラリア原虫という寄生生物であり、そのマラリア原虫にも種類がある。
人に感染するマラリア原虫に限っても、種によって、媒介となる蚊の種類が違っているという。
しかし基本的には、とりあえずマラリアの媒介となるのはハマダラカというグループに属する蚊であるという。
 蚊の内の、ハマダラカの内の、さらに一部が、マラリアを人間にもたらす恐ろしい蚊である。

 ただ、媒介の蚊は1種に限定されない。
例えば、熱帯性マラリアは、媒介となりうる蚊が50種くらいも確認されているという。
沖縄のヤエヤマコガタハマダラカは、その1種である。

ウイルスも脅威

 マラリア以外には、ウイルスの媒介としても、蚊は時に注目される。
『日本脳炎ウイルス』などは、コガタアカイエカが、日本にもたらしたのだという。

 他にウイルス性の『デング熱』や『チクングニヤ熱』は、海外で蚊に刺され、そのまま帰宅後に発症してしまうケースも多い。
そのようなパターンの患者は『輸入患者』と言われる。
 輸入患者が多いのは、通常蚊に刺された事が原因で病気が発生する場合、数日程度の症状が現れない潜伏期間がある為である。

蚊も病原菌の被害者?

 蚊から病原菌がもたらされる。
では蚊はどこから病原菌を拾っているのであろうか?
もちろん、蚊に病原菌生成能力が備わっている訳ではない(コラム1)。

 蚊は実は、病気になった生物の吸血時に、各種病原菌を仕入れるのである。
つまり病原菌は、患者と蚊をひたすらに旅しているのである。
 蚊はもちろん吸血するだけなので、血液に現れない病原菌の場合は、患者から蚊にそれがもたらされる事はない。
つまり、その病原菌は、蚊を媒介には出来ない。
 また、蚊にも、病原菌に対する耐性はあるはずなので、血液に現れるあらゆる病原菌が、蚊の媒介になれる訳ではない。
病原菌として他に広がるのならば、まず、蚊の防御を回避して、増殖を成功させなければならない。

(コラム1)病原菌使いの吸血鬼

 しかし、もし、改造などされ、内部に病原菌の生成能力を備えた蚊がいるなら、脅威という他ないであろう。
 病原菌以外にも、例えば何らかの特殊な異物を送ったりも出来る。
とにかく蚊は、ターゲットの体内に何かを送る伝送機になりうる。
 また本人は病気に平気な設定で、病原菌を武器に使う吸血鬼なんかも面白いかもしれない。
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蚊の幼虫と蛹

 蚊の成長過程は、卵→幼虫→蛹→成虫である。
幼虫はボウフラ。
蛹はオニボウフラと呼ばれていて、基本的にはどちらも水生である。
 身近な成虫に比べて、幼虫や蛹にあまり馴染みがないのは、水生だからゆえであろう。

蚊の産卵

 とりあえず満腹まで吸血した雌の蚊は、たいてい3日ほどで100以上の卵を産む。
そのパターンは主にふたつあるとされる。
大量の卵をひとつずつバラバラに産む種と、数十、数百を一気に一塊で産む種がいるのである。
 日本でよく見られる種で言うと、ひとつずつタイプにはヤブカ属やハマダラカ属。
一気タイプにはイエカ属などがいるという。

 イエカは、大量の卵の一塊を水面に産み落とすが、その塊の形が舟みたいなので、『卵舟』と呼ばれたりもする。

 イエカと比べ、ひとつずつという違いはあるが、ハマダラカも卵を水面に産む。
一方でヤブカは、湿った土や落ち葉、あるいは壁などに卵を産む。
 また、イエカやハマダラカと比べると、ヤブカの卵は乾燥にも多少強いようである。

ボウフラを食べるボウフラ

 水田や池や沼、水溜まりなど、ボウフラが発生する場としてぴったりな水場は多くある。
ただ、どの種もそれぞれ、発生する水場は、ある程度限定的だという。
 特に恒常的な水場、一時的な水場。
あるいは自然に出来た水場、人工的に形成された水場によって、発生するボウフラの種類は明確に違ってくるようである。

 全体的に見て、蚊は止水と言われる、水の流れがあまりない水場に子を産む。
一部、川など流れのある水場で子を産む蚊もいるが、かなり例外的だという。
マラリアの媒介として有名なヤエヤマコガタハマダラカは、その例外の代表である。

 ボウフラは水中の微生物を餌としている。
逆に小魚や、より大きな昆虫の幼虫などには餌にされてしまう。
 しかしオオカ類やカクイカ類は変わり者の肉食で、これらのボウフラは、他の小さなボウフラを補食する。
そこでこれらの種を、病気の媒介となる種類の蚊の撲滅に役立てようとする計画もあるという。

蛹なのによく動くオニボウフラ

 ボウフラは、普通、蛹になるまでに4度脱皮するという。

 蛹というと甲虫や蝶の蛹がそうであるように、あまり動かないイメージだが、蚊の蛹であるオニボウフラは、普通にけっこう動くという。
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 オニボウフラは、どこかカタツムリみたいな形状で、幼虫や成虫に比べると、種ごとの違いがあまりない。
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先端には呼吸管と呼ばれる管がついていて、これを水面にだして、水上の酸素を取り込むとされる。

吸血蚊

蚊に刺されると、なぜかゆいのか

 蚊は吸血生物として有名だが、吸血するのは雌だけである。
雌雄共に、花の蜜や、果実などから糖分を摂取するのだが、雄はその糖分だけで満足する。

 雌は、卵を作る為の養分として動物の血を吸う。
よく血を吸って動きが鈍くなったところを叩く、という方法が有効と言われるが、あの大量の血を吸った蚊を叩いた瞬間、我々は多分、想定してる以上の命を奪っている。

 まあ、とりあえず蚊は、コウモリよりは確実に吸血生物である。
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 蚊は吸血時、途中で血が固まってしまわないように、特殊な唾液を血液側に注入する。
この唾液に対しアレルギーが発生する事があり、それが、蚊に刺された時のかゆみである。

どうやって人や動物を見つけているのか

 蚊は吸血のターゲットとなる動物を、その体から出る(汗などの)様々な化学物質や、熱などを探知する。
 蚊の触覚や吻には、二酸化炭素、熱、気圧、水分などに対するセンサーがあり、それら各種のセンサーが捉えた情報を統合して、ターゲティングをおこなっているのである。

 また、肌についてからも、蚊はその吻のセンサーにより、血液の味などを感知し、その微少な針を刺すべき血管を探り当てる。

 ちなみに、吸血する時間帯がある程度、種によって決まっているようなので、実は蚊に刺された時間は、その蚊の種の推定に役立つという。

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