「アレルギー発症のメカニズム」なぜ起きるのか?なぜ増えたのか?

花粉症マスク

アレルギー疾病、アレルギー反応の基礎

免疫系とアレルゲン

 『アレルギー疾病』は、細菌やウイルスが引き起こす病気とは違う。
だがまったく無関係という訳ではない。

 細胞生物学的な観点からすると、我々のような生物は、個々の細胞の集合体である。
そのような生物を『多細胞生物』と言い、多細胞生物とは、言ってしまえばいくつもの細胞の共同体のようなもの。
 細菌やウイルスというのは、そのような細胞の共同体に入りんできて、栄養分などの共有資源を我が物顔で奪うのだ。
それが、共同体でなく、個としての我々のスケールにおいては病気などと呼ばれる症状として表れる。

 そこで、我々、つまり共同体を形成する細胞コミュニティは、そのような招かれざる客への対策として、『免疫系』というシステムを構築した。
つまり、細菌やウイルスを破壊する為の細胞を、コミュニティに含めたのだ。
言うなれば免疫系とは、多細胞生物という共同体における自警団なのである。

 このような自警団的な免疫細胞は、敵である細胞やウイルスがいない場合は、厄介な荒れくれ者となり、細胞コミュニティ側を傷つけるようになってしまう事もある。

 そのような、敵もいないのに発生してしまった免疫細胞の暴走こそが、アレルギー反応というやつなのである。 

 アレルギー反応の原因となる物質を『アレルゲン』というが、この言葉が指す意味はかなり広い。
 アレルゲンは、余計な免疫細胞を含める場合もあるが、狭義としては余計な免疫反応を誘発させる物質の事。

 代表的なアレルゲンとしては、花粉やダニの糞などがよく言われる。
これらの物質自体には大した害はないのだが、その害のない物質に対して免疫反応をしてしまう事で、アレルギー反応は発生する。

免疫系に関する過敏症。IgE抗体依存性アレルギー疾病

 アレルギー疾病は、「免疫系が関係する『過敏症』」と定義される。
過敏症とは、「通常は大した反応を示さないような刺激に対し、鋭敏に反応してしまうような病気や特異体質」と定義される。
アレルギーは、「過剰な免疫反応」という訳である。

 アレルギー以外に、最も意識しやすい過敏症はストレスとかと思われる。
ストレス「ストレスとは何か」緊張状態。頭痛。吐き気。あらゆる病気に繋がる難敵  (アレルゲンも含め)病気などの原因を『抗原』と言うが、それに対して免疫系が生成する対抗物質を『抗体』と言う。
アレルゲンとよく反応を示す抗体、つまり多くのアレルギーを引き起こす抗体は『IgE抗体』というもの。
アレルギー疾病の代表格である『花粉症』や、『喘息』もこのIgE抗体が引き起こしている。
そこで、それらのようなアレルギー疾病は、正式名を『IgE抗体依存性アレルギー疾患』としている。

アトピー性皮膚炎。アトピーとは何か

 アレルギー体質の人の事を『アトピー体質』と言う。
アトピーは、1923年に、コカとクックという人達に作られたもので、ギリシャ語のAtoposが由来。
アトポス(Atopos)とは「奇妙」とか「珍しい」とかの意味。
つまりアトピーという言葉が生まれた時代、アレルギー疾病というのは珍しかったか、少なくとも珍しいと考えられていたのである。

 現在では、アトピーという言葉は、『アトピー性皮膚炎』、つまりアレルギーなどが原因で肌が荒れてしまう症状を指す事が多い。
しかしアトピーの本来の定義は「わずかなアレルゲンに対しIgE抗体を過剰に分泌してしまう体質」というもの。
つまり通俗的な意味は、本来の意味よりも、狭い。

 ただし、今日、アトピー性皮膚炎は、IgE抗体が原因でない場合もあるとされ、『IgE抗体非依存性アレルギー疾患』と呼ばれたりもする。

 厳密に言うと。アレルギーとは、IgE抗体が原因の病気であるが、IgE抗体があまり関係ない多くの病気もアレルギーとされていて、わりと混乱状態である。

IgE抗体

マクロファージ

 我々のような生命体が生きていくにはエネルギーがいる。
そこで我々は鼻や口などから、外界のエネルギーなどを取り込むが、それは当然、細菌やウイルスまで取り込んでしまう危険が伴う。
 そこで、皮膚や粘膜というシールドを我々は用意している訳である。
しかしこれらのシールドをすり抜けるか、破壊して、我々の内部に侵入してくる細菌やウイルスは多い。
 そのような侵入してきた敵は、まず『マクロファージ』という細胞が迎え撃つ。
マクロファージは、細胞を食べる細胞であり、細菌やウイルスはもちろん、死滅した細胞の残骸を処理したりもする。
食べるというか、実際には、自らに取り込んで分解してしまう。
理科室「微生物の発見の歴史」顕微鏡で初めて見えた生態系

サイトカイン。自然免疫

 臓器間の情報伝達物質を『ホルモン』というが、細胞間の情報伝達物質は『サイトカイン』と言う。
マクロファージは異物を取り込む時に、様々なサイトカインを分泌する。
 サイトカインにより、他のマクロファージや、免疫細胞の働きは活発化し、炎症や熱にも繋がるが、細菌やウイルスはさっさと退治される。
このようなマクロファージを核とする防衛システムを『自然免疫』と言う。

樹状細胞。リンパ節。T細胞。B細胞

 一方『樹状細胞』という細胞も、体内には多く存在し、こいつも侵入してきた細菌やウイルスを取り込む。
しかしマクロファージのように破壊して、はい終わりではなく、『リンパ節』という、免疫システムの中枢基地のようなところに、その取り込んだ細菌やウイルスの情報を届ける。
リンパ節は、樹状細胞に加え、『T細胞』や『B細胞』など『リンパ球』と呼ばれる細胞が集合し、膨らんだ組織である。

 情報は、リンパ節の『ヘルパーT細胞』というのに引き渡される。
このような引き渡しは『抗原提示』と呼ばれる。
 樹状細胞が、情報としてヘルパーT細胞に引き渡す異物は、分子量5000以上の物質だとされる。
分子量とは、水素原子1個の質量を1として、後はそこから相対的に求める、ある物質の総原子量。
実験室「原子の発見の歴史」見えないものを研究した人たち (ウイルスも生命体として)これはつまり生物たりえる最低限の分子量なのかもしれない。

ヘルパーT細胞。IgG抗体

 樹状細胞が持ってきた異物情報が、特に危険なものらしい場合は、『1型ヘルパーT細胞』というのが、それを受けとる。
 そのような危険らしい異物情報を受け取った1型ヘルパー細胞は、B細胞に働きかけ、細菌やウイルスを効率よく破壊する『IgG抗体』というのを作らせる。

 一度、何らかの細菌やウイルスに対抗するIgG抗体を作った1型ヘルパーT細胞やB細胞は、リンパ節に長く留まり、次回、同じ細菌やウイルスが現れた時に、素早くまたIgG抗体を生成する。

 こうして、我々は、一度かかった病気に対して、免疫を持つようになるのである。

 驚くべきは、T細胞やB細胞は、無数に存在するだろう様々な病気に、自らの遺伝子構造を変化させて対応するのだという。
さながら小突然変異である。
細胞分裂イメージDNAと細胞分裂時のミスコピー「突然変異とは何か?」

ダニや花粉への対応

 ダニ(の死骸や糞)や花粉などのアレルゲンは普通、そもそも皮膚や粘膜のようなシールドを突破できない。
しかし、細菌やウイルスが、それらのシールドを一時的に弱めたり破壊したりした時には、入ってきてしまう。

 そうして体内に入ってきたアレルゲンも、樹状細胞は異物としてリンパ節へ届ける。
ただしこれらはあまり有害ではないとして、『2型ヘルパーT細胞』というのに引き渡される。
 この2型ヘルパーT細胞が、B細胞に働きかけた時に、作られるのが、IgE抗体である。

インターロイキン4。マスト細胞。IgE受容体

 2型ヘルパーT細胞は、B型細胞に働きかけるのに『インターロイキン4』という物質を使う。
このインターロイキン4は、B型細胞のみならず、樹状細胞や、皮膚や粘膜内に多く存在する『マスト細胞』という細胞などに『IgE受容体』というのを持たせる。

 IgE抗体が鍵とすると、IgE受容体は鍵穴のようなもので、IgE抗体は樹状細胞やマスト細胞のIgE受容体にくっつく。

 IgE抗体は、アレルゲンを直接破壊するものではない。
樹状細胞やマスト細胞についたIgE抗体は、それらアレルゲンを引き寄せ結合させる。
 そうして、樹状細胞は、より効率よく、アレルゲンをリンパ節に運べるようになり、2型ヘルパーT細胞の方もさらに次々と、IgE抗体やインターロイキン4を生み出す。
しばしば生み出しすぎる。
 一方、マスト細胞は、新たに侵入してきたアレルゲンをIgE抗体でくっつけ、『ヒスタミン』や『ロイコトリエン』のような、アレルギー反応を起こす物質を分泌する。
これらはかゆみなどを引き起こす物質であり、一応本来の役割は、花粉やダニを効率よく排除する為に分泌される。
しかし数が多すぎると、むしろ自らの体を傷つける結果を招いてしまう。

 それがつまりアレルギーである。

アレルギーは必ず後天性?

 IgE抗体依存性アレルギー疾患について、ひとつ明らかな事がある。
それは少しばかり妙に思える事だ。

 ヘルパーT細胞というのは、そもそも、病気やウイルス、あるいはダニや花粉が体内に侵入してきた時に、それに対抗する為に発生する。
 樹状細胞が細菌やウイルスを取り込んでリンパ節に運んできたら、ただのT細胞は、1型ヘルパーT細胞へと変わる。
そして花粉やダニが取り込まれた時に、2型ヘルパーT細胞に変わるのだ。

 こういう原理が意味しているところは明らかである。
つまりアレルギーは、後天性の病気なのである。

 しかし世の中には、生まれて間もない赤ちゃんの頃から、アレルギーを抱えているらしき人もいる。
この辺りは、まだまだ謎であるという。

アレルギー体質の人が増えた理由

 2型ヘルパーT細胞が分泌するインターロイキン4であるが、これは1型ヘルパーT細胞に対して毒なのだという。
 逆に1型ヘルパーT細胞は、『インターロイキン12』という物質を分泌するらしいが、こちらはやはり2型ヘルパーT細胞に対し毒とされる。
 そういう事情で、1型、2型、どちらのヘルパーT細胞がリンパ節に多いかは、より先に多く生成されるかで決まりやすい。
なので、アレルギー体質になりやすいかどうかは幼少時に決まるのがたいていらしい。

 また、この事実はアレルギー体質の(つまり2型ヘルパーが多い)人は、普通の細菌やウイルスに対して(1型ヘルパーが少ないので)弱い事も示している。

 アトピー(珍しい)という言葉が誕生した時に比べると、アレルギー体質の人はずいぶん増えたとされる。
原因は今や明らかである。

 現代社会、特に先進国で、アレルギー体質の人が増えたのは、技術の進歩により、清潔な環境を整える事が出来、細菌やウイルスを避けられるようになったから(そしてそのような、人にとって快適な環境はまた、ダニにも快適であるから)と考えられる。