簡単な装置で、数学を体験するという発想
数学のアイデアを、現実の様々で活用することを学ぶ方法として、実際に現実世界の様々と、アイデアの数々を結びつけてみるという方法がある。
そうした体験実験は子供の教育にも広く使われたりするという。
例えば1940年代、イギリスのレスター工業大学(Leicester College of Technology)では、実際にそうすることに役立つ、いくつかの装置が開発されたとされる。
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ローラー・プラットホーム
『指針(pointer)』と言えば、単に指先を意味する場合もあるが、何か装置について語る文脈では、時計や計器などにつけられた、目盛りを指示針のこと。
『ローラー(roller)』は非常に様々なところで利用されている言葉であるが、普通は、円筒の形で転がす物を意味する。
『プラットフォーム(platform)』は、現在ではOSやハードウェアなど、コンピュータの動作における基礎部分(コンピュータプラットフォーム)を意味することも多いが、もとは壇とか台とかといった、言わばやや高い区別部分を用意するためのものとかを意味する。
単に土台部分、基礎部分の場合もある。
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ローラーで運ばれる荷物は、どれくらい早く先を行ってしまうのか
『ローラー・プラットホーム』は、糸を巻いておいたりするための『糸巻き(spool)』を再利用(リサイクル)したりしているローラー2つを枠に固定。それらのローラーに、プラットフォームと呼ばれる、ようするにただの平らな板を乗せたもの。 ローラーにも、プラットフォームにも、先端には指針がついている。
そして、このローラープラットフォームが進まされるコースの板には、1センチメートルごとの目盛りが備えられている。
重いものをローラーの上に乗せて、押して運ぶと、通常は先に進むにつれて、ローラーが荷物の後に取り残されるようになっていくとされる。そこで運搬者には定期的な調整が求められる。
つまり実質的に荷物はローラーを追い越すのが基本なわけだが、しかし荷物はローラーに対してどれくらい早いのだろうか。それを実際に確かめることができる装置が、このローラー・プラットフォーム。
実際にこの装置を動かすと、ローラーが1センチメートル進むたびに、プラットフォームは2センチメートル進んだそうである。
つまりプラットフォームはローラーの2倍速く進む訳だ。
プラットホームの進む距離を「p」ローラーの進む距離を「r」として、「p = 2r」という訳である。
変数、関数。法則の存在を保証はするが、いつでも簡潔とは限らない
「p = 2r」は、 当然のことながら『変数(variable)』であるp、rのいずれかの数字が決まった時に、もう片方も自動的に決まる、例えば「y = f(x)」というような形で表記されたりする『関数式(Function)』の式である。
「y = f(x)」は、つまりはxの数がわかると、yもわかる(より正確にはわかる法則が存在していることを保証する)というようなことを表しているにすぎない。
yが、xを使った簡単な計算(例えば2xとか、3x)から、常に求められるとは限らない。そこには複雑なプロセスが生じる場合もある。
fは、xに対する作用を意味するともされているから、「p = 2r」の場合なら、普通は「p = f(r)」と書くべきと思われる。この場合のfは「rを2倍する」という作用を意味している。
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半径長さを切り替えることができる回転装置
「p = 2r」のような形の関数が現れる結果を出す装置は、真っ直ぐに進むようなものだけではない。
車輪の回転数で示される、半径と円周の関係
中央から針が出ている板があるとする。そして、その中央の針を軸とするための穴を等間隔であけた細長い別の板があるとする。どこかの穴を軸にして回転させることができる、その細長い板の先端には車輪が付いている。板の先端の車輪が1回転毎に、地面に跡をつけるようになっていると、中央を軸に細長い板を一周させた時には、円が描かれていることだろう。円がいくつの跡で描かれてるかを見ることによって、車輪が何度回転したかも判明する。
そしてこの回転装置において、等間隔で開いている穴を使い、軸をずらしていくと、その穴の位置ごとに、一周した時の車輪の回転数が変化する。
軸穴をずらすたびに変化しているのは、その円の『半径(radius)』の長さと言える。だから半径の円の長さと、『円周(circumference)』を描く車輪の回転数の関係が、ここでの関数となる訳である。
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方程式、一次関数。実験の性質により変化する係数
関数「y = f(x)」において、「y = ax」というような形はよく見られる。aは「p = 2r」の2にあたる部分だが、このような数字は『係数(coefficient)』と呼ばれ、その法則が導かれた実験の性質によって変化する。
「y = ax + C」というのも、よく見られる。Cは何らかの定数で、これがあっても、ここまでの型の関数の性質自体には、大した変化はないとされる。
普通は、「y = ax + C」みたいな『方程式(equation)』は、『一次方程式(linear equation)』と呼ばれ、その場合のxとyとの関係は『一次関数(Linear function)』と呼ばれる。
水を放出する二重缶
普通、一次方程式の場合、グラフに視覚化した場合の形は直線である。
そういうグラフが直線になるような数学的関係は「線型(linear)』と呼ばれ、線型でないものは『非線形(Non-linear)』と呼ばれる。
量の変化、形の変化。非線形のグラフ
線形でない法則を示す装置として、例えば、2つの少しだけ大きさの異なるカン(缶)を使った装置がある。
これは外のカンと、それよりも少しだけ細い中のカンとでできていて、外のカンには水が入り、中のカンは浮いている形となる。外のカンの底に近いところには穴が開いていて、そこから水が少しずつ流れ出て行くようにもなっている。水が減ると中のカンはだんだんと下がっていくのだが、そうして下がることで、その側面の目盛りは隠れてもいく。
外のカンに水がまだたっぷりある状態から減っていく時間と、隠れていく目盛りには、当然、数学的な法則がまた成り立つが、水が流れ出る速さは、(量が減るごとに圧力も下がることになるため)だんだんと遅くなっていく。つまり、そこに現れる法則は非線形となる。
また、外のカンから吹き出した水が、十分にはじけるスペースがさらに下に用意されているとすると、噴出する水の流れは、空中に曲線を描くと思われる。そして、勢いが弱まっていくと、だんだんとその曲線は、縦軸との間の角度を狭くしていくはず。
そうした噴出する水の背景に、グラフ用紙をセッティングしておくと、 外の間に残っている水量と 曲線の変化との間の関係も露となる。
ひとつずつ増やされる容器で作られる、階層式ピラミッド
ピラミッド(Pyramid)と言えば、普通は、エジプトや中南米の 古代の建造物と知られる『四角錐(quadrangular pyramid)』状の巨石構造体。しかし単純にこのような形の物体を指し示す言葉としても気軽に使われる。そういう形を2次元的に表現する場合は、もちろん三角形である。
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パスカルの三角形。振り分けられる砂の量
『二項係数(binomial coefficients)』というのを、ピラミッド階層的に並べた、『パスカルの三角形』なるものがある。
これはある種の数の集合と言えるが、この集合を視覚的に確認できる装置は見事である。それは、数学の授業法の研究を指導していたジョイントが考案したものらしい。
その装置は、ガラス張りの中に、それぞれ底を引き抜いて外せるようになっている、いくつもの同じ大きさの容器が、ピラミッド型に並べられているもの。
もう少し具体的に言うと、ようするに一番上から、容器の数は、1、2、3個と増えるようになっていて、それぞれの段の容器は 、下でくっつけて並べられている容器群のちょうど真ん中に置かれてるみたいな形である。
そしてどの容器の底もまだ抜かれていない状態で、ピラミッド一番上の1個だけの容器に、砂とか、大量の小さな豆とかを入れておく。
(仮に砂が入れられているとして)一段目の容器の底を引き抜くと、そこに入れられていた砂はまず、すぐ下(二段目)の2つの容器に、均等な割合で振り分けられる。
続いて2つの容器の底を抜くと、今度はさらに下(三段目)の3つの容器に砂が落ちていくわけだが、その時は均等に落ちはしない。3つの容器の真ん中には上の2つの容器両方からの砂が流れ込んでくるが、両端の2つの容器には、上の2つの容器の片方からしか砂が入らない。そこで割合は順番に、「1 : 2 : 1」となる。
三段目の3つの容器の底を外すと、下(四段目)の4つの容器には、やはり不均等に砂が振り分けられる。 4つの容器の内、両端の2つには、三段目の3つの容器の、同じ端の容器からしか砂をもらえない。 しかし真ん中の2つの容器は、それらに加えてさらに、三段目で他の容器の倍の量の砂が入っていた真ん中の容器からも、砂をもらえる。結果的に四段目に振り分けられるその砂の割合は「1 : 3 : 3 : 1」となる。
上記の装置は、本質的には、いくらでも下に容器を追加していける。 パスカルの三角形が下にいくらでも続けられるように。そして、その装置自体は、パスカルの三角形の数字の変化、動きを実際的に再現したものとなっている。
代数式を表現した天秤
『天秤ばかり(balance scale)』、あるいは単に『天秤(balance)』は、質量を測るための、ある種の計器。
質量(重さ)を知りたい物体を、錘などとつりあわせることによって、物体質量を測定する器具のこと。
古典的な天秤においては、測定の基準となる錘は、『分銅(weight)』と呼ばれる。
解き方を知らずにxの数値を発見する
「教科書にはいつも方程式は天秤とよく似ていると書いてあるが、多くの学生にとっては言葉では意味がわかりにくいだろう。なぜ天秤の話だけですませるというのか、実物を教室に持ち込めばいいのに」 という疑問から、そのまま実際に天秤を作ってしまったキッチンという人がいたらしい。
天秤の左右の物体を乗せる部分がつりあっている場合、その関係は数学的には「R = L」みたいな感じであろう。
左右それぞれの物体置き場をつけたアームを上下2つにして、滑車などで上下の置き場に繋がりを与えたら、左右に引き算(足し算も同じ)の式があることを表現もできる。
同じ重さのマメをいくつか用意し、例えば左側の下の置き場には4つのマメ、右側の上の置き場には2つのマメがあるとする。そしてマメがいくつか入ったXと書かれた箱が残りの2つの置き場に置かれているとする。(その天秤が釣り合っている場合)それはつまり「4 – x = x – 2」という訳である。
その天秤を扱う者は、他にも釣り合いが取れるように、マメやX箱の組み合わせを変えたりもできる。その時に、考え方が間違っているならば天秤はどちらかに偏ってしまうので、それは間違いだとすぐに気づくことができる。
順当に行けば、「4 = 2x – 2」や「6 = 2x」をえて、最終的には「x = 3」という結論が出るはずである。重要なことは、これは(それは知ってる人からすると、たいていかなり簡単な方法であるだろうが、しかし知らないということもありえるだろう)代数式の解き方を知らない人でも、その問題がいかにして解かれるのかを実感できるということであろう。
地味ではあるが、なかなかそれはすごいこととも言えるかもしれない。