「忍者」技能と道具、いかにして影の者たちは現れたか?

手裏剣

忍者とはどのような者たちか?

諜報活動

 忍者とは、日本の戦国時代において活躍したとされる、『物見(sightseeing)』のスペシャリストである。

 物見とは、戦術としての諜報活躍の事である。
また、諜報活躍というのは、対象の情報を、そうだと知られずに探る事。
もちろん、戦などにおいて、敵の勢力や、作戦などを事前に知る事が、どれほど有利かなど言うまでもない。

 戦の時ばかりでなく、主君に敵対する可能性のある者の下で平時より働き、いざ戦となった時にその立場を利用し、味方情報を横流しするという場合もあったという。
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忍者は超人か?

 創作に登場する忍者は、凄まじい身体能力を見せたり、時にはまるで魔法か超能力ような技を披露したりする。
しかし実際に歴史上に存在した忍者は、魔法使いなんかでなく、超人でもなかった可能性が高い。
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 忘れてならないのが、忍者というのは、誰か特定の個人を指す通称などでなく、そういう職名だった事である。
忍者は諜報組織の一工作員であり、その技術は少なくとも、たぐいまれな才能を必要とするようなもの、ではなかったはずなのだ。

 ある程度の才さえあれば努力次第で身に付けられるものでなくば、不特定多数の者が覚えるべき技として、実用的とはとても言えない。

 しかし例えば、魔法的な技は、創作にはもってこいのガジェットであろう。
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上忍、中忍、下忍

 忍者の分類として、『上忍(ninja clan master)』、『中忍(ninja commander)』、『下忍(low-ranking ninja)』という3つがある。
名称から想像出来るように、上忍こそが最も優れた忍者である。
ただし下忍が中忍になる事は出来るが、中忍が上忍になる事はほぼない。

 下忍とな、未熟者の忍。
中忍とは、優れた技芸で名の知れた忍。
そして上忍とは、忍としての技を完璧に極めているがゆえに、そのどんな仕事も世間に知られていない、まさしく忍び続ける者なのである。 

 つまりある意味で中忍とは、上忍の対極にあたる存在であり、忍者として、真の達人にはなりえない者達なのである。
また、そういう訳で、歴史に忍者として名を残している者は、誰一人として上忍ではない。

基本スペック

 伝えられる忍者の基本スペックは、普通に大袈裟と思われる。

 1時間に約12km、1日に約120km走る事ができた。
幅跳びで約5m40cm、高跳びで約2m70cm跳べた。
15mまでなら飛び下りられる。

 特に高跳びに関してはわりととんでもない。
比較的現実的なのは足の速さだが、この速度を、忍者が実際に走ったろう荒れた道とかで出せたなら、十分驚異的である。

忍者戦

優れた忍者の扱い方

 敵の最高の忍者対策は、忍者である。
陣地や城に潜入した敵の忍者の事を『草(Person of grass)』という。
そういう忍者の潜入の技などが、つまり『忍術(Ninja technique)』なのだが、草の忍術を防ぐならば、当然同じく忍術を極めた忍者がよい訳だ。

 忍者を使う者は、その忍者がスパイかどうかに注意しなければならない。
真に優れた忍者は真の主君に対する義に厚く、例えば懐柔などは不可能である。

 ではそんな味方でも味方かわからぬような忍者をどう使えというのか。
一番にはまず立派な者である事である。
優れた忍者ほど、優れた人格者を好む。
つまり、ただ立場にふさわしい善人でいれば、それだけで優れた忍者を味方につけるのと同義なのである。
そして優れた忍者を味方にしているならば、もちろん敵の忍者をも見抜いてくれるのだ。

陽忍、陰忍

 忍者は二人一組で行動する場合が多かったという。
パートナーがいれば、怪我などした時にフォローしあえるし、様々情報を共有しあう事も出来る。

 他にも様々な任務をこなすのに、それぞれが時と場合に応じて『陽忍(sunlight ninja)』、『陰忍(shade ninja)』となれる。
例えば潜入任務などで、片方がわざと敵に見つかり、その注意を引き付けている間に、パートナーがこっそり潜入を試みたりという事が出来る。
そういう場合に、囮役の方を陽忍、潜入する方を陰忍という訳である。

 パートナー同士で行動する忍を、二人まとめて『双忍(twin ninja)』とも言う。

忍者アイテムリスト

忍装束

 典型的な忍者と言えば、『忍装束(ninja costume)』を着ている。
あれは実は、典型的な農民の服装であったという説がある。

 実は、忍者として活動する以外の時間に、農作業を営む者が多かった。
そこで必要とあらば、すぐさま本領を発揮できるように、仕事着である装束は、農民ベースのものだったのだという。

 もちろん見かけは農民の服でも、忍者の服装ならではの便利機能がいくつも備わっていたとされる。
フードなどで顔を隠せるようになっているのはもちろん、道具用のポケットが大量についていたり、素材も特殊だったという説もある。
即座に変装出来るようにリバーシブルになっている場合もある。
色は、基本的には夜に目立ちにくくなるという、黒ずんだ柿色が多かったようである。

 だがもちろん普段から目立たないでいる事は、忍者にとって大事であるので、現代にも忍者がいるとすれば、忍装束なんて着ている訳はないはずである。

手裏剣

 実は忍者だけでなく武士なども普通に使っていた武器である。
むしろ『手裏剣(throwing star)』は紛れもなく、戦いの為の武器であるので、武士の方が使用機会は多かったと思われる。
勘違いしてる人も多いけど、忍者にとって戦闘は「専門外」なのである。

 かすっただけでも効果があるよう、刃に毒が塗られているのが基本。
なので当然扱いは危険で、しかもわりと重みがある為に、そんなに大量には持つものではなかったと考えられている。
というか、持つにしても1、2個だったらしい。

 歯の数により『六方手裏剣(Hexagonal throwing star)』とか、『八方手裏剣(Octagonal throwing star)』とかあるが、ほとんど投げナイフである『棒状手裏剣(Stick throwing star)』なんてのもあったという。

 また、手裏剣は投げる武器だが、「投げる」でなく、「打つ」というのが正しい言い方。

クナイ

 忍者の使用する道具の中でも、『クナイ』はオリジナルの可能性が最も高いとされる、まさに忍者道具。

 フィクションなどでは武器のイメージも強いが、実際には武器に使われる事は稀だったようである。
壁を掘ったり、むしろ突き刺したりして足場にしたり、取っ手にある穴にロープなどを通して、クサビとして使ったりも出来た。
また、単純にサバイバル時のナイフとしても使えるし、水を穴に張ってレンズ代わりにも使えた、まさに万能アイテムである。

忍刀

 忍者が使う『忍刀(ninja sword)』は、武士の使う刀に比べると、武器としての実用性は遥かに劣る。
忍刀は、武士のサブウェポンである脇差、あるいは短刀と同程度のサイズしかなく、斬るよりも、突き刺しやすいように作られている。
刺すのに特化しているのは、地面などに突き立てて、高い塀を登る為の足場などにしやすいようにである。
鞘も先が尖っているので、鞘ごと突き刺す事も多かったとされる。

 鞘に装着する紐である下緒(さげお)は、かなり長く作られる。
これも足場に使った刀の柄に巻きつけておくか、あるいは鞘ごと、塀の上から引っ張り上げたりするのに、用いる為である。
 

下緒七術

 下緒で刀を引っ張る技を『吊り刀(Hanging sword)』。
他に、刀を盗まれたり、慌てている時も忘れないように、他の荷物に先を結んだ下緒を下敷きに睡眠を取ったりする『枕刀(Pillow sword)』。
そのまま落ちないように下緒を口に加え、鞘を刀からやや出して突きだし、進む先の障害物の有無を探る『座探り(Indoor survey)』
夜営時に、突き刺した忍刀と、周囲の木々などに下緒を結び作った骨組みに布などを被せ簡易テントとする『陣張り(Tent skeleton)』
建物出入り口などに、膝の高さくらいに下緒を張り、曲者をつまづかせたりする『用心縄(Careful rope)』
リーチを必要とする戦闘時などに、抜いた刀と鞘を下緒で括り、擬似的な短槍のように使う『槍止め(Spurious spear)』
敵の身動きを封じたり、血止め、あるいは身軽になる為に自らの和服などを縛る『縛り(Tied rope)』

 以上の七つの下緒を使う技を『下緒七術(seven techniques using a ninja sword)』という。

撒菱(まきびし)

 地面に巻いておいて、踏んづけた敵にダメージを与えたりする道具。
踏むと、ぐさりと肉に食い込むような、形状が基本。

 菱とは水草を干して硬くしたもの。
実際には木製の『木菱』か、鉄製の『鉄菱』を使ったとされる。

 また馬をターゲットにした、大きめの『車菱』というのもあったらしい。

半弓、旅弓

 忍者が使用した弓矢。
『半弓(small bow)』は、名前通り、本来の半分くらいのサイズの弓。
もちろん、飛距離も威力も、本来の弓に及ばないが、コンパクトゆえに持ち運びに便利。
矢も、通常よりも小さめのものを、編笠などの裏側などに仕込んでいたという。

 『旅弓(fairly small bow)』は半弓をさらに折り畳めるようにし、携帯に便利にしたもの。
ただし、耐久性が落ちるのはもちろんの事、余計な遊び(隙間など)ができる為に、矢の威力はさらに落ちてしまう。

火器。簡易鉄砲、偽装鉄砲、煙玉

 忍者は火薬のエキスパートである。
つまり、火器のエキスパートでもあるのだ。

 火薬を持ち歩き、必要な時に周囲のもの、例えば木などで、円筒を作り、素材に合わせた量の火薬を使って『簡易鉄砲(Simple gun)』を作ったとされる。

 普段から持ち歩く場合も木製鉄砲(木砲(?))などを選ぶ場合かあったらしい。
当たり前だが、威力は弱いものの、鉄の鉄砲よりも、軽いし、いざとなったら捨てる選択もとりやすかったという。

 また、矢を入れる道具である、矢立や脇差に偽装した『偽装鉄砲(Camouflaged gun)』なども使われていたようである。

 忍者が使う火器と言えば、『煙玉(smoke bomb)』も有名であるが、叩きつけたらすぐさま姿を隠せるほどの量の煙を発生させる道具を、当時の技術で作れたかは、疑問である。

登器。簡易梯子、鉤縄、忍杖

 刀を足場にしたくらいでは登れないほど高い塀などを、登るために忍者は梯子を使う事があった。
しかし梯子を持ち歩くなど怪しさ満点であるので、分解して、釣竿などに偽装できる簡易梯子などが開発されたという。

 高さ克服には先についた鉄鉤を引っ掻けたり出来る縄、『鉤縄(grappling hook)』も便利である。
もしかしたらだが、忍刀の長く丈夫な下緒に、付けられるようになっている、専用の鉤などもあったかもしれない。
忍者はとにかく、持ち物を極力減らすのを重視していたから、ありえなくはないであろう。

 他に『忍杖(Ninja cane)』というのもある。
これは一見するとただの杖だが、所々に穴があり、地面に突き刺した後、そこに紐などを通して輪を作り、その輪を足場代わりにするというもの。

水器。即席船、即席筏、水蜘蛛

 忍者は水場を渡るのに、即席の船や筏を作ったとされる。
浮力には空の壺などが使われたようだが、現代ならペットボトルなども使えるであろう。

 足につける円形の『水蜘蛛(water spider)』は、忍者の使う道具の中でも、現実には使えないものとして非常に有名である。
これは実は、泥や雪の上を歩くためのスキー板のようなものだが、真の意図を隠す為に「水」蜘蛛などと名付けたという説もある。
実際に水上用として使う場合は、かなり大きく作る必要があり、さらに、水上に立つまではともかく、歩くのはかなり難しいという。
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 もしかしたら水蜘蛛というのは、足にくっつけるのでなく、単に水に浮かべて即席の足場として使うものだったのかもしれない。
よく片足が水に沈む前に、次の足を踏み出せるなら水上を歩けるというが、それを実現する為に、片足が沈むのを遅らせる為の道具というわけである。

忍薬。兵糧丸(ひょうろうがん)

 忍者は時に、過酷な状況を何日も、僅かな食料で耐えねばならない。
そこで、健康を保つために彼らは秘伝の薬をいくつも使ったという。
もっとも、丸薬型の非常食である『兵糧丸(Tactical pill)』は、忍者の間のみならず、戦国の世ではわりと一般的なものだったらしい。

 特に梅肉(梅干しの肉質部分)、氷砂糖、麦角(Claviceps)などを一定の割合で混ぜて作る『水渇丸(drink pill)』。
それにニンジン(Daucus carota subsp)、そば粉、小麦粉、山芋(Dioscorea japonica)、耳草、はと麦(Coix lacryma-jobi var)、糖米などを団子状に凝縮した『飢渇丸(food pill)』などは、忍術書にも、そのレシピが載っている。
水渇丸は、喉を潤し、飢渇丸は、1つで1食分の代わりになるという。

開器、耆著(きしゃく)

 潜入任務などの際には、鍵のかかった扉などどうにかする必要がある。
そこで忍者は『開器(Unlocking device)』という専用の道具を使う。
これは、鍵を簡単に開けられる道具だが、言うまでもなく戦国時代の鍵の技術は、現在と比べると大した事がなかったから、けっこうショボいものらしい。

 また、忍者は天文の知識などに長け、夜空から方角などを判断できたが、時には曇り空で、星など確認出来ない事もあったろう。
そういう時に、忍者は『耆著(Simple compass)』を使った。
これは磁気を帯びた、小さな舟形の鉄で、水に浮かべると簡易コンパスとなるものである。 

忍者の起源

古代中国説

 忍術の起源が古代中国にあるとする説は、実際に忍者について書かれた多くの書物に書かれている。

 古代中国の伝承上の神、あるいは皇帝である伏羲が発足したという説。
あるいは紀元前500年頃に書かれた兵法書、孫子が紀元だとする説などがある。

 忍者や忍術という概念はもっと古くからあったが、それが文字として書かれ、記録された最初が孫子なのだとする説もある。
つまり孫子は、最初の忍術書である、という考え方である。

日本発祥説

 忍術は聖徳太子(574~622)の考案という設も人気である。
日本の歴史資料から、孫子は、少なくとも760年くらいには存在していたとされている。
とすると聖徳太子が伝来したばかりの孫子を読み、そこから
忍術を考案したとも考えられる。
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 他には、平安時代末期の武将、源義経(1159~1189)が、最初の忍術使いというのも人気の説である。

現代の忍者

 どこの誰が最初の忍者にせよ、起源にせよ、かなり確かな事は、その何者かの忍術が戦国時代に活躍した忍者達にそのまま受け継がれていた訳ではないという事。

 忍術には、いくつもの流派がある。
戦国時代の忍術は、少なくとも大半が、本来のものの改良版だったと考えられる。
それに、時には優れた忍者が困難な任務を前に、新たな忍術を生み出す事もあったであろう。
 
 もし現代の世にも忍者がいるならば、その忍者が使う忍術は、おそらく現代に合わせた、古くさいそれよりも、ずっと新鮮な新しい忍術であるに違いない。

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