「カモは毎分ごとに生まれてる(There’s a sucker born every minute)」
by.フィニアス・テイラー・バーナム
占い、予言の、三つの王道パターン
実際にインチキだとしても、そうでないとしても、占いとか予言とか言われるものには大まかに3パターンある。
超能力によるもの
まず第一のパターンが、その占いや予言が、占い師自身の超能力によるというもの。
超能力の種類研究。一覧と考察「超感覚的知覚とサイコキネシス」
ここでいう超能力には例えば、通常とは異なった意識状態、いわゆる「トランス状態(trance。Transformer state)」下で、霊とか先祖とかから情報を得る能力も含まれよう。
エドガー・ケイシー(1877~1945)などは、以前アトランティス人であったらしい自分に意識を切り替えたりもできたという。
「アトランティス」大西洋の幻の大陸の実在性。考古学者と神秘主義者の記述。
霊から答を聞く
第二が、第一と併用されることも多い、霊的な存在にいろいろ教えてもらうパターン。
ここでいう霊には、いわゆる幽霊(死者の霊)以外にも、キリストの神霊や、自然崇拝における精霊なども含めた、霊的なあらゆる存在が含まれる。
結局のところ、霊と交信しているという占い師(本物)が、実際には霊と交信していない可能性もある。
その占い師が、自身の力を使用する際に直面する何らかの超常的体験を、霊との交信と解釈しているだけかもしれない。
だから本人が霊能力者のつもりの占い師であっても、実は霊と関係ない超能力者。
または占い師が、霊的な存在の声を聞くことができる能力を持っているのだとしても、預言などは単に霊から聞いてるだけという場合もあるだろう。
第一と併用しない場合もありうる。
「コックリさん(divination by planchette)」や「ウィジャ盤(Ouija board)」を用いた占いなどはそうであろう。
それらを行うにあたっては、基本的に特別な超能力は必要ないとされている。
コックリさんは、机の上に数字や五十音表を記入した紙を用意し、その紙の上にさらに硬貨を置く。
そして(たいてい数人ほどの)参加者全員が、人差し指で硬貨に触れて、「コックリさん、コックリさん、おいでください」と繰り返す。
そうすると(キツネの霊らしい)コックリさんが、硬貨を動かして、メッセージを表現するというもの。
ウィジャ盤は、もとはボードゲームメーカーのパーカー・ブラザーズ社が発売した遊びの占い道具ともされている、アルファベットや数字が書かれたボードと、文字を指し示す用のプランシェット(と呼ばれているハートのような形の小道具)のセットである。
基本的には、コックリさん同様に、参加者全員が文字盤上のプランシェットに手や指を置いて、死者に質問したりする。
すると、やはりプランシェットが動き、返答のメッセージが示される。
未知の物理法則
第三のパターンは、超能力でも幽霊でもなく、純粋に、普通にこの世界に存在する、いまだに一般的には未知な物理法則を上手く利用しているというもの。
伝統的な占星術などはまさしくこれであろう。
昔は、夜空の天体の動きが、地上の出来事に大きく関連しているか、あるいは影響を与えていると考える人が多かったから、その動きなどを研究すれば、未来の出来事までもわかるはずと考えている人は多かった。
占星術以外でも、例えば「タロットカード(Tarot card)」のような、やり方さえ覚えれば誰でも一定の効果を期待できるような占いの類は、この第三のパターンか、その要素を含んでいると言ってよいだろう。
このパターンに関しては、あまり単独でインチキ占いに使われることはない。
いったい何が問題なのか
現代においても、いわゆる「無知な大衆(Ignorant populace)」はインチキ占いに金を使う。
第一や第二のようなことを信じて、超能力者や霊能力者に、金を払ってお伺いをたてたりする。
第三のようなことを信じて、星座占いの本や、占い道具を購入したりする。
周囲から見ると、呆れるくらいに金を注ぎ込んでしまう場合があるのは、だいたい第一か第二であろう。
20世紀以降では、「疑似科学(Pseudoscience)」的な第三の要素を取り入れたものだと、ついつい信じてしまうという者も増えたかもしれない。
実際のところ、まるっきりインチキであっても、それの単なる「信者(Believer)」である内は問題ないかもしれない。
真相がどうであれ、その占いなどの結果に満足しているだけなら、なんてことはない。
しかし、金を貢ぐ信者であった人が、自分が騙されていることに気づいた時、その自己満足は「詐欺(swindle)」となる。
また、人には支配欲というものがある。
他人が自分の思い通りに動くというのは、気分がいいものである。
本当にあまりにのめり込んだ信者は、好きなように操られてしまうということは現実にある。
酷い場合は、狂信者の興味のない家族や友人までが二次被害にあってしまうこともあろう。
明らかに真面目に考えるべき問題といえよう。
どうやって超常的な力を持っているように見せかけるのか
占い師の信者が、信者になる時というのは、通常は、その占い師の超常的な力を認めてしまった瞬間のはず。
よくあるのが、別に話していないはずなのに、自分の情報が、心でも読まれているかのように見透かされてしまうこと。
もちろん実際に占いが当たることで、信頼が高まる場合もあろう。
ホットリーディング。相手のことを事前に調べる
相手の情報を事前に見抜いているのではなく、あらかじめ知っているだけということはある。
その知っていた情報を、超常的な力で知ったかのように見せかけるテクニックは「ホットリーディング(hot reading)」と呼ばれている。
典型的なホットリーディングとして、初めての客に対して予約制などとして時間を稼ぎ、その後、相手のことを普通に調査するという身も蓋もない方法がある。
古くは、かなり金を貢いでくれそうな相手の場合、探偵が雇われる場合すらあったらしい。
この方法では当然ながら、本人から隠れて調べることのできるような個人情報しかわからない。
しかし、住所や社会的な経歴、家族構成や友人関係、宗教くらいまでは、その気になれば調べられる。
ネットなどでの予約制の場合、予約のために登録した情報(名前とか住んでる地域など)が最初の手がかりにされてしまうかもしれない。
ネットにおいては別に入力してもらわなくても、だいたいどの地域からアクセスしているかはわかったりする。
そしてある町を拠点に活動をしているインチキ占い師は、たいていその街のことをかなり詳しく調べている。
当然、占いに来る人の多くは、その街の住人であるからだ。
コールド・リーディング。相手から聞く術
まったく事前情報のない相手との会話であっても、相手の相談したいことなどを察知するテクニックがある。
特に代表的なのが、相手に無意識に自分のことをしゃべってもらう「コールド・リーディング(cold reading)」である。
このテクニックは、相手にしゃべってもらうという性質上、最初は無難な会話から始める必要がある。
そこで、まずは誰にでも当てはまりそうな話題から始めるのが基本となる。
占い師を頼ってくる人の悩みはたいてい三つしかない。
健康か、お金か、人間関係(特に異性)である。
そしてこの三つのどれなのかも、相手の身なりなどから、ある程度推測できる。
客が若い人なら健康の悩みというのはあまり考えられない。
高そうな服装の人なら金銭的な悩みではおそらくない。
さらに結婚指輪の有無や、おしゃれに気を配ってそうか、単純に容姿がどんなかは、相手の異性関係の推測に役立つだろう。
人はなぜ恋をするのか?「恋愛の心理学」
つまり話す前から、ある程度の推測は立てるわけだが、続いてさらに簡単な会話で、情報をもっと引き出す
「失ってしまったようですね」とか「迷っていますね」などかなり曖昧な言い方をする。
単純な人ならそこでほとんど無意識に、「はい、実は恋人と別れまして」などと悩みに関する情報を提供してくれるという。
最初の簡単な会話で悩みを言ってくれない場合は、ある程度(ただしたいてい分は悪くない)賭けにでる。
例えば相手があまり容姿に優れていない人なら、「あなたは異性に関して満足できてないようですね」とか、「周囲に対してコンプレックスがありますね」などと言う。
可愛い子はずるいのか?「我々はなぜ美しいものが好きか」
まったく手がかりがないとしても、「人間関係って難しいですよね」などと言えば、少なくとも占いにくるような人なら、あてはまらない方が珍しい。
それらの話のポイントは、相談に来た悩みじゃなくとも、それとは別に多少なりとも悩んでいる可能性が高いということ。
つまり、最悪、悩みを聞いてくれないとか、失礼な占い師と思われるかもしれないが、能力がないとは確信されにくいのである。
もちろん、事前に立てていた推測を参考とし、比較的幅広く解釈できる言い方も併用することで、悩みを見抜いたような形となれば、それでよい。
マルチプル・アウト。曖昧な表現
コールド・リーディングの際などにもよく使われる、解釈次第で様々な事に当てはめれそうな言い方を「マルチプル・アウト(Multiple Outs)」という。
相手のことがわかってきたなら、大胆な言い方もできる。
例えば客が、恋愛経験の多い人であると判断できた場合、街のことをよく調べているインチキ占い師は、定番のデートスポットに関する言葉が「見えます」などと言う。
これだけで客は、どこかでその遊園地にデートにいった経験を思い出し、あてはめれる。
行ったことがない場合ですら、そこに行くということを考えたり、よく話題にしたことがあるだけで、信じやすい客は、見抜かれたと思ってくれる。
些細なことともいえるが、たくさん積み重なると信用度も上がってくるだろう。
ただマルチプル・アウトの本領は、当たる預言である。
幅広く解釈できる予言をしておいて、後から起こった出来事にそれを当てはめ、あたかも当たった予言かのように見せかけたりするわけだ。
ノストラダムスの予言集などは、このトリックの定番とされている。
「ノストラダムス」医師か占星術師か。大予言とは何だったのか。
インチキ占い師自身が、予言は象徴的なものであると、事前に弁明しておく場合すらあるという。
そして哀れな信者は、幅広く解釈できる予言を自分に起こった出来事に当てはめ、占いが当たったと信じてしまうわけである。
ありそうなこと。タイタニックとタイタン号について
ありそうなことが狭い範囲にある場合も、予言が当たったかのように見せかけられる。
強欲な支配者が現れる(支配者になるような人はたいてい強欲)
宗教の戦いが起きる(宗教がらみの戦いはかなりよくある)
女が前に立つ(たいていどの時代でも、活躍する女はいた)
特に、よく不可思議とされているタイタニック号の例は典型的。
タイタニック号は1912年、北大西洋で氷山に激突して沈没した、有名な豪華客船であるが、この事件より数年前に「タイタン号の難破」という、 全く予言的な小説が発表されていたという。
タイタニックと名前が似ているタイタン号は、北大西洋にて4月に氷山にぶつかり沈没。
十分な数の救命ボートがなく、多くの犠牲者を出してしまったなど、共通する部分が多いらしい。
だがこれは、この事実に驚く人が考えるほどには、おかしな話でもない。
戦争や嵐以外で、大型の船が沈む理由というのは、ある程度限られている。
そしてレーダーのなかった時代、氷山は船にとってかなりの脅威だった。
そして氷山が出てくるという話の都合上、場所や季節もある程度決まってくる。
タイタニック号に十分な数の救命ボートがなかった理由に関しては謎かもしれないが、小説の話においては、パニックを演出するために、そういう設定にするのはよくあることだろう。
また毎年、大量に出される預言者たちの予言に関して、当たったとされるものしか注目されていないことも問題かもしれない。
当たらなかった予言は当たらなかったものとして、後で紹介されることはなく、当たった予言は繰り返し紹介されたりする。
詐欺師が見抜けないこと、予想できないこと
事前に調べるにしても当然ながら限度がある。
相手が明らかにしていない情報は、非合法な手段を惜しみなく使った場合ですら、知ることはできない。
例えば相手が数日前から口内炎になっていて、食事の時に痛いのをうっとおしく思っているとして、それを誰にも言っていないのなら、その人以外には口内炎の事実など知りようもない。
もちろん本当に超能力があるのなら話は別だが(コラム)。
それでなくとも、占い師のとこに向かう前に、紙に適当に書いた(例えばナメクジの)絵は、ヒントを与えない限り、占い師には絶対にわからない。
「ナメクジ」塩で死ぬけど、水で復活するヌメヌメ
ちなみに普通に考えるなら、もしわかった場合でも、占い師が本物であると確信するより前に、家に隠しカメラが仕掛けられている可能性を心配すべきかもしれない。
(コラム)それは反則技
それと記憶の改竄とか、深く眠らせた隙に細かく身体検査みたいな反則技を使っていないなら、という前提。
バーナム効果。実は無意味な性格分析テスト
しかし誰にでも当てはまるようなことを、自分のことなのだと解釈してしまうものだろうか。
そういうふうに解釈してしまうことを「バーナム効果」と言う。
この名は、優れたエンターテイナーとされたフィニアス・テイラー・バーナム(1810~1891)の名前から取られている。
これが実際にあることを確かめることは容易いとされる。
この効果を確かめようとする心理学の教授は、学生たちを対象にある実験を行うことがあるという。
ようするに性格分析テストをするなどと言って、適当なテストを受けてもらい、その後に全員に(マルチプル・アウトのテクニックを利用している)同じ結果を配る。
通常、学生たちの多くは、結果が当てはまっていると判断してくれるらしい。
交霊会のトリック
死者の霊は、時には未来のことまで含めたさまざまなことを知っていて、なぜか自分とコンタクトを取った人に、(生前にどんな人物であったかに関係なく)従順であることが多い。
また象徴的なことばかり言うあたり、マルチプル・アウトのテクニックを身につけているのかもしれない。
霊に関しては、逆に(やはり生前の人柄に関係なく)人に迷惑をかけたりするケースもけっこうある。
幽霊を見ることができたり、話をしたりすることができる特別な人もいるが、そういう特別な能力を持っていない人とも、幽霊は何らかの音を立てるなどして、コンタクトをとれるようだ。
幽霊の立てる音はたいてい、何かを叩くような音や、こするような音とかで、そういう音を総称して「ラップ音(rapping)」と言う。
死者とコンタクトをとるための典型的な交霊会は、参加者同士が特別な場所で手をつなぎあうなどしながら、テーブルを囲ったりする。
参加者の一人はたいてい霊能力者である。
特別な場所とは、霊的なものが出やすいらしい幽霊屋敷などだが、霊能力者の能力が高まりやすい(つまり参加する霊能力者にとって都合のよい)場所であることもけっこうあるようだ。
交霊会はラップ音のようなものが出るだけで終わらないことも多い。
物が動いたりすることはもちろん、実際に死者の霊の姿が、参加者たちの前に実体化されることすらあるという。
「ポルターガイスト現象」正体と原因、音、動き、精神科学、三つの実話例
ラップ音とフォックス姉妹
ラップ音はかなり古くから知られている心霊現象ともされるが、特に世間によく知られるようになり、科学者たちの研究も盛んに行われるようになったのは、フォックス姉妹の時代以降とされている。
19世紀半ばの頃(1848年くらい?)。
マーガレット・フォックス(1838~1893)と、キャサリーン・フォックス(1841~1892)の姉妹が、自宅で死者からのメッセージと解釈された、さまざまなラップ音を聞き始める。
彼女ら姉妹は次女と三女で、さらに歳の離れた長女レア(レア(1814~1890)がいたが、彼女は特に幽霊と縁があったわけではなかったようだ。
しかしレアは、妹たちの体験を売り出して金儲けを企んだ黒幕ともされる。
フォックス姉妹の交霊(というかラップ音)パフォーマンスは、最盛期にはかなりの人気であったという。
フォックス姉妹はインチキの告白もしているが、撤回もしている。
告白した時には、ラップ音に関して、関節を鳴らしていた音と述べているようだ。
最初、自宅での音は、ヒモで吊るしたリンゴを使ってだした音もあって、そういうことをした理由に関しては、ただのいたずら心であった。
姉妹がインチキを撤回した理由は、一般的には金とされる(本物でないとしても本物ということにしないと、通常、交霊というのは稼げない)。
コックリさんに関するファラデーの実験
コックリさんに関しては、電磁気学の分野で有名なマイケル・ファラデー(1791~1867)が真偽を確かめるために行った実験が非常に有名である。
「マイケル・ファラデー」逆転人生と逸話、場を定義した物理学者の伝記 「電気の発見の歴史」電磁気学を築いた人たち
コックリさんは、霊能力者がいなくても(危険という意見はあるが)行える交霊術として、多くの人に親しまれてきた。
正確に言うと、ファラデーが実験しようと考えたのはコックリさんというより、交霊会でよくあった、参加者が手を置いていたテーブルが勝手に動くという現象である。
結局のところ、そういう現象は(もしも原因が超常的なものでないのなら)コックリさんやウィジャ盤と同じ類の現象と考えられる。
つまり手をそれにおいている参加者たち自身が、無意識のうちにそれを動かしているのかもしれないということだ。
手をあてているものを、無意識のうちに動かしてしまうことなどありえるのか。
ファラデーが実験で確かめようとしたのは、まさにその点であった。
ファラデーは、この手の現象をよく体験するという人たちに、何枚かの、それほど強力でない接着剤で重ねつけた厚紙でコックリさんをやってもらった。
厚紙には、ズレた場合に、どういうふうにズレたかわかるように印がつけてある。
机にせよ、紙にせよ、 勝手に動いているのでなく、参加者の手の方が動かしているのであれば、手がそれを引っ張っていく形になるわけだから、紙は動きの方向に上からズレていくはず。
逆に机か紙が動いているなら、一番上の紙を抑える手がそれに引っ張られている形だから、紙は下からズレていくだろう。
この実験の結果は、やはり手の方が無意識に動いていることを決定的に示していた。
さらにファラデーは、その結果を明らかにし、手の方が動いていることを参加者に納得させると、紙も机もまったく動かなくなった、と述べてもいるという。
奇術的な、よくある小細工
交霊会に実際に参加し、そこで確かに何か超常的なことが起きていると証言した科学者たちも多いようである。
ただし、専門外の科学分野は素人同然という場合も、そもそも騙されやすい科学者もいる。
また、奇術師のトリックを見破る能力に関しては、たいていの科学者より、たいていの奇術師の方が上である。
そして凄腕の詐欺占い師は、凄腕の奇術師と言ってしまってもよいであろう。
実際に、多くの心霊術師のインチキを暴いたことで有名なハリー・フーディーニ(1874~1926)の本業は奇術師であった。
そのフーディーニのような奇術師や、詐欺をやめた元霊媒師が告白した、インチキ交霊術のトリックは多種多様である。
特に交霊会は暗闇で行われることが多いようだから、小細工はしやすい。
黒装束をまとった霊能者の助手が、トリックのタネということは、かなりスタンダードだったとされる。
女霊媒師は、男の場合よりもインチキのための小道具(交霊会によって出現する物とか)を隠しやすかった。
相手が女性である場合、トリックを疑っているからといって、身体検査をさせてくれとは言いにくい人が多い。
奇術師ができないこと
奇術師は魔法のようなことをやってのけるが、もちろんそこにはトリックがある。
だから、本当にファンタジー小説に登場するような魔法を使うことはできない。
本当の魔法のような奇術でも、よく考えたらいろいろおかしいことがある。
例えば奇術師は、手に持っていたはずのサインを書いてもらったトランプのカードを、いつの間にかテーブルに裏側に置いたカードと移動させたりとかするが、トランプが実際にワープする瞬間は見せられない。
サインの書かれたカードを移動させる場合に、必ずそのサインを見せないようにする瞬間がある。
こんなやり方をするのは、実際のところはこっそり入れ替えてるだけで、本当にワープさせてるわけではないからだ。
だから裏側にして、入れ替える複数のカードの区別をつかないようにする必要がどうしてもある。
複数のカードが入れ替わっている(ように見える)様を見せることはできるが、実際に消える瞬間を見せることはできない。
演出で見抜けるか
よくよく冷静に見ると、超能力者とか霊能力者のパフォーマンスには、奇術師の奇術と同じ制限があるとしか思えないようなものも多いという。
そして、その場合はその時点でかなり怪しいと言えよう。
例えば霊に質問を答えてもらう場合に、このような手口がある。
信者たちに質問を書いてもらった紙を封筒に入れて閉じてもらい、それらを集める。
霊能力者は、集まった封筒から1枚を適当に選んで掲げる。
さらに「霊が教えてくれた」などと言い、封筒内の紙に書かれた質問を読み上げて、後はその質問に霊からの返答を言う。
実際に、信者の中には読み上げられた質問を書いた者がいて、霊能力者が本当に封筒を開けもせずにその内容を知れたことに驚かされたりする。
それから霊能力者は、自分の能力を自分で確かめるように封筒の中身を確認、正しかったことを知ると、適当な理由で紙を破ったりして処分する。
そして、また新たな封筒を適当に手に取り、やはりその封を開けずに、霊能力者は質問を正確に悟る。
これのトリックは実に単純である。
霊能力者は集められた封筒のうちの一枚をあらかじめ、こっそり開けて中身を確認。
その質問内容を暗記する。
そして、まだ開けていない適当な二枚目の封筒を、一枚目として掲げ、先に読んだ(実はその時掲げている二枚目の封筒のものとは異なる一枚目の)質問内容を言う。
(実は三枚目である)二枚目の封筒の時には、確認した二枚目の内容を言えばいい。
後はループ。
とりあえずは、封筒を開けないで中の紙に書かれた質問内容を読むなんて言うのは、いかにも奇術的である。
トランプを裏側にする行為が、いつ入れ替わったのかをわからなくするように、どの封筒にどれが入っているかわからないのを、詐欺師は利用する。
すでに自分がわかっている別の封筒の質問内容を、いかにも今手に持っている、まだ封を開けていない封筒の中の質問内容であるかのように見せかけるわけだ。
どういう言い訳をするかは関係なく、奇術の最低条件のようなことが必ず必要である霊媒師は、基本的にインチキと考えてよいだろう。