「吸血鬼」能力に弱点、退治方法まで。闇の貴族のすべて

吸血鬼の夜

目次

吸血鬼、ヴァンパイアとは何か?生者か?死者か?

 吸血鬼、ヴァンパイアというのは、死した存在であるという。
だが普通、死者は動かない。
「科学的ゾンビ研究」死んだらどうなるか。人体蘇生実験と臨死体験「死とは何かの哲学」生物はなぜ死ぬのか。人はなぜ死を恐れるのか (フィクションな存在だからというのは抜きにして)死者である彼らが動く仕組みとしては以下のような説明がある。
 
(1)幽霊的、妖怪的な存在。
たいていは実態を伴い、場合によってはゾンビとややこしい
「ブードゥーの魔術」ゾンビの黒、恋愛の赤。秘密結社の呪いの教義大人の妖怪雪女、山男、ろくろ首「男と女の妖怪」 (2)幽霊的な存在に取りつかれた存在。
死体でなくてもいいかもしれないが、生者だと抵抗があるのかもしれない。

 もしくはヴァンパイアは死んではいない、れっきとした、生きた何かと考える事も出来る。
その場合には以下のようなパターンが考えられる。

(1)単に未知の生物。
むしろ一番ありえそうな考え方であろう、進化の過程で、我々サピエンスと分岐した、ホモ・ヴァンパイアなのかもしれないし。
進化の分かれ道「進化論」創造論を最も矛盾させた生物学理論 (2)ウイルス感染。
例えば狂犬病のようなウイルスで、自我が崩壊した者。

(3)黒魔術の副作用。
あるいは、代償とか。
月夜の魔女「黒魔術と魔女」悪魔と交わる人達の魔法。なぜほうきで空を飛べるのか (4)人工的な生物。
強化人間や生物の一種だったりするかもしれない。

吸血鬼の特徴、能力

 創作由来のものも多いが、例えばヴァンパイアが人に作られたバイオテクノロジー的な産物なら、現実に創作由来の能力を持っててもおかしくはない。

吸血。なぜ血を吸うのか

 普通に食事が出来るかどうかには諸説ある。
ただ少なくとも、生きるのに血が必要だとはよく言われる。

 しかし単なる好物ならわかるが、血を吸わないと生きていけないというのはどういう事であろうか?
考えられるのは、血以外にはあまり含まれてない何らかの成分が必要とか。
もしヴァンパイアが精神的だったり、あるいは魔術的な原因での変貌なら、暗示的に必要だったりするのかもしれない。
音楽魔術「現代魔術入門」科学時代の魔法の基礎  血は古来より生命力の源であるという民間伝承があるので、生きる為の血というのは、単なるイメージかもしれない。

 血に限らず、体液が必要だという説もある。
やはり人、あるいは動物の機構内でのみ発生する何らかの成分が必要なのだろうか?

 また、血を吸う為か、犬歯が鋭く発達してるとか、舌にトゲがあるとかいう伝承もあるらしい

高い身体能力。凄い怪力

 吸血鬼は、運動能力が高かったり、怪力だったりするとも言う。
これには典型的なパターンが二つある。
 
 まず単に、常人よりは凄いが、そこまで常識外れではないパターン。
例えば身軽さは猿くらいだったり、速力は犬や猫くらいだったり、動物の能力程度の場合。
それでなくとも、物理的、力学的にまだありえそうなレベル。

 一方で、かなり型破りなパターンもある。
羽ばたきや加速などもなしに、空を飛んだりするのがよく見られる。
この世ならざる存在だから、この世の物理法則に縛られないのだという説もある。

変身能力。オオカミやコウモリになる

 主にコウモリや狼に変身するとされている。
月夜のコウモリ「コウモリ」唯一空を飛んだ哺乳類。鳥も飛べない夜空を飛ぶオオカミの影「日本狼とオオカミ」犬に進化しなかった獣、あるいは神  あらゆる生物に変身出来るのかもしれないが、夜に関連する生物にしか変身出来ないという説もある。
だとすると、例えばフクロウやタヌキにも変身出来るかもしれない。

 特定の生物にしか変身できないというのは、実は逆かもしれない。
つまり吸血鬼が、何か他の生物になっているのでなく、他の生物が吸血鬼になっているのかもしれない。
だとする人の姿というのは吸血鬼の特徴なのだろう。

 ユダヤ教などの宗教では、人間というのは、神に似た姿の、特別な生物である。
ユダヤの寺院「ユダヤ教」旧約聖書とは何か?神とは何か? もしかすると吸血鬼というのは、人間に憧れたコウモリや狼が魔術により変身した存在なのかもしれない。

 また、無定形のものに変身出来るというパターンもあるという。
例えば霧や煙などである。
風が吹いてもその場に留まってる煙や、十分寒くても液体化しない気体は、吸血鬼の可能性が高いであろう。
渦巻く風「風が吹く仕組み」台風はなぜ発生するのか?コリオリ力と気圧差化学反応「化学反応の基礎」原子とは何か、分子量は何の量か

再生能力。不死身なのか

 どんな傷も瞬時に、あるいは素早く治癒するという。
そもそも不老不死であるという話もある。

 不死身なのだとすると、吸血鬼としての特性は、代償である可能性も高い。
単に寿命が凄く長いとか、寿命では死なないだけという説もある。

鏡に映らない。確実な創作

 これは吸血鬼ものの小説などを映画化(映像化)するにあたり、視覚的な表現として創作されたものだという説が有力らしい。

 ただし、鏡は魂を映しているという民間伝承もあるようだから、そこからきている可能性も高い。
吸血鬼はこの世ならざる存在だから、当然魂も持たないというわけである。

 もしかすると魂を失ったり、抜かれたりすると吸血鬼になるのかもしれない。

動物との対話。吸血鬼ウイルスは動物由来か

 特定の動物が対象なのか、動物なら何でも喋れるのかは不明。
しかしおそらくは前者。

 動物をそそのかし、使いにしたりする事もあるという。
敵の敵は味方。
動物には、人間に恨みを持つ者もいるかもしれないから、そういう迫害された動物たちが、吸血鬼の味方になったりするのかもしれない。
倫理学「人間と動物の哲学、倫理学」種族差別の思想。違いは何か、賢いとは何か  吸血鬼ウイルスが動物由来という説もある。

吸血鬼の弱点

 強力なイメージである吸血鬼だが、かなり弱点が多い事でも有名である。
案外脆い存在なのか。
恐れられ、かなりよく研究されてきた故か。

光を浴びると灰になってしまうのか

 特に日光に弱いという。
太陽の光を浴びるだけで、燃えて灰になってしまうという話もある。
太陽系「太陽と太陽系の惑星」特徴。現象。地球との関わり。生命体の可能性 しかしいくらなんでも、それではショボすぎなので、フィクションなどでは、この弱点は迷信か、少々大袈裟だという設定が多い。

 一方で月の光は、吸血鬼を元気にさせるともいう。
例え日光で灰になったとしても、月光で復活出来るという話もある。

 光に弱いというが、波長は関係あるだろうか?
例えば吸血鬼は、電磁波や赤外線にも弱いのだろうか
雷「電磁気学」最初の場の理論。電気と磁気の関係  もし吸血鬼が、未知の粒子とかで構成されてるなら、それがある波長に影響を受けやすいというのはありうるかもしれない。
素粒子論「物質構成の素粒子論」エネルギーと場、宇宙空間の簡単なイメージ

なぜニンニクを嫌がるか

 とりあえず、死者でも生者でも、口の中にニンニク詰めとけば、吸血鬼化を防げるという。

 どうも、ニンニクに含まれる何らかの成分が、吸血鬼に対して毒になるとかではなく、ニンニクという存在が重要らしい。
例えば、ニンニクを食わせたらいいのでなく、身につけたり、食ったりしたら、吸血鬼避けになったり。

 ニンニクの風味が苦手だという説もある。

塩。腐敗を防ぐからか

 ニンニクと同じく、大量に摂取する事で、吸血鬼化を防げたりするという。
またこれもニンニクと同じく、吸血鬼は、塩の成分というより、塩そのものを恐れるという。

 塩は遺体などの腐敗を防ぐ効果があるから、腐ったような怪物には効果的だという話もある。
吸血鬼が腐っているのかはわからないが。

銀。なぜ聖なる金属か

 なぜ金でも銅でもなく、銀なのかというと、どうもその白に近しい色と輝きが、善なるモノっぽいかららしい。

 銀に触れるだけでも吸血鬼は火傷したりするから、例えば銀の盾は防御だけでなく、攻撃にも使えたりするという。
銀製の剣や弾丸など、吸血鬼にとっては恐ろしすぎる武器である。
もちろん純銀がよいのは言うまでもないだろう。

十字架。なぜ教会を避けるのか

 吸血鬼は悪なる存在だから、キリスト教的には、神の加護や信仰心に弱い。
十字架「キリスト教」聖書に加えられた新たな福音、新たな約束  吸血鬼は、十字架を恐れるし、教会とも関わりたがらない。
しかし恐れるだけで、それで倒したりは出来ないらしい。
魔女狩り「魔女狩りとは何だったのか」ヨーロッパの闇の歴史。意味はあったか  もし吸血鬼の十字架に対する恐れが、人間が台所の黒い虫を恐がる程度のものならば、十字架は強力な防衛手段にはならないだろう。
台所「ゴキブリ」人類の敵。台所の黒い絶望の正体

聖水。案外脆いか

 聖水というか、清らかな水に弱いという。
しかしこれはちょっと曖昧な認識であろう。
果たして清らかな水とは、何なのか?
純度の高い水であろうか?
地球の水「地球の水資源」おいしい水と地下水。水の惑星の貴重な淡水  普通に川や海を恐れるという話もある。
では雨はどうだろうか?
仮に命に関わるほどに雨に弱いなら、やはり吸血鬼は脆すぎる。
雲「雲と雨の仕組み」それはどこから来てるのか?  水を怖がるというのは狂犬病の症状なので、それが由来だったりするのかもしれない。

蹄鉄。魔除けの伝承

 馬の蹄などの保護具である蹄鉄ていてつには古来より魔除けの伝承があり、もちろん吸血鬼にも効果ありだという。
しかしなんで蹄鉄が魔除けになるのだろう?

 一説によると、かつて悪戯をする悪魔などに、お仕置きとして蹄鉄が使われていたのだという。
ただの蹄鉄ではない、神や天使の加護がかかった、悪にとっては呪いの蹄鉄である。
大天使ガブリエル「天使」神の使い達の種類、階級、役割。七大天使。四大天使。 悪魔たちは、許しをもらうまで、その蹄鉄をつけ続けなければならず、非常に恐ろしいものであった。
悪魔の炎「悪魔学」邪悪な霊の考察と一覧。サタン、使い魔、ゲニウス それで、悪なる存在の間には、蹄鉄への恐怖が広まっているのだという。

死者の血。生者の血は栄養。死者の血は毒

 生者の血は生きるのに必要な栄養なのに、死者の血は毒だという話がある。
なぜかは謎だが、死んでしまった後の、何らかの機能停止が関係してるのではないだろうか。
「生化学の基礎」高分子化合物の化学結合。結合エネルギーの賢い利用  亡くなって間もない者の血が、効果抜群とも言われる。
なので亡くなる前後に伴う要因かもしれはい。

ろうそく。霊的ゆえか

 吸血鬼に限らず、霊的な存在は、ろうそくの光で照らされるのに弱いという。
ろうそくでなく火か、ろうに弱いのかもしれないが、そこは定かでない。

 ろうそくの光に照らされると、昇天してこの世を去るのだという話もある。

香。吸血鬼が嫌う匂い

 普通にこうと言えば、いい匂いのする木材の香りだが、吸血鬼はそういう香りが駄目らしい。

 香は、祈りが天に届く象徴であり、神や天使の加護を得られる場合がある。
あるいは心地よい匂いなのだから、あれは天界の匂いなのかもしれない。
だから、悪なる者は苦手なのだとも考えられる。

油。火に弱いのか

 直接かけられたりするのももちろん、油のかけられた物にも弱いという説がある。

 可燃性が高い事に関係してるのかも。
やはり吸血鬼は火に弱いのではないだろうか。
熱力学エントロピーとは何か。永久機関が不可能な理由。「熱力学三法則」 もしくは、疎水性そすいせいの油は、実は疎霊性でもあるのかもしれない。

うつ伏せ。ケルト人の教え

 吸血鬼はうつ伏せから起きあがれないという話がある。
そういうわけで、うつ伏せという体勢は吸血鬼の防止法にもなる。

 しかしこの弱点は、致命的なようで、そうでないかもしれない。
よくよく考えてみれば、うつ伏せに一切ならなくても、普通に生活する分には苦労しない。

 また、起きあがれないだけなので、起こしてもらう事は多分出来るだろう。
ケルト人の習慣が起源だという説もある。
「ケルト人」文化、民族の特徴。石の要塞都市。歴史からどのくらい消えたか

薔薇。貴族だというのに

 吸血鬼貴族的な面からか、逆のイメージもあるが、吸血鬼は薔薇にも弱いらしい。

 正確には薔薇の花や、その香りだとも言われる。
花は悪の肌を焼き、香りは悪を遠ざけるらしい。

 また、はやり吸血鬼化防止にも使えるようである。

吸血鬼ハンターの正体

ダムピール(Dhampir)

 吸血鬼と人間のハーフ。
男の子の場合は『ヴァムピール』、女の子の場合は『ヴァムピーラ』とも言うらしい。

 人間的な側面を持ち、かつ吸血鬼と同等か近い能力を有している。
あるいは吸血鬼の能力を封じる事が出来る(吸血鬼の変身を見破ったり出来る)為、吸血鬼ハンターとして人間の味方になる事もある。
というか、吸血鬼はあまり子育てに興味ないようで、人間に育てられる場合がたいていなので、人間側につく事の方が多い。

クルースニック(Kresnik)

 一説によると、吸血鬼は赤い膜に包まれて生まれてくるという。
対して白い膜に包まれて生まれてくるのがクルースニックである。
 
 吸血鬼が生まれつき吸血鬼なように、クルースニックも宿命付けられた、生まれつきの吸血鬼ハンターらしい。

 これも一説によると、吸血鬼の赤い膜は悪の力の成分、クルースニックの白い膜が聖なる力の成分で出来てるらしい。
という事は普通の者でも、それらを取り込む事で、同じような力を得られるのかもしれない。

ヴィエドゴニャ(Vjedogonia)

 結局悪か善かは、生まれもった力より、その性格によるのかもしれない。

 赤い膜に生まれた者でも、吸血鬼を狩る側になる事もあるらしい。
いわば改心した吸血鬼で、ヴィエドゴニャと呼ばれるという。

ズドゥハチ(Zduhac)

 やはり白い膜に包まれて生まれてくる子らしいが、能力的にはヴィエドゴニャに近いという。
もしかすると、聖なる力を帯びた吸血鬼という存在なのかもしれない。

 霊体離脱が得意で、霊的な存在自体に強いとも言われる。
守護霊的な概念が吸血鬼ハンターに結び付いて、考え出されたという説もある。

聖なる力を帯びた動物

 もともと白いのもいるが、本来は白くない動物にも、真っ白な個体が誕生する事がある。
まあいわゆるアルビノというやつだけど、この白い個体は、聖なる力を帯びた獣という伝承がある。
そういう獣は吸血鬼などの悪を滅ぼす事が出来るという。

 滅ぼすまではいかずとも、能力を封じたり出来るという説もある。
また、白い獣自体、すでに吸血鬼ハンターみたいなものだが、普通に人型吸血鬼ハンターの相棒にもなりうると思われる。

吸血鬼退治の方法

 死者がなったとされる場合、吸血鬼は日の光が地を照らす時間には墓で眠っている。

 眠っている吸血鬼なら、ニンニクを口に詰めたり、銀の釘で突き刺したり、うつ伏せにしたりするだけで、退治、あるいは動きを封じられる。
そこで吸血鬼の墓を探すのは、退治する為の有効な手段となる。
動物が近寄らない墓などが、怪しいようである。

 また、驚異的な再生能力を持つ吸血鬼も、頭と胴を切り裂かれてしまうと、もう復活出来ないという。
 
 心臓も復活させられないという。
心臓に関しては、通常のとは違う、第二の心臓があり、それは魔力の源なので、破壊されたら吸血鬼は力を失うとする説もある。
第二の心臓は普通に体内のどこかにある場合もあるが、体外に出せる事が出来るとも言われる。

 それに、教会の祝福などを受け、聖なる力を帯びた武器も、吸血鬼の再生能力を無効化できるらしい。

公文書に記録された、確かに実在した吸血鬼

ペーター・プロゴヨヴィッチ

 彼は公式的に認められた最初の吸血鬼と言われている。
 
 1725年9月。
セルビア領キシロファ村で、農民であったプロゴヨヴィッチが、死後に吸血鬼となり、村の住民を襲った事件。

 プロゴヨヴィッチの死から一週間くらい、少なくとも9人の村人が謎の病で亡くなった。
と、それだけならどっちかというと呪いの事件だが、どうも犠牲者たちはみな、死亡前に蘇ったプロゴヨヴィッチに襲われていたらしい。
彼は必ず夜に現れたという。

 プロゴヨヴィッチは家族の前に普通に現れていたらしいが、彼の暴虐に耐えきれなくなった妻は、村を去った。
また、プロゴヨヴィッチは食べ物を拒否した息子を襲ったとも言われている。

 昼間に教会の者がプロゴヨヴィッチの棺を開けると、そこにあったのは、全く腐敗せず、まるで単に眠っているようなプロゴヨヴィッチであった。
その髪や爪は生前より伸びていたとされる。

 これは確かに吸血鬼に違いないと認められ、プロゴヨヴィッチは、心臓に杭を刺された後、焼却され灰となった。
そして事件は沈静化したという。

アルノルト・パウル

 彼の事件は、1727年から1728年にかけて、やはりセルビア領のメドヴェギア村で起きた。
ロンドンの新聞で扱われた事で、ヴァンパイア(吸血鬼)という言葉を英語圏に広めた事件でもある。

 生前のアルノルト・パウルは憲兵だったらしい。
1727年のある日。
干し草の運搬車から誤って転落した彼は、あっさり帰らぬ人となった。
だが彼は死後、吸血鬼となって人々を襲うようになってしまう。

 被害を聞きつけ、地方司令部の将校と医師が村にやってきた。
村人たちはすでに、全く腐敗していないパウルの心臓に止めをさしていたが、彼に襲われた人や家畜も、やがては吸血鬼になるのだと怯えていた。

 またパウルの生前の憲兵仲間は、彼が生前にも吸血鬼に取りつかれた事があったが、その時は死者の血を体に塗る事で身を守ったのだという。
その効果は死後もしばらく続いていたのもしれない。
彼が吸血鬼として墓から出てきたのは、埋葬から一か月ほども経ってからだったらしいから。

 何にしても、村人たちの尋常でない怯えに、事態を重く見た将校らは、パウルの吸血鬼化以降の死亡者たちの墓を掘り起こした。

 すると掘り起こされた多くの者たちに、吸血鬼の兆候が見られたという。
その誰もが、火葬によって灰にされて、ようやく村は恐怖から解放されたのだという。

吸血鬼リスト

ヴリコラカス(Vrykolakas)

 ギリシャに伝わる吸血鬼。
ヴロウカラカスとか、ブルコロカスと呼ばれる場合もある。

 元々ヴリコラカスは人狼の事だったという。
しかしやがて人狼も死後に吸血鬼となるという説が生まれ、だんだんと吸血鬼の側面が強調されるようになっていったらしい。

 寝ている人をしゃがんで押し潰す怪物とも言われ、悪事を働いた者や、神を嫌う者などが、死後にヴリコラカスになると言われる。
生前よりも体つきがごつく、怪力。
しかも時間と共に、ひたすらに強くなっていく。
さらには、ヴリコラカスに襲われた者は新たなヴリコラカスになるとされる。

 ただし、ヴリコラカスは日曜日には墓から出れないという説もあるから、退治するならその時であろう。
また、大元のヴリコラカスさえ退治すれば、ヴリコラカスにされた者たちは共に滅びるようである。

ルガト(Lugat)

 アルバニアに伝わる吸血鬼。
血を求める死者であるが、霊体化する事も、物質化する事も出来るという。
ルガトは霊体の時の呼び名で、物質化している時はククチと呼ばれるらしい。

 狼が天敵らしい。
狼に噛まれたルガトは、埋葬された墓に戻り、二度と出てこれないとも言われる。
 

ピジャヴィカ(Pijavica)

 スロベニアやクロアチアに伝わる吸血鬼
例によって悪党が死ぬとなるらしい。

 ピジャヴィカになった者は、家族と親戚一同を次々襲うらしい。
ピジャヴィカは血の繋がりを感知する事が出来るようで、生前には存在すら知らなかったほど疎遠な親戚まで見つけてしまうという。

 素早く強いのに加え、高い再生能力を持ち、心を読むことまでできる。
しかし直射日光に弱く、長時間浴びてしまうと焼け死ぬという。

 バラバラにしてもくっついてしまうが、この時に、首に足をくっつけたり出来るという。
これはけっこう有効的な退治方法らしい。

ウーストレル(Ustrel)

 ブルガリアに伝わる吸血鬼。
土曜に生まれ、洗礼を受けられずに死んでしまった子供が成る、霊的な吸血鬼。

 ウーストレルは埋葬から9日後に墓から出て、家畜などに取りつき、取りついた者の血を吸い付くす。

 実態がなく、無敵に思われがちだが、火や熱にかなり弱いとされる。
また土曜生まれの者にはその姿を探知されてしまうらしい。

ウポウル(Upour)

 これもブルガリアの吸血鬼。
この世に未練を亡くした者が、この吸血鬼になるという。

 同じくブルガリアのウーストレルとは違い、物理的に巨体の吸血鬼であり、その巨体の形成の為か、死後40日ほどは現れないらしい。
鼻の穴がひとつしかないとされる。

 血液の他、家畜の糞からも栄養を得る。
というかそっちの方が好みのようである。
トゲのある舌からは、火を吐く事もあるという。

 どういうわけか、柵を超えられず、ロウソクを恐がるらしい。

モーラ(Mora)

 やはりブルガリアの吸血鬼。
睡眠中の者を窒息させて、心臓から血を奪うという。

 ポーランドに伝わるズモーラと同じ吸血鬼だとされる。

 赤い膜に包まれて生まれてきた女の子が、適切なお祓いを受けられなかった場合に、この吸血鬼になると言われる。
一説によると、吸血鬼にはならなかったが、その力をしっかりと残した者が魔女になるらしい。

 また、生物だろうが無生物だろうが、サイズも素材も関係なく様々なものに変身出来る。
それに、その鋭い目には、悪夢を見せる力があるという。

 ニンニクや十字架が苦手と言われる。
お菓子好きで、好みのお菓子で手なずけれるという話もある。

ヴコドラク(Vukodlak)

 ユーゴスラビアの地域に伝わる吸血鬼、
ヴリコラカス同様に、本来は人狼だったのが、いつの間にやら吸血鬼扱いされていたという。

 元々人狼だった事もあり、狼への変身能力を持つ。
ただし名前を呼ばれると変身は解除されてしまう。

 また、吸血鬼らしく、夜にしか力を発揮出来ない。

 赤い膜に包まれた子が成ったヴコドラクは、クドラクと呼ばれ、狼に限らない多彩な変身など、より強力な存在。
このクドラクは、白い膜の吸血鬼ハンター、クルースニックの最大の宿敵ともされる。

ストリゴイ(Strigoii)

 ルーマニアの吸血鬼の典型だと言われる。
赤い毛に青い目、それにふたつの心臓を持つ吸血鬼。

 自殺者や犯罪者、魔女に殺された者、七番目の子、この世に未練を残した者が、死後にこの吸血鬼になる。
また、ストリゴイに襲われた者もストリゴイになる。
死後に猫に跨がれた者もストリゴイになるというか、この猫は変身した魔女か何かなのではないだろうか?

 ストリゴイになる者は、左目がまず開くらしいので、死者の左目が開いていたら、それはストリゴイになってしまう兆候なのだという。

 ストリゴイは、たいてい生きていたころの家族や親戚を襲う。
最大の弱点はやはりその第二の心臓だという説が有力。

ヴァルコラキ(Varcolaci)

 ルーマニアに伝わる吸血鬼。
別名プリクリクス

 伝承によって、犬だのドラゴンだのと姿が様々だが、単に変身能力によるものかもしれない。
ドラゴン「西洋のドラゴン」生態。起源。代表種の一覧。最強の幻獣 ただし人間の姿を取る場合は美青年とされる。
そしてその優れた容姿で誘惑した人を、変身した姿で襲い、血を吸う。
その魔法的能力は高く、魂を肉体から離して、それを空に広げる事で日食すら引き起こせるらしい。

 洗礼を受けなかった者、不浄な行いを繰り返した者、未婚の母の子、真夜中に暗闇で働く女性の子などが、死後にヴァルコラキになるとも言われるが、やはり伝承により統一感がなく、はっきりしないという。

ノスフェラトゥ(Nosferatu)

 これもルーマニアに伝わる吸血鬼。
私生児の親から生まれた子が死後に成るという。

 ノスフェラトゥは、死後すぐに吸血鬼としての行動を開始するため、事前の予防は立てにくい。
吸血はもちろん、人間の苦しみを糧にすると言われる。

 普通に家庭を持つ場合があり、ノスフェラトゥと人間の子はモロイという半吸血鬼になるという。

 ノスフェラトゥを退治する有効な方法は、刃物でも弾丸でもいいから、とにかくその体を貫くことだとされている。

モロイ(Moloii)

 ルーマニアの、半吸血鬼とも生ける吸血鬼とも言われる存在。

 幽体離脱などが出来るほか、男女の違いによって、わりと明確に異なる性質を持つ。
男は基本的に頭に毛がなく、女は顔が赤い。
男女どちらも幽体離脱能力を持ち、適当な誰かに取り付いて悪事を働くが、女のモロイはさらに動物を操ったり変身出来る能力を持つらしい。
単にモロイにも、デキる奴とそうでないのがいるというだけの話かもしれないけど。

 死後はストリゴイになる確率が高いらしい。

ビビ(Bibi)

 ルーマニアの女吸血鬼
霊的な吸血鬼でもあり、襲うのはもっぱら子の母か、子供らしい。
子を亡くしてしまった母親の怨念が起源だという説がある。

 たいてい赤い衣装で、二人の少女と、二匹の山羊を連れているという。
この少女たちが実は、哀れな女の霊を利用する、ビビなんではないだろうか?

 吸血鬼ではあるが、仲良くなると幸福をもたらすとも言われている。

ネラプシ(Nelapsi)

 スロバキアに伝わる吸血鬼。
死者由来だが、生前に何かしたとかはあまり関係なく、死後にどうにかなった者が、この吸血鬼になるという。

 とにかく血を求め、人だろうが、家畜だろうが見境なしに襲うようである。
さらに視線で、人に致命傷をもたらす事すら可能。

 教会を恐れないどころか、教会により、その力を増幅させる事すら出来るという説まである。
もしかすると聖なる力を使う吸血鬼なのかもしれない。
だとすると最大の弱点は、他の吸血鬼だったりするか。

ウピオル(Upior)

 ポーランドに伝わる吸血鬼。
男はウピエル。
女はウピエルツィカとも言う。

 昼間にも普通に行動する吸血鬼で、舌についたトゲで、血を奪う。
しかし決して満たされず、喉は常に乾いていてるらしい。

 特に吸血を好む吸血鬼だが、自分の血は苦手ともされる。

オヒン(Ohyn)

 ポーランドの吸血鬼。
生まれた時にすでに鋭い歯が生え揃った赤ん坊で、すぐに死んで、赤ん坊吸血鬼になるという。

 オヒンは見かけのわりには恐ろしい存在だが、死ぬまでのわずかな期間に、その歯を抜いてしまえば、無力になるとも言われている。

ウピル(Upyr)

 ロシアに伝わる吸血鬼。
女のウピルはウピールチカと呼ばれる。
名前の似たウピオルと同様に、昼間でも平気な吸血鬼。

 墓や棺に拘りはなく、地中に巣を作り、定期的に出てきては、血を求めるという。

 たいてい子供を狙うらしいが、飢えている場合は大人も襲う。
天候を操るともされる。

 敵にした場合、一撃で上手く仕留めねば、多少の傷はすぐに再生してしまうとも言われる。

エレティカ(Eretica)

 ロシアの吸血鬼。
悪魔と関わりを持った女性が、死後に成るという。

 昼間、肌を隠した厚着姿で、人に近づき、仲良くなった相手を夜に襲う。

 恐ろしい事に、集団行動を好む。
また、その目に睨まれると、徐々に衰弱してしまうとも。

 エレティカは起きてる時は無敵なので、退治するには、寝てる隙を狙うしかないらしい。

マーラ(Mara)

 北欧に伝わる吸血鬼。
ブルガリアのモーラが伝わり、改変されたものと考えられる。

 基本的に女性であり、適当な男性と結婚したり、恋仲になったりした相手の血を、知らず知らずの内に奪う。

 ただしよく磨かれた鉄などには、その吸血鬼としての真の姿が映る場合がある。
正体を知られるとマーラは逃げてしまうという。

アルプ

 ドイツの霊的な吸血鬼。
ドイツ「ドイツについて」グリム童話と魔女とベートーベンの国 子供が死後に成るようで、母くらいの年代の女性の血を特に好む。

 あまり暴力は振るわない。
しかし、長い舌で舐めた相手や、霧などに変身して体内に侵入した相手に、悪夢を見せたりするという。

 人前に姿を見せる時は動物の姿が基本。
どんな姿でも帽子を常に被っていて、この帽子が力の源。
なので帽子を取り上げれば無力化出来る。

 帽子が実はアルプなのかもしれない。

ナハツェーラー(Nachzdhrer)

 ドイツの吸血鬼。
ドイツのアルプ同様、子供吸血鬼だが、こちらの方が遥かに恐ろしい存在。

 呪いで弱らせた家族の前に現れ、血を奪う。
さらに、鐘を鳴らし、その音を聞いた者全員に致命傷をもたらす事が出来る。
また、その影に触れた者には死の呪いがかかるという。

 ナハツェーラーは血の他に、自らの体を糧とするのだが、寝てる間にコインを口に含ませる事で、その食事を防ぎ、餓死させられるらしい。

ノインテーター(Neuntoter)

 ドイツの吸血鬼。
疫病を振り撒く吸血鬼で、生まれつき歯のあった者が、死後にノインテーターとなる。
歯のある者でなく、生まれつき口の中に銀が含まれていた者という説もある。

 レモンが弱点であり、攻撃にも防衛にも使えるらしい。

エストリー(Estrie)

 ヘブライの伝承に登場する吸血鬼。
何らかの原因により、肉体を得た悪霊らしい。

 子供の血を特に好むという。
変身能力や浮遊能力を持つが、使いすぎるとまた肉体を失ってしまうようである。
 
 肉体を持つ時にしかダメージを与えられないが、肉体がない時は無害でもある。

アサンボサム(Asanbosam)

 ガーナに伝わる吸血鬼。
森に住み、森に迷いこんできた者を襲い、血を奪う。

 アサンボサムは人間そっくりだが、歯が鉄製で、足には鉤爪があるという。
単に特殊な装備した、未開の部族かもしれない。

イムプンドゥルゥ

 南アフリカに伝わる、魔女に仕えるという吸血鬼。
基本的に美青年だが、吸血以外にあまり興味がない恐ろしい存在。

 仕える魔女がいなくなってしまうと、歯止めが効かなくなり、ひたすらに血を求め、暴れ続ける。
主人を失ったイムプンドゥルゥは、イショログゥと呼ばれる。

 鳥に変身出来るという話もある。
おそらく退治するには、動きを封じて餓死させるしかない。

アスワン(aswang)

 フィリピンに伝わる吸血鬼。
昼間は美しい女性だが、夜になると正体を表す、

 キキキというような鳴き声を発しながら空を飛び、得物を決めては、長い舌を使ってその血を奪う。
また、影を舐める事で、相手に死の呪いを与えられるとも言う。

 ニンニクが苦手らしい。

バジャン(Bajang)

 マレーシアに伝わる吸血鬼というか吸血動物。
イタチに似ていて、鳴き声は猫のようだという。

 バジャンは死産した子供から生じるとされている。
飼い慣らす事も出来るが、致死性の高い謎の疫病を抱えるので、ペットには全く向かない。
しかし魔術師はよく、この生物を使い魔として飼い、気に入らない相手に病気を運ばせたりするという。

 バジャンは飼われても、実は主人に忠義を誓うでもなく、意思疏通が出来る者には、簡単に主人の情報を渡したりする。
優れた魔術師相手に、武器として使う場合は、パジャンは諸刃の剣なわけである。

ペナンガラン(Penanggalan)

 マレーシアの吸血鬼。
主に子供や妊婦の血を求める女吸血鬼。

 体を自ら切り離す事が出来、臓器をぶら下げた状態の首から上状態でさ迷ったりする。
そもそも顔と臓器だけの姿なんだという説もある。
 
 ペナンガランのその滴る血は恐ろしい疫病をもたらすが、力自体はあまり強くないとされる。

ランスイル(Langsuir)

 マレーシアの吸血鬼。
出産時に死んだ母がランスイルに成るとされる。

 ランスイルは緑色のローブを纏う美人だが、首の後ろに第二の口があるという。
吸血は第二の口で行う。
また非常に爪が長いとも言われる。

 第二の口は弱点でもあり、その口で何かを噛んでいる時は、かなりおとなしくなり、簡単に退治出来るようになるらしい。

吸血巨人

 中国の南方の島に、巨人吸血鬼が住む島があるという。
この巨人たちは、10m近くものサイズであり、島に訪れた者を歓迎して、油断させた上で襲うらしい。

 全く恐ろしい存在で、最も有効な対処法は、急いで島から逃げる事だという。
また、この吸血巨人は洞窟暮らしらしいが、どれほどでかい洞窟なのであろうか?

ムラート(Mrart)

 オーストラリアに伝わる吸血鬼。
霊的な存在、深夜に人間含む動物の血を狙う。

 闇の中ではその力は非常に強力。
しかし何かを攻撃するには闇の中でないと駄目なようで、まずは得物を明かりから無理やり引き離すという。

吸血鬼の集中地帯?

 吸血鬼のような怪物の伝承自体は、古くからかなりあるが、少なくとも「吸血鬼」という概念を世に広めたのは、18世紀のセルビアの村で起きた事件である。
そこで吸血鬼伝説は、セルビアの伝承が発端と言えなくもない。

 またエーゲ海のサントリーニ島は、聖職者達に追放された吸血鬼達が多く住んでいるという伝説がある。
一方で、中国にも吸血巨人の島の伝説がある。

 吸血鬼ものというジャンルを大衆に広めた、小説「吸血鬼ドラキュラ」の登場人物ドラキュラのモデルらしい、ヴラド公の国ルーマニアも、様々な吸血鬼伝説が残された地である。

 中国の伝説の島だけは不明だが、やはり吸血鬼と言えばヨーロッパ起源なのかもしれない。

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